「おほん、改めて自己紹介をしよう、私は
と言って運動場の隅に並んだ俺たちに背を向け、運動場の反対側の端を指さした……まさか。
「端から端へ、移動するんだ、なるべく早く」
……10km歩けと?
「もちろん、ただ移動するだけではない、君達の超能力を自由に使っていい、仲間を作って協力するのも構わない、その代わりに在校生からの妨害と隠された障害がある……それを凌いで反対側まで移動出来ればOK、しかし、ゴールだけで合否決める訳では無いということを肝に銘じておいてほしい、だからゴール出来なくとも落ち込むことはないし、諦める必要もない、頑張ってくれ」
天笠先生の言葉に皆がどよめく、自分自身の超能力に馴染んでる奴はそう多くないだろう、しかも体力を確実に削られる10kmという距離、考えることはいろいろある。
「超能力者の障害物レースだね……めちゃくちゃ危険そうだけど」
玄寿の言う通り、障害物レースになるな、とびきり難しいぞ。
東風平が性懲りもなく俺たちへ再び近寄る、俺は止めないが天笠先生がしっかり見てるぞ。
「怖気づいたかな? ワースト共」
「す〜っ……こ、東風平くん、なんでそんなに僕たちに突っかかるんだよ……!」
「ここが何処かを考えれば分かるんじゃないかな? いくら資格を問わないからって……弱いやつは必要とされないよ?」
いちいち癇に障る野郎だ……っ!
玄寿が居なけりゃ殴ってるぜ……ほら見ろよ天笠先生も視線が強まってんぜ?
しかし東風平は喋ることをやめない!
「ここは日本、いや、世界で一番の超能力育成校だ、世間の反感をもろともせずに強く優れた超能力者を輩出してる……どうかな? 君たちは場違いに思わないか? 期待値を下回ればすぐに退学だって言うじゃないか……ねぇ? 伸びしろもなさそうな君たちにここは相応しくないよねぇ?」
さっきの続きだなこれ……どんだけ弱いやつが嫌いなんだ、強さそのものにコンプレックス拗じらせてんのかよコイツはよぉ……。
俺は良いとして玄寿がどんどん俯いていく……中学で一体何があったんだ……あとで聞いてみよう。
天笠先生が動き出し、いよいよスタートの号令が鳴らされようとしている、スタートが間近に迫り空気は一気に張り詰めていく。
東風平もそれを感じ取り、去り際に言葉を残して東風平ボーイズの方へ向かった。
「じゃあ期待してるよ、不合格をね」
◆
昔から僕は気弱だった、何をしても上手くできなかったから。
ある日、天使に出会った、そして力をもらった。
日常が変わった、僕は変わったんだと思った。
けど、それは世界全体が変わっただけだった。
僕は気弱だ、何も成功させることができない、うまく行かない、昔よりも今のほうが強く思う。
小学校になかった超能力の試験が中学校ではあった、当然僕は成績最下位、一度もそこから抜け出すことなく卒業を迎えた。
僕は中学校には良い思い出はない、卒業式も無感動に終わり、僕の隣で泣いている名前も知らない同級生を理解できなかった、何も寂しくない、悲しくない、むしろ解放された心地良さが残った。
僕は進学をするにあたって新天地を目指した、誰も居ない、誰も目指さないだろう場所、誰も僕を知らなくて無関心で居てくれる所へ。
それが、世界で最も超能力に長けた高校だったと言うだけ。
ダメ元で受けた、元々ダメな僕には今更だから。
ほとんどの受験生は『反逆同盟』に夢中だ、現実に起きた神話のヒーローたちだから、皆目標にしている、彼らのように『強く』『派手に』『社会で認められる』そんな人間を目指している、最近ではヒーローも職業になりつつあるから就職を考えれば間違いでもない。
僕はどうでもいい、平穏であれば、だから良いんだ、僕はこれで──
「玄寿、どうする?」
「え?」
彼の──シンジ君の──声が僕の意識を無意識の海から引き上げた、中学の超能力テスト通年一位だった東風平くんに何を言われても引き下がらない、肝の座った僕も知らない同じ中学の同級生。
僕は彼のことが気になった、勘が理由だったけど、それはあっているような気もする。
実家である寺を継ぐために修行をしていることもあって、色んな人を見てるし、父の背中から様々な人間への対応と言う物も学んでいるつもりだ。
その経験則から言うと、シンジ君は大人っぽい、ただ大人っぽいんじゃなくて本当に中身が大人なんじゃないかと思う、それくらいどっしり構えてると言うか、繊細さがなくていい加減なんだ。
見た目と中身がチグハグな不思議さがあって、気が付けばこんな僕でもこうして仲良く話が出来る、話しかけたのは僕だけど、すんなり受け入れてくれた彼の気前良さもある。
「おい玄寿? 玄寿さん? 聞こえてます?」
「あ、ご……ごめん!」
「おいおい謝んなくていいって、と言うか言われっぱなしで良いのか?」
「それは……でも……」
東風平くんの事か……僕は最下位で彼は一位だった、実力差がどれだけ開いてるか分からないけど、頑張ってどうにかなる差じゃないことは確かなはず。
そもそも僕はダメ元で来たんだから、ここで彼に突っかかる必要もない。
「まぁこれは俺の勝手だけどさ、嫌なんだろ? 東風平の態度、やり返したたくてたまらないだろ?」
「う……!」
「東風平のヤローにガツンとやり返そうぜ? 下克上ってのがあるんだって見せつけて、こう」
彼は中指を立ててた。
そ、それは流石に僕のキャラじゃないっていうか……。
「上から物言うだけで協調性もクソもない奴にはこれで十分、それに俺がいる、あとは玄寿がどうしたいか、やりたくないならもう言わない」
……東風平くんは確かに嫌な奴、何でもできるし仲間も多いし、僕みたいなやつを徹底的にイジるし……何より自分が一番だから何してもいいと思ってる。
まるで神気取り、だけどもうヘコヘコしてやるもんか……!
「僕やるよ……東風平くんを見返してやる……!」
「おお……勇気出したな!」
彼はすぐに前を見た、その視線の先には……天笠先生。
運動会で使うようなピストルを上に構えて、そして引き金に指を当てていた。
広大な運動場にいつの間にかまばらに人影が立っている、いくつもの視線を感じる、あれが言っていた在校生の妨害なんだろうね、更に見えない罠もあって中々スリリングな試験だ。
「準備が出来たようだな、では……よ──ーい!」
──パァン!
乾いた破裂音が鳴り響き、数百人の学生が一斉に走り出した。
僕らも少し遅れて走り出す、隣にはシンジ君がいてとても心強い、こんな僕でも試験が無事に乗り越えられそうだ。
走り出しながら彼は言う。
「所で見返すのは良いがやり方は?」
考えてなかったの!? そんなの僕も考えてないよ!
あ、でも……プライド高い彼の事だし間違いないのが一つ。
「僕たちが先に……ゴールする!」
「分かったそれでいこう!」
走る学生の集団、その戦闘に僕らの目標がいる。
この試験は僕にとっては入学試験じゃないかもしれない、過去との決別、新しい自分のための、卒業式にするんだ。
卒業式は感動的に終わるものだって、誰かが言う、ならこの勝負も感動的な最後になってこそ。
僕は東風平くんに勝つ、勝って自分を信じるんだ。