『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

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第052話 第四形態、初回起動ですわ

 

 

《世界レイド残り時間 29:00》

 

 第4形態の起動選択へ置いた指を、そのまま押し込む。

 

《第4形態《レギナ》》

《初回起動》

 

「第四形態、初回起動ですわ」

 

 第3形態の翼が、背後から光へほどけた。

 

 六つの固定点を見下ろしていた視界が下がる。巨大な竜の胸郭も、長い首も、射撃器官を支えていた重量も消えていく。最後まで残った翼膜が背へ吸い込まれ、代わりに黒い柔軟構造が肩、腕、腰、脚の輪郭を作った。

 

 中央基壇へ足が触れる。

 

 二本。

 

 人の脚ですの。

 

 一歩目を出す前に、わたくしは自分の手を見る。

 

 五本の指。

 

 黒い基礎身体の上へ、白い分割装甲が前腕を覆っている。継ぎ目には赤い細線。背中へ意識を向ければ、翼はある。けれど第3形態のものとは比べものにならないほど短い一対だけ。腰の後ろには細い尾。

 

 外部確認窓を開いた。

 

 淡い金の瞳。

 

 腰まで届く白銀の髪。

 

 顔も、声も、普段の配信で使っているわたくしと同じ。

 

「……ずいぶん、近くなりましたわね」

 

 何に、とは言わない。

 

 いつもの自分の顔で、いつもの自分の声を出している。

 

 けれど、これは配信用の姿ではない。

 

 戦闘身体ですの。

 

 手持ち武器はない。

 

 登録された変換枠の範囲なら、身体側へ機能を構成できる。

 

 その代わり、何でも同時に持てるわけではない。

 

《総構成容量:12》

《中核身体固定消費:4》

《自由配分可能容量:8》

《同時維持可能な追加機能:最大6》

 

 表示の下へ、起動時から成立している基礎構成が並ぶ。

 

《中核身体》

《胸部出力分配器官》

《左右前腕変換枠》

《小型翼一対》

《姿勢制御尾》

《脚部推進器官》

《高精度感覚器官》

 

 総量が十二。

 

 身体そのものを維持する分で四。

 

 自由に回せるのは八。

 

 同時に維持できる追加機能は最大六。

 

 しかも、追加機能ごとに使う容量は同じではない。

 

「増えたのは選択肢であって、出力そのものではございませんのね」

 

 全部を強くする形態ではない。

 

 どこへ何を配るかを選ぶ身体。

 

 起動前に確認した登録情報が、今度は自分の身体感覚として返ってくる。

 

     ◇

 

 まず、必要なものを仮置きする。

 

 基礎構成の高精度感覚器官へ、五環識別機能を追加する。

 

 右前腕へ細い分離刃。

 

 左前腕へ中型防壁。

 

 背部の短翼は誘導用として維持。

 

 尾へ拘束用の出力。

 

 脚部には、中央から押し流されないための固定機能を候補として置く。

 

 同じ一機能でも、使う容量は一律ではない。仮構成を登録したところで、自由に回せる分が埋まった。

 

《自由容量 8/8》

 

「八。きっちりですの」

 

 余ってはいない。

 

 でも、今ほしいものは一応並んだ。

 

 右腕を持ち上げる。

 

 白い前腕装甲の縁から、細い刃が伸びる。

 

 第2形態のように腕全体が武器になるわけではない。人型の輪郭を保ったまま、必要な部分だけが変わる。

 

 刃先を、五環のうち《取得環》へ向ける。

 

 届く。

 

 精度も悪くない。

 

 次に左腕。

 

 泥が中央側へ盛り上がった。

 

 登録上の中型防壁を、いきなり最大まで広げず展開する。

 

 白い装甲が半面へ展開した。

 

 泥が当たる。

 

「――っ」

 

 受けた瞬間、身体が後ろへ持っていかれた。

 

 足裏が黒い床を滑る。

 

 一メートル。

 

 三メートル。

 

 まだ止まらない。

 

 竜の巨体なら、その場で受けていた程度の押圧。

 

 なのに今は、視界そのものが後ろへ流れていく。

 

「軽いですの!?」

 

 十八メートルほど下がったところで、横から塔盾が入った。

 

 ガルム。

 

 わたくしを押し止めるのではない。次に来た泥の向きだけを盾面で外へ流す。

 

 その間に脚部機能を固定側へ回す。

 

 白い杭が足元へ伸び、黒い床へ沈んだ。

 

 ようやく滑りが止まる。

 

《素体重量・押圧耐性:第1形態未満》

 

「そこまで丁寧に教えてくださらなくても、今ので分かりましたわ!」

 

「分かったなら次は飛ばされんな!」

 

 ガルムが泥を外へ流しながら返す。

 

「努力いたしますの!」

 

 強い。

 

 便利。

 

 だから重い――ではない。

 

 人型で軽いからこそ、構成を回せる代わりに、受け方を間違えると簡単に位置を持っていかれる。

 

 第一の欠点は、もう身体で覚えましたの。

 

     ◇

 

 左腕の防壁を厚くする。

 

 そのぶん、尾へ回していた拘束出力を落とす。

 

《構成変更》

《複数部位》

《所要 1.2秒》

《無防備 0.5秒》

《再構成負荷 28》

 

 赤い発光線が消えた。

 

 左腕の防壁も、尾の拘束も、変更途中の形で止まる。

 

 半秒。

 

 数字だけなら短い。

 

 戦場の半秒は、十分に長い。

 

 頭上から結晶糸が一本落ちてくる。

 

 左腕はまだ使えない。

 

 右腕を向けようとするより先に、第6班の二人が中央へ踏み込んだ。

 

 一人が左。

 

 一人が右。

 

 盾面をずらして、結晶糸をわたくしの身体から外へ滑らせる。

 

 赤い線が戻った。

 

 左腕の防壁が厚くなる。

 

 尾の拘束出力は薄くなった。

 

 同時に全部を良くしたわけではない。

 

 一つを増やしたから、一つが減った。

 

「……守られましたの」

 

「初回なんだから使え」

 

 ライカの声。

 

 短い。

 

 慰めでもない。

 

 三十人いる理由を、そのまま言っただけですの。

 

「ええ。では遠慮なく」

 

 結晶糸がもう一本、左側へ落ちる。

 

 さきほどより角度が浅い。

 

 防壁の端を刃へ変えれば、そのまま切れる。

 

 そう判断して左腕へ再変更を出す。

 

《変更要求》

《同一部位待機 0.4秒》

 

「まあ」

 

 動かない。

 

 変更は終わった。

 

 だから、すぐ次へ変えられると思った。

 

 違う。

 

 変更完了後の同一部位には待機がある。

 

 〇・四秒。

 

 結晶糸は待ってくれない。

 

「左、触るな!」

 

 ライカの声。

 

 第2固定点側からガルム班の盾が一枚入る。糸が防壁へ届く前に横へ受け、外へずらした。

 

 わたくしは動かない左腕を見て、それから右腕を見る。

 

 右は使える。

 

 細い刃を横へ振り、流された糸の端だけを切る。

 

 切断。

 

 左腕の待機表示が消えたのは、そのあとだった。

 

「……完璧に扱えるまで待つ時間はございませんものね」

 

「だから三十人いるって言ってる」

 

「二度も言われましたの」

 

「三度目もあるぞ」

 

「できれば減らしますわ!」

 

 減らせる保証はない。

 

 少なくとも、今の一度で分かった。

 

 再構成中だけが隙ではない。

 

 変え終わった直後にも、同じ場所を戻せない時間がある。

 

 後から思いついた修正を、反射だけで重ねる身体ではない。

 

     ◇

 

《世界レイド残り時間 25:41》

 

 五環へ戻る。

 

 今度は近づきすぎない。

 

 胸部の高精度感覚を《取得環》へ絞る。

 

 環そのものではなく、中央との間へ伸びている接続境界。

 

 見える線だけを読む。

 

 その時。

 

 《取得環》から、一本だけ細い線が逆方向へ伸びた。

 

 中央へ戻るのではない。

 

 わたくしへ。

 

「――」

 

 避けるより先に胸部へ触れた。

 

《解析接触:A.S.T.R.A. Sync》

《参照経路:通常戦闘層外/瞬間》

《参照内容:非取得》

 

 息が一瞬だけ止まる。

 

 表示上の参照対象は、第一世代ドラゴン現在個体ではなく、A.S.T.R.A. Sync側に置かれている。

 

 内部同期層を、短い波形が走る。

 

 HP21%で中央へ刺激が入った時に観測したものと、形が近い。

 

 それ以上は分からない。

 

 何が参照対象になったのか。

 

 何かが返ったのか。

 

 管理AI側の表示にも、内容はない。

 

《取得記録:参照経路事実のみ》

《参照内容:保存なし》

 

 わたくし自身にも取得できていないものを、意味だけ足すわけにはいきませんの。

 

「接触線だけ切りますわ」

 

 右腕を返す。

 

 胸部へ伸びている線の途中へ、分離刃を横から入れる。

 

 切断。

 

《解析接触:終了》

 

 《取得環》は残る。

 

 中央も残る。

 

 切ったのは、こちらへ伸びてきた一本だけ。

 

 未分類波形も止まった。

 

「何だった」

 

 ライカ。

 

「参照経路への瞬間接触。内容は非取得ですの」

 

「分からんままか」

 

「ええ。ですから、分からないまま記録しますわ」

 

 それ以上は話さない。

 

 今は戦闘中ですもの。

 

     ◇

 

 必要な構成をもう一度開く。

 

 中央を守る防壁。

 

 五環を見分ける感覚。

 

 接続点へ作用する刃。

 

 外周へ伸びる線を逃がさない拘束。

 

 六方向を確認するための誘導。

 

 押された時に位置を失わない脚部。

 

 全部、欲しい。

 

 でも、全部を最大にはできない。

 

 防壁へ厚く回せば、刃か機動か拘束が薄くなる。

 

 刃を強くすれば、受ける側が減る。

 

 短翼へ回せば、地上での固定か腕部へ使う分が減る。

 

 さらに、変えるたび時間が要る。

 

 変更している間には無防備がある。

 

 変え終わっても、同じ部位をすぐ戻せない。

 

 しかも、この身体は軽い。

 

 第1形態のように、受ける役割を一身へ集めることもできない。

 

 何でもできますの。

 

 ではない。

 

 何をしないかまで、その場で選び続ける身体ですのね。

 

《残り 23:00》

 

 六つの固定点を見る。

 

 第1にライカ。

 

 第2にガルム。

 

 第3にセラ。

 

 第4にキリオ。

 

 第5、第6にも、それぞれ五人。

 

 三十人。

 

 わたくし一人が全部積む必要はない。

 

 むしろ積もうとすれば、容量か時間か身体の軽さ、そのどこかで破綻する。

 

「すべてをわたくしへ積む案は、ここで棄却ですわ」

 

 口にすると、ずいぶん簡単だった。

 

 ライカが中央側へ一歩だけ出る。

 

「遅い」

 

「初回起動から六分でそこへ辿り着いたのですから、褒めていただいても?」

 

「あとでな。今は役割を出せ」

 

 その通りですの。

 

 初めて使う第4形態で得た最初の結論は、新しい力がどれほど大きいかではなかった。

 

 自分に足りない容量。

 

 変えられない〇・四秒。

 

 無防備になる時間。

 

 軽い身体では受け切れない押圧。

 

 それを、三十人のどの役割へ預けるか。

 

 そこまで含めて初めて、この身体を使える。

 

 わたくしは五環と中央、それから六固定点を同じ視界へ入れる。

 

「では――五環分離の配置へ移りますの」

 

 第4形態《レギナ》は、何でもできる身体ではない。

 

 選ぶたびに、選ばなかったものが残る。

 

 だからこそ。

 

 残ったものを、皆様にお願いいたしますわ。

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