『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

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第063話 千一の防衛ですわ

 

 

《第1001防衛》

《第4形態《レギナ》》

《HP 31%》

《再構成負荷 76》

《残り 02:00:00》

 

 安全な再構成先は二つ。

 

 レギナには選択肢がある。

 だから三十人は、その選択肢そのものを攻略してくる。

 

 わたくしは表示を一度見て、右腕を変えなかった。左翼も、尾も、脚部もそのまま、現在構成を維持する。

 

「変わらないことも、第4形態の選択です」

 

『そのまま削る』

 

 ライカの返答は早い。

 

 当然ですの。

 

 変えなければ隙は増えない。

 

 第5班が右外周へ回り、第6班は左後方へ。遠くではキリオの射線が残り、正面からライカ班が詰めてくる。

 

 右腕を射撃へ変えれば正面を散らせる。左翼を推進へ戻せば外周へ抜けられる。

 

 それでも、変えない。

 

 前腕、肩、脇腹へ被弾し、HPは落ちる。

 

 けれど、負荷も下がる。

 

《再構成負荷 68》

 

 感覚更新の遅れが薄くなる。

 

 もう一撃。

 

《再構成負荷 61》

 

 変更時間にかかっていた重さも抜けていく。

 

 攻撃を受けながら、選び直すための余裕を取り戻す。

 

 強い形へ変えるのではない。

 

 次に変えられる状態へ戻す。

 

「そのまま行くぞ!」

 

 ライカの声で、左右が同時に詰まった。

 

 左防壁で一人を受け、右腕の刃で正面を払う。

 

 後ろへは下がらない。

 

 下がった先が空いているように見えても、第5班がもう位置を変え始めている。

 

 この三十人を相手に、空いた場所は長く空いたままでは残らない。

 

 それでも、変えない。

 

《HP 26%》

 

 右肩の外殻が剥がれる。

 

 感覚更新はもう通常へ戻っている。

 

 負荷70超で増えていた再構成時間も消えた。

 

 いまなら変えられる。

 

 だからこそ、まだ変えない。

 

「……徹底しますのね」

 

『お前が変えるまでな』

 

「では、しばらくお待ちくださいませ!」

 

     ◇

 

《残り 01:15:12》

 

 安全な再構成先が、一つになった。

 

 右腕は刃、左は防壁。脚部固定と短翼推進、尾の迎撃、感覚器官を残している。

 

 正面から受けるには強いが、横から押されれば軽い。

 

 レギナの弱点は、まだそこにある。

 

 軽量であることを消す構成へ変えることもできる。

 

 けれど、その変更先はもう三十人に潰されている。

 

 なら、消さない。

 

 南側からライカ班と第6班が圧力をかける。

 

 北には射線。

 

 ガルムは北東寄り。

 

 大盾の下端を床へ落とした。

 

「《グラウンド・アンカー》!」

 

 短い境界が、盾の左右へ立つ。

 

 わたくしを止めるためではない。尾撃で攻略者が射線外へ弾かれるのを、一度だけ防ぐためですの。

 

 わたくしは尾を振る。

 

 前列が受ける。

 

 一人の足が浮く。

 

 境界の手前で止まった。

 

「二撃目は自分で立て!」

 

 ガルムが怒鳴る。

 

 後ろからライカ班がさらに詰める。

 

 北へ。

 

 北の射線へ押し込みたい。

 

 通常なら、脚部固定を強くする。

 

 軽い身体を動かされないようにする。

 

 その選択を、わたくしはしなかった。

 

 脚部固定を解除し、短翼推進も止める。身体は軽いままにする。

 

「ガルム、参りますわ!」

 

「来い!」

 

 大盾が横から入った。

 

 避けない。

 

 受ける。

 

 衝撃が肩から腰へ抜ける。

 

 レギナの身体が浮いた。

 

 北へ飛ぶ。

 

 狙い通りの弱点ですの。

 

 だから、飛ばされないようにはしない。

 

「軽量であることは変えません。落ちる方向を選びますわ」

 

 空中で腰をひねる。

 

 北へ流れていた身体を、短翼を開かないまま回す。

 

 尾を振る。

 

 落ちる向きだけを東へずらす。

 

 北側に準備されていた射線が、視界の端を抜けていく。

 

 東の城壁が迫り、尾で受ける。石壁へぶつかった衝撃が尾から背へ走り、HPが落ちた。

 

《HP 18%》

 

 けれど止まらない。

 

 壁面を蹴る。

 

 反動で中央へ戻る。

 

 再構成は一度もしていない。軽さも消していない。

 

 弱点はそのままですの。

 

 ただ、その使い方だけを変えた。

 

 背後でライカが短く笑った。

 

『そう来るか』

 

「弱点というものは、相手へ差し出すためだけにあるのではございませんの!」

 

 第5班が封鎖を置き直し始める。

 

 さきほどまでの北向け配置が、東へ飛んだわたくしには合わない。

 

 組み直すには時間がいる。

 

 その空白で、わたくしは変えない。

 

《再構成負荷 32》

 

 負荷が落ちた。HPはまだ少ないが、選べる状態へ戻っている。

 

     ◇

 

《残り 00:24:08》

《HP 12%》

 

 城壁はかなり壊れている。

 

 北側の柱が一本、上半分を失って残っていた。

 

 攻略側も無傷ではない。

 

 主要な拘束は残り少ない。

 

 何人かは、もう何度も前へ戻せる状態ではない。

 

 それでも三十人の役割は切れない。

 

 第5班が東、北、中央の三進路を先に塞ぐ。

 

 第6班は空いた位置へ入る。

 

 戦闘不能者の固有技能を使っているわけではない。

 

 そこに必要な人数と役割だけを埋める。

 

 セラの時刻共有が飛んだ。

 

「合わせます。次、十二秒」

 

 ライカ班が正面へ出る。

 

 わたくしの左防壁を、前へ向けさせる位置。

 

 右胸部が開く。

 

 遠くでキリオが弓を構えた。

 

 狙いが分かる。

 

 右胸部。

 

 耐久核、その手前。

 

《リミット・ピアス》

 

 指定境界までを穿つ射撃。

 

 無条件に何でも抜く技ではない。

 

 けれど、いまのHPなら。

 

 正しく通れば、足りる。

 

 キリオの前へガルムが入った。

 

 大盾でこちらからの接近線を受ける。

 

 その少し前に使った短い境界が、キリオの射撃姿勢を一度だけ守る。

 

 わたくし自身を床へ縫い付けるためではない。

 

 撃つ側を、撃てる位置へ残すため。

 

 再構成すれば逃げ道は作れる。

 

 右腕を射撃へ。

 左翼を推進へ。

 

 けれど、変えた直後の0.4秒は三十人が待っている。

 

 なら、変えない。

 

「変わらないことを選べるようになったのも、第4形態ですわ」

 

 尾で床を打つ。

 

 短翼は今のまま。

 

 左足を軸に、身体を回す。

 

 右胸部とキリオの射線の間へ、壊れた柱の残りを挟む。

 

 逃げる場所はない。

 

 だから、同じ場所で位置を変える。

 

「撃つっす!」

 

 弦が解かれた。

 

 細い光が走る。ガルムの肩越しからライカ班の右側を抜け、柱の中央を通って、わたくしの右胸部へ向かう。

 

 《リミット・ピアス》は柱の表面では止まらない。石の内部を細く抜いて、そのまま右胸部へ届く。

 

 けれど――照準を合わせた時の場所に、もう胸部の中心はありませんの。

 

 尾で床を打った反動と、開いた短翼、身体の回転。その三つで、数十センチだけ位置がずれている。

 

 柱が崩れ、石片の間を光条が抜ける。右胸部の中心から外側へずれた位置で、装甲が剥がれた。

 

 衝撃で身体がさらに回る。

 

《HP 8.4%》

 

 残った。

 

 ほんの少し。

 

「……外したっす」

 

「いいえ」

 

 わたくしは右胸を確認する。

 

「あの距離で、わたくしが数十センチずらさなければならなかった。それだけで、十分に正しい攻略ですわ」

 

 再構成すれば0.4秒を取る。

 

 変わらなければ、現在構成の穴を穿つ。

 

 どちらも正しい。

 

 ただ今回は、わたくしが変わらないまま、射線の方を外した。

 

《残り 00:01:00》

 

 一分。

 

     ◇

 

 ライカ隊は最後まで攻撃を止めなかった。

 

 わたくしも逃げ切りだけには切り替えない。右腕の刃で接近を払い、左防壁で射撃を受け、尾を床へ当てて姿勢を戻す。

 

 残り三十七秒。

 

 右外周へ第6班が入る。刃の間合いでは少し遠い。

 

 一度だけ変える。

 

《局所変更 0.12秒》

《無防備 0.08秒》

 

 右腕を刃から短射撃へ。

 

 変更が終わった直後、第6班が0.4秒の待機へ踏み込んでくる。

 

 短射撃で一人を下げ、左から来た攻撃は防壁で受けた。

 

《HP 8.4%》

 

 残り十秒。

 

 ライカが正面から詰める。ガルムがその横を支え、キリオは最後まで射線を探している。

 

 誰も止まらない。

 

 わたくしも止まらない。

 

 槍先が届く直前、左へ身体を切る。

 

《00:00:00》

 

 先に、勝敗条件が確定した。

 

《防衛成功》

 

 その表示を見てから、戦闘終了処理が入る。

 

 新しい攻撃入力が閉じる。

 

 いままで動いていたものが、結果に従って処理されていく。

 

 時間そのものが止まったわけではない。

 

 八時間。

 

 HP、8.4%。

 

 白亜城は残った。

 

《第一世代ドラゴン〈白亜城主アスト〉》

《通算1001防衛》

《戦績クラス:終焉》

《個別ランク:終焉》

《特殊称号:ワールドエネミー》

 

 そこで、視線が止まった。

 

 《ワールドエネミー》は、すでに持っている。

 新しく増えたのは二つですの。

 

 戦績クラス《終焉》。

 

 個別ランク《終焉》。

 

 戦績評価は、ここで終わる。

 これより上のクラスもランクも、設計されていない。

 

 わたくしは傷だらけのレギナのまま、残った三十人を見る。

 

 少し前には、同じ側で世界を守った。

 

 今日は、八時間かけてわたくしの城を落としに来た。

 

 そして。

 

「千一の防衛ですわ」

 

《配信コメント》

名無しの領民:1001!

名無しの領民:終焉!!

名無しの攻略勢:8.4%……

名無しの領民:日常が戻った

名無しの領民:これが日常なの怖い

名無しの攻略勢:ライカ隊惜しすぎる

 

 敗北処理が終わる。

 

 ライカが槍を下ろした。

 

「第38回を予約する」

 

「配信コメントでは予約成立いたしません」

 

「出す」

 

「正式申請をお待ちしておりますわ」

 

《配信コメント》

名無しの領民:もう次w

名無しの攻略勢:反省会より先に予約

名無しの領民:日常だ

名無しの領民:完全に戻ってきた

 

 安全席の方から、

 

「きゅ」

 

 短い声がした。

 

 言葉ではない。

 

 応援だったとも決めない。

 

 ただ、戦闘が終わったあとに、ステラが一度鳴いた。

 

 それだけですの。

 

 世界を一緒に守った相手は、もう一度わたくしの城を落としに来た。

 

 そして負けた直後に、次を予約しましたの。

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