勇者がいろいろ嫌になって田舎に引っ込むおはなし   作:試行錯誤

6 / 6
群れるのは大嫌いな記憶

 

『緊急! デストロイヤー!! 左翼から8体出現! 突っ込んでくる、後10秒ちょっと! バシオン様!』

 

『バシオンより左翼軍へ、バシオンが迎撃する俺が対応する、各部隊配置そのまま! イルザー、付いてこい!』

 

『キルディスより戦術偵察! 前方、敵軍後方に更なる増援を確認! 平均レベル300万レッサーデーモン種とその亜種! 数は約10万匹規模! 魔法系混在! 異常個体を多数確認! レベル700万デーモンロード種も混在、会敵までおよそ10分……訂正! 敵集団より魔法戦開始! 火炎、雷撃、氷弾、毒砲多数! 着弾まで30秒以下、呪言が飛んできます! 右翼に更なる敵増援あり、亡者が湧いてきます!』

 

『バシオンよりレベル100万以上の魔術師へ! 各部隊レジスト開始! 中衛及び後衛の遊撃魔術師は魔法戦闘を防衛戦重視に移行! ギルバート! アイリス! バルダー! 魔法防御戦指揮を任せるぞ! 前衛は戦線を押し上げろ! ガドラム! 敵の主力を早く減らせ! 優先撃破は魔術系、指揮官クラス、異常変異個体! アトレイユは乱戦になる前に敵を吹き飛ばせ! 全軍の援護を並列して続行!』

 

『やってるだろうがよぉ馬鹿やろう! 一番前に居るんだぞ!? 敵が多すぎんだ何だよこの数はよぉ! 下級魔族と狂獣と悪蟲と亡者の群れ! 右も左も地平線まで埋め尽くす勢いじゃねえか事前情報が全然ちがうぞ!? 嵌められたんじゃねえのか!? ガトラムよりくそ司令官バシオンへ!』

 

『アトレイユよりド無能勇者へ、サボってるとでも思っているのか!? 誰がこの面倒くさい広域念話網を構築して繋いでると思ってる! お前のワガママのせいで戦域内のテンミリオンオーバー全員をほぼリアルタイムでやり取りさせてんだぞ!? 私のオーラ運用能力に泣いて謝れ! そこらの魔法使いだったら演算処理で脳が爆発してるからな!』

 

『バークレーよりバシオンへ! 本陣周辺にフラッシングビートル複数出現!  被害増大中、ヒーラー部隊とサポーター部隊に死亡発生! バルダーとゲイグが戦死!』

 

『バシオンより紫! 本陣へ行け、蟲を排除しろ! 仰天の爺さまを後方へ展開! まだ助かる連中は離脱させろ、死なせるな! 後方との連絡路確保! バルダーとゲイグの代わりにエルシャル、レベッカを魔法戦へ参加!』

 

『紫からバシオン様へ。最後方、二方向より波状攻撃の予兆あり、後方のジェルジャン市との退路が寸断されかかっています、仰天様とカシーネ様が対応中、手が足りません。フラッシングビートルは現在対応中、処理完了まで約1分以下』

 

『寸断させるな! バシオンよりバークレー、ダルエルトン! 最後方へフォローに行け! ダメそうなら早めに泣きついてこい、行け! 紫は蟲を排除してから退路確保の援護! 目処がついたら戻ってこい中衛遊撃に入れ!』

 

『前衛軍ガドラムよりバシオン!! 新手だ、魔法支援系!! 狂獣の異常変異確認! そこらの雑魚が急速に進化してやがる! どっかのクソが異常変異させてやがるぞ、潰さねえと雑魚が1000万越えてくる! 強化してる奴を探して潰すから戦線を離れるぞ! 俺は現地を離れる聞こえてるよなぁ!?』

 

『バシオンより前衛へ! ガドラムが遊撃に移る! 代わりにバシオンが前へ出るぞ! 俺は前だ! イルザー、残りのデストロイヤーを始末しろ! 更なる増援に注意! バイバルス聞こえるか! イルザーと協力してデストロイヤーを片付けろ! ファゴルは中衛に戻れるか!? ミンリャンと共同で右翼軍援護へ! レベッカは広域魔法防御に移れ!』

 

『キルディスよりバシオン様!! 緊急! 右翼第4軍上空に新手の超越存在が出現、狂獣類の飛行型、推定レベル4000万以上……伝承記録にあり、コカトリス種族の狂乱王クラス! 個体識別名はハイウルガ! ブレス攻撃が来ます! アトレイユ様が迎撃に! 援護にいきます許可を!』

 

『却下! そのままやらせろ! アトレイユに任せる! 援護の許可はしない却下! お前は現地点で警戒戦闘続行!』

 

『しかし単独で孤立しては……!』

 

『キルディスは現戦域で戦闘続行! お前の役目は奇襲警戒だ乱戦に引きずられるな! 紫とお前が死んだら警戒体制が潰れる! 各軍団、奇襲を警戒! 敵がそこら中から出てくる、軍団長は後退の用意……』

 

『レベッカよりバシオン! ギルバート戦死! 広域魔法防御に穴が空きます!』

 

『エルシャルよりバシオン様! アイリス様戦死! 本陣に被害増大中、上空より更なる敵増援を確認! 狂獣! 異常変異の鳥型、推定レベル250万、規模約5千から1万匹! 広域魔法で焼きます援護を!』

 

『バシオンよりバイバルス! デストロイヤー対応を中断! 本陣援護に行け! ジェルジャン市のベルリネッタに連絡! ルトレナ、ラシャの部隊を前進させて魔法戦闘に参加させろと……』

 

『キルディスよりバシオン! アトレイユ様が集中攻撃を受けています! フィデリアーニ様が援護へ!』

 

『止めさせろ! フィデリアーニは中衛に留まれ! アトレイユなら何とかする! いや、フィデリアーニは後ろへ行け! 本陣周辺で負傷者の回復を』

 

『広域レジストに失敗! 大量の弾幕魔術が突破してきます……後方第5軍の複数部隊に麻痺と洗脳がかかりました! 突破してきた敵に蹂躙されています、救援を出さないと……第3軍所属のエルパ大隊、デルクルス大隊に洗脳同士討ち発生、アンデッド発生、病毒発生! イルザー様が対応へ向かいました! 右翼第3軍の戦域にデストロイヤー新手が出現! 対応するテン・ミリオン・オーバーが足りません……!」

 

『バシオンより第3軍へ、陣形散回しろ! 被害を抑えろ! 右翼軍のレベル500万オーバーはデストロイヤーへ対応! 3名一組での戦闘を厳命、魔術師は援護! デストロイヤー処理を最優先しろ! ミンリャン動けるか!? 右翼軍を援護! 最後方は仰天とバークレーで維持を……足りないか……!? エルシャルかレベッカはどっちか動けないか!? 動けるなら右翼を援護』

 

『キルディスよりバシオン! 空間汚染が開始! 更なる新手が来ます! 霊体系、眷属多数! ……識別が、こいつ、超存在アルゴンヴェー!? 北方に居たんじゃないの!? 推定レベル5500万以上の大怨霊! 左翼第2軍第1師団の上空に出てきます! 対霊体戦闘のできる人を!』

 

『ファゴル戦死! ミンリャン反応無し! 左翼の一部が包囲されかけていま……訂正、自爆戦闘に入りました! 時間稼ぎに入った模様! 敵を道連れにすると合図が……第2軍団長ヴォルティス男爵戦死! 第3軍第2師団長リラー男爵戦死!』

 

『…………バシオンより全軍へ! 戦線を後退! 戦線縮小する下がるぞ! 現戦線を放棄してジェルジャン市の近辺まで下がる各軍団長に通達、タイミング合わせろ、孤立する部隊を出すなよ! ガドラム、アトレイユ! 早く敵主力を減らせ! いつまでやってんだ!? 新手が来るんだぞ! とっとと片付けろ!!』

 

『アトレイユより無能勇者……こっちの苦労も知らないで……! 文句があるならお前がやれ! ……私は単独戦闘でも持つから味方を早く下がらせろド無能が! 右翼の半数は各所で押されぎみだ、全軍の救出はかなり不可能。

 味方の巻き添えを覚悟で消し飛ばす……諦めろ、いいな!?』

 

『ガドラムより腐れ司令官のバシオン死ね! 状況悪い後退不可能! 強化魔法をばら蒔いてる奴は眷属召喚しまくってて追跡困難! かなりヤバそうな相手だ、何でこんな状況でやらなきゃならねえんだよ! くそが! 元老院のくそどもは皆死ね! 前衛で地中震動を確認、潜行する奴だ、たぶん地中ワーム種が出てくるぞ規模から約数百匹以上、全部大型! 前衛第一軍を狙ってる、移動させないと死ぬぞさっさと決めろ!』

 

『紫よりバシオン様、緊急。後方ジェルジャン市のベルリネッタ参謀長より、推定レベル2000万級の鬼属複数が都市内に強襲。現在市街戦を展開、眷属も多数接近中、迎撃戦力不足。ゴンフィル戦死、イズー戦死』

 

『バシオンよりアトレイユ! テレポートしろ! 空間転移! ガドラムとお前がジェルジャン市内へ飛べ! お前らが行けばどうにかなる! 二人で行け! これで後方の都市を落とされたら下がる所がなくなる! 早くしろ!』

 

≪馬っ鹿、お前バシオン……私が離れたら広域念話網が崩れるぞ戦力配置は!?

 さすがにこの距離じゃここまでの維持は不可能だぞわかってるのか!? 紫の分体も限度が……! だいたいハイウルガとアルゴンヴェールの相手は誰が……!?≫

 

『いいから行け! ガドラムとお前だけなら6秒で飛べる、早く座標演算してテレポート発動させろ! 長距離転移はお前しかできん早くやれ! バシオンより全軍へ! 広域念話が崩れるぞ! 紫、分体して各軍団に別れろ! 各軍は後退開始、バシオンが最前衛で遊撃しつつ広域魔法戦闘に入る、以後は部隊ごとに下がれ! 殿軍は俺がやる……バークレーとイルザーはハイウルガを相手しろ! 時間稼ぎでいい! アルゴンヴェールは俺が……』

 

『アトレイユよりバシオン! 空間転移不能! アルゴンヴェールが魔法妨害してきやがる! 転移中止、魔法戦に入るぞ左翼軍が巻き添えになる、こいつらを守ってやるだけのリソースがもう私には無い……! 対応能力が不足! 下の味方が吹き飛ぶが諦めろ!! 私は巻き添え覚悟で始める! いいな!? 指示は待たない全力戦闘開始……恨むなよ! バシオンはそのまま前衛へ行け! ガドラムの馬鹿がヤバいぞ!』

 

『ガドラムよりバシオン! 敵軍の最後方に魔界貴族確認! 推定レベル8000万級以上! 侯爵級の可能性大! 眷族が多……受肉状態!? 呼び出した奴が1000万超え!? やべえこいつ、配下を受肉状態で呼ぶのか!? ……こいつか周りを強化してんのは!? くそが! 交戦中! 勝てない可能性が……! 前衛が崩壊していく、魔界貴族の精神汚染でレベル100万以下の将兵が機能不全……! 手が回らない誰かこっちに回せ!』

 

 

『バシオンよりキルディス! デストロイヤーの処理はまだか!? あとどのくらいかかる!? 手の空いてるテンミリオンオーバー返事をしろ! アイリスはどこだ! バイバルス! 右翼軍の援護へ! レベッカは動けないか!? 動けるなら左翼へ……』

 

 

『アイリス様は死んでいます! 対応不能! 第2軍のドレーゲル連隊が魔法戦に敗北、レジスト失敗! 燃えています、救援要請! さらにデストロイヤー出現! レベッカ戦死!』

 

『バークレーよりバシオン様! 幻雷蝶が出現! 後方に毒雷雨を降らせています仰天様が対応中、毒の雨で味方に被害多数、行動不能の将兵が増加、後退に支障が出ています! ヒーラーが不足です、フィデリアーニ様を寄越してください早く! 広域解毒と回復を!』

 

 

 

 

『紫より、バシオン様へ、ベルリネッタ様より緊急、貴族連合の一部が裏切りの動きを見せていると。

 敵、亡者歩兵軍や狂獣騎兵軍、幻獣王クラスの超越存在と同調する動きを見せている模様。ウージャ戦死。

 アダルギデオン第7軍と第8軍が攻撃を受けています。味方内にも裏切りの動きが発生。

 タハリ国王が暗殺されたとの騒ぎが、これが我々の仕業になっているそうです』

 

 

 

 

「…………!? やりやがったなあいつらあああ! 俺達を売りやがったなああ!? ふざけやがって! ふざけやがってええ! バシオンより仰天と紫! お前らはジェルジャン市へ行け、一番足が速いのがお前だ紫、後ろを何とか立て直せ! 敵対してくる奴は排除しろ! 敵と見なせ!」

 

 

 

『バシオン様! 左翼上空よりガーゴイルロードの大群約1000体! 接敵まで約10分以下! さらに後方に第二波! 同じく1000体規模! エルシャルが殺られます! 援護を!』

 

『キルディスよりバシオン! 右翼に出現したデストロイヤーの処理不能!! 2体が暴れ回っています被害甚大! 第2軍第2連隊ザロア隊長戦死! 第1連隊壊滅、統率不能! 洗脳されたエルパ大隊のディスペルができません洗脳解除が困難! 同士討ち進行中アンデッド汚染が進行中! ハイウルガを止められません、右翼軍は蹂躙されています!』

 

「バシオン様! 指示を!」

 

「バシオン様! どこですか?! 命令を」

 

「バシオン様!」

 

 

 

 

「くそ貴族どもがあああー! 覚えておけ殺してやる!! 全軍に通達、メテオストーム使うぞ! 生存を諦めろ! バシオン・イヴァーケスが、メテオを使う! ありったけの魔法防御を張れえ! 避けるか防ぐかしろ! 死ぬ奴は俺を恨め!」

 

 

 

 

 

 

 

 勇者バシオンが率いるアダルギデオン約10万と、貴族連合と呼ばれる約5万の人類軍が、総数約4600万体の異種族複合軍と激突した戦闘の一幕である。

 

 タハリ防衛戦……またはジャルダーン戦役と呼称される、人類史上最大級の会戦の一つ。

 

 主な戦場となったタハリ王国の首都、ジェルジャン近辺での激戦である。

 

 

 レベル1000万を超える敵……異常変異体と特異個体だけでおよそ100体以上という、狂ったような質と物量が叩き込まれてきた負け戦。

 

 主導してきたのはアルゲートランセルと呼ばれる悪魔属上級種……魔界貴族・侯爵級を拝命する人類の業敵たる一柱である。

 

 この上級悪魔が仕掛けてきた大規模会戦であり、それに従属・協力する形で参戦してきた他の超越存在がさらに6柱。

 それぞれがレベル4000万以上の固有名持ち。

 合計で、7体もの化け物が参戦してきたという地獄そのものの会戦である。

 

 最大の脅威であったアルゲートランセルに至っては推定レベル9000万という前代未聞の数字。

 

 ガドラム、アトレイユ、そしてバシオン……レベル6000万をオーバーする三人の波状攻撃により、アルゲートランセルを異界送りにすることで一時の撃退に成功。

 

 最終的には、10日間にも及ぶ消耗戦の末に辛うじての勝利。

 敵軍の大半を打倒、消滅、焼却し、参戦してきた超存在は討伐するか撃退。

 人類が、超存在の軍勢を相手に、初めて勝った『戦争』である。

 

 しかし代償は大きく、この戦いでタハリ王国は崩壊。

 ジャルダーンと呼ばれる地域にも甚大なダメージが残った。

 アダルギデオンも事実上、一時壊滅したと言われる程の損害を被る。

 

 

 これ程の規模となった理由はただ一つ。

 タハリ王国が勇者バシオン・イヴァーケスの功績を見て、本気で国そして地域単位で超越存在たちに反旗を宣言したという背景があったからだ。

 

 集団や個人での反抗は多くあったが、一つの国、地域が本気で反旗を翻したのは数百年ぶりの事。

 

 それを本気で面白がった、あるいは本気で不愉快に感じた、もしくは本気で戦争をしてみたかった。

 そのいずれかにより複数の超越存在が文字通り『潰し』にきたという。

 まさしく戦争である。

 

 さらにその裏では、人類の裏切りをした連中の存在。

 既存の特権階級である者達の、勇者バシオンへの妨害工作すらあったとされている生臭い一面もある。

 

 

 最終的には、本当の意味での最終的には、勇者バシオン率いるアダルギデオンが勝った。

 しかしその結果は目を覆いたくなるような惨状。

 

 ジャルダーン地域の宝石と呼ばれるほどの美しさと歴史を持っていた大国タハリ。

 そんな国の大半を、勇者バシオンが吹き飛ばした。

 文字通り木っ端微塵に。

 味方の半数近くや国民の数割を巻き添えにして。

 

 

 これ以降、勇者バシオンは大戦力の運用に極めて慎重になった。

 レベル10万以下の将兵を可能な限り後ろへ下げ、

 レベル100万以下の将兵を前線に投入する事を嫌い、

 レベル1000万以上のテン・ミリオン・オーバーですら、あまり引き連れなくなったほど。

 

 周囲にはレベル2000万以上のハイエンド達のみとし、すぐ側には当時でレベル5000万以上が揃っていた大幹部達だけを置くようになる。

 

 犠牲を抑えるための死力を尽くす防衛戦を嫌い。

 ある程度の犠牲を覚悟で、最精鋭の少数戦力による敵首魁や中枢への直接的な侵攻攻撃を好むようになる。

 

 政治的に激しく対立していた者達……いわゆる旧世代貴族の粛清と始末を断行したのも、この戦争の直ぐ後だった。

 

 

 人類殺しという特大の不名誉な称号を、皮肉で付けられたのもこの頃である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルテナ王国・南方方面・ガーベラ伯爵領。

 コルプト村。

 

 

 今日のバシオンの仕事はこの小さな村での駆除である。

 モンスターの駆除、それが仕事だ。

 

 周辺50㎞圏内の拠点都市であるガーベラスタッフ。その周りにある小さな村の一つ、コルプト村。

 それが、バシオンの今日の仕事場。

 

 そして、そこの村長が、心配そうにバシオンに問いかけてきたところだった。

 

「あの~、本当に大丈夫ですか……?」

 

 村長と呼ばれる立場のためか、その言葉には礼儀が一応はあった。

 しかし、その表情には不安がありありと浮かんでいる。

 すなわち……マジで大丈夫かこの兄ちゃんで? である。

 

 村の周辺にちょっと危なそうなモンスターの巣ができてしまったので、傭兵ギルドに駆除依頼を出した。

 そしたら、来たのがバシオンなのだ。一人である。

 

 20歳にもなっていない、地味なクロークマントの若僧が来たのである。一人でだ。

 なんか強そうな魔法武器とか、凄そうな魔法防具も持ってなさそうな、若い兄ちゃんが一人なのだ。

 

 村の人間からすれば、若い衆の十数人より、なんか、頼りにならなさそうなのである。

 そりゃ速やかな対応を期待していた村長も周りの者達も不安になろうというもの。

 

 駄目そうなら、傭兵ギルドに追加で要望を出さないといけないかも、と考えてしまった村長は、正しい。

 そしてそれにはまた追加で金がかかるのだ。色々と大変なのである。

 

 それを察するバシオンは、聞かれた事になるべく丁寧に応えた。

 

「大丈夫だと思います、蟲の駆除は慣れてる方だと自負しますので」

 

「あ~いえいえ、疑う訳ではなくて! えっと一応? せっかく来てもらったので、あんまり失敗というか、怪我してほしくないといいますか……まあ、その、はい」

 

 非常に気を使ったやんわりとした、しかし大人としての釘を指してくる村長さん。

 彼のバシオンへの印象はちょっと微妙だ。

 若いとはいえ、一応は傭兵、一般人よりは強いはず、しかし、うーん……といった感じがありありと見えるのだ。

 

 バシオンからすれば不安があるなら口に出すのは妥当である。別に不愉快ではない。

 そこに若い娘が割って入ってきた。

 

「あの、あなた、本当に大丈夫なんですか? ……お願いしたのはモンスターの駆除なんですけど?」

 

「こ、こら、馬鹿娘が!」

 

 そう聞いてくるのは若いお嬢さんだ、どうやら村長の身内らしい。

 気の強そうな顔でかわいく睨んできている。

 

「言っとくけど! この村では詐欺なんてさせないから! サボってギルドでの功績だけ欲しいっていうなら帰ってもらうわよ!」

 

「こら、アイリス! 申し訳ない、娘が失礼を……」

 

 バシオンは一瞬だけ、娘の顔をまじまじと見た後、気にもせずに村長へ向き直る。

 

「いえ、相手が、信用できるかどうか、警戒するのはいいことです……娘さんの名前は、アイリス、ですか……?」

 

「え? あ……え、ええ、生まれた時に妻が、この地方出身の魔術師様にあやかりまして……それが何か?」

 

「私の名前がどうかした? 仕事に何か関係あります?」

 

「……いえ、昔の知り合いと似てる名前なので、懐かしいなと」

 

「……はあ、お知り合いですか……?」

 

 そんな名前の娘なんてあちこちに山ほど居ない? もしかしてナンパか? と言いたげな村長と娘の顔に、バシオンは「お気になさらず、それで依頼の件ですが……」と、仕事に取りかかる事にした。

 

 村長から説明を聞いたバシオンは、目的のモンスターの巣がある近辺まで、村の若い衆数名に案内をしてもらっていた。

 目的の巣は、村から少し入った森の中にあるようだ。

 

「……なあ、兄ちゃんよ? 俺達は本当に案内をするだけだぞ? いざって時に当てにされても困るぞ?」

 

「俺らは素人だから本当に戦えねーぜ? 大丈夫だよな?」

 

 念を押すように確認してくる村の男達にバシオンは当然だと応えた。

 

「分かっています。村長さんから言われている通りです、俺が一人でやりますので皆さんを巻き込む事はやりません、むしろ襲われたら逃げてください」

 

 そのバシオンの言葉に村の若い衆は本当か? と、顔を合わせている。

 案内に、何名かの男達に同行してもらってはいるが、彼らは案内をしてもらったら、もちろん帰ってもらうつもりだ。

 当然である。そういう約束だ。

 村長さんからはくれぐれも村の男に怪我の無いように、とお願いされているのだ。

 

 

 そもそもバシオンは一人でやると受けたのだ。

 一人でやれると判断したから、ここに居る。  

 何の準備も覚悟もしてない人間を、自分の都合で引きずりこむのは、もうごめんである。

 

 というか、集団戦闘は嫌いなのだ。

 一人でやるのが一番いい。一人が気楽なのだ。

 

 むしろ守るモノがないのはやはり楽だと言える。

 

 意外と余裕を見せるバシオンの態度が気になったのか、一人の若者が話しかけてきた。

 

「あのさ、あんた……一人で仕事するってことは、やっぱり強えんだよな? オーラ能力とか使うレベルなの?」

 

 興味からか、一人の若者が少し突っ込んだことを聞いてきた。

 

「いえ、全く。オーラはある程度使いますが、自分のことで精一杯です。強いなんてとても言えないですね」

 

 嘘ではない。バシオンは自分を強いと評するつもりは全く無かった。

 そしてそんな態度は周りの男に不審を覚えさせる。

 

「……ええ、マジで? でもそのオーラってのを使うんなら、魔術とかも使えんでしょう? それってやっぱり強いんじゃないの?」

 

「レベルとかクラスって、どのくらいなのか聞いてもいいんか?」

 

 慣れてる場所を歩いているからか、それとも外から来た人間への興味からか、あるいは詐欺を警戒しているのか。 彼らはバシオンに少し突っ込んだ質問を重ねてくる。

 

「レベルはよく分かりませんが、傭兵のクラスはE級です」

 

 淡々と答えるバシオンに、村の若い衆は警戒を通り越して驚愕する。

 

「E級~!? おい、大丈夫か、この若い兄ちゃん?!」

 

「依頼云々の前に怪我するって!」

 

「E級って、本当に見習いみたいなもんなんだろ!? あんた本当に一人で大丈夫かよ!?」

 

 アーマーアントと呼称される、昆虫の小変異モンスターとその巣が目標だ。

 名前の通り、蟻型のモンスターである。

 近づく外敵を、集団攻撃で襲ってくるモンスターで、高い防御能力が特徴である。

 平均レベルは約200~600程。

 一般人が武器や道具を持って集団で戦えば、まず勝てる相手だ……一匹が相手なら。

 

「よく分からないけどよ、たぶん50とか、もしかしたら100匹とか居るかも知れないんだぞ!? 本当に大丈夫か!? 食べられちまわねえかあんた?!」

 

「ヤバくなっても助けられねぇぞ!?」

 

 蟻型によくある特徴として、集団で変異して群れを強化発展させるというモノがあるが、このアーマーアントも、その特性を持っている。

 

 その凶悪な特性の威力を骨身に染みて理解しているバシオンは、その上で答えた。 

 

「百くらいまでなら、まず大丈夫と思います」

 

 百匹くらいまでなら、何が出てきても、多分、高確率で勝てる。

 それが今のバシオンの肌感覚だ。

 

「百~?」

 

「兄ちゃん本当かよ?」

 

 しかし村の男達にとってその数は正直半信半疑だ。

 

「限度はありますが、そのくらいまでなら」

 

 それこそ悪蟲類の頂点クラス……蠱毒の六重ねや七重ね級……レベル3000万級の特異個体どもが集団で来れば、負ける可能性が出てくるのは否定できない。

 それでも勝てるは勝てるだろう。

 

 だから、百くらいまでなら大丈夫。

 

 そこまで考えたバシオンはふと思い至る。

 

 アーマーアントは小変異に収まる段階の相手だ。

 蟲ではなくまだ虫の段階。

 

 村人の話を聞く限り、変異してまだ浅い……中変異には時間がかかるだろう。

 これが、もう二~三段階くらい変異が進み、凶悪性が上がると人間を襲い出す。

 それを考えると、駆除にはいいタイミングだ。早め早めの対応をするのは防御の良策である。

 

 ただ、それはバシオンの知見だ。

 この人達は地元であるという視点と経験をもって、もっと専門的な知見からこちらを心配しているのかもしれない。

 油断は禁物かとバシオンは気を引き締める。

 

「……慎重に、速やかに、しっかり片付けますので、ちょっとお時間ください」

 

 自分の知識は戦場働きで身に付いたものだ。偏りがあるだろう。

 なるほど。確かに蟲相手に油断は禁物だ。

 

 一匹一匹が体長2メートル弱で合金装甲波の堅牢さを誇る甲皮と蟲特有のタフさを併せ持ち、恐るべき集団戦闘能力を誇る数百万規模の戦略軍団蟻。

 絶望の軍団と呼ばれるダークフィールド種。

 

 体長数センチで亜音速飛行してくる、死の弾丸フラッシングビートル。

 

 鈍い、柔い、弱い、と三拍子揃いながら少しの刺激で破裂して莫大な量の毒と魔導汚染をばら蒔く、腐りの女王。

 

 脅威の運動性能と桁違いの物理格闘能力を併せ持つ地獄のトンボ、低空の支配者、ヘル・ドラゴンフライ種など。

 

 確かに、この辺りがいきなり出てこないとも限らない。 出てきたところで負けはしないだろうが、面倒くさいのは本当に面倒くさい。

 

 まあ、今なら多分、奇襲を喰らっても数人の村人を守りつつ勝つ位はできるはずだ。

 身に付けている武装は、ありふれた普通の布防具や皮防具。

 持っているのはありふれた鉄の槍と、小型鈍器と、小型の剣のみ。

 勇者を辞めた時に超越武装も防霊神器も何もかも置いてきているが、まあ、うん、大丈夫だろう多分。

 

 なのでバシオンは可能な限り誠実に応えた。

 

「よっぽどの事が無い限り、被害なく駆除できると思います」

 

 えー、本当ー?と言いたげな村の人達の視線を尻目に、バシオンは巣が作られ始めている辺りに到着すると、案内を置いて一人で近づいていった。

 

 そして2分後にバシオンは戻ってきた。

 

「えっと、どうした兄ちゃん?」

 

「終わりました」

 

 完了報告である。実際に終わった。

 

「え!? もう?! 本当に? 嘘だろ?」

 

 大丈夫か? この兄ちゃん? という視線を尻目にバシオンは確認をどうぞ、と村人を始末したアーマーアントの巣に案内する。

 

 

 バシオンがやったのは、迎撃に出てきたレベル500程度の警戒蟻を小型鈍器でゴンゴンと叩いて進み、巣の入り口から中に向かって極小のスーパーノヴァを放り込んだだけである。

 これだけだ。

 

 バシオンの得意魔法のひとつであるこれは、いわばファイアーボールというやつだ。

 

 ただし、その威力はボールどころではない。

 

 限界発現温度は最高で数千万度、通常運用でも軽く数千度は超す、もはや戦略兵器に分類される威力の炎系の大魔法である。

 

 当たり前だがそんなもんを森の片隅で制限無しにぶっぱなしたら大惨事だ。

 工夫が必要である。

 

 なのでバシオンは慎重に発現させた。

 

 アーマーアントの巣を空間的に保護。

 熱が外に漏れ出ない様に空間閉鎖。

 少し遠くで見ていた村の人達に万が一がないように念のため魔法障壁を多重発現。

 そしてサイズと規模だけを手加減。

 熱量は完全駆除のためにかなり気合を入れたファイアーボールを巣の中に一発。

 周りに配慮して焼却した後は空間ごと冷まして無害化。

 

 以上である。

 複雑な手順であるが、邪魔も妨害も敵の援軍もなーんにも無かったのですべては順調に進んだ。

 想定通りで起動、想定通りに発現し、想定通りで終了し、想定通りで収束させた。事故も問題も何も起きてない。

 オーラ運用も完全に余裕である。

 

 仕事は達成である、完璧に終わった。

 本当に跡形もなく燃やされて何も出てこない巣穴を見た村人はポカンとしている。

 

「……念のため、他にも出てこないか数日警戒します。その間、この村に滞在させていただきます。宿泊代金は前払いで支払いますので、滞在許可をください」

 

 念入りの警戒を見せるバシオンを、適当な仕事をして逃げる訳ではないと伝わったのか、しばらく村人の間でヒソヒソ話し合いが持たれたが滞在許可は出た。

 

「……E級って結構すげえな」

 

「傭兵を甘く見てたわ」

 

 バシオンは村の子供たちに超基礎的なオーラ発現と運用を手解きしたりして過ごし、アーマーアントが完全に駆除されたと確認されると、疑って悪かったなあ兄ちゃん、あんた若いのにいい腕してるよ! と笑顔で見送ってもらいガーベラスタッフに帰った。

 

 近くの林の危なそうな微細変異虫とかを帰り道のついでに潰しながらゆっくり帰還した。

 蟲退治は早期の対処が鉄則である。染み付いた癖だ。

 

 

 達成報告をした傭兵ギルドでは、アイーシャから白い目で睨まれた。

 

 D級の依頼を一人でこなせるならE級ではあり得ないんですけどねえ的な目線を向けられたが、バシオンは知ったこっちゃない。

 報酬をもらってその日はちょっと贅沢なご飯を食べてご満悦だった。

 満足である。

 

 

 その次の仕事探しの時である。

 バシオンはE級の仕事を受けられなくなった。

 

 コルプト村での仕事の詳細が報告書で上がってきたらしい。

 D級以上から仕事を選べと通達が降りてきたのだ。

 

 

 

 

 




また長いよ。
何でこんなに長くなっちまうんだ。
やっぱり過去話と今の話とを1話に詰め込むのは無理ある作りか?
分割の方がいいのかなー。

けどもう少しこのやり方で書いてみたいなあ。

前話でも評価と感想をありがとうです!読んでくださる方に感謝感謝。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

皇帝に成りたくない男の不本意奴隷ハーレム(作者:サイリウム)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

転生者の主人公が皇位争いから上手くドロップアウトしようと思ったら、奴隷たちに囲まれてる話。▼伯爵家の四男エドモンドは、転生者である。彼はきたる皇位継承戦に向けて功績を積むため、両親からダンジョン攻略を命じられてしまう。しかも所属する国家が奴隷を推進する国だったため、不本意ながら購入することに。彼自身は奴隷たちに反乱されぬ様に程よい“雇用関係”を築こうと思って…


総合評価:8297/評価:8.16/連載:43話/更新日時:2026年09月22日(火) 12:00 小説情報

病弱貴族になった俺、治癒魔法をかけながら戦えばいいことが判明する(※血反吐付き)(作者:池崎)(オリジナル:ファンタジー/戦記)

突如として前世の記憶を思い出し、自身が病弱貴族になってしまったことを悟った主人公は、とある出来事をきっかけに──「治癒魔法をかけ続けたら戦えるのでは??」と気づき、おっさん治癒術師を巻き込んで修練に励む。▼その結果──確率で血反吐を吐きながら拳で戦うHENTAIスタイルになってしまう。▼「だ、大丈夫! すごく痛いけどすぐ治るから!!」▼


総合評価:3544/評価:8.27/連載:14話/更新日時:2026年08月12日(水) 12:39 小説情報

義務レットは自由に生きてみる(作者:POTROT)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

義務と責務に追われて死んで、転生しても義務と責務に追われる日々。▼そんなある日、全てが嫌になったギムレットは義務を捨て、レットになった。


総合評価:3588/評価:8.44/連載:9話/更新日時:2026年07月26日(日) 15:56 小説情報

恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者(作者:エヴォルヴ)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

エロゲーとギャルゲーの皮を被った死にゲーと名高いゲームの世界に転生した男。▼最大コンテンツたるハクスラ(最大コンテンツではない)とメインヒロイン(ヒロインではない)と導きのメインウェポンに脳を焼き尽くされた男は恋愛要素など知ったことではないと言わんばかりに突き進む。▼え?関わってきた人達の好感度ですか?(彼にとっては)知らない子ですね。子ではない?じゃあ、そ…


総合評価:17462/評価:8.28/連載:108話/更新日時:2026年10月01日(木) 21:40 小説情報

僕の最強音楽理論(作者:小の字)(オリジナル:現代/コメディ)

なお、音楽理論をもちいた最強ポップスは全く売れず、10分で作ったくだらんロックはバカ売れするのだった。


総合評価:5468/評価:7.91/連載:12話/更新日時:2026年10月25日(日) 20:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>