PERSONA × MY-TH UNFATHOMABLE VOYAGE ―沖縄怪異航路―   作:ボルメテウスさん

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第7航路 帰る場所を綴る 7/7 人の可能性

髙華武利は、自室の机でヴァンケンの報告書を読んでいた。

 

アジトの一角にある其の部屋は、百年前のままの造りだ。真鍮の枠に嵌められたガラス窓。潮風に晒された壁のしみ。机の上には、古い筆入れと、現代の端末が並んでいる。百年の眠りの間に積もった時が、其処此処に固まっている。

 

報告書は丁寧だった。ヴァンケンらしく、事実と推測を分けて記されている。鳳崎姫華が呼び出した存在。ガルーダと名付けられた其の力。契約ではなく意志を源とする発現。そして、真瀬結人の手に共鳴して現れたもう一つの卵。

 

華武利は報告書の最後の頁をめくった。其処に書かれた一文に、目が止まる。

 

『悪魔を呼ぶ経路とは異なる。人の心から直接発現した可能性が高い』

 

人の心から。

 

華武利は報告書を置き、椅子の背に凭れた。天井の裸電球が白く光っている。其の光の中で、彼は百年前の記憶を辿った。

 

ヤタガラスの記録庫で目覚めた時、彼が最初に読んだのは百年分の機密記録だった。十三代目葛葉ライドウとしての記録と奥義を託した後、十四代目が何を成し、其の後の世代が何を為したか。其の記録の中に、ある名前が登場する。

 

フェレモン。

 

華武利は其の名を口の中で呟いた。声には出さない。だが唇の動きが、其の音形を結ぶ。

 

フェレモン。人々の無意識の海に潛む存在。ヤタガラスの記録には、其の名が何度か登場する。過去に沖縄で起きた異変の記録にも。其の時、人々の心から力が発現したという報告が残されていた。悪魔との契約ではない。人の心其のものが力として具現化した。

 

其れを、記録は「ペルソナ」と呼んでいた。

 

ペルソナ。仮面。其の語源は、人が外界へ向ける顔。本来の自己ではないが、自己の一部でもあるもの。

 

華武利は報告書をもう一度見た。ガルーダ。人の意志から発現した力。契約ではなく、心其のものが形を成した存在。

 

(ペルソナ使い、か)

 

華武利の口元が微かに緩んだ。笑みとも嘲りともつかない、其の手の表情。彼が何かを面白いと思った時に浮かぶ顔だ。

 

ヴァンケンの報告書には、真瀬結人が其の場にいたことも記されていた。真瀬結人。仮面ライダーマイス。鼠の仮面を持つ者。複数のフォームを使い分け、人の心から生まれた力に共鳴して新しい仮面を得る。

 

華武利はこれまで、真瀬結人を「正体不明の無免許召喚師」と判断していた。ライドエグズを使う以上、何らかの経路で力を得た人間だろうと。だが、其の力が悪魔との契約ではなく、人の心其のものから来ているなら。其れは、華武利が知るどんな召喚師とも違う。

 

(我々とは異なるペルソナ使いの仮面ライダー)

 

華武利は椅子から立ち上がった。窓の外に海が見える。夜の海だ。星の光が水面に散らばっている。波の音が微かに聞こえる。穏やかだ。だが其の穏やかさの裏で、異界の歪みが広がっている。

 

彼は窓枠に手をかけ、海を見下ろした。潮風が頬を撫でる。百年前も、同じ風が吹いていた。だが今の風の中には、百年前にはなかった何かが混じっている。

 

「次は、私も確かめに行くか」

 

其の声は誰に向けられたものでもなかった。ただ自分自身へ告げた言葉だ。

 

華武利は窓から離れ、机の上の報告書を一つのファイルへ収めた。其のファイルの表紙には何も書かれていない。だが彼は其の中身を知っている。そして、其の中身が何を意味するかも。

 

人の心から力が生まれる。其れが仮面となり、装甲となる。我々が悪魔と契約して得てきた力とは、根本から異なる経路。もし真瀬結人が其の経路を歩んでいるなら、彼は排除すべき敵か、次代の御魂遣いか、其のどちらでもない第三の存在なのかもしれない。

 

華武利はファイルを棚へ戻し、部屋の灯りを消した。窓から入る月光が、床に白い帯を引いている。波の音が、部屋の中まで聞こえてくる。

 

彼は其の音を聞きながら、部屋を出た。廊下は暗い。裸電球が一つ、遠くで光っている。其の光の届かない闇の中を、彼は歩き始めた。

 

次の調査には、自分も行く。其れを決めて。

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