『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

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第053話 わたくし一人では足りませんの

 

 

《世界レイド残り時間 23:00》

 

 五環と中央基壇、その外側を囲む六つの固定点を同じ視界へ入れる。

 

 第4形態《レギナ》の胸部感覚を広げれば、位置だけなら全部見える。

 

 けれど、見えることと、一人で維持できることは別ですの。

 

 泥外殻はまだ足元から押し上がり、切り残した結晶糸も上空に残っている。外周では赤い放電が短く走る。その中央で、五つの環だけが白い縦光を囲んで回り続けていた。

 

 ここから切る。

 

 その前に、切っている間も崩れない場所を作る。

 

「正式作戦《五環分離》を開始しますの」

 

《正式作戦名を登録》

《五環分離》

《第1工程:六点固定》

 

 中央から外周へ、六本の固定線が表示される。

 

 第1固定点は北。

 

 第2は北東。

 

 そこから時計回りに、第3、第4、第5、第6。

 

 わたくしが線を見ている間に、鋼路戦団の三十人が動き始めた。

 

「第1、正面を取る。第2は境界。第3は同期維持。第4は接続点。第5、外周を狭めろ。第6は空いた場所だけ埋めろ」

 

 ライカの指示は短い。

 

 誰が強いかではなく、どこを残すかだけが六方向へ飛ぶ。

 

 五人ずつ、六班。

 

 わたくし一人の身体へ積めなかった役割が、外周へ分かれていく。

 

     ◇

 

 最初に押されたのは第2固定点だった。

 

 足元から泥外殻が盛り上がり、白い固定線を下から持ち上げる。

 

 ガルムは塔盾を正面へ向けない。

 

 左足を引く。

 

 盾面を斜めにする。

 

 泥が当たった。

 

 重い衝撃で盾の縁が沈む。

 

 それでも押し返さない。

 

「受けるな。外へ流す!」

 

 盾を傾けたまま、ガルムが半歩ずつ横へずれる。

 

 泥が塔盾の表面を滑り、固定点の外側へ流れる。

 

 中央へ向いていた厚みが、少しずつ外へ逃げた。

 

 盾の内側。

 

 一人が通れるだけの幅が残る。

 

「第6、一人入れ!」

 

 第6班から一人が走る。

 

 ガルムの背後を抜け、第2固定点の後ろへ膝をついた。

 

 固定具を床へ落とす。

 

《外殻支持線:第2》

《固定》

 

《第2固定点:成立》

 

 泥は消えていない。

 

 ガルムもその場から離れない。

 

 第6班の一人が第2へ入ったからといって、ガルムの技能を代わりに使うわけでもない。

 

 空いた手で、固定すべき線を保持する。

 

 それだけ。

 

 でも、その一人がいるからガルムは泥の境界へ集中できますの。

 

     ◇

 

 白い結晶糸が上から落ちる。

 

 第4固定点。

 

 キリオが弓を上げた。

 

 糸そのものへは撃たない。

 

 三本が交わる白い結節へ、一本。

 

「今は中央に近い線を切らないっす」

 

「ええ。固定点側だけですの」

 

 矢が飛ぶ。

 

 白い交点の外縁だけを穿った。

 

 糸壁が左右へほどける。

 

 一枚全部が消えたわけではない。

 

 中央側の線も残っている。

 

 けれど、第4固定点へ落ちていた張力だけが緩んだ。

 

《外殻支持線:第4》

《固定》

 

《第4固定点:成立》

 

 キリオは次の矢をつがえたまま、五環へ照準を移さない。

 

 まだですの。

 

 今は道を作る工程。

 

 切断対象が見えていても、先に切らない。

 

     ◇

 

 第3固定点では、セラ班が中央へ近づかない。

 

 白い縦光との間に出ている同期表示を、第3点から維持している。

 

「記録保護はシステムと管理AI。セラは自存環への同期を維持してください」

 

「了解。保存側には触らない。現在同期だけ持つ!」

 

 セラの手元に並ぶのは、保存処理そのものではない。

 

 中心側へ残す同期経路。

 

 復帰可能な線。

 

 その二つだけ。

 

《同期経路:維持》

《外殻支持線:第3》

《固定》

 

《第3固定点:成立》

 

 中央の白い縦光は変わらない。

 

 自存環も回り続けている。

 

 こちらから刺激を入れていない。

 

 それを確認して、次を見る。

 

     ◇

 

 第1固定点ではライカ班が正面の泥を押し返していた。

 

 真正面から潰すのではない。

 

 攻撃を左右へ散らし、中央へ厚みが集まらない角度を作っている。

 

《第1固定点:成立》

 

 第5固定点では、外周へ伸びる《終了接続環》の線の前へ妨害板が二枚置かれた。

 

 一直線には並べない。

 

 一枚目が進路を右へずらす。

 

 二枚目が、その先の幅をさらに狭める。

 

 終了処理側へ伸びていた線が、板の間を通れる側へ経路をずらした。

 

 環本体を動かした、とまでは言わない。

 

 少なくとも、外へ伸びる接続線の通れる幅は狭くなった。

 

「第5、そのまま。閉じ切るな」

 

「了解!」

 

 完全に塞いだ時、どこへ接続が返るかはまだ分からない。

 

 だから出口は一方向だけ残す。

 

《外殻支持線:第5》

《固定》

 

《第5固定点:成立》

 

 最後の第6固定点。

 

 さきほど一人を第2へ送った班は、残る四人で位置を詰めている。

 

 足りない一人分を、技能で埋めようとはしない。

 

 固定線の保持。

 

 周辺監視。

 

 退路。

 

 いま残っている四人で維持できる範囲へ役割を減らしている。

 

《外殻支持線:第6》

《固定》

 

《第6固定点:成立》

 

 六つ。

 

 全部が白く点いた。

 

《第1工程:六点固定 完了》

 

     ◇

 

 六本の外殻支持線が固定された途端、中央の見え方が変わった。

 

 泥と糸と赤い放電が消えたわけではない。

 

 外側から中心へ押し込んでいた動きが、六方向でそれぞれ受け持たれた。

 

 中央だけが、少し静かになる。

 

《第2工程:中枢周辺安定化》

 

 五環。

 

 中央の白い縦光。

 

 その周囲に残る外殻。

 

 六方向から張られた支持線によって、外側の揺れが小さくなる。

 

 胸部感覚を絞る。

 

 《終了接続環》。

 

 《権限環》。

 

 《履歴環》。

 

 《取得環》。

 

 《自存環》。

 

 五つを順番に見分ける。

 

 切るべき四つの接続点には、キリオ班の照準補助が重なる。

 

 ただし矢はまだ飛ばない。

 

 中央に近い線へは一つも触れていない。

 

 自存環側の同期は、第3固定点から維持されたまま。

 

 第5班は終了処理側の進路を一方向へ狭めている。

 

 第6班は第2へ一人出した状態でも、残る固定点を捨てていない。

 

 ひとつの仕事を、一人へ集めていない。

 

 六班全部で、中心へ触らずに外側だけを押さえている。

 

《第2工程:中枢周辺安定化 完了》

 

     ◇

 

《第3工程:切断進路確保》

 

 中央基壇まで、まだ距離がある。

 

 三メートルほど。

 

 たった三メートル。

 

 第2形態なら一歩で詰められる距離。

 

 第3形態なら射線だけ通せる距離。

 

 でも今のわたくしは、第4形態《レギナ》。

 

 右腕にはこれから分離刃を作る。

 

 左腕には中心側を守るための防壁を残す。

 

 胸部感覚は五環識別へ使う。

 

 脚部は、切断中に位置を持っていかれないために必要。

 

 その状態で、泥も糸も六方向も自分一人で押さえながら三メートル進む余裕はない。

 

 ライカ班が正面の泥を左右へ分ける。

 

 ガルム班が横から来た外殻を防壁の外へ流す。

 

 第4固定点からキリオの照準線が、中央を避けて四環の外側へ並ぶ。

 

 第5班の妨害板が、終了処理側へ伸びる線を西寄りへ追い込む。

 

 第6班が一人抜けた位置へ入り、支持線を落とさない。

 

 その間に。

 

 中央までの黒い床が、一本だけ空いた。

 

「進路、開いた!」

 

 ライカ。

 

 わたくしは初めて前へ出る。

 

 一歩。

 

 泥は来ない。

 

 二歩目。

 

 結晶糸は中央線へ入ってこない。

 

 三歩目。

 

 白い縦光まで、約三メートル。

 

 わたくし自身が作った三メートルではない。

 

 三十人が、六方向でそれぞれ不足を受け持った結果ですの。

 

 中央基壇へ足を置く。

 

 脚部固定を起動。

 

 黒い足裏から白い杭が左右へ伸び、基壇へ沈む。

 

《脚部固定》

 

 軽い身体が、床へ止まる。

 

 これで第1形態と同じ重量になったわけではない。

 

 押圧を受ければ、なお位置を失う可能性はある。

 

 ただ、切断位置から勝手に滑り出す余地は減った。

 

     ◇

 

 右前腕の構成を開く。

 

 分離刃。

 

 背部短翼は六方向誘導へ。

 

 左腕防壁は中心側へ残す。

 

 胸部識別は維持。

 

 いま必要な変更だけを予約する。

 

《構成変更予約》

《背部短翼:六方向誘導準備》

《右腕:分離刃形成予約》

《実行待機》

 

 予約を積んだ瞬間、視界端の負荷表示が上がった。

 

《再構成負荷 70》

 

 赤い発光線が、一度消える。

 

 戻る。

 

 また消える。

 

《負荷70以上》

《再構成時間:1.5倍》

《感覚更新:0.1秒遅延》

 

「再構成負荷70。感覚更新に遅延」

 

 声に出した直後。

 

 第5固定点の位置表示が、ほんの一拍遅れて動いた。

 

 実際にはもう半歩右へ移っている。

 

 視界へ返った更新だけが遅い。

 

 〇・一秒。

 

 平時なら短い。

 

 五環の細線を切る時には、十分に危険ですの。

 

「更新遅延込みで照準を出すっす」

 

 キリオ。

 

「第5、動いたら声も入れろ。表示だけに任せるな」

 

 ライカ。

 

「了解!」

 

 視界の遅れを、わたくしだけで補正しようとしない。

 

 位置は声でも渡す。

 

 接続点はキリオが現位置から照準を出す。

 

 固定点は各班が自分で維持する。

 

 わたくしが見るべきものを減らす。

 

 右腕だけを、切断へ使えるようにする。

 

 ようやく。

 

 本当にようやく。

 

 わたくしは「切る側」だけへ寄れましたの。

 

     ◇

 

《第1工程:六点固定 完了》

《第2工程:中枢周辺安定化 完了》

《第3工程:切断進路確保 完了》

 

《第1対象:終了接続環》

《第2対象:権限環》

《第3対象:履歴環》

《第4対象:取得環》

《保護対象:自存環》

 

 並んだ順番を見る。

 

 順番は、まだ結果ではない。

 

 一つ切ったあと、世界がどう返るかも分からない。

 

 だから四つ同時には切らない。

 

 最初の一つを処理して、返りを見る。

 

 そのための六点。

 

 そのための三メートル。

 

 そのための三十人ですの。

 

《残り 15:00》

 

 右腕の白い装甲が細くなり、分離刃の輪郭が浮かぶ。

 

 まだ切らない。

 

 最初の照準が、《終了接続環》から外へ伸びる一本へ重なる。

 

「わたくし一人では足りませんの」

 

 言ってから、六方向を見る。

 

 ライカは正面を向いたまま返した。

 

「知ってる。だから三十人いる」

 

 十分ですの。

 

 刃先を、接続線の外縁へ合わせる。

 

 ここから先は、環を壊す戦いではない。

 

 外へ伸びているものだけを、一つずつ分けますの。

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