『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~ 作:tuna&mayo
2281年9月3日。
白亜城の通常レイド戦場を見渡すと、六つの城門の外に五人ずつ、きっちり三十人が散っていた。
北、北東、南東、南、南西、北西。
世界レイドの時の六固定点ではない。
今日は、城を落とすための配置ですの。
《通算防衛数:1000》
《次回戦闘:第1001防衛戦》
《挑戦者登録:ライカ隊/30名》
ライカ隊としては、これが三十七回目の城攻め。
最大八時間の通常レイド。短期決着を前提にした戦場ではない。
《共闘戦域》は開かない。
わたくしが城主。
ライカたちが攻略者。
今日は、味方判定ではない。
ステラは戦場の外、安全席にいる。観戦は許可する。ただし、戦闘への関与は認めない。助言も、応援による補助も、勝敗へ関わる役割も持たせない。
そこまで確認してから、三十人へ向き直る。
「おーっほっほっほ! ようこそ、挑戦者の皆様!」
声が白亜城の外壁へ返る。
「白亜城主アストが、第千一回の防衛戦をお受けいたしますわ!」
《配信コメント》
名無しの領民:戻ってきた
名無しの領民:これだよこれ
名無しの攻略勢:ライカ隊また敵側だ
名無しの領民:通常営業!
名無しの領民:三十人いると安心するのおかしいだろ
安心。
その言葉に少しだけ笑いそうになる。
それは、勝てるという意味ではない。
少し前まで、この三十人と同じ方向を向いていた。
今日は全員、わたくしを倒しに来ていますのに。
◇
《第1形態》
《HP 100%》
《経過 00:00:00》
開始と同時に、北門の大盾二枚が前へ出た。
ガルムではない。
別班の二人が盾を並べ、その背後から長柄が二本、わたくしの右前脚へ斜めに差し込まれる。
受け止める形ではない。
踏み込んだ先で、進む向きをずらす角度ですの。
その違いを見たまま、わたくしは前へ出る。
重量のある第1形態で正面を押し切れば、盾二枚だけなら崩せる。
接触する。
盾列が半歩だけ下がった。
押し負けたのではない。
下がった分だけ、左右が開く。
そこを二班が走った。
右へ尾を払う。
右班は止まらない。散りながら一人だけ外周へ残し、その一人が設置具を落とした。
いまのわたくしへ当てる場所ではない。
次に右へ身体を向けた時、前脚が入る場所ですの。
「以前より、わたくしへの理解が深くなっておりますわね」
『誰のせいだと思ってる』
通信越しのライカは短い。
「攻略者の皆様の努力ですの」
『半分はお前だ』
「残り半分は?」
『あたしたちの努力』
「では全部、攻略者側の成果ではございませんの!」
返しながら左へ踏み込む。
そちらにも、もう一本。
わたくしが避けてから追うのではない。
避ける先へ先に置く。
世界レイドで、同じ盤面を見たから。
わたくしが広い身体をどう通すか。
何を守る時、どちらへ重さを逃がすか。
隣から見ていたものを、今日は敵として使っている。
嫌ですわね。
非常に正しい。
◇
《第1形態》
《HP 47%》
《経過 00:58:21》
少なくとも戦場では、第4形態を急ぐ様子は一度もなかった。
レギナを知っている。
世界レイドで見た。
だからといって、第1形態を作業のように飛ばそうとはしない。
外殻を厚くした場所へ攻撃を重ねず、薄くなった側へ人を送る。わたくしが受けるために身体を向ければ、別班がその向きの外側を取る。
キリオの矢も、撃てるから撃つ、ではなくなっている。
照準が合っている。
それでも来ない。
「撃ちませんの?」
『まだっす』
返事の直後、わたくしは右前脚へ来た拘束を避ける。
そこではじめて、矢が飛んだ。
避けた先。
肩の外殻へ一本。
「まあ」
『今は撃てたっす』
以前なら、正面で見えた瞬間に撃つこともあった。
今は、わたくしが動いた後の場所を使う。
誰が教えたのかと聞けば、また半分はわたくしだと言われるのでしょうね。
◇
《第1形態》
《HP 0%》
《経過 01:24:00》
最後の外殻が崩れる。
八十四分。
正規の第1形態攻略。
わたくしは消えかけた重い身体の中から、城門の外へ残る三十人を見る。
無理に削り切った顔ではない。
次へ行く配置ですの。
「実に結構ですわ!」
第1形態を失ったことより、その方が嬉しかった。
勝つために、知っているものを全部使う。
共闘したからといって遠慮しない。
それでこそ、通常戦へ戻った意味がありますの。
《第2形態》
身体の幅が落ちる。
重い外殻が消え、刃を持つ身体へ重心が移る。
踏み出しが軽い。
着地と同時に北東門へ走った。
◇
第2形態なら、先ほどのように盾で進路をずらされる前に抜けられる。
そう判断して速度を上げる。
北東側の射線が開く。
キリオ班。
また、撃たない。
「まだ撃たないっす」
「聞いておりませんわ!」
右へ切る。
矢が来た。
今度は一射だけではない。
正面から逃げた先へ二本。
さらに外へ抜ければ、その位置に別班の拘束具が待っている。
速度を落とさず飛び越える。
着地先へライカ。
大型ランスの穂先は、わたくしへ真っ直ぐ向いていない。
「左」
ライカの一声で、別班が半歩詰める。
こちらの右が空く。
空いたように見えた時点で、そこはもう空きではない。
だから行かない。
左へ切り返す。
今度は何もない。
――いえ。
何も置かれていないからこそ、そこを選ばされた。
背後でガルムの盾が地面を叩く音がした。
「逃げ道を作ってから、そこへ追い込むおつもりですのね!」
「止めるより楽だ」
ガルムの返事はそれだけ。
正面から受けて耐えるのではなく、通す場所を選ぶ。
今日の相手がわたくしでも、その使い方は変わらない。
◇
《第2形態》
《HP 38%》
《経過 02:17:43》
救護側も変わっている。
セラの線は中央へ寄りすぎない。
六門の後ろに、小さな戻り道を残し、前へ出た者が崩れた時だけ拾う。
「南東、戻せます。北はそのままで大丈夫です」
柔らかい声。
ライカは説明を返さない。
「第3、南東。第5は残れ」
二人の声だけで配置が動く。
わたくしはその空いた瞬間へ踏み込む。
南東の前列を崩す。
一人。
もう一人。
けれど、追う前に戻り道が閉じた。
救護された一人と入れ替わって、別の攻略者が前へ出る。
同じ三十人でも、同じ人が同じ場所へ居続けるわけではない。
世界レイドで六固定点を持った時もそうだった。
役割が切れないように、人が入れ替わる。
あの時は、わたくしの三秒を持つためだった。
今日は、わたくしのHPを削るために使っていますのね。
同じ知識が、向きだけ変わっている。
それが、少し嬉しかった。
「もっと参りなさいませ!」
笑いが出た。
◇
《第2形態》
《HP 0%》
《経過 02:34:00》
最後の一撃は、キリオではなかった。
わたくしが射線を嫌って左へ逃げた先へ、別班の前衛が踏み込んでいた。
一撃。
第2形態の残りHPが消える。
七十分。
第1形態と合わせて、二時間三十四分。
最大八時間の、まだ三分の一手前。
それでも、三十人の配置に浮ついたところはない。
レギナがあるから、そこまで急ぐ。
ではない。
第1形態には第1形態の攻略。
第2形態には第2形態の攻略。
わたくしが四つ目を得ても、前の三つが消えたわけではない。
攻略側も、それを飛ばさない。
身体がほどける直前、ライカと視線が合った。
「第千一回。改めて、通常の敵同士ですの」
『最初からそのつもりだ』
短い。
それで十分。
《第3形態》
第4形態は、この先にある。
だからといって、いま第3形態を省略する理由にはならない。
白い翼が開く。
地面が離れる。
高度を取るほど、六つの城門と三十人の配置が一度に視界へ入った。
北西側へ盾。
中央を空けた救護線。
射線を置くキリオ班。
次の移動先を見ているライカ。
そこにいるのは、世界レイドの味方配置ではない。
攻略者ですの。
わたくしを落とすために、知っていることを使い切ろうとしている。
「実に結構ですわ!」
翼を傾ける。
北西へ降下する。
大盾が一枚、着地点へ斜めに構えられた。
正面から止める角度ではない。
また、流すつもりですのね。
笑いながら速度を上げる。
第千一回。
改めて。
本気で敵同士として戦える。わたくしたちは、戻ってきましたの。