『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~ 作:tuna&mayo
《世界レイド残り時間 14:47》
《正式作戦《五環分離》》
《第4工程:レギナ起動構成》
右腕の分離刃を、最初の接続線へ重ねる。
切断順だけを示す表示は閉じた。
順番だけで刃を動かせば、何を残すための処理だったのかを見失う。
切るのは環そのものではない。
外へ伸びた接続だけですの。
左腕を中央へ向ける。
半球状の防壁が、自存環と白い縦光を内側へ包む。完全に閉じるのではなく、第3固定点から伸びる同期線だけは通す。
右腕は細身の分離刃。
胸部は五環識別。
脚部固定は維持。
背部の短翼は六方向の誘導補助。
尾は《終了接続環》側の線が外周へ走った時だけ、進路を押さえるために残す。
《自由容量 8/8》
余白はない。
何かを増やすなら、別の何かを減らす。
だから今の構成を崩す前に、一つずつ切りますの。
◇
《第1対象:終了接続環》
第5班が作った二枚の妨害板の間へ、環から伸びる接続線が寄っている。
その先は終了処理側。
線は一本ではない。
太い一本の周囲に、細い分岐がいくつかまとわりついている。
胸部感覚を絞る。
中央へ戻る線。
外へ伸びる線。
どちらも環から出ている。
だから、環を横から斬れば両方まとめて切れてしまう。
「第5、その幅を維持してくださいませ。閉じ切らないで」
「了解!」
外周の板が一枚だけ半歩ずれる。
出口側へ向く接続線が、空いた方へ寄った。
尾の拘束出力を低く伸ばす。
線そのものを掴むのではない。
進める幅をさらに細くする。
「キリオ様」
「見えてるっす。外側だけ」
第4固定点から一本の照準が重なる。
環本体ではない。
終了処理側へ抜ける線の、環から少し離れた位置。
刃を差し入れる。
横へ引く。
抵抗はほとんどない。
切れた線だけが短く明滅し、外周側へ伸びていた表示が消えた。
環は残っている。
中央への線も残る。
まず、それを見る。
《外部終了接続:分離》
すぐに別の出口表示が開く気配はない。
終了処理側へ新しい線が生えた様子もない。
「第1、完了。次へ移りますの」
「全班、位置そのまま!」
ライカの声。
誰も中央へ詰めない。
最初の一つが切れたからといって、六点固定を解く理由にはならない。
◇
《第2対象:権限環》
次の環は、枝が多い。
イベント管理。
継承処理。
戦績記録。
それぞれへ細い線が伸びている。
どれもRBOの中に存在する正規処理ですの。
だからこそ、線の名前ではなく、境界だけを見る。
管理AIの照合が、環から伸びる線へ重なる。
《正規処理側:保護》
《未登録接続部:切断対象》
一本目。
イベント管理へ伸びる線の途中に、既存処理の境界を越えている部分だけが浮く。
「そこだけですの」
キリオの照準。
右腕の刃。
切る。
イベント管理そのものは残る。
環からそこへ伸びていた未登録部分だけが消える。
二本目。
継承処理側。
切断。
三本目。
戦績記録側。
ここだけ細い。
感覚更新が〇・一秒遅れている。
表示に頼り切らない。
「第4、現在位置を声でくださいませ」
「右へ半歩。照準そのままっす」
声を先に取る。
胸部表示が追いつく。
位置が一致したところで刃を入れる。
切断。
《権限環:外部未登録接続 分離》
環は回っている。
管理、継承、戦績も消えていない。
切ったのは、それらへ重なっていた外部接続だけ。
「二つ目ですの」
そこで泥が左から押した。
半球防壁の外面が揺れる。
ガルム班の盾がすぐ外へ入った。
「中央は見るな! 外だけ流せ!」
塔盾が泥の面を受け、左へ滑らせる。
防壁へ直接当たる圧が減った。
わたくしは左腕へ追加出力を回さない。
いま再構成すれば、右腕の切断構成まで巻き込む。
受けきれない分は、外で受けてもらう。
それが今の作戦ですの。
◇
《第3対象:履歴環》
この環だけは、刃を合わせる前に長く見る。
被害個体側の形態履歴へ伸びる線。
三系統。
さらに、その周囲に別の線が重なっている。
同じ先へ向いているように見えて、役割が違う。
管理AIの保護表示が開く。
《保護対象:被害個体側記録》
《再利用側接続:分離対象》
「混ぜませんの」
被害個体側の形態履歴へ接続している線を消せばいいわけではない。
こちら側で再利用されている接続と、被害個体側へ残す記録は分ける。
第3固定点からセラの声。
「同期、維持。保護側は動いてない!」
「ありがとうございますの」
第4固定点のキリオが、まだ撃たない。
「今は近すぎるっす。二本が重なってる」
「ええ。待ちますわ」
環の回転に合わせて、二本の線が重なったり離れたりする。
焦って斬れば両方入る。
数秒。
被害個体側記録へ接続している線が内側。
再利用側が外へ膨らむ。
「今ですの」
弦が鳴る。
矢は線を切らない。
二本の間へ通り、外側だけを照準表示で固定する。
赤い対象線が外へ出る。
わたくしは一歩だけ踏み込み、右腕の刃をその外側へ差し込む。
横へ。
切断。
内側の保護線は残った。
もう一本。
同じように待つ。
外へ出たところだけを切る。
最後の一系統。
赤い放電が外周で跳ねたが、ライカ班がそちらへ寄らない。
「第1、中央維持! 追うな!」
誰も位置を崩さない。
照準が出る。
刃を引く。
《履歴環:再利用側接続 分離》
《被害個体側形態履歴:保護》
胸部感覚を狭めて、三系統をもう一度見る。
切れていない。
被害個体側へ残る線はある。
こちら側へ引き出していた接続だけが消えている。
確認してから、ようやく息を吐く。
「三つ目。保護側は残っていますわ」
◇
《世界レイド残り時間 06:12》
最後。
《取得環》。
前に使った比喩が、ここではいちばん近い。
食べる機能。
けれど、管理上の名前は《取得環》ですの。
泥外殻。
結晶糸。
雷影四脚。
三つへ伸びている線は、最初に見た時より細くなっている。
終了処理側を切った。
権限側を切った。
履歴の再利用側も切った。
残っている取得環の線を、今度は外へ逃がす先が少ない。
「食べる機能を切り離します」
左腕の半球防壁を中央へ寄せる。
内側。
自存環。
白い縦光。
外側。
取得環。
境界を見間違えない。
「ガルム様、防壁の外だけお願いいたしますわ」
「任せろ!」
塔盾が半球防壁の外周へ並ぶ。
「セラ、自存環側」
「同期維持!」
「キリオ様、外へ出る線だけ」
「了解っす」
「第5、終了処理側を閉じすぎない。第6、空いた固定点へ」
ライカの指示が六方向へ飛ぶ。
全員がそれぞれの場所へ残る。
わたくしだけが右腕を動かす。
◇
一つ目。
結晶糸側へ戻っていた線。
刃を入れる。
切断。
頭上に残っていた白い糸の一部が光を失う。
全部ではない。
二つ目。
泥側。
右腕を返す。
同一部位待機の表示が一瞬出る。
〇・四秒。
待つ。
その間、左から泥が来る。
ガルムの盾が流す。
わたくしは右腕を無理に変えない。
待機が消える。
切る。
足元へ戻っていた一本が消えた。
三つ目。
赤い放電側。
線が外周へ跳ねる。
第5班が進路を狭める。
キリオの照準が、その先へ先回りする。
わたくしは照準へ刃を重ねる。
切断。
赤い放電が外周で途切れた。
《取得環:外部機能接続 大部分離》
まだ終わらない。
胸部感覚へ一本だけ残っている。
細い。
取得環から外へ伸びる線ではない。
中央へ戻っている。
半球防壁の縁、その内側すれすれを通って、自存環のさらに奥へ向かっている。
「最後の一本は、今までと向きが違いますの」
キリオが照準を寄せる。
「中央に近すぎるっす」
「ええ。環ごと斬るのはなしですわ」
刃をさらに細くしたい。
そのぶんだけ、左腕防壁へ使える容量が減る。
いまの太さでは、防壁縁を避けて線だけへ入る角度が足りない。
右腕へ再構成要求を出す。
《構成変更要求》
《右腕:分離刃精密化》
《左腕:半球防壁出力調整》
表示が赤くなる。
《再構成負荷 100》
身体の発光線が一斉に消えた。
右腕の再構成が止まる。
左腕の防壁は残っている。
脚部固定も残る。
けれど、新しい構成へ移れない。
《負荷100》
《再構成不能 3秒》
喉の奥がひやりとする。
三秒。
この身体で、初めて表示される長さ。
身体そのものが止まったわけではない。
右腕を動かすことはできる。けれど、新しい構成へは変わらない。
刃は今の太さのまま。
左腕の半球防壁も、脚部固定も、いま成立している形で持つしかない。
少なくとも表示された三秒のあいだ、選び直せませんの。
最後の細線は、その先で白い中心へ戻っている。
《世界レイド残り時間 03:00》
残った一本を見たまま、わたくしは右腕の停止表示を確認する。
「三秒、再構成できませんの」
自分で埋めるための数字ではない。
六つの固定点へ渡すために、声にする。
切断はまだ終わっていない。
それでも固定点は一つも消えていない。半球防壁の外には三十人がいて、それぞれが自分の役割を持ったまま残っている。
わたくしが選び直せない三秒まで含めて。
ここからは、三十一人で持ちますの。