『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~ 作:tuna&mayo
《千の残響》
《第4段階 五環中枢相》
《通常耐久 20%》
《通常耐久減少 停止》
五つの環は、中央の白い縦光を囲んだまま回っている。
同じ部位には見えない。
大きさが違う。回転の速さも違う。何より、そこから伸びている線の先が違った。
わたくしは第3形態のまま高度を保ち、一番低い位置にある環へ照準を合わせる。
撃たない。
照準補助だけを細くして、環から外へ伸びる一本を追う。
線は第5通路の外側をかすめ、そのまま戦場外周の終了処理層へ入っていた。先ほど確認した未登録出口の表示が、その線の脈動に合わせて一瞬だけ濃くなる。
《接続先照合》
《終了処理層》
《暫定分類:終了接続環》
「一つ目ですの」
環そのものを壊す必要があるとは、まだ決めない。
分かったのは、終了処理側へ線を持っていること。
次の環へ照準を移す。
そこから出ている線は一本ではなかった。イベント管理、継承処理、戦績記録。複数の正規処理へ枝分かれしている。
どの権限を持っているのかまでは表示されない。
けれど、触れている先は見える。
《接続先照合》
《イベント管理》
《継承処理》
《戦績記録》
《暫定分類:権限環》
「二つ目」
ライカたちも攻撃を止めたまま、六固定点から中央を見ている。
誰も環へ試し打ちはしない。
HPが止まったからではない。
中央への刺激で、さきほど未分類波形が再現したからですの。
◇
三つ目の環から伸びる線は、外周へ向かわなかった。
管理AIの照合欄が閉じた内部記録側へ切り替わる。
個体名そのものは公開側へ出さない。
わたくしの内部表示だけに、三件の形態履歴との接続が並んだ。
泥外殻。
結晶糸。
高速四脚。
それぞれの被害記録側に残っている形態履歴へ、細い線が伸びている。
《接続先照合》
《被害個体・形態履歴》
《暫定分類:履歴環》
履歴。
ここで見えているのは、戦闘身体の形態履歴へ繋がる記録線ですの。
人格の記憶だとは限らない。
「三つ目。被害個体側の形態履歴へ繋がっていますわね」
ライカの声が返る。
「なら雑に撃つな」
「当然ですの」
環を狙って、その先の形態履歴側まで損なうわけにはいかない。
四つ目。
この環からは、これまで戦場に出ていた三種類の機能へ線が伸びている。
足元の泥外殻。
上空の結晶糸。
赤い雷影四脚。
環へ戻る線と、そこから各機能へ伸びる線が重なる。
《接続先照合》
《戦場機能取得口》
《暫定分類:取得環》
取得口。
それなら、少なくとも先ほどまでの三段階が別々に消えず残っていたこととも矛盾しない。
ただし。
これが何を、どこから、どの条件で取得したのかまではまだ分からない。
由来も、主体も、目的も決めませんの。
わたくしは四つの環から照準を外す。
「五つは、同じ機能ではありません」
最後の一つへ視線を戻した。
◇
白い環。
ほかの四つより中央に近い。
外周へ伸びる線がない。
終了処理にも、管理権限にも、被害記録にも、戦場機能にも出ていかない。
細い白線は環から中央へ戻り、白い縦光の周囲へ収束している。
管理AIの照合を一段深くする。
《接続先照合》
《中心構造維持》
《暫定分類:自存環》
自存。
名前だけでは判断しない。
「管理AI。この環を切断した場合だけ、結果をシミュレーションできますの?」
《可能》
《実行処理なし》
《自存環切断シミュレーション》
戦場上の環は動かない。
白い縦光も変わらない。
別欄に、仮想結果だけが開く。
自存環から中心へ戻っていた白線が消える。
次の瞬間、シミュレーション上の縦光が細くなった。
半分。
さらに縮む。
最後には、何も残らない。
《中心構造維持率:0》
胸の奥が少しだけ冷える。
さきほど聞こえたものに似た未分類波形。
でも、それを理由にはしない。
悲鳴だったとは確定していない。
中央が生命だとも、人格があるとも、まだ確認していない。
ここで得た判断材料は、もっと単純ですの。
自存環を切ると、中央構造が維持できない。
「自存環まで切断した場合、中心構造は維持できません」
ライカが中央を見る。
「じゃあ、少なくとも全環切断は採れないな」
「ええ。もう一つ見ますわ」
次のシミュレーションを開く。
《外部接続四環分離/自存環維持》
終了接続環。
権限環。
履歴環。
取得環。
四つの外部接続だけを中心側から分離し、自存環は残す。
仮想表示の中で、四つの環が外へ退く。
中央の白い縦光は細くなる。
けれど消えない。
《中心構造維持:可能》
《外部接続:分離可能性あり》
可能性あり。
成功保証ではない。
それでも、全環破壊よりは目的が分かれている。
外へ触れている危険な接続を外す。
中央そのものは残す。
「管理AI。全環破壊案を棄却。外部接続四環分離、自存環維持を提案しますわ」
《提案受領》
《安全処理案として審査》
数秒だけ、表示が止まる。
その間も戦場の泥は足元に残り、頭上の結晶糸も完全には消えていない。赤い放電が外周で散発的に瞬く。
三十人は動かない。
中央へ射線を戻さない。
《採用》
《勝利条件更新》
《危険四環を分離》
《中心構造を保護状態へ移行》
審査を通って初めて、外部接続を持つ四つが《危険四環》として勝利条件へ入った。
勝利条件が変わった。
耐久をゼロにすることではない。
危険な四環を分ける。
中央を残す。
「世界レイドで、倒し切らないのが勝利条件ですのね」
ライカが短く笑った。
「倒す相手と残す相手が重なってる。だったら分けるしかないだろ」
言い方は雑でも、その通りですの。
ただし「相手」が何者なのかは、まだ決めない。
分けるべき機能と、残すべき構造が同じ中心に重なっている。
いま確定したのはそこまで。
◇
《残り 29:00》
問題は、方法ですの。
わたくしは第3形態の照準を一つずつ五環へ通してみる。
終了接続環の線。
権限環の枝。
履歴環から被害個体側の形態履歴へ戻る細線。
取得環から三機能へ伸びる線。
その内側に自存環と中央。
第3形態なら、全部を上から見続けられる。
射線の選択もできる。
けれど、ひとたび中央近くへ衝撃が流れれば、それを身体で分けるには遠い。
第1形態なら。
中央へ身体を置いて、外から来るものを受けられる。
泥を通路の外へ流した時のように、境界を作ることもできる。
けれど、五環の細い接続だけを選んで切る身体ではない。
第2形態なら。
近づける。
一点へ刃を通せる。
結晶糸の形成点を切った時のように、狙った場所へ直接触れられる。
けれど、五方向以上へ伸びる線と、外周六固定点を同時に見続けることはできない。
三形態とも使える。
三形態とも、ここまで必要だった。
どれかが弱いから足りないのではない。
必要なものが、別々の身体へ分かれている。
中央を守る。
環単位で作用する。
複数の接続線を監視する。
いまは、それを同時に要求されていますの。
「三形態では足りませんの」
ライカがこちらを見上げる。
「替えながらやるか?」
「形態移行の間に、見えない線が一つ動けば困りますわ。中央を押さえるために第1形態へ戻れば、上からの監視を失います。第2形態で切れば、外周全体を同時には持てませんの」
通常なら、それでいい。
役割が変わるたびに形態を変えるのが、わたくしの戦い方ですもの。
でも今回は。
切る瞬間だけ精密ならいいのではない。
切る前から中央を守り、複数線を見て、外へ逃がさず、そのうえで一本だけへ作用しなければならない。
「だったら、どうする」
視界の端へ、閉じたままだった所有欄を呼び戻す。
《第4形態》
《個体固有形態》
《初回起動履歴:なし》
《検証履歴:なし》
第1000防衛が終わったあとに生成されたもの。
まだ一度も起動していない。
起動前に読める登録情報を開く。
《登録機能:取得済み基礎機能/身体構成の部分再構成》
《未取得機能生成:不可》
《実使用挙動:未検証》
新しい機能を作る身体ではない。
取得済みのものを、身体の一部ごとに組み替える。
少なくとも、三形態で別々になっていた役割を、部位単位で配し直せる候補にはなる。
けれど、実際に使った時の感覚も、変更速度も、失敗の癖も、わたくし自身は経験していない。
確実な最適解ではない。
むしろ、初回をこの場で試すことになる。
「……初回から実戦ですのね」
声に出すと、自分でも少し可笑しかった。
千回守った直後に手に入った身体を、確認戦すら挟まず世界レイドへ持ち込む。
普通なら避けたい。
けれど、第1から第3までを切り替えるだけでは、いまの同時要求を満たせないことは確認した。
第4形態がそれを埋められる保証はない。
それでも、登録情報上で次に検証できる候補はこれですの。
未検証だから勢いで使うのではない。
既知の三形態だけでは足りず、登録上は必要な役割を部位単位で組み替えられる可能性がある。
だから、限定的な初回検証へ進む。
わたくしは所有欄を開く。
《第4形態《レギナ》》
未起動。
未検証。
その二行を見たまま、ライカへ言う。
「ですから、四つ目を使いますわ」
「初見だぞ」
「わたくしもですの」
「知ってる」
即答でしたの。
六固定点にいる三十人を見る。
誰も中央へ射線を向けていない。
誰も先に環を壊そうとしていない。
この戦場で、未知なのはわたくしの新しい身体だけではない。
だから、知っているふりをしない。
使って、見て、足りないところはその場で判断する。
起動選択へ指を置く。
まだ押さない。
第4形態を使うと決めたところで、わたくしは一度だけ五環と中央を見直しましたの。