『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~ 作:tuna&mayo
《第1001防衛》
《第4形態《レギナ》》
《HP 31%》
《再構成負荷 76》
《残り 02:00:00》
安全な再構成先は二つ。
レギナには選択肢がある。
だから三十人は、その選択肢そのものを攻略してくる。
わたくしは表示を一度見て、右腕を変えなかった。左翼も、尾も、脚部もそのまま、現在構成を維持する。
「変わらないことも、第4形態の選択です」
『そのまま削る』
ライカの返答は早い。
当然ですの。
変えなければ隙は増えない。
第5班が右外周へ回り、第6班は左後方へ。遠くではキリオの射線が残り、正面からライカ班が詰めてくる。
右腕を射撃へ変えれば正面を散らせる。左翼を推進へ戻せば外周へ抜けられる。
それでも、変えない。
前腕、肩、脇腹へ被弾し、HPは落ちる。
けれど、負荷も下がる。
《再構成負荷 68》
感覚更新の遅れが薄くなる。
もう一撃。
《再構成負荷 61》
変更時間にかかっていた重さも抜けていく。
攻撃を受けながら、選び直すための余裕を取り戻す。
強い形へ変えるのではない。
次に変えられる状態へ戻す。
「そのまま行くぞ!」
ライカの声で、左右が同時に詰まった。
左防壁で一人を受け、右腕の刃で正面を払う。
後ろへは下がらない。
下がった先が空いているように見えても、第5班がもう位置を変え始めている。
この三十人を相手に、空いた場所は長く空いたままでは残らない。
それでも、変えない。
《HP 26%》
右肩の外殻が剥がれる。
感覚更新はもう通常へ戻っている。
負荷70超で増えていた再構成時間も消えた。
いまなら変えられる。
だからこそ、まだ変えない。
「……徹底しますのね」
『お前が変えるまでな』
「では、しばらくお待ちくださいませ!」
◇
《残り 01:15:12》
安全な再構成先が、一つになった。
右腕は刃、左は防壁。脚部固定と短翼推進、尾の迎撃、感覚器官を残している。
正面から受けるには強いが、横から押されれば軽い。
レギナの弱点は、まだそこにある。
軽量であることを消す構成へ変えることもできる。
けれど、その変更先はもう三十人に潰されている。
なら、消さない。
南側からライカ班と第6班が圧力をかける。
北には射線。
ガルムは北東寄り。
大盾の下端を床へ落とした。
「《グラウンド・アンカー》!」
短い境界が、盾の左右へ立つ。
わたくしを止めるためではない。尾撃で攻略者が射線外へ弾かれるのを、一度だけ防ぐためですの。
わたくしは尾を振る。
前列が受ける。
一人の足が浮く。
境界の手前で止まった。
「二撃目は自分で立て!」
ガルムが怒鳴る。
後ろからライカ班がさらに詰める。
北へ。
北の射線へ押し込みたい。
通常なら、脚部固定を強くする。
軽い身体を動かされないようにする。
その選択を、わたくしはしなかった。
脚部固定を解除し、短翼推進も止める。身体は軽いままにする。
「ガルム、参りますわ!」
「来い!」
大盾が横から入った。
避けない。
受ける。
衝撃が肩から腰へ抜ける。
レギナの身体が浮いた。
北へ飛ぶ。
狙い通りの弱点ですの。
だから、飛ばされないようにはしない。
「軽量であることは変えません。落ちる方向を選びますわ」
空中で腰をひねる。
北へ流れていた身体を、短翼を開かないまま回す。
尾を振る。
落ちる向きだけを東へずらす。
北側に準備されていた射線が、視界の端を抜けていく。
東の城壁が迫り、尾で受ける。石壁へぶつかった衝撃が尾から背へ走り、HPが落ちた。
《HP 18%》
けれど止まらない。
壁面を蹴る。
反動で中央へ戻る。
再構成は一度もしていない。軽さも消していない。
弱点はそのままですの。
ただ、その使い方だけを変えた。
背後でライカが短く笑った。
『そう来るか』
「弱点というものは、相手へ差し出すためだけにあるのではございませんの!」
第5班が封鎖を置き直し始める。
さきほどまでの北向け配置が、東へ飛んだわたくしには合わない。
組み直すには時間がいる。
その空白で、わたくしは変えない。
《再構成負荷 32》
負荷が落ちた。HPはまだ少ないが、選べる状態へ戻っている。
◇
《残り 00:24:08》
《HP 12%》
城壁はかなり壊れている。
北側の柱が一本、上半分を失って残っていた。
攻略側も無傷ではない。
主要な拘束は残り少ない。
何人かは、もう何度も前へ戻せる状態ではない。
それでも三十人の役割は切れない。
第5班が東、北、中央の三進路を先に塞ぐ。
第6班は空いた位置へ入る。
戦闘不能者の固有技能を使っているわけではない。
そこに必要な人数と役割だけを埋める。
セラの時刻共有が飛んだ。
「合わせます。次、十二秒」
ライカ班が正面へ出る。
わたくしの左防壁を、前へ向けさせる位置。
右胸部が開く。
遠くでキリオが弓を構えた。
狙いが分かる。
右胸部。
耐久核、その手前。
《リミット・ピアス》
指定境界までを穿つ射撃。
無条件に何でも抜く技ではない。
けれど、いまのHPなら。
正しく通れば、足りる。
キリオの前へガルムが入った。
大盾でこちらからの接近線を受ける。
その少し前に使った短い境界が、キリオの射撃姿勢を一度だけ守る。
わたくし自身を床へ縫い付けるためではない。
撃つ側を、撃てる位置へ残すため。
再構成すれば逃げ道は作れる。
右腕を射撃へ。
左翼を推進へ。
けれど、変えた直後の0.4秒は三十人が待っている。
なら、変えない。
「変わらないことを選べるようになったのも、第4形態ですわ」
尾で床を打つ。
短翼は今のまま。
左足を軸に、身体を回す。
右胸部とキリオの射線の間へ、壊れた柱の残りを挟む。
逃げる場所はない。
だから、同じ場所で位置を変える。
「撃つっす!」
弦が解かれた。
細い光が走る。ガルムの肩越しからライカ班の右側を抜け、柱の中央を通って、わたくしの右胸部へ向かう。
《リミット・ピアス》は柱の表面では止まらない。石の内部を細く抜いて、そのまま右胸部へ届く。
けれど――照準を合わせた時の場所に、もう胸部の中心はありませんの。
尾で床を打った反動と、開いた短翼、身体の回転。その三つで、数十センチだけ位置がずれている。
柱が崩れ、石片の間を光条が抜ける。右胸部の中心から外側へずれた位置で、装甲が剥がれた。
衝撃で身体がさらに回る。
《HP 8.4%》
残った。
ほんの少し。
「……外したっす」
「いいえ」
わたくしは右胸を確認する。
「あの距離で、わたくしが数十センチずらさなければならなかった。それだけで、十分に正しい攻略ですわ」
再構成すれば0.4秒を取る。
変わらなければ、現在構成の穴を穿つ。
どちらも正しい。
ただ今回は、わたくしが変わらないまま、射線の方を外した。
《残り 00:01:00》
一分。
◇
ライカ隊は最後まで攻撃を止めなかった。
わたくしも逃げ切りだけには切り替えない。右腕の刃で接近を払い、左防壁で射撃を受け、尾を床へ当てて姿勢を戻す。
残り三十七秒。
右外周へ第6班が入る。刃の間合いでは少し遠い。
一度だけ変える。
《局所変更 0.12秒》
《無防備 0.08秒》
右腕を刃から短射撃へ。
変更が終わった直後、第6班が0.4秒の待機へ踏み込んでくる。
短射撃で一人を下げ、左から来た攻撃は防壁で受けた。
《HP 8.4%》
残り十秒。
ライカが正面から詰める。ガルムがその横を支え、キリオは最後まで射線を探している。
誰も止まらない。
わたくしも止まらない。
槍先が届く直前、左へ身体を切る。
《00:00:00》
先に、勝敗条件が確定した。
《防衛成功》
その表示を見てから、戦闘終了処理が入る。
新しい攻撃入力が閉じる。
いままで動いていたものが、結果に従って処理されていく。
時間そのものが止まったわけではない。
八時間。
HP、8.4%。
白亜城は残った。
《第一世代ドラゴン〈白亜城主アスト〉》
《通算1001防衛》
《戦績クラス:終焉》
《個別ランク:終焉》
《特殊称号:ワールドエネミー》
そこで、視線が止まった。
《ワールドエネミー》は、すでに持っている。
新しく増えたのは二つですの。
戦績クラス《終焉》。
個別ランク《終焉》。
戦績評価は、ここで終わる。
これより上のクラスもランクも、設計されていない。
わたくしは傷だらけのレギナのまま、残った三十人を見る。
少し前には、同じ側で世界を守った。
今日は、八時間かけてわたくしの城を落としに来た。
そして。
「千一の防衛ですわ」
《配信コメント》
名無しの領民:1001!
名無しの領民:終焉!!
名無しの攻略勢:8.4%……
名無しの領民:日常が戻った
名無しの領民:これが日常なの怖い
名無しの攻略勢:ライカ隊惜しすぎる
敗北処理が終わる。
ライカが槍を下ろした。
「第38回を予約する」
「配信コメントでは予約成立いたしません」
「出す」
「正式申請をお待ちしておりますわ」
《配信コメント》
名無しの領民:もう次w
名無しの攻略勢:反省会より先に予約
名無しの領民:日常だ
名無しの領民:完全に戻ってきた
安全席の方から、
「きゅ」
短い声がした。
言葉ではない。
応援だったとも決めない。
ただ、戦闘が終わったあとに、ステラが一度鳴いた。
それだけですの。
世界を一緒に守った相手は、もう一度わたくしの城を落としに来た。
そして負けた直後に、次を予約しましたの。