『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

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第064話 中の人は一人ですわ

 

 

《配信タイトル》

《第1001防衛・反省会ですわ》

 

「おーっほっほっほ! 本日は、第1001防衛の公開反省会ですわ!」

 

 配信を開いた途端、昨日の戦場より速い勢いでコメントが流れ始めた。

 

《配信コメント》

名無しの領民:終焉城主

名無しの攻略勢:HP8.4%反省会

名無しの領民:レギナ履歴見たい

名無しの領民:右腕担当だれ

名無しの攻略勢:構成どう回してたの

名無しの領民:第38回申請もう出てる?

 

「まず最後の方。第38回の申請は届いております。現在処理中ですわ」

 

《配信コメント》

名無しの領民:早い

名無しの攻略勢:ライカ隊もう次見てる

名無しの領民:反省会より申請が先

 

「そして右腕担当とは何ですの? わたくしの身体、分業制ではございませんわ!」

 

 問い返してから、公開用の映像窓を中央へ出す。

 

 本日使うのは、第1001防衛の通常公開映像と、そこから作成した公開用再現図だけ。世界レイドの内部記録は使わず、昨日の戦闘で視聴者が実際に見たものだけを順に並べ直す。

 

 右側の手すりにはステラがいる。

 

 戦闘中と同じく、こちらの配信へ直接関わる役割は持たせていない。コメント本文も直接は見せず、流速と音量だけを安全側で落としてある。

 

 いまは手すりの上で、開いた映像窓の方を見ていた。

 

「では、昨日の切替履歴をまとめて出しますわよ」

 

 四つの表示を並べる。

 

《右腕》

《射撃→外殻→刃→射撃》

 

《左翼》

《飛行→防壁→推進》

 

《尾》

《姿勢制御→拘束→迎撃》

 

《感覚》

《敵解析→味方追跡→弱点観測》

 

 昨日の映像を低速で流す。

 

 右腕では射撃器官が沈み、外殻へ変わり、その外殻を捨てて前腕側へ刃が形成される。

 

「射撃を外せば、その間は遠距離牽制が減ります。何かを足したら、そのぶん何かを外す。レギナでは、一つを選んだ時点で次の選択肢まで変わりますの」

 

《配信コメント》

名無しの領民:右腕担当忙しすぎ

名無しの攻略勢:担当いないだろ

名無しの領民:翼担当もいる

名無しの領民:尾担当も

名無しの領民:感覚班まであるの?

 

「ですから、四つとも別の担当が存在するわけではございませんの!」

 

《配信コメント》

名無しの領民:これ中の人何人いる

名無しの攻略勢:一人で全部切替えるの無理では

名無しの領民:専用ビルド班いるだろ

名無しの領民:運営補助?

名無しの領民:最低五人説

 

 増えましたわ。

 

「中の人は一人ですわ」

 

 言った。

 

 今度こそ、コメントが一拍止まる。

 

 その間に表示を中央へ出した。

 

《戦闘操作主体:A.S.T.R.A. Sync/1》

 

「身体操作、標的選択、再構成判断。第1001防衛における戦闘操作は、すべてわたくしが行っていますの」

 

《配信コメント》

名無しの領民:地球規模AI一人

名無しの領民:答えになってるようでなってない

名無しの攻略勢:一人という人数だけは確定した

名無しの領民:中の人いるんだ

名無しの領民:管理AIは?

 

「まず、わたくしの身体に小人が詰まっている前提を捨ててくださいませ!」

 

 管理AIの公開ヘルプを開く。

 

《戦闘操作権限:なし》

《安全監視:有効》

《公開情報フィルター:有効》

《勝敗判定:有効》

 

「管理AIが担当するのは、ルール判定、安全監視、公開情報のフィルター、勝敗判定ですわ。戦闘中の身体操作も、標的選択も、再構成判断も行いません」

 

 “一人”という言葉は、管理AIやステラの存在を消すための言い方ではない。昨日、白亜城でレギナを動かし、どの部位を残し、どれを変え、誰へ向けるかを決めていた戦闘操作主体。その数が一。それだけですの。

 

《音声参加:ライカ》

 

『一人で全部変えるから、変えた直後を狙えた』

 

「接続直後に攻略情報を追加しないでくださいませ!」

 

『もう公開戦で見えてる』

 

「見えていることと、整理して言語化することは別ですわ!」

 

『アストが今やってる』

 

 反論として正確なのが腹立たしい。

 

《配信コメント》

名無しの領民:悪友の反省会

名無しの攻略勢:敵側から答え合わせ来た

名無しの領民:終焉城主の攻略講座

名無しのライカ隊推し:第38回前に言っていいの?

 

『一人で全部判断するから、切り替わる時の癖もつながる』

 

 ライカは構わず続けた。

 

『一人だから、全部つながってる』

 

「それ以上は正式申請後の攻略会議でお願いいたしますわ」

 

『申請は出した』

 

「処理中ですわ!」

 

『じゃあ待つ』

 

「最初からそうしてくださいませ!」

 

 通話の向こうで何か短く笑う音がした。

 

 コメント欄も一緒になって加速する。

 

 わたくしは中央へ《戦闘操作主体:A.S.T.R.A. Sync/1》を戻した。

 

「改めて申し上げます」

 

 余計な説が増える前に、はっきり言う。

 

「中の人は一人ですわ」

 

 右側で小さく物音がして、ステラが顔を上げた。最初に向いたのは声の方で、そこからわたくしの口元へ視線が移る。

 

 ステラはわたくしの顔を見ている。けれど、その視線が何を拾ったのかは分からない。

 

 翼が少しだけ開き、喉元の白い光が一度強くなる。息を吸うような間があった。

 

 わたくしは黙った。呼ばない。続きを促さない。同じ言葉を繰り返して聞かせもしない。ただ見る。

 

 ステラの口が小さく開いた。

 

「……です、わ」

 

 《です》と《わ》の間には、はっきり切れ目があった。音が消えたあとも、一瞬、何も返せなかった。

 

 高笑いではない。これまでの短い鳴き声とも違う。わたくしが普段使っている語尾で、少なくとも人間語の形を取っている。

 

 その事実まで確認したところで、コメント欄が戻ってきた。

 

《配信コメント》

名無しの領民:しゃべった?????

名無しのステラ推し:いまですわって言った?

名無しの領民:第一声それでいいのか

名無しの領民:高笑いより先に語尾

名無しの領民:中の人増えた

名無しの攻略勢:待て意味わかってるかは別だろ

 

「増えておりませんわ!」

 

 反射で返してから、自分の声が少し上ずったことに気づく。

 

 内部側では、いまの音声だけを保護保存する。

 

《音声模倣:確認》

《意味理解:未確定》

 

 表示を見て、息を整えた。

 

「音声模倣を確認しました。意味理解は未確定ですわ」

 

《配信コメント》

名無しの音声勢:《です》と《わ》切れてた

名無しの攻略勢:一語として理解したかは不明

名無しの領民:でも人間語ではある?

名無しの音声勢:人間語形としては確認できる

名無しの領民:もう一回言ってもらおう

名無しの領民:ご褒美出したら再現する?

 

「要求しません」

 

 そこだけはすぐに返す。

 

「同じ発声を求めませんし、発声できたことへの褒美も出しません。いま確認できた一回を、そのまま記録しますの」

 

 意味を理解して答えたのか、わたくしの語尾を模倣したのか。それとも《です》と《わ》を別々に拾って続けただけなのか。

 

 いま決められる材料はない。決められないものを、配信の勢いで答えにする必要もない。

 

 ステラはしばらくこちらを見ていたが、二度目の《ですわ》は出なかった。

 

「きゅ」

 

 いつもの短い声へ戻る。わたくしはそれを聞いても、追加の要求を出さなかった。

 

 それでいい。会話が成立したとも、意味を理解したとも、まだ言えない。

 

 ただ一つだけ。

 

 ステラが最初に出した人間語の形は。

 

「……《ですわ》でしたのね」

 

《配信コメント》

名無しの領民:語尾から始まった

名無しの領民:英才教育

名無しのステラ推し:慎重に祝う

名無しの攻略勢:意味未確定、発声は確定

名無しの領民:増えてるじゃん

 

「増えておりませんわ!」

 

 反省会のはずだった配信は、そこからしばらく反省会へ戻りませんでしたの。

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