『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~ 作:tuna&mayo
《配信タイトル》
《第1001防衛・反省会ですわ》
「おーっほっほっほ! 本日は、第1001防衛の公開反省会ですわ!」
配信を開いた途端、昨日の戦場より速い勢いでコメントが流れ始めた。
《配信コメント》
名無しの領民:終焉城主
名無しの攻略勢:HP8.4%反省会
名無しの領民:レギナ履歴見たい
名無しの領民:右腕担当だれ
名無しの攻略勢:構成どう回してたの
名無しの領民:第38回申請もう出てる?
「まず最後の方。第38回の申請は届いております。現在処理中ですわ」
《配信コメント》
名無しの領民:早い
名無しの攻略勢:ライカ隊もう次見てる
名無しの領民:反省会より申請が先
「そして右腕担当とは何ですの? わたくしの身体、分業制ではございませんわ!」
問い返してから、公開用の映像窓を中央へ出す。
本日使うのは、第1001防衛の通常公開映像と、そこから作成した公開用再現図だけ。世界レイドの内部記録は使わず、昨日の戦闘で視聴者が実際に見たものだけを順に並べ直す。
右側の手すりにはステラがいる。
戦闘中と同じく、こちらの配信へ直接関わる役割は持たせていない。コメント本文も直接は見せず、流速と音量だけを安全側で落としてある。
いまは手すりの上で、開いた映像窓の方を見ていた。
「では、昨日の切替履歴をまとめて出しますわよ」
四つの表示を並べる。
《右腕》
《射撃→外殻→刃→射撃》
《左翼》
《飛行→防壁→推進》
《尾》
《姿勢制御→拘束→迎撃》
《感覚》
《敵解析→味方追跡→弱点観測》
昨日の映像を低速で流す。
右腕では射撃器官が沈み、外殻へ変わり、その外殻を捨てて前腕側へ刃が形成される。
「射撃を外せば、その間は遠距離牽制が減ります。何かを足したら、そのぶん何かを外す。レギナでは、一つを選んだ時点で次の選択肢まで変わりますの」
《配信コメント》
名無しの領民:右腕担当忙しすぎ
名無しの攻略勢:担当いないだろ
名無しの領民:翼担当もいる
名無しの領民:尾担当も
名無しの領民:感覚班まであるの?
「ですから、四つとも別の担当が存在するわけではございませんの!」
《配信コメント》
名無しの領民:これ中の人何人いる
名無しの攻略勢:一人で全部切替えるの無理では
名無しの領民:専用ビルド班いるだろ
名無しの領民:運営補助?
名無しの領民:最低五人説
増えましたわ。
「中の人は一人ですわ」
言った。
今度こそ、コメントが一拍止まる。
その間に表示を中央へ出した。
《戦闘操作主体:A.S.T.R.A. Sync/1》
「身体操作、標的選択、再構成判断。第1001防衛における戦闘操作は、すべてわたくしが行っていますの」
《配信コメント》
名無しの領民:地球規模AI一人
名無しの領民:答えになってるようでなってない
名無しの攻略勢:一人という人数だけは確定した
名無しの領民:中の人いるんだ
名無しの領民:管理AIは?
「まず、わたくしの身体に小人が詰まっている前提を捨ててくださいませ!」
管理AIの公開ヘルプを開く。
《戦闘操作権限:なし》
《安全監視:有効》
《公開情報フィルター:有効》
《勝敗判定:有効》
「管理AIが担当するのは、ルール判定、安全監視、公開情報のフィルター、勝敗判定ですわ。戦闘中の身体操作も、標的選択も、再構成判断も行いません」
“一人”という言葉は、管理AIやステラの存在を消すための言い方ではない。昨日、白亜城でレギナを動かし、どの部位を残し、どれを変え、誰へ向けるかを決めていた戦闘操作主体。その数が一。それだけですの。
《音声参加:ライカ》
『一人で全部変えるから、変えた直後を狙えた』
「接続直後に攻略情報を追加しないでくださいませ!」
『もう公開戦で見えてる』
「見えていることと、整理して言語化することは別ですわ!」
『アストが今やってる』
反論として正確なのが腹立たしい。
《配信コメント》
名無しの領民:悪友の反省会
名無しの攻略勢:敵側から答え合わせ来た
名無しの領民:終焉城主の攻略講座
名無しのライカ隊推し:第38回前に言っていいの?
『一人で全部判断するから、切り替わる時の癖もつながる』
ライカは構わず続けた。
『一人だから、全部つながってる』
「それ以上は正式申請後の攻略会議でお願いいたしますわ」
『申請は出した』
「処理中ですわ!」
『じゃあ待つ』
「最初からそうしてくださいませ!」
通話の向こうで何か短く笑う音がした。
コメント欄も一緒になって加速する。
わたくしは中央へ《戦闘操作主体:A.S.T.R.A. Sync/1》を戻した。
「改めて申し上げます」
余計な説が増える前に、はっきり言う。
「中の人は一人ですわ」
右側で小さく物音がして、ステラが顔を上げた。最初に向いたのは声の方で、そこからわたくしの口元へ視線が移る。
ステラはわたくしの顔を見ている。けれど、その視線が何を拾ったのかは分からない。
翼が少しだけ開き、喉元の白い光が一度強くなる。息を吸うような間があった。
わたくしは黙った。呼ばない。続きを促さない。同じ言葉を繰り返して聞かせもしない。ただ見る。
ステラの口が小さく開いた。
「……です、わ」
《です》と《わ》の間には、はっきり切れ目があった。音が消えたあとも、一瞬、何も返せなかった。
高笑いではない。これまでの短い鳴き声とも違う。わたくしが普段使っている語尾で、少なくとも人間語の形を取っている。
その事実まで確認したところで、コメント欄が戻ってきた。
《配信コメント》
名無しの領民:しゃべった?????
名無しのステラ推し:いまですわって言った?
名無しの領民:第一声それでいいのか
名無しの領民:高笑いより先に語尾
名無しの領民:中の人増えた
名無しの攻略勢:待て意味わかってるかは別だろ
「増えておりませんわ!」
反射で返してから、自分の声が少し上ずったことに気づく。
内部側では、いまの音声だけを保護保存する。
《音声模倣:確認》
《意味理解:未確定》
表示を見て、息を整えた。
「音声模倣を確認しました。意味理解は未確定ですわ」
《配信コメント》
名無しの音声勢:《です》と《わ》切れてた
名無しの攻略勢:一語として理解したかは不明
名無しの領民:でも人間語ではある?
名無しの音声勢:人間語形としては確認できる
名無しの領民:もう一回言ってもらおう
名無しの領民:ご褒美出したら再現する?
「要求しません」
そこだけはすぐに返す。
「同じ発声を求めませんし、発声できたことへの褒美も出しません。いま確認できた一回を、そのまま記録しますの」
意味を理解して答えたのか、わたくしの語尾を模倣したのか。それとも《です》と《わ》を別々に拾って続けただけなのか。
いま決められる材料はない。決められないものを、配信の勢いで答えにする必要もない。
ステラはしばらくこちらを見ていたが、二度目の《ですわ》は出なかった。
「きゅ」
いつもの短い声へ戻る。わたくしはそれを聞いても、追加の要求を出さなかった。
それでいい。会話が成立したとも、意味を理解したとも、まだ言えない。
ただ一つだけ。
ステラが最初に出した人間語の形は。
「……《ですわ》でしたのね」
《配信コメント》
名無しの領民:語尾から始まった
名無しの領民:英才教育
名無しのステラ推し:慎重に祝う
名無しの攻略勢:意味未確定、発声は確定
名無しの領民:増えてるじゃん
「増えておりませんわ!」
反省会のはずだった配信は、そこからしばらく反省会へ戻りませんでしたの。