マルコス高校は広いって話したね? 試験会場に着く間、俺たちはまだそれを心の何処かで大したことがない評判だと思ってた……あらかじめ言っとくけどここやばい。
到着したそこは、右を見ても左を見ても広大な地面だけ、均一に丁寧にならされた運動場だというのは分かる、陸上競技でもここまで広い必要ないと思う。
俺達と同じ会場に来ている学生たちもその広さに圧倒されて動揺が広がった、動揺してない奴はなんかクセのありそうな感じがする奴だけだった。
俺は何処まで広いんだろうと思い視力を強化して端を見ようとした、右から左へ運動場を眺め、距離が記された看板が一直線に並んで居るのを見つけた。
『10km』
目を擦った。
『10km』
は?
「え……デッッッカ! なんじゃあこりゃ!」
「あそこに標識があるよ……『第9特別運動場』だって……大きすぎだよ……」
「少なくともあと8つこんなのがあるのか……!」
時空、歪んでない?
確かめたが歪んでなかった。
頭おかしいよ、というか日本の何処にそんな国土があんだよ……ここ本州だよな? いつの間にか北海道にいないよな?
俺も隣の玄寿もはしゃいでいた、それが悪かったんだろうな、なにか良からぬ気配のボーイズたちに囲まれてしまった。
制服は……むぅ、同じか。
俺たちを囲むボーイズたちは周囲の視線なんてお構いなし、ジリジリと範囲を狭めてくる、一歩進んで手を出せば当たる距離で止まった、結構近いぞこれ。
そしてボーイズの肩に偉そうに肘を置き、いかにも部下と上司の関係を見せつけてくる、リーダー格の金髪ボーイが現れてしまった、ステレオタイプのチンピラまだいたんだ、車輪の再発明はどこでも起きてるんだな。
そいつはニチャついたゲスい笑顔で友好的な感じに挨拶する。
「ぎゃーぎゃー言ってるのだけかと思えば……はっ……飛阿くんじゃないですかぁ〜〜? 隣はワーストのお仲間かな〜?」
まだ友好的。
「どっちもボッチ拗らせて、傷の舐め合いかなぁ〜?」
まだ半ギレ。
「ま、何やったって試験落ちるだろうけどね、ボクたちのジャマ、しないでね? ワースト君たち」
そろそろマジギレしそう、血管温まってきたぜ……。
「あ、あの……! こちんぴらくん!」
「東風平だ! こ! ち! ひ! ら! コチンピラって言うんじゃねぇ! なめてると潰すぞっ! あ??」
凄む東風平とか言うやつ、なかなか様になってるが……こチンピラ呼ばわりが聞いたのか周りからクスクスと笑い声が聞こえてくる……本人はそれで更にご立腹したようだが、勇気あるな玄寿。
「あ……ごめん……で、でもシンジ君は関係ないよ! ……万年ワーストなのは僕だけだ……」
「で? 庇ったたところで君と同じっぽいけど? この……お前そう言えば顔見たことないな……? はっ、よっぽど成績下位だったんだろうなぁ〜」
いちいち腹立つな……そろそろ手が出そう……! だが、ここは玄寿の顔を立てて、止まる、俺偉いぞ。
必死に怒りを抑えている所に、東風平は顔を覗かせてくる。
「おいおい、君、こんな雑魚と絡んでると君まで無能になるよ? くくっ……いや失礼……もうそうだね、なんせ仲良くお話するくらいに程度が似てるんだもんねぇ」
すぅ…………はぁ…………
「お前、身体強度に自信は?」
「は? いきなり何? ……まぁ君より高いよ? なんせ中学一位だから、それなら勝てると思った?」
2……4……8……16……32……64……これでいいか……。
運動能力、全身の筋肉と神経、関節を64倍に強化……この距離なら最高の打撃で人体の弱点である正中線を狙える……半殺しならいいよね? いいよなぁ!
拳を握り込んだ瞬間、思考に割り込むように声が飛ぶ。
「おい! そこで何やってんだ〜!」
あ、やべ! 抑えよ……。
声の主は東風平ボーイズに割って入り、あっちいけと追い払いって散らしていく、いくら東風平ボーイズでも大人が怖いようだ。
東風平と俺、玄寿はどうやら逃がしてくれないようだ。
「私は今回の君達の試験を管理する、教師の天笠だ、血気盛んなのはいいが一方的な行為は看過できないぞ」
天笠先生と呼ばせてもらおう、この天笠先生は上下が紺色のジャージで、髪をツーブロックにしたスポーツ系男性に見える、眉が厳つい真面目そうな顔つきで厳しそうでもあるが、目は優しさを感じる。
ちゃんと生徒を見ていそうないい先生に見えた。
ここで俺は反省した、いい大人が子供の喧嘩にマジになってはいけない、と。気持ちまで若返ってはいけないな。
「すんませんでした」
「うん……それだけで許されはしないが、素直なのはいい」
良い人そう。
俺は謝ったが、一向に東風平の声が聞こえてこないのでそっちを見ると……なんか化け物か幽霊か見たような衝撃的な顔をしていた、その瞳孔が開いた眼で天笠先生を見ていた、その天笠先生は首を傾げてた、俺も傾げた。
玄寿は……玄寿!? お前までびっくりしないでくれ! 俺もびっくりしたわ!
「あ、ああ、天笠さん……! 天笠一心流の総師範…………日本チャンピオン……!」
「ん? 私を知っていたのか……それはいいとして、イジメは良かないぞ、ちゃんと謝るんだ」
「あ、すすす、す、すいませんでした〜〜!」
東風平はボーイズを置いてきぼりにして何処かへ逃げていった、この広いから何処までもいけそうだよな……。
東風平が逃げたら次は玄寿が喋りだした、お前どうした?
というか周りの学生たちもざわざわし始めるし、天笠先生って何者なの?
「天笠結心……さん!」
「君もか、今日はファンが多いな」
「ぼぼぼ、僕は! 飛阿玄寿と言います! ……お会いできて光栄です! ……ん、っ〜〜はぁ〜〜っ」
「おいおい玄寿呼吸くらいはしろよ、で、天笠先生ってそんな有名人なの?」
…………場が凍りついた。
あ、本人の前でそれ言っちゃだめだよな……そら皆黙るわ。
「あ、すんません、失礼な事を言いました」
「ん? あぁ別に気にしない」
……まだ凍ってるけど? この春の陽気ですら解凍できないんですか? 論点もしかしてこれじゃない?
玄寿? なぜ俺をそんな化け物を観るような目で……おい! それさっきの東風平のパクリだろ! 分かっててやってんだろ! ……玄寿のかなり遠くの背後で東風平と東風平ボーイズもドン引きしてた、お前ら実は仲いいだろ。
しかしなぜ俺を見てる……?
皆が凍って俺が困惑していると、天笠先生が申し訳なさそうに言い出した。
「一応……というか、多分……私が『日本超能武術大会』のチャンピオンだから……だ、多分……たまにこう、知っている者とそうでない者がいるとこうなる、すまんな、最近優勝したばかりで、私も実感はないんだが」
……これってもしかして、もしかしなくても俺が悪くない? 皆知ってるレベルなのに知らなかったの相当ショックなんだけど。
これもニートしてたせいか……世間に疎くなっていた……反省……。
「……ん! 時間だ、試験開始だ! 皆! 今から私の説明を聞いてそのとおりにしてくれ!」
凍っていた皆はやっと動き出したが、やはりというか、試験が始まったものの、視線が俺に集まっている……。
浮いたな俺……浮いちゃったなぁ……。
玄寿、いい加減俺を信じられないものを見た目で見るのをやめてくれ。