PERSONA × MY-TH UNFATHOMABLE VOYAGE ―沖縄怪異航路― 作:ボルメテウスさん
俺は、あの赤い影が戦うのをただ見ていることしかできなかった。
深紅の装甲が薄暗い船内を駆け巡るたび黒い泥の塊が弾けて消えていく。さっきまで俺のペルソナが必死に相手をしていたシャドウたちが、今は赤い影の独壇場だった。
(速い。強すぎる。これが、十三代目葛葉ライドウとかいう奴の力か)
メリダルパクスが背中で微かに震えている。警戒しているのか、それとも、あの戦い方に圧倒されているのか。俺の身体も同じように震えていた。
赤い影が右の壁を蹴り、天井へ張り付いたシャドウを爪で引き裂く。黒い泥が花火みたいに散って消える。その間にもう一匹を尻尾で貫く。まるで踊っているみたいに滑らかで、無駄がない。
(ずっと見てたいけど、そうもいかねえ。俺も後ろの連中を逃がさないと)
そう思って、背後を振り返ろうとした時だった。
ギイィィ……。
耳をつんざくような異音がした。
空気が引き裂かれる音。金属が悲鳴を上げる音。それらが混ざった、聞いたことのない音。
(なんだ、今の)
音のした方を向く。
赤い影が戦っている場所の、さらに奥。船室の中央付近の空間がゆがんでいた。
いや、ゆがんでいるというより割れていた。
空気に亀裂が走っている。目に見える亀裂だ。透明な壁にヒビが入るみたいに空中に白い線がピシッ、ピシッと走ってそこから光と闇が同時に漏れ出していた。
(なに、あれ。またシャドウか? それともあの赤い奴の技か?)
違う。赤い影も動きを止めてその亀裂の方向を向いた。桃紫色の複眼がスッと細められ、猫耳がピクリと立つ。
(あいつも知らないのか)
亀裂は見る間に広がった。
ピシッ、ピシッ、ピシシシッ。
まるでガラスが割れるみたいに、音を立てて。でも割れたガラスの向こうは壁でも海でもなくもっとおかしなものだった。黒と白が渦を巻いて混ざり合い、それがぐるぐると回転している。光と闇が同時に存在している。そんな不条理な風景。
(空間が、ねじれてやがる)
次の瞬間、足元がふわりと軽くなった。
(え?)
床が、なくなった。
いや、床はある。あるはずだ。でも、さっきまで俺の足を支えていた硬いフローリングの感触が突然消えた。靴底が何も踏んでいない。
(なんだ。なんで浮いて……)
気づいた時には俺の身体が、あの渦の方へ引っ張られていた。
渦が、引力を持っていた。目に見えない大きな手が、俺の腰と背中を掴んで無理やり引き寄せている。いや、引っ張られているのは俺だけじゃない。床の破片も壁の一部も、黒い煤みたいなものもみんなあの渦に向かって流れている。
「ぐっ……!」
足を踏ん張る。床に爪を食い込ませるみたいにして踏ん張る。でも足が滑る。フローリングが氷みたいに滑る。いや、足元の床ももう渦に引っ張られて形を保っていないのかもしれない。
(やばい。やばいやばいやばい)
心臓がうるさい。さっきまでの戦闘の疲労が一気に蘇って膝が笑う。腕を振り回してバランスを取ろうとするが、渦はますます強く俺を引き寄せる。
視界の端で、赤い影がこっちを見た。桃紫色の複眼がはっきりと俺を捉えている。
(見てるだけ? いや助けようとしてる? でもあいつ、まだ戦ってる最中だ)
赤い影の周りには、まだ数匹のシャドウがいた。あの影は敵を倒しながら、こっちへ来ようとしているように見えた。でも距離がある。
「う、わっ……!」
足が完全に床から離れた。
一瞬、空中に浮かんだ。
渦の引力が、俺の身体を完全に持ち上げた。腹の中が持ち上がるような感覚。視界がぐるんと回った。
(落ちる)
(落ちる、俺、あの渦に)
帽子が飛んでいった。ゴーグルが首から外れて胸で跳ねる。腰のポーチが叩きつけられる。身体の向きがめちゃくちゃになって、どこが上か下か分からなくなる。
「くそっ、ああ……!」
手で何か掴もうとした。壁、柱、椅子、何でもいい。この渦の外にある動かない、硬い何か。
指先が空を掻く。
掴めない。
渦がすぐそこまで迫っていた。黒と光の渦が目と鼻の先で渦を巻いている。吸い込まれる。引きずり込まれる。
(誰か、助け――)
叫ぼうとした瞬間、ぐるんと視界が回って渦の中心が俺の真下に来た。
(ああ、これは飲み込まれる)
そう思った時足が渦の縁に触れた。柔らかいのに、ものすごい力で引っ張られる。靴が脱げそうになる。
「あっ、やばい。足が――」
踏ん張る間もなく、ずるりと足首まで渦の中へ沈み込んだ。冷たい熱い、どっちでもない感覚が足先から這い上がってくる。
(だめだ。このままじゃ、全部持ってかれる)
必死に腕を伸ばした。何か掴めるものを探して、空気の中をもがく。
指先が、何かに触れた気がした。
でも、それも一瞬で指の間をすり抜けた。
(くそ!)
ぐん、と強い力で身体が引き込まれる。
俺の視界が、天井から床へ床からまた天井へ、ぐるぐると回転する。赤い影の姿が一瞬見えた。シャドウに囲まれているのにこっちへ手を伸ばしていた。
次の瞬間、景色が全部、渦の中に吸い込まれていった。
ギリリリリッ!
空間が軋む音がした。いや軋むなんて生易しいもんじゃない。ガラスを金属の爪で無理やりこじ開けるみたいな、嫌な音が鼓膜を突き破る。
足元がない。
さっきまでフローリングの上に立っていたはずの俺の体が、今はもう宙に浮いていた。渦の引力が、俺の腰を強引に掴んで引きずり込んでいる。胃袋が口から飛び出すかと思った。グルグルと視界が回る。天井と床が入れ替わる。
(やばい。マジでやばいこれ)
必死に手を伸ばす。掴まるものなら何でもいい。柱も椅子も床の隙間も。指先が空を掻いた。何も掴めない。
その時だった。
視界の端で、赤い影が動いた。
マオウだ。
さっきまでシャドウを屠っていたあの深紅の猫が、戦闘の動きの途中で急ブレーキをかけたみたいに、バッとこちらへ向き直った。桃紫色の複眼が、俺を捉えている。あのV字の目が、見開かれている。
(気づいた!)
マオウの身体が、弾かれたように動いた。
速い。
シャドウの触手を避けるための跳躍の軌道を、強引に俺の方へねじ曲げたみたいだ。赤い残像が視界を横切る。戦闘態勢から救助への切り替え。ためらいなんてない。一瞬の判断で、あいつは俺を助けようとしてくれた。
伸びてきた。
深紅の爪が。
鋭く、長く、あの爪が俺の手を掴もうと空中へ突き出される。赤い装甲の手が、必死に俺へ届こうとしている。
(届け!)
俺も手を伸ばした。
指先と指先が、あと数センチで触れそうだった。あの鋭い爪が俺の手首を掴めば、この引力から引き上げられるかもしれない。
だが。
ビュン。
空を切る音がした。
マオウの爪が、俺の指先の数ミリ手前で空を切った。
(え?)
時間が止まったみたいに見えた。
赤い爪が俺の手のひらを掠めて、そのまま空へ滑っていく。掴めなかった。届かなかった。渦の引力が、あと一瞬早かったんだ。あるいは、マオウが攻撃動作の最中だった分、軌道を変えるのがあと一瞬遅かったんだ。
俺の体は、その一瞬の隙にグイと引きずり込まれた。
「あ――」
声が出なかった。
渦の中へ、ずぶずぶと沈んでいく。浮遊感と落下感が同時に襲ってくる。体が裏返るみたいだ。上下左右の感覚が消えた。
最後に見えたのは、渦の縁からこちらを覗き込むマオウの姿だった。
赤い仮面。V字の複眼。無表情に見えるその顔が、今は歪んで見えた。怒りか、焦りか、それともただ見送るしかできない無力感か。判別できない。
あいつの手が、まだ伸ばされたままだった。深紅の爪が、俺の消えた空間を掻こうとしている。
(すまねえ。あと一歩だったのに)
そう思う間もなく、視界は黒と光の渦に埋め尽くされた。
赤い影が、ぐんぐん遠ざかっていく。万華鏡の奥へ後退していくみたいだ。仮面の猫が、小さく小さくなって、最後には点みたいになって、そして消えた。
(俺は落ちてる)
回転する視界の中で、それだけが確かだった。
床はなかった。
いや、着地した感触はあった。硬くもなく柔らかくもなくふわりと背中から何かに受け止められたみたいに、俺の身体は静かに止まった。
(…あれ? 落ちたのか? 落ちてないのか?)
目を開ける。いや、開けていた。開けているはずなのに視界が真っ暗だった。いや真っ暗じゃない。薄ぼんやりとしている。暗闇に目が慣れていないだけだ。
「…痛く、ない」
声に出して確認した。自分の声がやけに平べったく響く。反響がない。音が吸い込まれていくみたいだ。部屋でも船でもない。壁が近くにない証拠だ。
起き上がる。地面は平らで、硬い。冷たくもない。温かくもない。ただそこにある。触っているのに触っている感覚が薄い。
(なんだここ。異空間? いやまあ、そうなんだろうけど)
周囲を見回した。
何もなかった。
上も下も左右も果てしなく暗い。真っ暗というより、光がないだけの平坦な闇が広がっていた。自分自身の輪郭すらおぼろげに見えるだけの暗さ。
(でもなぜか足元は見える。俺の手足は見える。光がなくても見えるってことは、ここは光の概念がおかしいのか)
いや、考えない。今は状況把握だ。
首を巡らせる。あの渦はどこへいった。フェリーは。乗客は。あの赤い猫は。
(誰もいない)
音がしなかった。自分の呼吸と心臓の音だけが、鼓膜の内側でやけに大きく響いている。孤独の音だ。
「はあ…」
ため息をついた。白い息は出ない。温度の感覚が曖昧だ。暑くも寒くもない。空気はある。呼吸はできている。匂いもない。潮の匂いも、血の匂いも、あの腐った甘ったるい異臭も何もない。
(静かすぎて頭がおかしくなりそうだ)
立ち上がった。膝は笑っていない。震えも止まっていた。落下の衝撃でどこか打ったか確認するために、腕、足、腹、頭と順番に触る。
「…大丈夫そうだ。怪我はない」
シャツの左腕のところが破けていた。さっきシャドウの触手に掠られた場所だ。見ると、赤いミミズ腫れのような痕が残っている。出血はない。痛みも鈍い。変な熱さも消えていた。
(問題ない。動ける)
腰のポーチもまだついている。ゴーグルも首から下げたままだ。帽子は…どこかで飛んでったな。まあいい。
一歩踏み出した。
足音もしない。靴底が地面を踏んでいるのに、音がしない。聴覚が死んだのかと思って「あー」と呟くと、声はちゃんと聞こえる。じゃあこの地面が音を吸っているのか。
「…何歩歩いても変わり映えしねえな」
五歩。十歩。同じ景色だ。と思った時、視界の端に違和感を覚えた。
(あ?)
前方だ。
目を凝らす。
暗闇の中に、何かが浮かんでいた。遠くに小さくうっすらと白く。
(なんだ、あれ)
足が止まる。心臓がトクトクと鳴り始める。また何か出てくるのか。さっきみたいに黒い泥か。いや、黒くない。白い。
(光? 発光してるのか? 反射してるのか?)
目を細めて見るが距離感が分からない。小さく見えるが、遠いから小さいのかもともと小さいのか。
恐る恐る、一歩近づいた。
また一歩。
また一歩。
近づくにつれて、輪郭がはっきりしていった。
白い。
白と銀色。
人工的な、機械的な。
(何かの装置か? こんな何もない場所に?)
さらに近づく。
足音がしないせいで、逆に自分の心臓の音がうるさい。まるで歩幅ごとにドキリと脈打っているみたいだ。
近づくほど分かる。
それは、台座のようなものの上に置かれていた。いや置かれているというより、そこに在るという感じだ。空間に溶け込まずかといって浮いてもいない。きちんと、地面からわずかに持ち上がった位置にそれは鎮座していた。
(横長……楕円……輪っか?)
白と銀。黒い帯。
(ベルト……?)
俺は唾を飲み込んだ。喉がぎこちなく鳴る。ゴクリという音が、静寂の中でやけに響いた。
もう数歩近づいた。あと三、四メートルか。
輪郭は完全に見えた。
それは、確かに、ベルトだった。腰に巻くタイプの大きな変身武器みたいな。厚みのある横長の楕円形。中心に銀色の機構が見える。
(なんでこんなもんが、こんな何もない場所に)
視線を巡らせる。やっぱり他には何もない。四方八方、暗闇が続いている。地面も天井も境界があいまいなまま続いている。
俺はもう一歩踏み出した。怖いが目を離したくない。いや、目を離せなかった。あの装置が俺を引き寄せているみたいだった。
(近くでちゃんと見ないと。でも触るな。触りたいけど、ダメだ。まず確認だ)
膝を少し曲げ、腰を落として真正面からそれをまじまじと見つめた。
白と銀を基調とした横長の楕円形。帯は黒地で胸元に見える部分を銀色の節状装甲が覆っている。接続部には橙金色の縁取りが施され、白銀、黒、青の配色を締めていた。
(綺麗だ。すごく機械的で、でも有機的でそれで…)
――あの赤い奴が腰に巻いていたものと、似ている。
頭の片隅で、その考えがひっかかった。
いや、まだ断定はできない。
でも。
(これは……何だ?)
俺はその場にしゃがみ込み、唾を飲み込む。指が勝手にポーチを探る。油性ペンもメモも今は使わない。ただ、見つめている。
暗闇に浮かぶ、白銀の変身装置。
俺はそれが何なのか、思考し始めていた。
しゃがみ込んだまま、俺は目の前の装置を見つめていた。
白と銀。
それが第一印象だった。暗闇の中に浮かんでいるせいもある。だがそれ以上に、その装置自体が淡い光を纏っているように見えた。
横長の楕円形。厚みのある、ずっしりとした存在感。大型のバックルのような、いや――ベルトのような形だ。帯の部分は黒地で、中央の楕円形本体と繋がっている。本体との接続部には橙金色の縁取りが施されていて、白銀と黒と青の配色を引き締めている。
(…綺麗だ、とか思ってる場合じゃないんだが)
だが確かに綺麗だった。無機質な機械なのに、工芸品みたいな精緻さがある。見ているだけで目に焼き付いてくる。
本体の中央、胸元にあたる部分を銀色の節状装甲が覆っている。節。節か。蝉の腹みたいに、あるいは脊椎の骨みたいに、規則正しく並んだ銀の装甲が、中の機構を守るように嵌め込まれていた。
(まるで骨格だ。機械の骨格。動くための骨)
視線を落とす。帯の部分は黒い。ただの黒じゃない。微かに青みがかった黒で、光の角度によって色が変わる。深い海の底みたいな色だ。
(…海か。また海の色か。あの船室といい、ウォルトンの制服といい、青と黒ばっかだな)
ふと、脳裏に赤い影がよぎった。
あの赤い猫。仮面ライダーマオウ。
腰に巻いていた、銀色のベルト。中央に黒く円形の専用変身装置。
「……あ」
息が止まった。
似ている。
根本的なフォルムが、似ている。
マオウの腰にあった変身装置。あれは赤と黒を基調としていた。深紅の装甲に、黒い円形の中央部。猫の爪のような鋭角なデザインで、攻撃的で、暴力的な印象だった。
目の前のこれは、白と銀と青だ。円形ではなく楕円形。鋭角ではなく節状。攻撃的ではなく、どちらかというと静かだ。凛としている。
でも、根本的な構造が同じだ。腰に巻く大型の変身装置。中央の機構部。帯との接続。全体のフォルムのバランス。
(姉妹機…みたいなもんか?)
言葉が浮かんだ。似て非なる。赤と黒の猫に対して、白と銀の……何だ? 何に変身するんだ? 猫に対抗するのは犬か? 鼠か?
(いや、そういう問題じゃない。重要なのは、なんでこんなものがこんなところに置いてあるかだ)
俺は周囲を見回した。やっぱり何もない。暗闇が続いている。俺とこの装置だけ。
(誰が置いた? イゴールか? ウォルトンか? それともあの赤い猫が? いや、あいつは俺を助けようとして間に合わなかったんだ。置く暇なんてなかったはずだ)
じゃあ、最初からここにあったのか。俺が来るのを待っていたのか。
(俺を待っていた?)
その考えが浮かんだ瞬間、装置が光った。
一瞬だけ。ほんの一瞬だけ。
節状の銀色装甲の隙間から、淡い青白い光が漏れた。
(!)
脈動。
ドクン。
胸の奥で、あの感覚が再び動いた。ベルベットルームで感じた、心臓とは別の脈動。ペルソナを呼び出した時に卵の中で感じた熱。それと同じリズムが、目の前の装置から伝わってきた。
(共鳴してる。俺と、こいつが)
もう一度、装置が光った。ドクン。青白い光が銀色の節の隙間から溢れて消える。呼んでいる。そう感じた。根拠はない。でも、確かにそう感じた。
(俺に使えってことか?)
手が動きかけた。触れようとして、止めた。
指先が装置の数センチ手前で凍りつく。白銀の表面に俺の顔がぼんやりと反射している。泥だらけの、汗だらけの、情けない顔が。
(触るな。まだ触るな。中身が分からないものに触るな)
工具屋の基本だ。構造の分からない機械は、むやみにいじらない。分解する前に観察する。観察してから手を付ける。
でも。
(でも、これは俺に呼びかけてるんだろ。さっきから。ドクン、ドクンって。俺の胸の奥と同じリズムで)
首筋に冷たいものが走った。
(あの赤い猫も、腰にあれを巻いて、あんなふうに暴れ回っていた。もし俺がこれを腰に巻いたら、俺も何かになれるのか? あいつみたいに強くなれるのか? シャドウを、あの黒い泥を、全部倒せるのか?)
倒せる。そう思った瞬間、手が震えた。怖いのと、欲しいのと、どっちも震えている。
(助けたい。さっきの船内で見捨てられなかった人たちを、まだ助けたい。あの赤い猫に間に合わなかった分を、俺が)
でも。
(俺は俺の満足のために人を助けてるだけなんじゃないのか。前の学校でやったみたいに。自分が助けたくなるから助けてるだけで、相手が本当にそれを望んでるかどうかなんて考えてなかったんじゃないのか)
手が止まったまま動かない。
装置の青白い光が、微かに強くなった。ドクン。ドクン。俺の胸の奥と同じリズムで、静かに、でも確かに、呼び続けている。
「……俺に使えって言いてえのかよ、お前は」
声に出して聞いた。返事はない。ただ、青白い光が一つ、強く明滅しただけだった。
俺は膝をついたまま、白銀の変身装置と向き合っていた。触れられない。触れるべきか分からない。でも目が離せない。これが何なのか、なぜここにあるのか、俺に与えられたのか、それとも俺が勝手に拾い上げるべきものなのか。
答えが出ない。
(あれと同じ系統の変身装置。白と銀と青。赤い猫の姉妹機。これが俺の……俺のための力なのか?)
胸の奥の脈動だけが、静寂の中でドクン、ドクンと打ち続けていた。