PERSONA × MY-TH UNFATHOMABLE VOYAGE ―沖縄怪異航路― 作:ボルメテウスさん
朝の港道は、潮の匂いと潮風が混ざってなぜか無性に腹が減る。
「ぐぅ、と」
自分の腹が鳴った音で目が覚めたわけじゃないが、とにかく腹が減っていた。昨日の夕飯を抜かしたツケが、ここに来て牙をむいている。
(学食まで我慢するか……いや、無理だ。この空腹で三限まで持つ気がしない)
フェリー乗り場へ続く道を歩いていると、岸壁の方から声がかかった。
「おう、兄ちゃん。なんか腹減ってる顔してんな」
振り向くと、日焼けした肌に白い作業着頭に手ぬぐいを巻いた恰幅のいいおじさんが立っていた。間違いなく漁師だ。船の上で魚をさばいていた手を拭きながら、にかりと笑っている。
「え、あ、はい。まあ、ちょっと」
「だろうな。その顔は朝メシ抜きの顔だ。ほれ」
そう言って、おじさんはクーラーボックスから何かを取り出した。銀色に光る魚だった。見たこともないような立派なやつだ。
「銀二っていうんだ、俺の名前。でこれは今朝獲れたての魚だ。食え」
「いや、あの、お金とか持ってなくて」
「誰が金の話をしたよ」
銀二さんは豪快に笑った。腹の底から響くような笑い声だ。
「いいか兄ちゃん。魚ってのはな、煮ても焼いても美味いんだよ。刺身でも良し、煮付けでも良し焼きでも良し。調理法で味は変わるが、どれも美味い。それが魚ってもんだ」
「はあ……」
「つまりだな、どんな形にしたって美味いもんは美味い。難しく考えんなってこった」
そう言って、銀二さんは魚を俺の手に押し付けるように渡してきた。ずっしりと重い。まだ冷たい。
「ありがとうございます……えっと、じゃあ、お言葉に甘えて」
「おうよ。学生さんは食わなきゃいかん。頭も体もでかくならんぞ」
ペコリと頭を下げると、銀二さんは満足そうに頷いてまた船の方へ戻っていった。
手の中の魚を見下ろす。銀色の鱗が朝日に照らされてきらきら光っていた。
(煮ても焼いても美味い、か)
その言葉が、なぜか頭の中で引っかかった。調理法で味は変わる。でも、美味さの本質は変わらない。
――そこで、ふと思い出した。
(待てよ。マオウと戦った時、あいつはライドエグズを炎に包み込んで変身した)
あの時、俺の手にあったライドエグズ。マオウの炎がそれを包んだ瞬間、何かが変わったような感覚があった。
(もしかして、あれって……)
炎に包まれることでライドエグズがパワーアップしたんじゃないか? 単なる変身の演出じゃなくて、あの炎自体が力の変換装置みたいな働きをしていたんじゃないか?
(いや、でもそんなことってあるのか? ライドエグズは心の力が形になったもんだろ。炎で強化されるって理屈は……)
理屈は分からない。けれど、銀二さんの言葉が妙に腑に落ちた。
煮ても焼いても美味い。調理法が変わっても、魚の本質は変わらない。でも調理法によって引き出される味は変わる。
(ライドエグズも同じなのかもしれない。俺の手元にあるだけじゃなくて、外的な力が加わることで新しい形の力が引き出される――)
「おーい、兄ちゃん! 道草食ってないで早く行きな!」
遠くから銀二さんの声がした。俺は我に返って、慌てて走り出した。
「あ、はい! ありがとうございました!」
手の中の魚が、なんだかさっきよりずっしりと重く感じられた。
(調理法で味は変わるか。……帰ったら、試してみる価値はあるかもしれない)
その日の授業中俺の頭の中は半分くらい、ライドエグズと炎の関係性で埋まっていたのだった。