『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

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第050話 受ける場所を変えろ

 

 

《千の残響》

《第3段階 雷影相》

《HP 50%》

 

 上空から落ちた赤い四脚は、黒い床へ触れた瞬間に走り出した。

 

 中央へは来ない。

 

 泥の残る通路を蹴り、第5固定点のさらに外――終了処理側へ近い外周へ向かう。

 

「追う!」

 

 第5班の一人が反射的に前へ出る。

 

「追うな。来る場所を塞げ」

 

 ライカの声が先に届いた。

 

 踏み出しかけた隊員が止まり、その場で身体を返す。四脚の背を追うのではなく、南西の白い通路へ走った。もう一人も少し角度を変えて続く。

 

 わたくしも第2形態のまま、外周へ消えかける赤い輪郭を見る。

 

 追えば距離は縮められるかもしれない。

 

 けれど、足元には泥が残り、頭上には切り切っていない結晶糸がある。

 

 その間を三十人で追走すれば、こちらから隊列を崩すことになる。

 

 それだけではありませんの。

 

     ◇

 

 赤い四脚が泥を踏んだ。

 

 一歩目。

 

 輪郭の後ろ半分が薄れる。

 

 二歩目。

 

 消えかけた脚が前方で作り直される。

 

 三歩目では、身体の中心まで一度ほどけたように見えたあと、進行方向へ少し先んじた位置に四脚の形が揃った。

 

 同じ身体が地面を蹴って移動しただけ、とは見えない。

 

「進行先で、形を作り直しているように見えますのね」

 

 言葉にしてから、もう一度見る。

 

 第5班の二人が南西通路の左右へ散り、四脚の前方へ射撃を一本ずつ置いた。

 

 赤い輪郭が射線へ届く直前にほどける。

 

 次に形が出たのは右側。

 

 しかも、消えた場所と現れた場所の間に、細い放電が一拍遅れて残った。

 

「来るぞ!」

 

 第2固定点からガルムが走る。

 

 塔盾を真正面には置かない。

 

 再形成された四脚が走り出す線へ、盾面を斜めに差し込む。

 

 赤い肩の輪郭が外縁を擦った。

 

 ガルムは止めようと踏ん張らず、右足を引きながら盾の角度を開く。

 

「右へ流す!」

 

 四脚の進行線が右へずれた。

 

 その先には、第5班が先回りしている。

 

 二人の射線が交差する。

 

 赤い輪郭がまたほどける。

 

 次に出られる位置が一つ減ったぶん、再形成先は中央寄りになった。

 

 追っていない。

 

 いまいる場所を囲んでもいない。

 

 次に形を作れそうな場所だけを狭めていますの。

 

     ◇

 

 第2形態の残存耐久表示が視界端に残っている。

 

 近距離なら、この身体でも切り込める。

 

 けれど、相手が次に形を作る候補地は六方向へ散る。地上から一つずつ追えば、また背中を追うことになる。

 

 残っている耐久を使い切る理由はない。

 

 任意移行。

 

《第3形態》

 

 翼が開く。

 

 地面を蹴り、六固定点が同時に見える高さまで上がる。

 

 赤い四脚そのものへ照準は置かない。

 

 先。

 

 左外周。

 

 第4通路との間。

 

 次に形が出そうな空間へ先に射撃を落とす。

 

 白い光が床へ刺さった。

 

 四脚の輪郭がほどける。

 

 現れたのは右側。

 

 そこへ第5班が射線を置く。

 

 さらに中央寄り。

 

 今度はガルムの盾面が待っている。

 

 速さへ勝つのではない。

 

 受ける場所を変えれば、次に出られる場所も変わる。

 

「もう一度、内側へ!」

 

 第5班が追わずに位置を詰める。

 

 ガルムも四脚へ寄らない。中央側へ流せる角度だけを取り直す。

 

 速く動けても、出られる場所が少なければいい。

 

     ◇

 

 キリオ班の照準だけが、四脚の胴から少し外れていた。

 

 赤い輪郭が崩れる。

 

 泥と結晶糸の間で、次の前脚が作られ始める。

 

 その一瞬だけ。

 

 床の泥から新しい前脚へ、細い赤線が伸びた。

 

「再形成線、見えたっす」

 

「撃て!」

 

 ライカ。

 

 キリオの矢は胴を狙わない。

 

 赤線の中央へ入る。

 

 線が弾けた。

 

 作られかけていた前脚が遅れ、着く位置がずれる。

 

 四脚の姿勢が崩れたところへ、第1班と第5班の攻撃が重なった。

 

《HP 37%》

 

 削れる。

 

 赤線を切ったから必ずHPが減る、とまではまだ言わない。

 

 けれど、再形成が遅れた瞬間に通常攻撃が通ったことは見えた。

 

「同じ機会を作りますの!」

 

 第3固定点の外側で、一人が雷撃を受けて戦闘不能になる。

 

 前にいた人が消え、その通路だけが空いた。

 

「第6班、第3固定点の外を代行!」

 

 第6班から二人が走る。

 

 一人は戦闘不能者を内側へ引く。

 

 もう一人はその外へ入り、空いた通路へ武器を向ける。

 

 倒れた本人の技能を引き継いだわけではない。

 

 空いた位置と、そこから残すべき仕事だけを受け取る。

 

 他の班は一斉に押し込まない。

 

 攻撃した班が下がる。

 

 後ろから別班が一歩出る。

 

 消耗した装備は交換する。

 

 蘇生も使う。

 

 けれど、終盤まで残す分までここで使い切らない。

 

《HP 28%》

 

     ◇

 

 足元の泥は消えていない。

 

 頭上にも結晶糸が残る。

 

 その間を赤い四脚が何度もほどけ、別の場所で作り直される。

 

 三つの現象が同じ戦場に残っている。

 

 それ以上の関係は、まだ決めない。

 

 ライカが北側へランスを振る。

 

 四脚が南へ折れる。

 

 ガルムが斜めの盾面を入れ、走行線を外へ逃がす。

 

 第5班は、その先へ先回りする。

 

 わたくしは上から、さらに外側の再形成候補へ射撃を置く。

 

 出口側へ行ける空間が減る。

 

 四脚の次の輪郭が中央寄りへ出た。

 

「キリオ!」

 

「見えてるっす!」

 

 赤線。

 

 矢。

 

 前脚が遅れる。

 

 第6班の一人が、損耗した班の外周位置へ入って射線を一本残す。

 

 第3固定点ではセラが同期経路を維持したまま、戦闘不能者の復帰側を切らさない。

 

 六班が同じ場所へ集まらず、攻撃した班から順に引き、空いた側へ次の班が入る。

 

 追撃ではない。

 

 輪転ですの。

 

 わたくしも四脚を追わない。

 

 上から見える、次に使えそうな場所だけを一つずつ潰す。

 

《HP 21%》

 

 四脚の進路が、さらに中央へ寄った。

 

     ◇

 

 中央へ一本、味方の射線が通る。

 

 白い粒子が内側へ押し潰された。

 

 その瞬間。

 

 音ではないものが、わたくしの内側を横切った。

 

 耳から入ったわけではない。

 

 戦場音声にもない。

 

 短い高音に似た波形。

 

《外部音声入力:該当なし》

《A.S.T.R.A. Sync内部同期層:未分類波形》

 

 息が一瞬だけ止まる。

 

「……悲鳴に、似て」

 

 口にしてから、すぐに切る。

 

 似て聞こえただけですの。悲鳴だと確認できたわけではない。

 

「今の波形、共有されておりますの?」

 

 第1固定点のライカがこちらを見る。

 

「何も聞こえてない」

 

 ライカ側には届いていない。

 

 わたくしのA.S.T.R.A. Sync内部同期層だけ。

 

 それも、一度。

 

 一度だけなら止める根拠には足りない。

 

 ですが、同じ刺激を重ねる理由もありませんの。

 

 中央へ、もう一本の射線が入る。

 

 白い粒子が同じ向きへ潰れた。

 

 同じ位置。

 

 同じタイミング。

 

 同じ波形が、もう一度だけ内部同期層へ走る。

 

《未分類波形:再現一致》

 

「中央射線、止めてくださいませ」

 

「理由」

 

「未分類の反応ですの。確認前の刺激は危険と判断しますわ」

 

 ライカは問いを重ねない。

 

 片手を上げた。

 

「中央、外せ!」

 

 中央へ向いていた照準が順にずれる。

 

 赤い四脚へ通す射線も、白い粒子が集まる中心だけは避ける。

 

 その状態で、最後の通常攻撃が外側へ入った。

 

《HP 20%》

 

《通常耐久減少、停止》

 

 数字が止まる。

 

「攻撃停止。中心を見ろ」

 

 ライカの声。

 

 三十人の武器が止まった。

 

 わたくしも翼上の射撃を切る。

 

     ◇

 

 中央に残っていた泥外殻へ、縦の亀裂が入った。

 

 左右へ剥がれ落ちる。

 

 その奥から、五つの環が露出する。

 

 同じ大きさではない。

 

 位置も違う。

 

 一つは低い。

 

 一つは斜め上。

 

 残る三つも、別々の方向へ細い線を伸ばしている。

 

 表示される機能名はない。

 

 まだ、どれが何をする環なのかは分からない。

 

 そして五つの環の中央。

 

 白い縦光が一本だけ残っている。

 

 わたくしは第3形態の照準を一つの環へ合わせた。

 

 白い中心が、その奥へ重なる。

 

 角度を変える。

 

 やはり重なる。

 

 別の環。

 

 そこでも同じ。

 

 環だけを撃とうとすると、その先に白い中心が入る。

 

 近距離なら第2形態の刃で切れるかもしれない。

 

 第1形態なら、周囲を受け止められるかもしれない。

 

 第3形態なら、離れた位置から各線を見分けられる。

 

 けれど。

 

 五つの環だけへ作用し、中央を刺激せずに済む方法は、まだ取れていない。

 

 第4形態の所有表示が、視界端には残っている。

 

 未起動。

 

 未検証。

 

 今ここでは、まだ触らない。

 

 わたくしの照準の中で、機能の分からない五つの環と、正体を決めてはいけない白い縦光が、同じ中心へ重なっていましたの。

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