PERSONA × MY-TH UNFATHOMABLE VOYAGE ―沖縄怪異航路― 作:ボルメテウスさん
ダットが跳んだ。
橙色の軌跡が夜を裂き、俺の頭上を越えていく。だが其の軌道は俺ではない。ホヌスの背後へ回り込む動きだ。
「マリナ!」
俺は叫んだ。だがダットは速い。ホヌスが振り返るより先に、其の背後へ着地する。
「あたしは此方だよ」
ダットのラビットソードがホヌスの肩装甲を掠めた。火花が散る。ホヌスは水流を纏って横へ滑り、ジャオの追撃から逃れる。だが其の動きで陣形が崩れた。ジャオの正面に俺が立つ形になる。
「交代か」
ジャオの赤い複眼が俺を捉えた。其の手に、巨大な鎌が握られている。ワインレッドの装甲に映える黒い刃。コブラを模した頭部が微かに揺れ、其の口元から低い唸りが漏れる。
「裏切り者の力、此処で貰い受ける」
ジャオが一歩踏み出した。其の一歩でコンクリートが割れる。重い。質量が違う。ダットの速度とは別種の脅威だ。
鎌が振り下ろされた。
上からだ。真っ直ぐに。速い。だが軌道は読みやすい。俺はマイスエッジをスライサーモードへ切り替え、其の刃を盾のように構えた。
金属同士が噛み合う。衝撃が腕へ走る。重い。タートルフレームの盾でも受け止めきれないほどの質量が、マイスエッジを通じて肩へ伝わる。踵がコンクリートを削り、半歩下がる。
「硬いな」
ジャオが短く言った。其の声には感嘆も侮蔑もない。ただ事実として。
鎌が引かれる。次が来る。俺は盾を構え直した。だがジャオの動きは鎌だけではなかった。
其の尻尾が低く振られた。
ワインレッドの装甲に覆われた長い尾。其れが地面を這うように薙ぎ払われる。狙いは足元だ。俺は咄嗟に跳んだ。だが遅い。マイスエッジを構えた姿勢からでは、上への回避が間に合わない。尻尾が足首を掠める。体勢が崩れる。膝が落ちる。
「──っ」
其の一瞬をジャオは逃さなかった。
鎌が又迫る。今度は横薙ぎだ。俺は転がるように後退する。刃が空を切る。だが其の風圧だけで頬を打つ。強い。鎌を追うだけで精一杯だ。
「ネズミ君、尻尾!」
九衣の声が響く。俺は其の声に反応して下を見た。ジャオの尻尾が又動いている。低い。地面を這う軌道だ。上への攻撃を避けながら、下から足を狙う。二段構え。
(鎌を防ぐ。尻尾が来る。回避で姿勢が崩れる。そして接近される)
ジャオの動きが読めた。パターンだ。鎌で上を制圧し、尻尾で下を制圧する。俺が其のどちらかに対応すれば、もう一方が迫る。其の連携で俺を後退させ、壁際へ追い詰めようとしている。
鎌が又来る。俺は其れをマイスエッジで受け流し、同時に足元を見た。尻尾が来る。跳ぶ。今度は早かった。尻尾を避け、着地と同時にマイスエッジをシューターモードへ切り替えて撃つ。
エネルギー弾がジャオの胸装甲へ直撃した。火花が散る。だがジャオはひるまない。其の身体がしなる。ワインレッドの装甲が撓み、弾の衝撃を流すように受け流す。コブラのしなりだ。硬質な装甲ではなく、柔軟な動きで衝撃を殺している。
「効かない」
ジャオが短く言った。其の声には苛立ちがない。ただ事実として。
(硬いんじゃない。しなるんだ。タートルフレームの受け流しに近い。だがもっと獣的だ)
ジャオが踏み込んだ。足音を抑えて。速くはない。だが静かだ。気配が薄い。俺は鼠の尾で其の接近を感知したが、ジャオは其れを予測していたかのように、尾を地面へ打ちつけて振動を起こす。俺の感知が一瞬乱れる。其の一瞬で距離を詰められた。
鎌の連撃が始まった。
上段、中段、下段。連続する軌道が俺を囲む。マイスエッジで受け流しながら後退する。一撃、二撃、三撃。腕が痺れる。四撃目で体勢が崩れた。
(鎌だけを見ちゃいけない。尻尾だ。足だ。踏み込みだ。全部を見る)
俺は視界を広げた。マイスエッジを構えるのをやめ、半身の構えでジャオ全体を見る。鎌の軌道、尻尾の動き踏み込みの位置。其れを同時に追う。
五撃目。鎌が来る。俺は其れを避けた。盾で受けずに横へ流れる。ジャオの鎌が空を切る。其の隙に尻尾が来る。だが俺はもう見ている。跳ばない。其の場で踵を軸に回転する。尻尾が足元を薙ぐが、俺の身体は既に半回転している。尻尾が空を切る。
「──ほう」
ジャオの声に初めて色がついた。感嘆だ。
俺は其のまま回転の遠心力を乗せてマイスエッジを振った。スライサーモードの刃がジャオの脇腹を掠める。ワインレッドの装甲に浅い亀裂が走る。泥ではない。ジャオの装甲は硬質だ。浅いが、確かに傷がついた。
ジャオが後退した。初めてだ。此の戦いで、ジャオが自分から距離を取った。
「やるな」
「褒めてる場合か」
俺は息を整えた。まだ終わっていない。ジャオは傷を見て、其の赤い複眼を細くした。怒りではない。計算だ。此の傷を受けて、ジャオは次の手を考えている。
其の時だった。
「結人!」
ホヌスの声が響いた。俺は振り返った。ホヌスがダットと戦っている。水流を纏った蹴りを放ち、ダットのラビットソードを受け流している。だが其の動きには余裕がない。ダットが速い。前回の共闘の時とは違う。本気だ。ホヌスの水流でも完全には追いつかない。
「マリナ、下がれ!」
「下がれない! 此奴、速すぎ!」
ライカンはリドと対峙している。だが其の戦いはまだ動いていない。氷の粒子と黒い装甲が睨み合うだけだ。リドは動かない。ライカンも動かない。互いに牽制している。
三つの戦いが同時に膠着している。だが其の膠着は長くは続かない。ジャオが又動き出せば、俺は其の対応で手一杯になる。其の間、ホヌスがダットに追い詰められる。
「試してみるか」