走る走る俺たち底辺組、もちろん底辺などと欠片も思ってないが東風平のヤローがそういうイメージを学生全員に刷り込んでくれたおかげで逆に相手にされないのだった。
クソか? 風評被害もいい加減にしろと言いたい。
ただ、今だけ許してやろう、誰にもマークされないってのは走りやすい、そもそも一番後ろだけど。
俺はともかく並走する玄寿は走り慣れてないのか、息が上がって辛そうだ、肩を貸してやりたい気持ちもある、だけどこの試験は玄寿から東風平へのやり返しって意味もあるんだ、俺が簡単に手を貸すこともないだろう。
「はぁ……! はぁ……!」
「どうした玄寿、息が上がってるぞ」
「え? 結構……走ってるよ……!」
「まだ2キロ走ってない」
「…………!?」
玄寿がこんな調子だからな……俺たち最後尾から張り付いて動いてない、先頭集団から離れること一キロ後方だ、かなり離されたな……だがまだ10のうちの2だ、どうにでも巻き返せる!
…………本当にどうにもなんないなら俺が時間止めて玄寿と一緒に一位になる、クソ平のプライドにクソ塗りつけてやるので覚悟しろ。
「ちょ…………ちょっと休憩……!」
「やめとけ、後ろ見てみ」
「え……ひぃ……なにあれ……!」
「スタートして暫くしたらいた、恐らくあれが脱落ラインだろうな」
在校生が群れをなして俺たちを追いかけて来ている、一応横並びで走ってるあたり、何かラインがあるんだろう、時間か人数の脱落ラインが……それが来たら多分一気に追い上げてくる。そんな気配がする。
「な? 気合い入れて走ってこう」
「うへぇ〜……!? ……と、というか……ふぅ……ぅふ……どうして息が上がってない……のっ!」
「身体能力を四倍してるんだよ」
「えぇ! ……四倍かぁ……すごいなぁ……」
「そうでもないだろ、強さで言えば平均より下くらいだろ?」
「平均って……はぁ……うっぷ……」
玄寿のフォームが崩れたから腕を引っ張って支えてやる。
少しスピートが落ちてきたので後ろをみると、足並み揃えて迫る在校生たちの行進に思わず苦笑いが出た、この学校ってどういう訓練してらっしゃるの? 戦列歩兵でも育成してる?
「ご……ごめん……!」
「全然、これくらい」
「ねぇ……何倍までやれるの……!」
「……16」
「すごいじゃないか! ……うっ、はぁ、はぁ、すぅ〜……東風平くんに……勝てるかも……!」
全然本気じゃないけどね! 本当なんだからね! 本気出したら天使だって一撃必殺出来るんだからね! ワンパンチよワンパンチ!
「所でさぁ……シンジ君の……能力って、何? ……身体能力を……倍加? …………ゲホッゲホッ……」
「……そんな感じだな」
「はぁ……はぁ、名前は?」
「……名前?」
「そう……超能力を……役所とか病院とかで個人情報の一つとして……申請するでしょ? ……その時使う……名前……! それ……!」
そういやそんなのあったな……あるにはあるけど素直に言えばバレるよな……俺が『反逆同盟』にいたことが。
能力名だけが知られてて本名知られてないの軽くバグだろ、もしくは気を利かせた日本政府の計らいかな。
俺は少し悩んで結局は能力名は偽名を使うことにした、それと能力も一つに縛るようにする。
「能力名は『
「はぇ……凄い……でもなんで……それで中学の成績が下……というか、はぁ……はぁ……」
「言わんとすることは分かる、この能力は単に身体能力の倍化だから、バリアなりビームなり、そういうのに弱いし、倍率が低いとちょっと鍛えた大人程度でしかないし、高いと維持するのが難しい」
「ああ……なるほど……」
ごめん……嘘なんだ……だけど許しておくれ……ここで言えば君まで俺の巻き添えになるからね、いずれ話せれば良いね、そのときは俺の正体は墓場まで持っていってもらうが。
──ドッカァァァァァン!
突然、前方の先頭集団が弾けた。
「うぁぁっ!?」
「きゃぁぁっ!」
「かあさ──ーん!!!」
「ひあやぁぁぁぁ!?」
吹き飛ぶ学生の群れ、舞い上がる爆煙と砂煙、そして……何事もなかったように立つ、攻撃を繰り出した在校生たち。
直後、アナウンスが入る。
『ご安心下さい、理事長の超能力によりダメージが無効化されています』
「聞いたことはあったけど……本当なんだ……!」
「…………はぁ、マジで? この学校マジでどうなってんの?」
日本国憲法、息してる?
というか理事長何者なんだ……ダメージ無効化の能力ってイカサマすぎるし、それを教育現場で乱暴するのに使うとか頭が相当イカれてるだろ! そして戸惑いもなく超能力ぶっ放す在校生もイカれてる!
「ねぇ、むしろ合格しないほうが良いような……」
「奇遇だな……俺も丁度そのこと考えてたんだ……」
俺は背後を見た、足を止めてないのにジリジリ寄ってきている在校生の列が見える、今は死神の列に見えてくる、あの一人一人の引き金が軽いとわかると……こう、結構来るものがあるな……。
うかうかしてるとマジでゴールする前に死ぬんじゃないか? ダメージないとは言え気絶とか窒息とかあるだろ……!
更に、アナウンスが響く。
『試験協力中の在校生の皆様に通達です、追い込みを開始してください、繰り返します、追い込みを開始してください』
「死ぬの僕ら」
「生きて帰るぞ」
その瞬間──
「ぎゃぁぁぁ!」
「ぁぁぁ!」
「なんでこんな目にぃぃぃ!!」
縦に伸び切っていたゴールを目指す集団は横合いから十全に能力を発揮した組織だって動く在校生が襲いかかり、緩く陣形を保っていた箇所を完全に食い破った。
戦争である。
背後の在校生たちも一斉に全速力で走り出した、前門の虎、後門の狼が出来上がっている……。
先頭集団では辛うじて生き延びている学生たちが各々能力を使って抵抗しつつゴールを目指していた、その先頭を走るのは東風平だ、奴は見えない力でバリアを張ったり跳ね返すことで難を逃れているようだ。
「うわうわうわきたきたきた後ろきたよっ!」
「走るぞ! 死ぬ気で走れ!」
玄寿の腕をガッチリ引いて俺は走る、風を切って走るがあくまでも玄寿に合わせているので全速力を出した在校生から距離を取ることは出来ず、三キロメートルラインでは手が届きそうな距離に近寄られている。
「単位だぁぁあ!」
「逃がすな! 追え! 補習回避のために!」
「俺の夏休みぃぃぃ!」
「退学は嫌だ退学はいやだっ!」
「雑魚狩りだぁぁっ!」
鬼気迫る在校生の群れに絡まれてしまったが、ここから逃げるよりも相手をしたほうがよい、幸い先頭も在校生に絡まれて遅々として進んでない、俺は足を止め俺たちを執拗に狙う5人組に向き直る。
「玄寿!! 先に行け!」
「えぇっ!」
「大丈夫! 俺が倒し切る、だから玄寿は先にいけ!」
「そんなのできないよ!」
5人組からは火が出る、水が出る、鋼線が飛ぶ、剣が舞う、そして地面がひっくり返るような揺れがあちこちから伝わってくる。各方面で戦いが勃発している、ここはもう紛争地帯だ。
「いけ! あとで追いつく!」
「ヒャッハー! まず一人ぃ!」
「行くんだ玄寿! 東風平に勝つために!」
「くっ……シンジ君! 絶対追いついてよっ! 絶対だからね!」
玄寿が行ったか……よし!
玄寿の背を見送り、その背中を追おうとする5人組のうち2人を止める。
「ベリーマッチョと行こうか、16っ」
超能力を発動させ瞬間的に16倍へ引き上げ、俺の両脇から抜けて行こうする所をダブルラリアットで引っ掛けて、そしてそのまま残りの三人の方へ投げる!
「そぉい!」
「「ぐぇっ!?」」
「トーマ! リョウ!?」
さぁ、青春拗らせおじさんが青春拗らせボーイズを相手してやるぜ。
◆
簡単な、簡単な単位だと思ってたのに。
「おらっ!」
「タカシーっ!」
俺の後輩で剣術部の2年のタカシが何もできずに投げられて、腕の関節を立ったまま決められてた。そして
──ゴキン!
「まず一人……!」
「ひぎぃ! …………」
「なーるほど、関節決めたら痛いか、どうやらダメージ無効の対象は超能力とその余波、それもダメージ量にキャップがあり、身体強化でも引っ掛かるあたり融通がきく優秀な能力だな……」
奴は、あのシンジとか呼ばれた受験生は違う……慣れてる、喧嘩慣れじゃない、状況が意味分からないなかで冷静でいることに慣れている、もうすでに理事長の能力を解析し始めてるのもおかしい、何処でそんな胆力が身につくんだ……!
「こ、こんな事で夏休みを諦められるかーっ!」
「行くなリョウ! 無茶だ!」
火を纏う拳を持つ2年のボクシング部のリョウは果敢に突撃して、ボクシング部仕込のジャブやフック、ストレートを連続で繰り出すが、シンジと言う奴は軽いステップを三歩踏むだけで全て躱し、最大限の力ではなったストレートをあっさり見切ってから腕を掴み、そのまま背負い投げで背中から叩きつけ、トドメに
「ぐぁ」
「2人目……思ったより強いな、本当に高校生か?」
その発言は正直舐めてるとしか言いようがなかったが、俺たちはまだ負けてない、2年水泳部の水を操るトーマと2年料理部の鋼線を操るユウ、そして留年中の3年サッカー部の俺……俺の能力は身体能力の倍加がメイン。
この高校へ入ってか分かったことは身体能力の倍加というのはありふれた超能力だったということ、能力名は違えど皆似たり寄ったりの能力だった、だからこそどう鍛えるべきか、どう運用するべきか、その道筋ははっきりしていた。
だからサッカー部に入った、咄嗟の判断やチームワークを養い、身体強化の倍率をなるべく高くなるように鍛えた。
修行に夢中になって留年してしまったが、その分身体能力では誰にも負けないと自負している……『
自負を胸に、足りない単位を取得するため目の前の入学希望者を刈り取ることに躊躇はない。
「トーマ! 奴の動きを止めろ! ユウは拘束を! 俺がアタッカーになる!」
「オッケー!」
「任せます!」
散った仲間のため、俺たちの単位の為、一人で多く倒す!
トーマが奴に向け高圧のウォーターカッターを放ち、地面をぬかるみに変えていく、同時に薄く霧も出来ていく、奴は避けているが狙いまでは分かってないようで、最小限の動きしかしない。
次にユウが鋼線を発生した霧の中を走らせる、死角から線を走らせウォーターカッターを避けたタイミングを狙って手足を纏めて縛り上げる。
「うぉっ!」
脚と脚、手と手、ユウの鋼線で縛り上げ、更に動くほど締まる特別な結びを施したそれから逃げられる奴は居ない。
しかし、妙な慣れを持ったやつだ、油断なく俺は最大倍率の30倍で思い切り意識を刈り取るつもりで顔面を狙い蹴る。
この最大倍率30倍は3年訓練してやっとたどり着いた俺の力、500まで上げられる
この瞬間、この一撃は確かに最高の一撃だった。
踏み込み、関節の動き、そしてインパクトの瞬間まで一部の油断もなかった。
なのに、なのにだ。
──パァァァァン!
「……冗談じゃねぇ」
「結構焦ったぜ、16倍の範疇じゃやれること少ないし」
コイツは、全く無傷で鋼線を引きちぎり、俺の蹴りを片手で受け止めた、すかさずトーマのウォーターカッターの援護射撃が飛ぶが。
「こいっ」
逆に鋼線を掴んで引っ張りユウを引き寄せ盾にした、俺を片手で押さえつけているにも関わらず余裕そうにそうする。
「ユウ! 避けろーっ!」
「無茶ぃう……ぐぅっ!」
俺が叫ぶのも意味はない、ユウは背中に大きな裂傷をが出来た、理事長の能力により見た目よりもかなり軽傷だが、在校生側はそれほど痛みを抑えてはいない。
「で、こう」
「ぶっ……」
「これで三人」
ユウは顎を掠めるように蹴られ気を失った、俺は分かる、あのテクニックはそこらの学生が使えるような技じゃない、教員や理事長から目を掛けられるような上澄みちが使う必殺の技だ。
「こ、こんなんやってられっか!」
トーマは逃げる、だが
「グッとして……」
──パチッ。
「ぎっ」
「四人だ」
奴が軽く人差し指を弾くと、圧縮された空気が弾丸状に飛んで行きトーマの後頭部に当たった、強化状態で目で追えない、異常な速度だというのは分かった。
目が俺を捕らえた、さっきから力いっぱい動かしているのにまるで巨木のように微動だにしない、巨大な岩石だってまだもう少し動いてくれると言うのに。
「お前も身体強化か、結構伸びしろありそうだな……ま、今は俺の勝ち、数年後が楽しみだよ」
奴は俺の耳元で指を鳴らした。
俺の意識は急速に闇の中へと落ちていく……。
そして、目覚めた時、やっと自分が完膚なきまでに負けたんだと悟った。
もう1年、留年となった。