PERSONA × MY-TH UNFATHOMABLE VOYAGE ―沖縄怪異航路― 作:ボルメテウスさん
翌日の放課後、部室には見慣れない顔があった。
「真瀬君、此の子が昨日の相談者の友達。其の子が言ってた旧桟橋、教えてもらったんだ」
優菜が紹介したのは、女子生徒の隣に立っていた男子生徒だった。制服のネクタイを緩く結び、少し眠たげな目。だが其の目は、俺たちの顔を一瞥した後、正確に部屋の隅々まで見渡していた。観察する目だ。普通の高校生にしては、少しばかり凝視度が高い。
「鳳崎玲央です。中三です」
「此処、高等部なんだけど」
「其れは知ってる。でも、此処なら話を聞いてくれるって、姉ちゃんが」
姉ちゃん。俺は其の言葉に少し顔を上げた。
「姉御さんって、鳳崎姫華さんか?」達臣が隣で訊いた。
「うん。ボクが変なこと言ってるって思ってないのは、姉ちゃんだけだったから。学校でも誰も信じてくれなくて」
玲央の声は、年齢より落ち着いていた。中学三年生にしては、少し大人びている。だが其の落ち着き方は、経験によるものではなく諦めによるものだった。
「信じてくれる人がいないって、辛かったか」俺は訊いた。
「別に。いきなり信じろって言う方が無理だし。ただ、自分が見たものは確かにあったから、誰かに知っておいてほしかっただけ」
「其れで十分だよ」優菜が頷いた。「此処は見たものを其のまま話してくれればいいから」
達臣がノートを開いた。ペンを構える手つきは、いつも通り丁寧だ。
「其れじゃあ、聞かせてくれ。其の旧桟橋で何を見た」
玲央は少し間を置いてから、口を開いた。
「あの日、部活が終わって港の方を歩いてた。海沿いの道を通って帰るのがいつものルートなんだけど、其の日だけ道が違った」
「違ったって、具体的にどう」
「コンビニの角を曲がるはずなんだけど、其処にコンビニがなかった。看板も駐車場も何もなくて、其処にあったのは其のまま海へ続く道だけ。其れで其のまま歩いたら、三十分の道が一時間になった」
達臣のペンが止まった。其の止まり方は、聞き慣れた話に反応する動きだった。
「一時間。時間が延びたのか」
「延びた。時計を見たから確実。でも歩いてる感覚は三十分だった。其の間に、海の方から声が聞こえた」
「声」俺は其の言葉を拾った。「又だな」
「又?」玲央が首を傾げた。
「前にも同じような相談が来てるんだ。海の方から声が聞こえたって」
玲央の目が少し大きくなった。自分と同じ体験をした人がいる。其の事実が、彼の中で小さな安堵を生んだようだった。
「其の声は、呼んでたんだ。名前までは分からなかったけど、誰かがこっちを呼んでるって感覚だけはあった。其れで其の声を追って歩いたら、旧桟橋に着いた」
「旧桟橋へ。其処は立ち入り禁止じゃなかったか」達臣が訊いた。
「柵はあったけど、其の日だけは其処に隙間があった。いつもは鎖がかかってるのに、其の日だけ外れてた。其れで中へ入った」
「入って、どうなった」
「其の先で、道が変わった。元の道に戻ったはずなんだけど、其処は知らない場所だった。空も海も建物も全部違ってて。其れから暫く歩き回って、気づいたら港の近くにいた。でも其の間の記憶が殆どない」
記憶の欠落。又此のパターンだ。南棟三階の時も、倉庫街の時も、同じ現象が起きていた。声に誘われた人間は、其の間の記憶が抜け落ちる。
俺は九衣に小声で呼びかけた。
「九衣。記憶が抜ける現象、何か分かるか」
「ネズミ君、ネットの噂だとね、異界の境界に近づいた人間に起こる現象らしいよ。記録では、沖縄で過去に起きた異変の時も同じ報告があった。人の心に干渉する存在が、認知と記憶の間に割り込むらしい。ただし断定はできないけど」
「其の存在って、シャドウって呼ばれてるやつか」
「うん。ネットの噂ではね。過去に沖縄で起きた異変──沖縄ジェイルと呼ばれてる事件の時も、人の心から生まれる影のような存在が確認されたって報告があるよ。其の影を『シャドウ』って呼ぶらしい。ただし、其のシャドウと我々の知る不可思議やマカシキが完全に同じものかは分からない。性質が似ているという仮説に留めるね」
「仮説か」
「配信者は確証のないことを断定しないんだよ。でも記録では、シャドウは人の心の影。其れに対してペルソナは、其の影に抗うための仮面。其の二つが表裏の関係にあるって書き込みがある。ただしこれも噂の域を出ないからね」
「ペルソナは仮面か。ライドエグズと似てるな」
「似てるけど、同じかは分からない。ライドエグズは悪魔との契約を通じて得る力。ペルソナは、自分自身の心から発現する力。経路が違う。ただし、其の二つが全く無関係かどうかも分からない。記録ではね」
「記録では、か。お前の其の記録、結局どれくらい信用できるんだ」
「配信者として言えば、六割くらいかな。残り四割は噂と願望と誤配信の混じり具合による。ただし断定はできないけど」
「六割か。心許ないな」
「六割あれば配信者としては上等だよ。ネットの噂なんて、半分正しければ儲けものなんだから」
俺は小さく笑った。九衣の軽口が、此の重たい空気の中で唯一の息継ぎだった。
「真瀬君?」優菜が俺の顔を覗き込んだ。「何か聞こえたの?」
「いや、何でもない。其れより、玲央の話の続きだ」
玲央は少し間を置いてから、又口を開いた。
「其の後、二回同じ場所を通った。二回とも、同じことが起きた」
「二回も」達臣の声が少し硬くなった。「一度は偶然でも、二回目は──」
「偶然じゃないでしょ。だからここに来た」
玲央の目は真っ直ぐだった。中学生にしては、其の目はあまりに真っ直ぐだった。此の子は、自分が見たものを信じている。誰かに信じてもらうためではなく、自分自身が其れを確かめるために。
俺は其の目を見て、ある人の顔を思い出した。鳳崎姫華。玲央の姉。数日前に、同じ目で俺を見た人。
「姫華さんは、元気にしてるか」
俺が訊くと、玲央は少し驚いた顔をした。
「姉ちゃんを知ってるの?」
「ああ。此間、一緒に何かあった」
「何かって」
「説明すると長くなる。だが其の姉さんが、お前の話を信じて此処へ来たんだと俺は思う」
玲央は黙った。だが其の目が少し潤んだのを、俺は見た。
「姉ちゃん、最近少し変わったんだ。前より元気になった。何かあったって言ってたけど、詳しくは教えてくれなかった。でも」
「でも」
「姉ちゃんの掌に、光るものがあった。卵みたいな。其れを大事に持ってた」
俺と優菜が同時に顔を上げた。達臣のペンが止まった。
ライドエグズだ。姫華が覚醒した時、其の掌に現れた卵。其れをまだ持っている。そして其れを、弟に隠さずに見せている。
「其れで、姉ちゃんが言ってた。『ボクも何かできることがあるかもしれない』って。其の時の姉ちゃん、いつもと違ってた。何かを決めた人の顔だった」
何かを決めた人の顔。俺は其の言葉を胸の中で転がした。姫華がライドエグズを得た時、彼女は言った。「家族を守る。其れがボクの選択だ」と。其の意志が、まだ続いている。
「玲央。お前の姉さんは、お前のために動いてるんだ」俺は言った。「其れだけは確かだ」
玲央は少し下を向いて、又すぐに上げた。其の目には、もう潤みはなかった。
「うん。知ってる。だからボクも、ちゃんと話そうと思った」
* * *
其の日から数日が経った。
日常は、其れなりに日常になっていた。朝、寮の部屋を出て、商店街を抜けて学園へ向かう。途中でポーク玉子おにぎりを買う。九衣が「私の分は?」と必ず訊く。俺が「お前分はない」と答えると、九衣は毎回「配信者に対する扱いが雑だ」と呟く。其のやり取りが、朝の儀式になった。
教室は二階。窓から海が見える。授業中、先生の声を聞き流しながら窓の外を見る。青い海。白い光。遠くで船が動いている。普通の風景だ。だが俺は、其の普通の中に、時折違和感を探すようになっていた。
廊下側の窓ガラスに、人の影が映る。生徒が廊下を歩く。其の影が、一瞬だけ本物より遅れて動く。一秒。其二秒。其れだけだ。だが其の一二秒が、俺の背筋を冷やす。異界の気配。まだ遠い。だが確実に、近づいている。
休み時間、優菜が窓際で弁当を広げた。達臣が隣で湯のみを持っている。俺は自分の弁当を開けながら、九衣の声を聞いていた。
「ネズミ君、此の学校の怪談。ネットの噂だとね、南棟三階の空き教室で声が聞こえるって話がある。記録では、過去に沖縄で起きた異変の時も、学校の特定の場所で怪談が多発したらしいよ。ただし断定はできないけど」
「断定できなくていい。其れで、其の噂はどのくらい広まってる」
「掲示板のスレッドが三つ。其二つは過去ログに落ちてる。残り一つがまだ生きてる。書き込み数は五十件くらい。内容は、『夜に南棟三階に行くと誰かが呼んでる』とか、『友達の声がしたけど本人じゃなかった』とか。典型的な怪談話と変わらないけど、沖縄ジェイルの時も同じパターンだったらしいよ」
「典型的な怪談と何が違うんだ」
「典型的な怪談は、其の場所に何もない。でも沖縄ジェイルの時は、其の声が聞こえる場所に、実際に異界の入り口があった。声は異界から漏れてくるものだったらしい。ただし、これも噂の域を出ないからね。配信者として確証はないよ」
「六割か」
「六割。配信者としては上等だよ」
昼休み、食堂でゴーヤチャンプルーを食った。沖縄の食堂は量が多い。本土の感覚だと、一人分で二人前くらいある。俺は其れを完食した。九衣が「ネズミ君、胃袋も鼠並みだね」と呟いた。「胃袋は関係ない」と俺は答えた。
午後の授業は眠かった。歴史の先生が沖縄の戦後史を語る声がBGMになる。窓の外で船の汽笛が鳴った。低く長い音。日常の音だ。だが其の音の裏で、何かが潛んでいる。俺は其れを感じながら、ノートに文字を書き続けた。
* * *
其の日の夕方、部室に姫華が現れた。
「真瀬君、少し話してもいいかな」
「ああ。座って」
姫華は椅子に座った。其の掌にはライドエグズが握られている。銀色の殻に桜色の紋様。鳥の意匠。あの日、異界で家族を守るために呼び寄せた力だ。
「ボク、其の後も色々考えてて。ボクに何ができるのか、って」
「何か、見つかったか」
「まだ分からない。でも、一つだけ確かなことがある。ボクは其の日、玲央を守りたかった。其れで力が出た。其れって、つまり」
「守りたいって思った時に、力が応えるってことか」
「うん。でも、其れだけじゃ足りない気がする。あの時、真瀬君が来てくれなかったら、ボクは一人で立ち上がれてたか分からない。力があっても、使い方が分からなきゃ、意味がない」
姫華の声は静かだった。だが其の中には、数日前の恐怖と、其の後の数日間で育った何かが混じっていた。
「使い方は、まだ学べる。其れより大事なのは、お前が立ち上がったってことだ。俺がいたとしても、お前が動かなきゃ何も始まらなかった」
「そう、かな」
「そうだ。俺が手を差し伸べたのは、お前が其の手を握るために自分で伸ばしたからだ。其れをお前が選んだ」
姫華は少しだけ笑った。其の笑顔は、作家の顔でも姉の顔でもない。もう一つの顔。何かを決めた人の、其の決断の後の顔。
「ボク、もっと知りたい。此の力が何なのか。どう使えるのか。其れを知るために、真瀬君たちと一緒にいたい」
「歓迎するよ」優菜が隣で頷いた。「不可思議事件研究会へようこそ」
達臣は無言で頷いた。だが其の目が、姫華のライドエグズを一瞬だけ見た。其の視線には、何かを探る色があった。俺は其の視線を見ていたが、何も言わなかった。
* * *
数日後の放課後、新たな報告が入った。
「南港の倉庫街付近で、又人が消えた」
優菜が端末を見ながら言った。其の顔には、いつもの好奇心より焦りが勝っていた。
「又? 誰が」
「近所の住民二人。夕方散歩してた夫婦が、倉庫街の辺りで姿を消した。其の後、三時間後に港の反対側で発見された。記憶は曖昧」
「三時間。又時間のズレか」達臣が記録を書き始めた。
「場所は南港の倉庫街。以前、翼不可思議と戦った場所と近い」俺は地図を確認した。「其の場所で又何かが起きてる」
「ネズミ君」九衣の声が鞄の中から響いた。「ネットの噂だとね、同じ場所で繰り返し異変が起きる場合、其処に異界の入り口が固定されてる可能性があるらしい。過去に沖縄で起きた異変の時も、特定の場所で繰り返し人が消えたって報告があるよ。ただし断定はできないけど」
「入り口が固定されてる。其れは危ないな」
「うん。入り口が固定されてる場所は、普通の人が通りかかるだけで巻き込まれる。過去の記録では、其の場所を避けるしか対策がなかったらしいよ。ただし其れも噂だからね」
「噂ばかりだな」
「配信者は確証のないことを断定しないんだよ」
「分かってる。行くぞ」
* * *
南港の倉庫街は、前回来た時と同じ静けさに包まれていた。
だが空気が違った。前回は静かだった。今は、重い。潮風の中に、鉄錆の匂いが混じっている。だが其の鉄錆は、港の普通の匂いではない。もっと粘度のある、異界の匂いだ。
「此処、前より空気が重い」姫華が呟いた。彼女も其れを感じ取っていた。
「ああ。前回来た時より、異界の境界が近づいてる」
「ネズミ君、気をつけて。此処の空気、ネットの噂で言われてる『境界が薄くなってる場所』の特徴に似てる。過去に沖縄で起きた異変の時も、境界が薄い場所では空気が重くなる現象が報告されたらしいよ。ただし断定はできないけど」
「又断定できないか」
「配信者は──」
「断定しない、だろ。分かった」
倉庫の間を歩いた。五十メートル。百メートル。其の奥に、前回戦った場所が見える。だが其処は、前回とは違っていた。
地面が、揺れていた。
いや、揺れているのではない。呼吸している。コンクリートの表面が、一定のリズムで膨らみと縮みを繰り返している。其れは異界化の前兆だ。旧桟橋の時と同じ。
「来るぞ」俺は低い声で言った。
其の時だった。
遠くで、誰かの叫び声がした。
「助けて!」
声だ。又声だ。但其の声は、一人ではない。複数の方向から、別々の声が聞こえる。
「こっち!」右から。
「逃げて!」左から。
「何処!?」正面から。
声が交差する。方向が分からない。優菜が両耳を塞いだ。
「うるさい! 何処から聞こえてるのか分からない!」
「九衣、方角は」
「分からない。ネズミ君、此の声、録音と同じパターンかもしれない。前回の翼不可思議は声を記録して繰り返した。今回は、其の場其の場の声を拾って撒き散らしてる可能性がある。ただし断定はできないけど」
「断定しなくていい。問題は、本物の人が此処にいるってことだ」
声の主は本物の人間だ。不可思議が其の声を拾って、四方八方に撒き散らしている。俺たちは其の声に惑わされて、本物の居場所を見失いかけている。
「真瀬君、あそこ!」優菜が倉庫の角を指差した。
其処に、人がいた。二人。夫婦だ。倉庫の壁に背を付けて、此方を見ている。だが其の目は虚ろだ。何も見ていない。声に捕らわれている。
「あの人たちだ!」達臣が叫んだ。「倉庫街で消えた夫婦だ!」
俺は走った。だが其の一歩で、空気が変わった。
倉庫の壁が、波打った。コンクリートの表面に波紋が走る。其の波紋が、広がっていく。壁だけではない。地面も、空も。世界其のものが、輪郭を失い始めている。
異界化だ。又此のパターンだ。
「来るぞ! 全員、下が──」
言いかけた時、足元が揺れた。いや、足元其のものが消えた。コンクリートが、溶けるように輪郭を失い、其の下から黒い水が滲み出してくる。
逃げ道を探した。だが其の時、気づいた。
来た道が、消えている。
後ろを見る。倉庫の通路が、其のまま途切れている。其の先にあったはずの道が、ない。代わりに、黒い水面が広がっている。前も、横も。倉庫の壁は其のまま残っているが、其の間を繋ぐ道が一本ずつ消えていく。
「逃げ道がない」優菜の声が震えた。
「道が消えてる。何処にも──」達臣が周囲を見回した。其の手が端末を握りしめている。だが画面は既に乱れている。通信も途絶え始めている。
「ネズミ君、通信にノイズが出てる。此処、異界の境界の内側だ。前回より深い」
「分かってる」
俺は前を見た。夫婦が其処にいる。だが其の二人の周りに、又黒い水が滲み出していた。其の水が、二人の足首へ這い上がろうとしている。
「あの人たちを助けなきゃ。でも道が──」
姫華が叫んだ。「あそこ! 倉庫の裏手に隙間がある!」
俺は其の方向を見た。確かに、倉庫の角と角の間に、狭い隙間がある。其の向こうに、空が見える。本物の空だ。異界化していない領域が、其処に残っている。
「あそこへ行くぞ! 全員、走──」
又声が響いた。今度は、近い。真上から。
「逃げないで」
其の声は、今まで聞こえていた声とは違った。低い。粘りつくような声。不可思議の声だ。だが其の声は、俺たちを逃がさないように、響いている。
其の時、頭上を大きな影が横切った。翼ではない。もっと重い。空気其のものを押し潰すような質量。其の風圧で、足元の砂が舞い上がる。
「何だあれ」優菜が空を見上げた。だが其の時、又別の方向からも影が動いた。
倉庫の屋根の上に、何かが立っていた。其の輪郭が、異界の青白い光に照らされて浮かび上がる。鳥ではない。もっと大型の何か。だが其の姿は、はっきりとは見えない。影其のものが揺らいでいる。
「ネズミ君」九衣の声が響いた。「此れは前の翼不可思議と同じ系統だよ。ネットの噂だとね同種の怪異が群れで行動するケースが報告されてる。沖縄ジェイルの時も同じ種類の敵が複数確認されたって記録がある。ただし断定はできないけど」
「数は」
「少なくとも三つ。いや四つかもしれない。ソースが不確かだから断定できないけどそれ以上いる可能性もある」
「四つか」
四対四。俺と優菜と達臣と姫華。だが俺以外は一般人だ。優菜と達臣は戦えない。姫華は力を持っているが使い方はまだ学んでいない。
(此処で変身するか。人前だが仕方ない)
俺はマイスドライバーへ手を伸ばした。だが其の時倉庫の屋根の上に立っていた影が動いた。其の影がゆっくりとこちらへ降りてくる。
俺は其の影を見た。だが其れは敵ではなかった。
和服に洋服のコーデ。結んだ黒髪。大正時代の令嬢を思わせる佇まい。