魔法先生ギルガメッシュ   作:長LAVA

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第6話

 

 

 

 

 

 黒板へ例文を書き終えて振り返ると、窓際の席から真っ直ぐに視線を向けられていた。

 

 頬杖をついた、小柄な金髪の少女。開かれた教科書へ目を落とす気はないらしく、こちらと目が合っても逸らそうとしない。

 

「マクダウェル。次の2行を読め」

 

「……聞いているよ。いちいち名を呼ばなくてもな」

 

「なら話が早い」

 

 不満そうに鼻を鳴らした後、エヴァンジェリンは指された箇所を淀みなく読み上げた。発音にも区切り方にも問題はなく、読み終わるなり、また教科書からこちらへ目を戻してくる。

 

「よい。今の文で、話しているのは誰だった?」

 

 問いを教室全体へ向けると、前の方から手が挙がった。

 

 そちらを指し、答えを聞きながら授業を進めていく。その間も窓際からの視線は続いていたが、特に何か言ってくるわけではないので、こちらも構わずチョークを動かした。

 

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 

 人間をもとに造り替えられた不死の肉体と、それに掛けられた呪いについては、初めて教室へ入った日に見えている。吸血鬼としての力を封じられ、学園の外へも出られず、こうして生徒の席に収まっている事情も承知していた。

 

 もっとも、彼女の正体や呪いは麻帆良の魔法関係者にまで隠されている話ではない。新しく来た魔法先生が知っていたところで、珍しくもないだろう。

 

 授業中の様子も、大抵は退屈そうにしているか、眠気と争っているかのどちらかだった。それが最近は、教科書よりこちらを見ている時間の方が長い。

 

 何か気になることでもあるらしい。

 

 聞かれれば答えるかもしれないが、わざわざ授業を止めてこちらから尋ねてやる必要もなかった。

 

 

 

     ◆

 

 

 

 その日の仕事を終えて宿舎へ戻り、背広を私服へ替える。

 

 夕食の後は自室で魔法の教本を開いていたが、気になった箇所を幾つか読み比べているうちに、窓の外がすっかり暗くなっていた。明日の授業に使うものは既に揃えてあるし、急いで読み終えなければならない本でもない。

 

 少し外を歩こうと思い立ち、頁の間へ栞を挟んだ。

 

 夜の麻帆良は昼間ほど騒がしくない。飲食店のある通りにはまだ人が残っているものの、校舎や住宅の間を抜けていけば、足音がよく聞こえるくらいには静かになる。

 

 当直でもないので、決められた道を辿る必要はなかった。街灯の下を気の向くまま歩き、公園に沿った道へ差し掛かったところで、聞き覚えのある声が飛んでくる。

 

「おい、ウヌグ」

 

 視線を向けると、外套を羽織ったエヴァが道の脇に立っていた。

 

 昼間と違って眠そうな様子はなく、こちらを見上げる目もはっきりしている。そのまま顎で公園の奥を示した。

 

「少し付き合え」

 

「授業の続きを聞きに来たようには見えんな」

 

「分かっているなら来い。教室で話せる用件なら、とっくに済ませている」

 

 言うだけ言って先に歩き出す。

 

 こちらも急ぎの用があるわけではないので、その後へ続いた。通りから少し離れたベンチまで来ると、エヴァはようやく足を止め、他に人がいないことを確かめてから振り返る。

 

「随分と凝った名前を使っているじゃないか」

 

「気に入ったか?」

 

「悪趣味だと言っているんだよ。ギルガメッシュだけならまだしも、ウヌグまで付けるとはな」

 

 なるほど、そこから来たらしい。

 

 口元を緩めると、エヴァの眉が少し寄った。

 

「知っていて付けたんだろう。ウヌグはウルクの名だ。英雄王の名前に、その王が治めた都市までくっつけている」

 

「姓の方は、こちらへ来てから付いたものだ。名は生まれた時から変わらん」

 

「ずいぶん都合のいい偶然もあったものだな」

 

 言いながら、今度はじっとこちらの目を覗き込んでくる。

 

「それに、その目だ」

 

 街灯の光を受けた瞳へ、エヴァの視線が留まる。

 

「神に連なる者の徴として、紅い瞳を記した古い資料がある。色だけなら気にも留めんが……貴様の場合は、身体の方まで人間の魔法使いとは違う」

 

 言葉を切り、こちらの反応を待っている。

 

 ただ大きな魔力を持つ人間、という見方では説明がつかなかったのだろう。名前と姿だけなら冗談で済んでも、その奥にあるものまで見比べれば、無視しづらい一致が幾つも残る。

 

「よく見ておるではないか。授業中も、それくらい熱心に教科書を見てくれればよいが」

 

「あの程度の英文に今さら熱心も何もあるか。話を逸らすな」

 

「逸らしてなどおらん。教師としては当然の感想だ」

 

「そうやって煙に巻けば、私が諦めると思うなよ」

 

 苛立ってはいるものの、すぐに声を荒らげるほどでもない。こちらが面白がっているのを察したらしく、エヴァは腕を組んで足を止めたまま待っていた。

 

 少し遊びたい気もするが、ここまで自分で考えて来た相手へ、何も答えず帰るのも惜しい。

 

「昔、国を一つ治めていた」

 

 そう告げると、細められていた目が僅かに開く。

 

「ウルクという。貴様が今口にした国だ」

 

 風に揺れた木の葉が、頭上で乾いた音を立てた。

 

 エヴァはすぐには返事をせず、こちらの顔を眺めている。笑って誤魔化すつもりがないことを確かめてから、ようやく口を開いた。

 

「……ウルクの王、ギルガメッシュ本人だとでも?」

 

「そこまで考えて来たのではないのか」

 

「疑うのと、本人から肯定されるのは別だ。貴様、何年前の人間を名乗っているつもりだよ」

 

「我に聞かれても困る。生まれた時に、後世の暦を渡されたわけではないのでな」

 

「……まったく。そこまで堂々と言われると、冗談で済ませる方が馬鹿らしくなる」

 

 額へ手を当て、呆れたように息を吐く。

 

 もっとも、それだけで全て信じたわけでもないだろう。こちらを見る目には、まだ吟味する色が残っていた。

 

「その時代から生き続けていたなら、少しは噂になっていそうなものだがな」

 

「生き続けてなどおらん。王としての生は、一度終えている」

 

 ベンチへ腰を下ろし、隣の空いた場所へ目をやる。

 

 エヴァは少し迷った後、距離を空けて腰掛けた。

 

「老いて、寿命を迎えて死んだ。その後、気付けばこの身体でここにおった。細かい事情まで聞きたいのであれば、我に説明する者から探してこい」

 

「転生……にしては、ずいぶん出来上がった身体だな」

 

「赤子からやり直せと言われるよりはましだ」

 

「それはそうだが」

 

 もっと何か返そうとして、やめたらしい。

 

 エヴァは外套の裾を整えながら、暫く考え込んでいた。こちらが一切気後れせず答えるので、嘘と決めつけるにも、本当と飲み込むにも、収まりが悪いのだろう。

 

「伝承では、不死を求めて旅に出たはずだが――」

 

 その言葉に、ふと水辺の景色が浮かんだ。

 

 掌に収まっていた霊草と、地を這ってきた蛇。そこへ辿り着くまでの道を思い返しかけて、膝へ置いていた指が少し止まる。

 

 続きは来なかった。

 

 目を戻すと、エヴァは既にこちらから視線を外している。

 

「……いや。昔話の答え合わせをしに来たわけじゃないな」

 

 それだけ言って、足元へ落ちていた小枝を靴先で押した。

 

「王様が次に選んだ仕事が、英語教師か。ずいぶん酔狂な話だ」

 

「王の仕事は済ませた。126年も務めたのだから、今度くらい別の椅子へ座ってもよかろう」

 

「それで職員室とはね。王座も安くなったものだ」

 

「椅子の値で我が変わるわけでもあるまい」

 

 即座に返すと、エヴァが小さく鼻を鳴らした。

 

 今度は呆れたというより、少し面白くなった顔だった。

 

「その言い草だけなら、確かに王様向きだな」

 

「教壇でも不自由はしておらんぞ」

 

「見ていれば分かる。普通、あんな口の利き方をする教師には、もう少し生徒が反発するものだ」

 

「貴様はしているだろう」

 

「私は別だよ」

 

「都合のよいことだ」

 

 そう返してやると、エヴァも口元だけで笑った。

 

 

 

     ◆

 

 

 

 夜風が枝を揺らし、外套の裾を撫でていく。

 

 話しているうちに少し喉が渇いたので、脇へ黄金の波紋を開いた。茶器と湯呑みを取り出すと、エヴァの目がすぐにそちらへ向く。

 

「……それは、貴様の魔法か」

 

「我の蔵だ」

 

 湯呑みへ茶を注ぎ、もう一つをエヴァの隣へ置く。

 

 すぐには手を伸ばさず、彼女は閉じかけた波紋を見ていた。

 

「空間を繋いでいるのは分かる。だが、私の知っている術とは随分違うな。発動の仕方からして噛み合わん」

 

「同じものである必要があるか?」

 

「ない。ないから気になるんだろうが」

 

 視線が茶器へ移る。

 

 武器を警戒していた様子はないが、夜の公園で突然茶の用意を始められるとは思っていなかったらしい。

 

「……話の途中で、よくそんな気になるな」

 

「話をするのに茶があって困ることもなかろう」

 

「一言くらい聞け」

 

「要らぬなら我が飲む」

 

 湯呑みへ手を伸ばしかけると、先にエヴァが取った。

 

「要らんとは言っていない」

 

「そうか」

 

 茶を一口飲み、わざとらしくこちらを見ずに頷いている。そのまま返してこないところを見るに、口には合ったらしい。

 

 空間へ物を仕舞うだけなら、この世界にも手段はある。ただ、目の前の現象を自分の知る術へそのまま当てはめるには、彼女の知識は十分すぎた。

 

 簡単に結論を出さず、目にしたものを一つずつ頭へ収めている。その慎重さは、先ほど名前から推し量っていた時と変わらない。

 

「死んだ後まで蔵を持ってきたわけか。なかなか手放せない性分らしいな」

 

「我の財だ。当然であろう」

 

「はいはい。英雄王様は、ずいぶん御立派なものをお持ちで」

 

 皮肉を言ってから、エヴァはもう一度茶へ口を付けた。

 

「それだけ持っていて、今は子供に英語を教えるだけとはな」

 

「それだけ、でも案外面白いぞ。何をどう言えば通じるのか、相手が変われば反応も違う」

 

「飽きるさ。そのうち同じことを繰り返すだけになる」

 

「そう言うわりに、貴様は律儀に通っておるではないか」

 

 途端に、エヴァの顔から笑みが消えた。

 

「好きで通っていると思うなよ。あの馬鹿の呪いさえなければ、とっくにこんな学園から出ている」

 

「登校地獄だったな。ナギ・スプリングフィールドも、面倒な置き土産をしたものだ」

 

「まったくだ。何度同じ授業を受けさせる気だ、あいつは」

 

 吐き捨てるように言ってから、湯呑みを膝の上へ下ろす。

 

 この話で、こちらが呪いを知っていることへ驚きはない。むしろ学園側から事情を聞いているのなら、今さら説明させるなと言いたげだった。

 

「次に会ったら、ただで済むと思うなよ」

 

 ここにはいない男へ向けて、低い声が落ちる。

 

 しばらく横顔を眺めてから、茶器へ手を伸ばした。

 

「それなら解けるぞ」

 

 エヴァの指が、湯呑みの縁で止まった。

 

「……何?」

 

「その呪いだ。我の蔵に、使える財がある」

 

 顔がこちらへ向く。

 

 先ほどまでとは違い、今度は笑って済ませる気のない目だった。

 

「軽々しく言うなよ。解呪なら私も散々試した。力で押し切れる程度の術なら、こんなところに長々と座ってはいない」

 

「力比べなどせん。術を破るための刃を使う」

 

「……そんな都合のいい物まで持っているというのか」

 

「地上の財を集めた我の蔵だぞ。呪いを断つ程度の品、あって当然であろう」

 

 黄金の波紋を開き、今度は一振りの短剣を手元へ取り出した。

 

 街灯を受けた刃が、淡く光を返す。

 

 大仰な武器ではない。だが、エヴァは目にした瞬間に背を起こし、膝の上へ置いていた湯呑みを静かに脇へ移した。

 

「……見せろ」

 

「手は出すなよ」

 

 柄を持ったまま、刃がよく見えるように傾ける。

 

 エヴァは身を寄せたものの、触れようとはしなかった。茶器を出した時よりもずっと慎重に目を凝らし、その顔から皮肉が消えていく。

 

 魔術を破戒するための財。その働きを、既に見えている呪いへ通せばいい。学園へ縛り付ける術も、本来の力を封じる働きも、これで断てる。

 

 どこを壊せばよいか分からず、手当たり次第に試す必要もなかった。

 

「それで、私の呪いを消せると言うんだな」

 

「ああ」

 

 迷うような話ではないので、そのまま頷く。

 

 エヴァは刃から視線を離せずにいた。長い間欲していた答えを、不意に目の前へ置かれた時の顔だった。

 

「……何が望みだ」

 

「今のところは何も」

 

「何も、だと?」

 

「財を使うだけだろう。貴様と話していて、気も悪くならん。使ってやっても構わんと思っただけだ」

 

 必要なところへ、使えるものを出す。

 

 ウルクにいた頃から、そうしてきた。蔵の中へ収めたまま眺めているだけでは、武器も薬も役に立たない。今は国を維持するためではなく、目の前の相手へ使えば済む程度の話だった。

 

「それとも、何か差し出さねば落ち着かんか?」

 

「……ふん。後から高くつく方が御免なんでな」

 

「なら、先に言っておく。これで貴様を従わせようなどとは思っておらん」

 

 短剣を少し下ろし、顔を向ける。

 

「使うか?」

 

 エヴァの唇が動いた。

 

「なら、解い――」

 

 そこで、声が途切れた。

 

 続きを待っても、何も出てこない。

 

 刃へ向けられていた視線が落ち、外套の布を握った指に力が入る。眉間へ皺を寄せたまま、もう一度口を開きかけ、それでも言葉にはならなかった。

 

 ナギ・スプリングフィールド。

 

 先ほどまで忌々しげに口にしていた名が、今はその一言を止めている。

 

 消したい呪いの中に、手放したくないものまで残っているのだろう。あの男を見つけ、文句を言い、本人に解かせることと、ここで別の誰かに消してもらうことは、彼女の中で同じになっていない。

 

 自分でもそれが腹立たしいのか、エヴァは小さく舌打ちした。

 

「……くそ」

 

 こちらへ向けたものではなかった。

 

 短剣を持つ手を下ろす。

 

「今夜は、やめておこう」

 

「待て。私はまだ――」

 

「何も言っておらん。だから使わぬ」

 

 黄金の波紋へ刃を戻すと、エヴァの目がその動きを追った。

 

 引き留める声はない。かといって、安心しきった顔でもなかった。

 

「貴様……」

 

「決まったら言え。我の蔵は逃げん」

 

 そう告げて、茶器を手に取る。

 

 エヴァは暫く黙っていたが、やがて布を握っていた手を緩めた。指先に残った皺を伸ばすように、膝の上を一度撫でている。

 

「……ずいぶん、あっさり引くんだな」

 

「我が急ぐ理由がないからな」

 

「散々気を持たせておいて、今さら惜しくなったんじゃないだろうな」

 

「そう思いたければ思え。ただし、次に頼みに来てから引っ込めるなよ。貴様の顔を見ながら、何度も出し入れするのは面倒だ」

 

 エヴァが睨んでくる。

 

 先ほどよりは、見慣れた顔だった。

 

「頼みに来ると決めつけるな」

 

「ならば、なおさら今は要らんだろう」

 

「……本当に、気に食わん奴だな」

 

 そう吐き捨てながらも、立ち去る気はないらしい。

 

 脇に置いた湯呑みを取り、口を付けかけてから手を止めた。

 

「冷めた」

 

「貸せ。まだある」

 

 差し出された湯呑みへ茶を足す。

 

 温かい湯気を見下ろしたまま、エヴァは少しずつ飲み始めた。こちらも自分の分へ口を付け、暫く夜の公園を眺める。

 

 遠くの通りを、自転車の明かりが横切っていった。

 

 急いで沈黙を埋める必要もなかった。

 

 

 

     ◆

 

 

 

「……王様というのは、もう少し出し惜しみをするものかと思っていたぞ」

 

 暫くして、エヴァが口を開いた。

 

「物による。貴様へ蔵の鍵を渡せと言われれば、蹴り飛ばして終わりだ」

 

「そこまで図々しくはない」

 

「なら問題あるまい。使える品を使うだけの話だ」

 

「その『だけ』で、私がどれだけ手間取ったと思っているんだ」

 

「我に掛け合っていたわけではなかろう」

 

 エヴァは何か言い返そうとしたものの、結局、湯呑みへ視線を落とした。

 

 出来ることも持っているものも違う。それを今ここで比べたところで、彼女が欲しかったものへの返事が変わるわけでもない。

 

「……今日の話は、じじいには言うな」

 

「貴様が決めてもおらんことを、先に話して何になる」

 

「その調子ならいい」

 

 短く返し、茶を飲み干す。

 

 空になった湯呑みをこちらへ寄越す頃には、指の力も普段通りに戻っていた。

 

「貴様が王だったという話も、今のところ黙っていてやる。職員室へ持ち込んだら、面倒なことになりそうだからな」

 

「信じたのか?」

 

「全部ではない」

 

 そこは即答だった。

 

「ただ、つまらん大法螺だと切り捨てるには、少々惜しい話になった。それに、あの刃は……」

 

 言いかけて、やめる。

 

 こちらも続きを促さず、茶器を蔵へ戻した。

 

「まあいい。しばらく見ていてやるよ、英雄王」

 

「熱心なことだ。教壇からもよく見えるぞ」

 

「授業中にいちいち私を当てるなよ」

 

「見ている者へ話を振って何が悪い」

 

「教科書より貴様を見ていた方が面白かっただけだ」

 

 今度は、こちらが少し笑ってしまった。

 

 エヴァも口の端を上げ、ベンチから立ち上がる。外套を整える仕草は小柄な見た目に反して落ち着いており、先ほど言葉を失っていた時の指先は、もう隠れて見えない。

 

「それと、外ではエヴァでいい」

 

「マクダウェルでは不満か?」

 

「教科書を開けと言われる気になる」

 

「よく馴染んでおるではないか」

 

「嬉しくないね」

 

 半眼で睨まれたが、それ以上の反論は来なかった。

 

 こちらも立ち上がり、宿舎へ続く道へ目を向ける。

 

「では、また明日だ、エヴァ」

 

「ああ」

 

 数歩進んだところで、背後からもう一度声が掛かった。

 

「ウヌグ」

 

 振り返ると、エヴァはまだベンチのそばに立っていた。

 

 何か言いたげにこちらを見た後、ほんの少し顎を引く。

 

「……茶は、悪くなかった」

 

「次はもう少し素直に言え」

 

「褒めてやっただけありがたく思え」

 

 戻ってきた不遜な声に、笑って片手を上げた。

 

 今夜、呪いは何一つ解いていない。蔵へ戻した刃も、出す前と変わらず収まっている。

 

 あの小娘が、いずれもう一度口を開くなら、その時に取り出せばよい。

 

 宿舎へ向かって歩き出すと、少し遅れて背後にも足音が続いた。分かれ道で別の方角へ離れていくその音を聞きながら、明日の授業ではまた頬杖をついた顔を見ることになるのだろうと、少しだけ口元が緩んだ。

 

 






王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)について

神代、ギルガメッシュが地上に存在する財宝を集めて築いた宝物庫。

収められた財の多くは、後の時代に生まれる武器や魔道具、その他さまざまな宝の原典にあたり、その目録は時代と共に増え続けている。

本作ではギルガメッシュが『ネギま!』世界へ再転生したことで、王の財宝の対象もこの世界まで拡張されており、ネギま世界の過去・現在・未来に存在する、あるいは生み出される「財」も収蔵対象となっている。

そのため武器や魔法具はもちろん、薬、道具、乗り物など、物品として成立するものなら非常に広い範囲をカバーする。一方で、魔法そのものや固有能力、技術・概念そのものが直接入っているわけではない。

また、王の財宝は宝具だけが詰まった武器庫ではない。酒や食料、茶器をはじめとした日用品も大量に収められているため、本人は戦闘以外でも普通に使用している。

ギル本人からすれば、古今東西の財を集めた自分の蔵なのだから、その程度の用途を持つ品があって当然という認識である。
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