PERSONA × MY-TH UNFATHOMABLE VOYAGE ―沖縄怪異航路― 作:ボルメテウスさん
「試してみるか」
俺は胸元のドライバーへ意識を向けた。手元には、さっき大神との共鳴とは別に、研究会の調査で見つけ、回収していた白い卵があった。シードエグズ。イゴールの言葉が蘇る。出会い、経験、選択によって性質を変え、既存のライドエグズへ新しい力を芽吹かせる補助の卵。
(今が其れだ。選ぶ時だ)
シードエグズをドライバーへセットする。カチリ。円盤が衝突した。
『エッグリューション!』
『ヘッジホッグ!』
背中が熱くなった。光が肩から背中へ走り、其処から何かが広がっていく。布の質感だ。装甲の隙間から滑り出た其れは、俺の身体の前へ回り込んで広がった。
マントだ。
ハリネズミの力を宿した、棘付きのマント。表面に無数の棘が列をなして並んでいる。銀色の棘が月明かりを受けて鋭く光る。俺は其れを身体の前へ回し、構え直した。
ジャオの鎌が迫る。
上段から。俺はマントを其の軌道へ差し出した。鎌の刃がマントに食い込む。だが棘が其れを噛み止めた。衝撃は腕へ伝わるが、さっきまでの鎌の重さとは違う。棘が力を分散させている。
「──新しい力か」
ジャオが鎌を引いた。其の瞬間、尻尾が来る。低く、地面を這う軌道。
俺はマントの棘の面を下へ向けた。尻尾が棘の列へ触れる直前、ジャオが其れを引っ込めた。触れれば棘が刺さる。ジャオは其れを避けたのだ。
初めてだ。ジャオが自分の攻撃を中断した。
俺は其の隙に距離を取った。呼吸を整える。マントの重さが背中にかかる。だが其の重さは、守るための重さだ。タートルフレームの甲羅に近い。だが此方は背中に背負うのではなく、回して使う。
「九衣、此のマント」
「ヘッジホッグプラスだねネズミ君。ネットの噂だとね、ハリネズミの力は接触への反撃に特化してるらしいよ。棘は触れた相手に刺さるけど、射出はできない。あとマントで守れるのは其の面だけ。足元と反対側は隙だらけだよ。ただし断定はできないけど」
(断定できないことばかりだが、今は其れで十分だ)
「役割は分かった。守りながら、触れた相手に痛打を与える。接近戦への牽制だ」
「その通りだよ。配信者としての解説は以上。頑張ってね」
ジャオが動いた。
だが今度は踏み込まない。其の赤い複眼がマントを捉えている。棘の列を計算しているのだ。近づけば刺さる。ならば──
鎌が投げられた。
回転しながら空気を裂く黒い刃。俺はマントを正面へ回して其れを受けた。鎌が棘に食い込み、火花を散らす。重い。だが防げた。
其の時、足元の感覚が消えた。
(尻尾──!)
ジャオの狙いは最初から其処だった。鎌の投擲でマントを正面へ誘導し、其の隙に尻尾で足元を狙う。マントは正面しか守れない。足元は露出している。
俺は跳んだ。間に合った。ギリギリで。尻尾が靴底を掠める。空中で体勢を崩しながら着地する。鎌はジャオの手へ戻っている。
「覚えたか。マントの守りは一面だけだ」
「ああ、嫌になるほどな」
俺は膝の位置で息を吐いた。此のままでは終わらない。ジャオは投擲と尻尾で俺の守りの範囲外を突き続ける。マントを広げ続けるだけでは防ぎ切れない。
(広げ続けるな。必要な方向へだけ回せ)
俺はマントの持ち方を変えた。全面へ広げるのではなく、片手で其の一端を掴み、構えに合わせて回す。小さく、速く動く盾として使う。
ジャオの鎌が又来る。今度は横薙ぎだ。俺はマントを其の軌道へだけ差し出した。鎌が棘へ食い込む。其の一瞬、俺は踏み込んだ。
鎌を受け止めた位置から、マントを身体ごとひねって振った。
棘付きの縁が、弧を描いてジャオの腕へ叩き込まれる。
「──っ」
ジャオが後退した。其の腕装甲に棘の痕が走っている。深くはない。だが確かに刺さった。ジャオは其の腕を見て、又計算する。此の距離では棘の縁が届く。接近には棘の面がある。投擲にはマントを回して対処できる。
「やりおる」
ジャオが初めて俺を認める声を出した。だが其の赤い複眼は燃えたまま退かない。
「だが其の程度で防ぎきれたと思うな」
ジャオが距離を取った。鎌を構え直し、尻尾を低く這わせる。次の攻撃へ切り替える構えだ。投擲と接近を混ぜ、隙あらば尻尾で足元を刈る。其の三つを組み合わせて来る。
俺はマントを構え直した。背中の汗が冷たい。此の戦いはまだ終わらない。
「結人!」
ホヌスの声が響く。ダットと戦う彼女も限界が近い。ライカンとリドの膠着もまだ続いている。此処で俺がジャオに押し切られれば、マリナが落とされる。
(時間を稼ぐだけじゃ駄目だ。此奴を退かせる)
俺とジャオが同時に踏み込んだ。
夜の倉庫街に、棘と鎌のぶつかる音が又響いた。