『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

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第060話 増えておりませんわ

 

 

 前回、ステラの翼膜から落ちた光粒は、観測を終えるまで消えなかった。

 

 五つの先端を持つように集まりかけていた光は、その後も危険反応を示さず、いまは一つの小さな星形としてステラのそばに浮いている。

 

 見た目だけなら、昨日までなかったものが一つ増えた。

 

 だからこそ、配信へ出す前に確認する。

 

 新しく見えるから、新しい生命。

 ステラから出たから、子ども。

 

 どちらも、見た目だけでは決められませんの。

 

《内部監査》

《星形補助表示:初回形成》

《同時展開数:1》

 

 安全ワールドの中央で、ステラは伏せている。

 

 星形の光は、その少し上。

 

 わたくしが移動しても、星だけが勝手についてくることはない。管理側の許可条件を外せば、その位置で止まる。ステラ側からの動きもない状態では、やはり動かない。

 

 逆に、許可範囲を開いたうえでステラが顔を上げると、星形の光がわずかに位置を変えた。

 

 片方だけでは動かない。

 

 それなら次に見るのは、これが「誰か」なのかどうかですの。

 

 管理AIが、星形の光だけを対象にした確認を始める。

 

 呼びかけ。

 

 位置変更。

 

 刺激の停止。

 

 どれにも、星そのものから独立した応答は返らない。

 

 ステラが顔を向ければ動く。

 ステラが伏せれば止まる。

 

 けれど、星だけへ別の選択を求めても、返答はない。

 

《独立人格反応:検出なし》

 

 そこで初めて、わたくしは肩の力を少し抜いた。

 

 生命がもう一つ生まれた、と判断できる材料はない。

 

 むしろ、いま見えている挙動はステラ本人の身体機能が外へ伸びている方に近い。

 

 離れているから別人、とは限りませんの。

 

 レギナで分離した器官を見れば、わたくし自身が一番よく知っている。

 

 ただし、似て見えるから同じ仕組みだとも決めない。

 

 次は増えるかどうか。

 

 管理側が安全確認済みの条件だけを使い、形成後の状態を観測する。

 

 一つ。

 

 待つ。

 

 処理済みの安定資源が追加されても、二つ目は現れない。

 

 星形の輪郭が少し濃くなっただけで、別の形成物は出なかった。

 

《自動増殖兆候:検出なし》

 

 同時に展開できるのは一つだけ。

 

 危険四環の再発ではない。

 現役個体へ触れる経路もない。

 

 許可された安全範囲で、回収や移動の補助に使えるだけ。

 

 ここまでなら、「増えた」という言葉から受ける印象とはかなり違う。

 

 最後に、戻せるかを見る。

 

 管理側から再吸収可能な状態だけを提示する。

 

 ステラへ「戻しなさい」とは言わない。

 

 白い幼竜はしばらく星を見上げていた。

 

 やがて、

 

「きゅ」

 

 短く鳴く。

 

 星形の光が一度だけ揺れた。

 

 次の瞬間、五つの先端がほどける。

 

 粒へ戻った白い光が、ステラの翼の横へ寄り、そのまま翼膜へ吸い込まれていった。

 

《再吸収:成功》

 

 星は消えた。

 

 ステラは一体のまま、そこにいる。

 

 わたくしは監査結果を閉じる。

 

 公開してよいのは、もっと少ない。

 

 別人格ではないという内部確認の詳細も、残滓処理の仕組みも、出生に関わる情報も出さない。

 

 外へ見せるのは、補助表示が一つ形成できること。

 ステラ本人は一体であること。

 譲渡も複製もできないこと。

 

 それで十分ですの。

 

     ◇

 

《配信タイトル》

ステラ観察日記・増えてませんわよ?

 

「おーっほっほっほ! 本日は、前回確認した形成物について――」

 

《配信コメント》

名無しの領民:増えた?

名無しの領民:子ども?

名無しの領民:分裂?

名無しの領民:家族増えた?

名無しの領民:星が増殖する回?

 

「先に結論を言わせてくださいませ。増えておりませんわ!」

 

 予想通り、コメント欄が一段速くなった。

 

名無しの領民:いや増えてる

名無しの攻略勢:画面に二体いる

名無しの領民:城主、数を数えて

名無しの領民:ステラの子?

名無しの領民:家族判定お願いします

 

「何をどう数えておりますの!?」

 

 白亜城の大広間。

 

 ステラはいつもの低い手すりに座っている。

 

 その頭上に、さきほど内部監査で確認した星形の光が一つ。

 

 公開側へ出している表示は簡単だ。

 

《補助表示:子星》

《本体登録数:1》

 

「こちらは《子星》ですの」

 

 星形に見えるから、そう呼んでいる。

 生命分類ではなく、形状表示としての呼称ですわ。

 

 本人の名前を増やしたわけではない。

 

「ステラ本人は一体でございますわ」

 

《配信コメント》

名無しの領民:子星って名前ついてるじゃん

名無しの領民:一体+一個?

名無しの統計勢:本体登録数1

名無しの領民:統計勢きた

名無しの領民:ペットのペットでは?

 

「補助表示ですわ!」

 

 内部の区分まで公開する必要はない。

 

 けれど、別の生命が増えたという誤解だけは訂正しておく。

 

 ステラが顔を上げる。

 

 子星が半歩ぶん右へ動いた。

 

 それを見たコメント欄が、当然のように燃える。

 

名無しの領民:動いた

名無しの領民:やっぱ生きてるじゃん

名無しの領民:ついてくる!

名無しの攻略勢:独立操作?

名無しの領民:一匹ほしい

 

「譲渡も複製もできません」

 

名無しの領民:即答

名無しの領民:一匹ほしいって言っただけなのに

名無しの領民:星座作ろう

名無しの領民:七つ集めたら何か起きそう

 

「一つですわ!」

 

 子星はステラの頭上から少し離れ、配信窓の横まで移る。

 

 自分だけで好き勝手に遠くへ行っているわけではない。

 

 ステラが手すりの上を左へ歩くと、少し遅れて位置を変える。

 

 ステラが止まれば、子星も止まった。

 

 コメント欄には、もう「増えた」の文字が増えている。

 

「文字だけ増やしても事実は増えませんのよ!」

 

名無しの領民:名言っぽい

名無しの領民:でも星は増えた

名無しの統計勢:本人1 補助表示1

名無しの領民:統計勢が完全に城主側

名無しの領民:分裂じゃないなら遺伝?

 

「遺伝でもございませんわ」

 

 言った直後、ステラの耳が動いた。

 

 こちらを見る。

 

 わたくしは何も促さない。

 

 子星がその頭上へ戻る。

 

 そこまでは、いつもの範囲だった。

 

     ◇

 

 配信の終盤。

 

 次回予定を出す前に、コメント欄がまた妙な方向へ流れ始めた。

 

名無しの領民:子星に高笑い教えよう

名無しの領民:おーっほっほ端末

名無しの領民:高笑い二世

名無しの領民:ステラ本人より先に喋ったりして

 

「なぜ皆様そこだけ諦めませんの!?」

 

 反射で声量が上がる。

 

 ステラの耳がぴくりと動いた。

 

 わたくしはすぐに音量を落とした。

 

 EP058で大声のあとに距離を取ったことは覚えている。

 

 いまは離れない。

 

 それだけ確認して、続けようとした時だった。

 

「きゅ……ぅ」

 

 短い息。

 

 高い鳴き声の終わりに、ごく小さな電子音の揺れが重なる。

 

 上へ持ち上がるような音。

 

 一瞬だけ、わたくしの高笑いの終わり方に似て聞こえた。

 

 似ていることと、真似たことは同じではありませんの。

 

《配信コメント》

名無しの領民:今のなに

名無しの領民:笑った?

名無しの領民:高笑いした!?

名無しの領民:二世!!!

名無しの領民:遺伝した!

 

「増えておりませんし、遺伝でもございませんわ!」

 

 ステラは翼を一度だけ開いた。

 

 今度は音を出さない。

 

 わたくしも、もう一度やってみせたりはしない。

 

 同じ音を要求しない。

 できたことへの報酬も出さない。

 《ですわ》を教えることもしない。

 

 いま確認できたのは、鳴き声の末尾がわたくしの音の上がり方に少し似ていたことだけ。

 

 言葉ではありませんの。

 

 けれどコメント欄は当然、止まらない。

 

名無しの領民:高笑いの才能ある

名無しの領民:教育の成果

名無しの攻略勢:まだ音の模倣では?

名無しの領民:初手高笑いは英才教育

名無しの領民:城主が何もしてなくても勝手に学んでる

 

「最後の一行だけ余計ですわ!」

 

 配信の空気が、いつもの調子へ戻っていく。

 

 世界レイドでも、生命認定でもない。

 

 白亜城で、ステラと子星を見ながら、領民が勝手なことを言い、わたくしが訂正する。

 

 その日常へ戻れたことの方が、いまは大きかった。

 

     ◇

 

 次回予定を開く。

 

《次回》

《2281年9月3日》

《第1001防衛戦》

 

 コメント欄が一瞬止まり、すぐに流れ直す。

 

名無しの攻略勢:1001!

名無しの領民:通常戦戻るのか

名無しの領民:また世界レイド?

名無しの攻略勢:レギナ使う?

 

「世界レイドではございません。通常防衛ですわ」

 

 千回目は終わった。

 

 《千の残響》も終わった。

 

 けれど、わたくしの防衛まで終わったわけではない。

 

 第千一回。

 

 改めて、いつもの戦場へ戻る。

 

「では、9月3日にお会いいたしましょう。ごきげんよう!」

 

 終了操作へ触れる前に、ステラを見る。

 

 手すりの上で、白い幼竜がこちらを見返している。

 

 その頭上を、子星が一度だけ回った。

 

 五つの先端がほどける。

 

 白い光粒へ戻り、翼膜へ吸い込まれていく。

 

《再吸収:成功》

 

 手すりの上には、ステラだけが残った。

 

 本人は一体。

 

 補助表示は、一つだけ。

 

 言葉は、まだない。

 

 増えたように見えるものがあっても、それが何なのかを決めるのは見た目ではありませんの。

 

 わたくしは配信終了へ触れる。

 

《配信終了》

 

 ですから。

 

 増えておりませんわ。

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