PERSONA × MY-TH UNFATHOMABLE VOYAGE ―沖縄怪異航路― 作:ボルメテウスさん
「うぅ、痛かったぁ」
ゆっくりと俺が起き上がると、寮のベッドの上だった。
全身に感じたのは、この前の戦いで感じた痛みよりも熱さ。まるで骨の髄まで砂風呂に使われたような、じんわりとした熱が残っていた。
「あっ起きましたか!」
「……達臣か、なんでここに?」
「そりゃ心配しますよ。昨日大怪我して運ばれたんですから。シャドウの炎に巻き込まれたとか」
「あぁ」
実際のところ、俺がマイスとして戦っていた時の負傷だ。だが、達臣はそれを知っていて——いや、知っていても聞かない。そういう奴だった。
一緒にいた鳳崎さんがマオウからの攻撃を受けた時の負傷を、シャドウのせいにしてくれたのも彼だ。助かった。嘘をつくのは得意じゃないが、助けられたことは素直に思う。
「あぁ、そりゃ、悪かったな」
そうして、立ち上がろうとする。
けれどやはり痛みがある。肋骨のあたりがギリギリと鳴いて、膝に力が入らない。
「無理しないでくださいよ」
達臣がベッドの横から手を差し出して、肩を押し戻す。その手は、思ったより温かかった。
「……結人」
達臣の声が少し低くなる。いつもの飄軽い調子が消えて、真面目な顔をしていた。
「正直に聞きます。シャドウに巻き込まれて、死にかけて。これ以上、活動する気はあるんですか」
重い問いだった。
ベッドの白いシーツが、視界の端で揺れている。部屋は静かで、窓の外からフェリーの汽笛が遠く聞こえた。
恐怖はある。あるとも。
炎に包まれた時の記憶が、閉じた瞼の裏でまだ燃えている。あの熱さ。あの闇。あの——圧倒的な力の前に、自分がどれほど小さいかと思い知らされた感覚。
(正直、怖い。今度死んだら、もう起きないかもしれない)
そう思う。けれど。
「……あるよ」
俺は答えた。声が少し掠れていたが、はっきりと。
「恐怖はある。嘘ついても仕方ないだろ。でも、辞める気はない」
達臣は何も言わず、俺の顔を見ていた。その目が何を読んでいるのか、俺には分からない。マスクの奥の表情——いや、達臣は仮面ライダーじゃない。でも、何かを隠している目をしていた。
「……そうですか」
短く、そう言っただけだった。納得したのか、呆れたのか、それとも別の何かを感じたのか。
それ以上、何も聞かなかった。マイスの正体にも触れない。ただ、ベッドの縁に置いてあったポケットティッシュを俺の方へ滑らせて。
「水分、取ってください。脱水しますよ」
「……サンキュ」
受け取ろうとした手が、ふにふにと震えていた。熱のせいだ。それだけのせいだ、と思いたい。
まぶたが重い。
まるで鉛の幕を下ろすように、視界が暗くなっていく。意識が泥の中に沈んでいくような感覚。抗えない眠気が、波のように押し寄せてきた。
「……達臣」
「はい」
「……もうちょっと、寝るわ」
「どうぞ」
遠くで、達臣の気配が動いたのが分かった。椅子の軋む音。ドアの開く音。
静かになった部屋で、俺は目を閉じた。闇の中で、まだ炎の残像が揺れている。
(それでも、辞めない)
それだけは、消えなかった。
翌朝、目が覚めた時には、ベッドの横にポケットティッシュとスポーツドリンクが置いてあった。
達臣の置き土産だ。あいつ、どこでこんなもの調達したんだ。寮の自販機にはない銘柄だぞ。
(……優しい奴だな)
素直にそう思う。同時に、少しだけ居心地が悪い。