『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

7 / 9
第007話 ライカ隊との城攻め反省会、三十六回目ですわ

第007話 ライカ隊との城攻め反省会、三十六回目ですわ

 

《配信コメント》

名無しの領民:反省会

名無しの領民:翼の話から逃げるな

名無しの領民:今日は誰が怒られる?

名無しの領民:勝った城主が一番楽しそう

 

「おーっほっほっほ! 第36回城攻め反省会を始めますわ!」

 

『勝った側が楽しそうに始めるな』

 

「反省と勝敗は別問題ですの」

 

 右へ置いたライカの通話窓から、呆れた声が返ってくる。

 

 今日扱うのは、公開許可を得た個人視点と、戦闘後にまとめた《戦後統合映像》。まずは、全部見える方からですの。

 

「まず、十五秒だけですわよ」

 

『その言い方、前も聞いたな』

 

 何をおっしゃいますの。今回は本当に反省会ですわ。

 

 再生する。

 

 《戦後統合映像》の中で、竜のわたくしが西へ旋回する。左翼は下がっているが、まだ飛べる。ただし、飛べる場所はもう広くない。

 

 地上の攻略者たちは現在のわたくしを追っていない。左へ切る先、上へ抜ける先、高度を落とす先へ先回りするように散り、一人なら避けられる場所を、次の一人が塞いでいく。

 

 そしてキリオは、射線があるのに撃たない。

 

 わたくしが残った広い空間を選ぶまで待ち、左へ切った、その瞬間に矢を放つ。左翼の機能が落ち、飛行姿勢が崩れたところで映像を止めた。

 

《配信コメント》

名無しの領民:やっぱ全部見えてると分かりやすい

名無しの領民:これ見ながらなら勝てそう

名無しの領民:ライカ全部見えてたの?

 

「いいえ」

 

 そこですの。

 

 全体なら、誰が塞ぎ、誰が待ち、最後に誰が射ったかまで一本に繋がる。

 

 けれど戦闘中、この一枚を見ていた人間はいない。

 

 わたくしは統合映像を引っ込め、同じ時間の代表視点を四つ並べた。

 

「この全体映像は、戦闘中の攻略者へ届いておりませんの」

 

 ライカの視点では、前で受けるガルムの背と、動くわたくしの尾は見える。けれど、そこから外れ、救護へ回るセラの動線全体までは入らない。

 

 ガルムの視点には、迫るわたくしの胸部が大きく入る。その代わり、離れたキリオがどこまで弓を引き、どの瞬間を待っているかは分からない。

 

 セラが見ているのは、味方の損耗と戻すための経路だ。キリオには射線がある。けれど、盾がどこまで持つか、救護側にどれだけ余力があるかまでは見えない。

 

『戦ってる最中に見えてたのは、それぞれこんなもんだ』

 

 四つの窓を見比べる。

 

 同じ十五秒なのに、統合映像で見たときの「次にここへ置けばよい」が、そのままではどの窓にも存在していない。

 

「わたくし側では、皆様の位置や公開されている戦闘状態、攻撃の発生をもっと広く取得できますわ」

 

『お前はな』

 

「もちろん私的通信や非公開表示まで読んでいるわけではございませんの」

 

 そこは混同していただきたくありません。

 

 《戦後統合映像》を閉じる。

 

 何度も見返した十五秒なのに、視点を分けた途端、同じ盤面が別の形になった。

 

 戦後なら「あの動きは正しい」と言える。けれど、その本人には、隣の正解を支えた材料までは見えていない。

 

「でしたら、全員へ最適な行動候補を個別に提示すればよろしいのでは?」

 

 見えているわたくしが、一人ずつへ足りない答えを渡せばよい。それなら埋められるはずですわ。

 

『三十個の正解は、一つの隊にはならない』

 

「なぜですの?」

 

 返事と同時に、ライカが統合図へ三本の線を引いた。

 

『例えば、ガルムは中央で受ける。セラは西へ救護線を通す。キリオは東へ射線を取る。全部単独なら正しい』

 

 三本とも、わたくしから見てもおかしくない。互いに予定通り動くなら、中央を受ける盾と、西へ抜ける救護線と、東から通す射線は同時に成立する。

 

『ガルムが半歩遅れたら?』

 

 中央の線がずれ、西へ食い込む。

 

 それだけで、先ほどまで成立していた三つの正解の関係が変わった。

 

『セラの道が潰れる。キリオの射線も切れる』

 

「でしたら修正版を送れば――」

 

『誰に先に?』

 

 言葉が止まる。

 

 ガルムを動かす。セラを止める。キリオへ射線消失を知らせる。

 

 わたくしには三つとも見える。だから三つとも直せる、と考えた。

 

 けれど動く側は三十人。変更理由を、同時に、同じ範囲まで知っているわけではない。

 

『ガルムが止まった時、代わりに受けるのは誰だ。セラが通れなきゃ、どこで中止する。キリオは何を見て撃つのをやめる』

 

 ライカが並べたのは、新しい最適解ではなかった。

 

 誰か一人が崩れた時、残りが何を見て、どこまで続け、どこで止めるか。その判断を繋ぐための問いだった。

 

 通話へ、ガルムの声が割り込んだ。

 

『俺ァ、自分の盾が持つかは分かる。後ろの救護が全部どうなってるかまでは見えねえ』

 

 続いてセラの穏やかな声。

 

『私は戻す道を見ています。キリオさんの一射が通るかまでは、毎回見られません』

 

『今撃てるかなら分かるっすよ』

 

 キリオだ。

 

『だから撃つ前に止められることあるっすけど』

 

『止めてるのがあたしだ』

 

 ライカが短く返す。

 

《配信コメント》

名無しの領民:役割違うな

名無しの領民:全員が全部見ればいいのでは

名無しの領民:30画面見るの?

名無しの領民:無理です

 

「わたくしは全員を見られますわ」

 

『だから全員が互いを見られないことを忘れる』

 

 反論を組み立てかけて、やめた。

 

 少々、腹立たしい。

 

 見落としていたのは情報ではない。

 

 足りない人間同士が、それでも次へ繋がる手順だ。

 

 ライカは全員を同じ形で見ずに、ガルムが何を見て、セラがどこで切り、キリオが何を待つかを繋いでいる。

 

 正しいから、なおさら腹立たしいですわね。

 

「では検証いたしましょう」

 

『嫌な予感がする』

 

「初心者で確認しますわ。既存の連携や経験則に頼らず、わたくしの指示を基準に動いていただきますの。三十人では確認項目が多すぎますから、六人程度なら個別最適が本当に衝突するか追えますわ」

 

 理屈のまま終えるつもりはない。

 

『安全条件』

 

「訓練巨兵。八分。目標は撃破ではなく全員生存。正式戦績には含めませんの」

 

『失敗判定は?』

 

「一人でも戦闘不能になると判定された時点で、安全処理が戦闘を終了しますわ」

 

 ライカが少し黙った。

 

 条件は揃った。

 

 確かめるのは初心者の強さではない。三十人へ三十個の正解を渡そうとした、わたくしの指示体系ですの。

 

『で、最初はどうする』

 

「六人へ最適な指示を用意いたしますわ」

 

『そこから間違ってる気がするんだよな』

 

 また、腹立たしい声が返ってきた。

 

 ですが結構。

 

 そこから間違っているかどうかまで、次は実際に見ればよろしいのですわ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。