PERSONA × MY-TH UNFATHOMABLE VOYAGE ―沖縄怪異航路―   作:ボルメテウスさん

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第9航路 爆炎 1/7  二人の反対

「んっ」

 

ゆっくりと瞼を開ける。

 

青い光が、目に沁みた。

 

見覚えのある空間。青い絨毯。青い椅子。青いランプシェード。其して目の前にある青い机の上に、広げられた何枚もの手紙。

 

「──ああ。又此処か」

 

身体を起こす。寝ていた。寮のベッドで寝ていたはずだ。だが今俺が座っているのは、青い肘掛けのついた長椅子だ。

 

「ようこそ我がベルベットルームへ」

 

あの声だ。

 

机の向こうに、其の長い鼻と鋭い目が在った。イゴール。此の空間の主。夢と現の狭間に在る部屋の管理者。

 

「又お眠りになっていましたね。此の部屋は、あなたの心が休息を必要とした時に現れる場所。其れは、あなたの心が又何か新しいものを抱え始めたということです」

 

「新しいもの、か」

 

俺は自分の手を見た。掌には、まだ感覚が残っている。マオウブレイドの炎を受け止めた時の、タートルシールドの重み。そして其の盾が砕け、装甲が剥がれ落ちた時の、空っぽになる感覚。

 

「イゴール。あの男を知っているか。十三代目葛葉ライドウを名乗った、赤い装甲のライダー」

 

イゴールは微かに目を細めた。其の動作が、何かを知っている人間の反応に見えた。

 

「十三代目葛葉ライドウ。其の名は、此の部屋の記録にも残っています」

 

「記録にあるのか」

 

「ええ。但し、其れが現在のあなたにとって必要な情報かどうかは、まだ分かりません。此の部屋は、あなたの旅の節目に現れる。其して其の節目に必要なものだけを、あなたへ渡す」

 

「必要なものだけ。余計なことは教えないってことか」

 

「其れは、あなたの旅路が、あなた自身の選択で決まるからです」

 

イゴールは手元のカードを一枚、机の上に置いた。其のカードには、赤い猫の絵柄が描かれていた。

 

「其の男──マオウと名乗った者は、あなたの力に興味を示しました。人の心から生まれる力。悪魔とは異なる経路を持つ仮面。其れが何なのかを確かめたい、と」

 

「あいつも同じことを言ってた。ムトンも。十二支同盟の連中は、俺の力が何なのか知りたがってる」

 

「十二支同盟。彼らは古くから此の島の異界と向き合ってきた者たちです。其の立場からすれば、あなたの力は見慣れないもの。見慣れないものは、敵か味方か、其れを確かめたくなるのが人の常です」

 

「敵か味方か。俺はどっちでもない。ただ人を守りたいだけだ」

 

「其の言葉、信じましょう。ですが、あなたの力が何なのか。其れは、あなた自身が答えを出すべきことであって、私が教えることではありません」

 

イゴールはカードを伏せた。

 

「ただ、一つだけ言っておきましょう。あなたの力は、ライドエグズを通じて発現しています。ライドエグズは、絆。他者との結びつき。其してシードエグズは、縁。小さな出会いが、力の形を変える。此の二つは、悪魔との契約とは異なる経路を持っています」

 

「悪魔との契約とは違う。十二支同盟の連中が使ってる力とも違うのか」

 

「其の答えは、あなた自身の旅路が教えるでしょう」

 

其れ以上、イゴールは語らなかった。其の沈黙が、此の部屋の限界を示していた。

 

俺は視線を机の上に移した。伏せられたカードの横に、もう一枚のカードが置かれている。其れは、俺が今まで見たことのないカードだった。青い背景に、黒い猫の絵柄。

 

「其のカードは──」

 

「まだ、あなたには見えないものです。ですが、あなたの旅路が進めば、其の意味が見えてくるでしょう」

 

イゴールは其れだけ言った。

 

俺は其のカードを見つめた。黒い猫。俺の知っている猫のライダー。リド。正体も目的も分からない、あの黒い装甲のライダー。

 

「イゴール。あのライダー──リドって呼ばれてる黒い猫のライダー。あいつは、マオウとは反対の存在じゃないのか」

 

イゴールは少し間を置いた。

 

「反対、とあなたは言いますか」

 

「マオウは俺の力を確かめに来た。俺を試した。だがリドは、人を守った。あの場に巻き込まれた人を、自分の任務の途中で庇った。確かめるためじゃなく、守るために動いた」

 

「続けてください」

 

「マオウは俺の力を奪いに来るかもしれない。だがリドは、人を守るために動く。あの二人は、同じ組織にいながら正反対の方角を向いてるんじゃないか」

 

イゴールは、其の言葉を聞いて微かに笑った。其の長い鼻の下で、口の端が僅かに上がる。

 

「あなたは、人の心を見る目を持ち始めていますね」

 

「人の心を見る目、か」

 

「ええ。力の形だけを見るのではなく、其の力をどう使うかを見る。其れは、あなたの旅路が教えたものです」

 

俺は其の言葉を噛み締めた。力の形ではなく、使い方。マオウは力を試すために使った。リドは力で人を守った。同じ力を持っていても、其の使い方で、其の人物の本質が変わる。

 

「其れは、あの二人の答えです。あなたの答えは、まだ出ていません」

 

「俺の答え、か」

 

「ええ。あなたは、あなたの力をどう使いますか。其れを問われているのは、あの二人ではなく、あなた自身です」

 

イゴールの言葉が、青い光の中に溶けていく。

 

「さあ、目覚める時間です。あなたの旅路は、まだ始まったばかり」

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