大昔、いや、言うほど大昔でもないか、ちょっと昔の話。
地球に天使が現れた、そいつらは初め地球の人々に施したり、助けたり、協力して警戒心を解いた、宇宙人だとか異次元人だとか正体はハッキリしなかったが、ともかくそういう奴らがいた。
次に超能力をばら撒いた、正確には超能力を与える種だった、人々は天使どもを益々信じ込んだ、もうこの際正体なんでどうでもいいと思うほどに。
悲劇はなるべくして起きた。
人類全体が超能力に目覚めた頃合いで天使共は地球を攻撃した、全世界一斉に恐ろしいほど素早く統制の取れた、まるで決まった作業でもするかのように襲いかかった。
警戒心や反抗心が引っこ抜かれてなくなった哀れな子羊たちは狩られていくが、天使に食らいつく狼はまだいた。
与えられた超能力で反撃を始めたんだ、天使たちはそれも想定していたはずだったが、一つ誤算があった。
──俺たちがとびきり強かった。
そう俺たちだ、あの日怪しい連中に誘われるがまま超能力で天使を殴って蹴って空に返してやった、後悔はない、天使が気に入らなかったからな、奴ら天使が俺になんて言ったと思う?
「ゲームとか堕落でしょ、仕事しろ(意訳)」
だぞ? バカじゃねぇの? 死ねとは言わないから目の前から光速で消えてくれ、そして原子に帰ってくれ。
それもあって本格的に『組織』に参加して、もう大立ち回りよ、今までの鬱憤全部ぶち撒けるように戦った、最終盤は天使の数の多さに圧倒されて『組織』も崩壊していったが、俺はまだやる気ある仲間たちと最後まで抗って、天使長だったか、そいつを仲間達で畳んでふん縛った。
じゃあこれで終わった、とは言えない。
天使長ってのは恐ろしく強かったが複数いたし、しかも上から三番目でな、絶対強者がワン・ツー揃って出てきたときは流石に死ぬと思った、まぁ最後俺だけになったんでほとんど死んでたようなもんだけど。
まぁ、そこで、死ぬくらいならと思って無茶したのさ……超能力の種をありったけ取り込んだ、自殺行為だって天使共にも笑われたが……結果俺は生きてるし、ワン・ツー揃ったバケモンを空の上に追い返したわけだ。
名実揃って俺が最強、俺こそが最強なのだと知らしめてやったのよ! あの時のドン引きした顔まだ忘れられねぇ、俺をバカ、いや……ゲームをバカにしたアホ共め、遊ぶ余裕があって悪いのか羽虫が!
という感じで天使と人間の戦いは終わった。
で、俺ももう戦う必要はなかったし、なんか死んだと思ってた仲間は皆生きてたし、天使はなぜか物凄い勢いで反省して人類に迎合した。ので大団円。
そしてちょっぴり、いややっぱり大昔だったな、時間が経った。
俺や、俺と一緒に戦った仲間たちは時代の流れとともに神格化……とは言わないが話に蛇足がついて行ってな、なんか知らんうちにえらいことになってた、もうタブーとかそう言う感じ、触れるな絶対ってやつ。
俺はそれにビビって引きこもってたが、仲間たちはまぁその辺ちゃっかりしてて各々が相応しい組織なり立場なりになっていく、俺だけ取り残されて行った。
別に一人が嫌だって訳じゃない、むしろ好きだが……なんか、自分だけ止まってるのが嫌だった、仲間は進んでいく、俺は残っていく、淀んでいく、自己嫌悪で仲間とは疎遠になったし、今はボッチのボッチッチ。
そしたら孤独だけが俺に残った、だけど見えてきたものもある、俺、実は学生生活をまともに送ってこなかったなって。
超能力に目覚めたのは中学の時で戦いが始まったのも同じ頃、戦いが終わった頃には二十歳超えてた、そして今は24の引きこもり……戦勝祝いで貰ったお金が底を突きそうになってる。
働くべし、しかし、驚くことに高卒ですらない、まともな人生じゃなかった俺にまともな働き口がない、両親もいい年だ、頼りたくない、年の近い妹とそろそろ高校生の弟がいるが、まぁ頼った所でどうにもなるまい、兄の威厳がなくなくなる! 唯でさえ暇人引きこもりニートとか思われてるのに!
超能力仕事をするのもいい案だと思ったが、アレも平和になってから学歴が物を言うようになってしまった。
俺はそれが嬉しく思うと同時にゲッソリするほどクソ喰らえと思った。
四方八方手詰まり、この世の終わりが近づいてきた。
どうすれば良いんだ、俺にはサラ金も借りることができない。
目に見えて減る貯金、押し寄せる青春への憧れ、仲間たちへの羨望と劣等感、頑張ったはずの俺の未来が先細りしていく感覚……。
正直自殺も視野に入ってきた、俺のメンタルはボロボロである。
どうにか、どうにか脱却しなければ、逆転満塁ホームランを打たなければ死ぬところまで来た。
頼れるものはあるかもしれないがプライドが許さない、プライドを元手に悩みが複利のごとく増えまくると言うのに、その元手を手放せない。
そんな俺に、福音が降りてきた。
あ、高校からやり直そう。
凄まじい閃きだった、たまたま漫画を読み漁っている時に大人が高校生をやり直すって内容を見つけただけに過ぎないが。
だけどこれがビビッときた、失われた俺の青春……欲しかった高卒資格……そして、未来を描いて前へ進もうとする俺の思い、歯車がかちっとはまり、動き出していく。
俺に必要だった全てが、高校へ行けと言っているんだ!
早速俺は大人でも入学出来そうな所を探して危うく首を釣りそうになった。
待てや、なんで二十歳超えた大人が高校行けると思ったの? 馬鹿なの俺。
いきなり急ブレーキだ、どうすんの、そもそも学費払えねーよ。
──超能力自信ニキ、頭の方は不出来。
とか意味の分からない韻の踏み方して自己嫌悪ループに入って、不貞寝の日々が続いてしまった、そして訪れた運命の日、Xデー。
残高ゼロ、終わりです。
俺は住んでいたアパートから出ていくことにした、その時、たまたまポストになにか用紙が入っているのに気がついた。
『私立マルコス・イスヴァナ超能力育成高校』
長くない? 名前?
何が書いてあるの……はっ!?
“全寮制”だと? しかも“学費無料”!? な、まさかの“共学”で“入学資格無し”なかなかの馬鹿が作った学校みたいだな、私立ってこんな無法だっけ? 超能力あるからって流石に漫画みたいに無謀がまかり通る価値観じゃないはずだ。
なんせ俺が守った平和だからな! 社会システムは諸々残ってるぜ!
誰が知ってんだよそれ……誰にもありがとうって言われてないわ、仲間内でお疲れ様でした会と打ち上げはしたけど。
そうだ、このマルコなんちゃら学校の調べてみよう、名前は見たことある程度だもんな…………おっ、お? うわょ……。
入学試験と卒業試験が激ムズ当たり前、テスト落ちたら退学、能力主義のランク制、ヤバすぎ生徒会……碌な噂がねぇ……あ、マトモなのは世界有数の超能力教師の在籍率トップクラス……あとウマすぎる学食無料。
率直な感想いいすか。
馬鹿のフルコースかよ。
強い認識改変能力をバカみたいなことに使ってるアホがいるって事なのか、今の世界はそんな事せずともアホになっているのかどっちだ?
ただ、まぁ……こんだけアホなら年齢も多少多めに見てくれるだろうし〜……ちょっと、ちょっと気になるだけだし〜〜…………
俺は既に念写によって必須項目は記入していた、そしてテレポートによって然るべき住所へ投函済みにした。
よし! 俺は意気揚々と実家へと足を進めた、来年の春、入試まで居させてもらおう、何が何でも入ってやるぞ、なんたら超能力高校!
◆ ◆
世界の何処か、その一箇所、暗い部屋があった。あらゆる情報漏洩の可能性をとある能力によってシャットアウトされている、ここは世界から切離された一角。
黒の円卓を前に、ボリューミーな赤髪を掻き上げる白衣の科学者がいた、その横に前髪で目を隠したメイドが一人。
科学者が口を開いた。
「やっとね」
「はい、やっとでございます」
メイドは答えた、2人にしか分からない裏のある言葉だった。
「
「社会は健在だった、それがあったことすら忘れてしまうくらいに……あれもこれも
「ですが、不思議です」
「何が?」
「なぜ、表へ表れようとしないのか、平和の礎、最強、人類の光、彼を讃える言葉は切りがありません、然るべき場所へ行けば彼は一生困ることなく生活できます、それだけの事をしたのでは?元に、メンバーたちはそれなりの地位にいます」
科学者はあっけらかんとして言い切った。
「彼、意外と小心者でシャイなのよ、手を自分から挙げないわよ」
メイドはしばし考え、まぁこの人が言うならそうなのだろうと納得を込めて言葉を紡ぐ。
「なるほど」
科学者はテーブルの上に置かれた資料を手に取る、ついさっき、正体不明の超能力者から送り込まれた1枚の用紙。
「『
科学者は記入された名前に、懐かしみ、はにかんだ。
“
「……我らの『