『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

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第047話 いきなり新規コンテンツですの?

 

 

 ――その三分ほど前。

 

《外部行動停止可能時間 180秒》

《外部行動停止処理の再実行:不可》

 

 数字を視界の左上へ固定する。

 

 百八十秒。

 

 異常接続そのものが消えた時間ではない。外部へ作用する行動側を止められる、その一度きりの上限ですの。

 

 中央には、さきほどまで第1000防衛の後処理を並べていた管理AIの表示が残っている。

 

《第1000防衛結果:確定済み》

《現在個体防衛数:1000》

《第1000防衛記録:保全完了》

《挑戦者30名:戦場外転送完了》

《挑戦者30名:正式敗北》

 

 ここはもう動かさない。

 

 八時間の戦いは終わった。

 

 千は、千のまま。

 

 その横に残っているのが、別の問題ですの。

 

《第4形態所有記録:固定》

《起動履歴:なし》

《検証状態:未実施》

 

 第4形態は生成された。

 

 けれど、まだ起動していない。

 

 未検証。

 

 いま必要だからといって、知らない身体を先に使う理由にはならない。

 

 わたくしは第4形態欄を閉じ、制度一覧へ視線を移した。

 

「レイドボスとハンターが、同じ陣営で戦う正式制度はございましたかしら」

 

《該当する恒久制度:なし》

《既存公開イベント層に仮設枠を生成します》

 

 指が一度止まる。

 

「……いきなり新規コンテンツですの?」

 

 冗談を言っている場合ではない。

 

 けれど、そう言うほかない表示だった。

 

 既存の公開イベント層へ、今回だけの仮設枠を作るということですの。

 

 管理AIの提案線が、隔離処理の欄から公開イベント層へ繋がる。

 

 完全に閉じたままでは、未分類の接続が複数の正規権限へ触れ続けている。

 

 提案された仮設枠では、参加者、戦場、勝利条件、外部行動が、既存イベント規則の項目へ割り当てられる。

 

 異常接続そのものを「解決した」ことにはならない。

 

 触れられる場所と、外へ出られる場所を狭めるための枠ですの。

 

《残り 165秒》

 

     ◇

 

《ワールド間取引層 保留》

《外部書き込み 停止》

《現在個体継続情報 保護領域へ複製》

 

 表示が三つ並ぶ。

 

 わたくしの思考は止まらない。

 

 現在個体の継続処理も、確認できる範囲では動いている。

 

 一方、《照合不能ID》の接続欄では参照先が入れ替わり、接続状態だけが更新を続けていた。

 

 停止できたのは外へ作用する側。

 

 中まで静かになったわけではない。

 

 管理AIの処理が次へ進む。

 

《公開イベント層 仮設枠生成》

《公開状態:待機》

 

 その下へ、今回の枠に必要な項目が順に入る。

 

《イベント分類:世界レイド》

《イベント名:千の残響》

《イベント個体:レムナント・キメラ》

《世界境界戦場:白亜断層》

 

 名前を見ても、正体が分かったことにはならない。

 

 《レムナント・キメラ》は、このイベントで管理する対象名。

 

 《白亜断層》は、これから生成する戦場名。

 

 それ以上を、この表示だけから足さない。

 

《公開映像 15秒遅延》

 

 公開側へは無加工の内部画面を出さない。

 

 被害記録も、欠落時間も、第4形態の内部詳細も出さない。

 

 世界レイドとして必要な戦場情報だけを、十五秒遅れの俯瞰へ渡す。

 

《残り 126秒》

 

     ◇

 

 非公開待機側へ、参加確認が送られる。

 

 鋼路戦団。

 

 三十名。

 

 待機に同意したことと、ここから実際に戦場へ入ることは別ですの。

 

《緊急参加確認》

《参加:任意》

《不参加時不利益:なし》

 

 六班の名簿が縦に並ぶ。

 

 返答が、上から順に点く。

 

 一。

 

 三。

 

 八。

 

 十五。

 

 二十二。

 

 三十。

 

《個別同意:30/30》

 

 そこで初めて、待機ロスターが実参加ロスターへ移る。

 

《鋼路戦団 再登録》

 

 ライカの声が入った。

 

「隊員、事前手順三番。編成を切り替えろ」

 

 誰も作戦案を出さない。

 

 百八十秒は、新しい正解を考える時間ではない。

 

 事前に登録した編成、装備、役割、代行順位を実行へ移す時間。

 

「考えるな。決めてある場所へ入れ」

 

 短い返答が重なる。

 

 第1000防衛の三十人とは別だ。

 

 あの三十人はもう戦場外へ出ている。

 

 いま動くのは、事前に緊急待機へ個別同意していた鋼路戦団の三十人。

 

 五人ずつ、六班。

 

《第1固定点:突破・指揮》

《第2固定点:防壁・境界》

《第3固定点:救護・同期保護》

《第4固定点:穿孔・弱点照準》

《第5固定点:進路制限・妨害》

《第6固定点:交代・予備》

 

 ライカ。

 

 ガルム。

 

 セラ。

 

 キリオ。

 

 残る二班も、登録済みの位置へ分かれる。

 

 同じ技能を持つ者を並べ直すのではない。

 

 誰かが欠けた時、どこまで代われるか。

 

 どの仕事を残し、どこを捨てるか。

 

 そこまで事前に決めてある六班ですの。

 

《主観記録:多重保存》

《緊急用装備:固定》

《HP/蘇生資源/装備耐久:イベント初期値へ設定》

 

 準備表示が一気に進む。

 

 相談がないから速いのではない。

 

 相談すべき範囲を、始まる前に済ませていたから速い。

 

     ◇

 

 白亜城の足元が消える。

 

 落下感はない。

 

 床だけが、白い石から黒い鏡面へ置き換わった。

 

 視界が開く。

 

 直径およそ二キロの黒い床。

 

 中央には、直径百二十メートルほどの白亜城基壇だけが残る。

 

 その外周へ六つの固定点が順に灯り、各点から白い通路が一本ずつ中央へ伸びた。

 

 一本。

 

 二本。

 

 六本。

 

 鋼路戦団の六班が、それぞれの固定点へ転送される。

 

 わたくしは中央基壇。

 

 距離が離れても、六方向の位置は一目で取れる。

 

 上空には戦場断片が浮いていた。

 

 黒い糸。

 

 赤い放電。

 

 どこかで見た機能に近い。

 

 けれど、見覚えがあることと、これから同じ動きをすることは別ですの。

 

 先に答えを置かない。

 

《参加者:31》

《仮設同一陣営》

《同士討ち判定:停止》

《相互支援:有効》

 

 表示を二度見る。

 

 わたくしと鋼路戦団三十人。

 

 公開イベント層では、既存の登録区分がそのまま使われている。わたくしはレイドボス枠、鋼路戦団は攻略者枠。

 

 けれど、この仮設枠の内部では敵対判定だけが停止され、相互支援が有効になっている。

 

 今だけ、同じ陣営へ固定されている。

 

 このイベント層の内側だけですの。

 

 第1000防衛とは別の耐久表示が、右端へ開く。

 

 第1形態。

 

 第2形態。

 

 第3形態。

 

 第4形態。

 

 四つ。

 

 第4形態の欄だけ、状態が違う。

 

《所有済み》

《未起動》

《未検証》

 

 触れない。

 

 最初から知らないものへ頼りませんの。

 

《残り 55秒》

 

     ◇

 

 対策情報の配布欄が開く。

 

 情報源の本人名は出ない。

 

 映像も出ない。

 

 欠落時間も出ない。

 

 《六歩前進》を含む保全済み記録のうち、二次利用同意が成立している対策署名だけが匿名化されている。

 

《対策署名》

《足元:泥外殻》

《上方:結晶糸》

《出口接続》

《混成高速移動》

 

 四項目。

 

 これだけ。

 

 《六歩前進》の六人本人は、ここにいない。

 

 戦場へ呼び戻してもいない。

 

 リアルタイムの助言役にもしていない。

 

 保全済み記録のうち、二次利用を許可された対策情報だけが、この三十一人へ渡る。

 

「足元。上方。出口。高速移動」

 

 ライカが読み上げる。

 

「順番も同時性も不明だ」

 

「ええ。出ると決まったものでもございませんの」

 

「なら、見てからだ」

 

 それで終わる。

 

 新しい作戦会議にはしない。

 

《イベント個体HP:100%》

《形態段階:4枠》

《逃走判定:有効》

《レイド制限時間 90:00》

《第1000防衛:別戦績》

 

 九十分。

 

 第1000防衛とは別の戦闘。

 

 さきほどの勝敗へ追加もしない。

 

 取り消しもしない。

 

 六固定点の最終確認が並ぶ。

 

《第1固定点:接続》

《第2固定点:接続》

《第3固定点:接続》

《第4固定点:接続》

《第5固定点:接続》

《第6固定点:接続》

 

 全体座標が、わたくしとライカへ共有される。

 

 ライカが第1固定点から六方向を見回した。

 

「事前手順三番。知らないものを、知ってるふりするな。見えたものだけ共有する」

 

「承知しておりますの」

 

 六方向から短い返答。

 

 第2固定点のガルムが塔盾を持ち直す。

 

 第3固定点ではセラが同期表示を前へ置く。

 

 第4固定点のキリオは照準をまだ上げない。

 

 第5、第6も、開始位置から勝手に前へ出ない。

 

 わたくしは中央で第1形態を選ぶ。

 

《第1形態 アーマードドラゴン》

 

 重い四脚。

 

 厚い外殻。

 

 今日は城を守るためではない。

 

 六本の通路と、そこにいる三十人のための移動防壁として使う。

 

 共闘判定が成立した場合に使う、事前登録済みの役割ですの。

 

《残り 5秒》

 

 非公開の同期保留が解除へ入る。

 

《参加接続:31/31》

 

 十五秒遅れの公開側にも、登録情報が追いつく。

 

《イベント個体:レムナント・キメラ》

《戦場:白亜断層》

 

《4》

 

 六班が動かない。

 

《3》

 

 わたくしも中央で待つ。

 

《2》

 

 黒い床の向こうには、まだイベント個体の形がない。

 

《1》

 

《WORLD RAID START》

 

 外部行動が再開した。

 

 次の瞬間。

 

 中央基壇のすぐ外側で、黒い鏡面床が持ち上がる。

 

 空からではない。

 

 足元。

 

 濁った泥の外殻が、六本の白い通路の下へ押し出されてきましたの。

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