「わたくしはどちらでも構いません」
「どちらでも?」
「はい。格闘戦、射撃戦、どちらの武装でも問題はありません。そのようにお母様から手解きを受けておりますので。インセクトは距離を選ばない、常に銃器を構えるだけの充分な距離を保てるとは限らない……と」
「戦場は都合の悪いモノ、っていう意識を徹底していたんだな」
「はい。ですが、その……わたくしもまだまだ未熟なものですから、武装の方向性としてはクロスレンジからショートレンジを想定した物ですと手に馴染むと思うのですが……」
まさかのインファイター?
つまり左右それぞれの手に近接武器と短銃を持って戦うようなスタイルが得意、ってコト? なんだその啓蒙が高まりそうな匂い立つ狩りの仕方は。ノコギリ状の武器とか、それはそれでインセクトには効果ありそうだけど。
ふぅむ。タワーディフェンスやってたテナクス、というかフラメル領で体験した防壁での戦いとは求めているモノが違うな。いや、そもそも想定する戦場のイメージが離れているのか。向こうは洞窟探索すら規模がデカかったし。
「と、なると装甲パーツはファイター、フェンサー、グラップラー、もしかしたらシューターもアリかな、ぐらいの想定で……いいとして……。ディアさん、本当に武器の好みとか、得意だったり苦手だったりとかは無いの?」
「戦士たるもの、あらゆる状況に対応してこそ一流であると教わりましたので」
「それもお母さんから?」
「はい、お母様から」
「指導熱心だねぇ。ほなら、そのお母様が好んで使ってた武装とかあったりしない? とりあえずコレ使ってる姿をよく見てた、みたいな武器。ひとつぐらいあったりしないかな」
「お母様が、よく、使っていた……武器……」
お。
もしかしてガチもんの万能選手か? フルアーマーとかフルウェポンパックみたいな呼び名が付きそうな装備で戦場にお立ち遊ばれていたのかしら? それならそれでやり甲斐だけは抜群だから望むところだが。
「大型の、ハンドガン」
「ハンドガン?」
「はい。様々な武装を自由自在に扱っている中で、必ず持ち歩いていた武器です。装甲パーツを指輪に収納しているときも、常に背中に……こう、ベルトの隙間に差し込むようにしていまして、いつ奇襲を受けても対応できるように備えているのだ……と」
「おぉ、それは格好いい」
お嬢様言葉っぽい雰囲気だから両親も貴族かと思ったが、ホルスターも使わずにハンドガン持ち歩くなんてスタイリッシュなことするじゃん。
でも冷静に考えたらアクセサリーから武器だけ展開できるんだから実用性は無いよな……? なんだろう、おまじないとか験担ぎだったり? 俺は好きですけどね、そういうの。
「ほしたら、まずはハンドガンをクラフトしようか。基準となるフレームを最初に作って、それからディアさんの手に馴染むようカスタムしよう。グリップやバレルの長さとか、握ったときの感触とか、思ったことはなんでも言ってよ」
「いえ、ですが、如何なる武器も選ばずに戦うのが戦士としての」
「如何なるパイロットのためにも最善で最良の武装を提供してこそ一流のアルケミストだと思わないか?」
「まぁ……。そのように言われてしまうと、わたくしも期待したくなってしまいますわ。その、はしたないと思われるかもしれませんが、やはりパイロットとしては専用装備という響きに憧れがありまして」
うん、わかるよ。
専用って単語が嫌いな男の子なんていないから。
なんなら陸専用とか砲撃用とか強襲用とかシチュエーションに特化したカスタムとかも大好物だって人たくさんいるから。高機動型とか重装甲方とかでもいいし、なんなら試験用とかでさえもロマンの塊ですから。
「ディアさん、自分に正直になろう。専用装備、欲しいよね?」
「いえ、ですが、その、やはり……」
「専用装備、欲しいよね?」
「ですから、戦士たるもの……」
「欲しいよね?」
「……はい」
ハイ、言質と注文いただきました。
専用ハンドガン一丁、喜んでぇッ!!
「ほなら、とりま普通に鉄で標準モデルのハンドガンをクラフトするところから始めようかな。意見をもらうのはあとでいいから、ディアさんは部屋の片付けをやってて大丈夫だよ。まさかホコリまみれのベッドはイヤでしょ?」
「わかりました。ふふっ、楽しみが過ぎてお掃除が雑になってしまわないよう気をつけないといけませんね♪」
…………。
…………。
後ろ姿、ちょっと嬉しそうだったな。
やはり世界観がそうだから、日本でいうところの男の子回路をこの世界の女子たちは持ち合わせているのかもしれない。
そして、ハンドガン。
普通を学ぶための一歩目としては最適な武器じゃないか。汎用性と拡張性に優れているのも技術を磨くという点で優れていると思う。
「親方、裏手の廃材使わせてもらいますね」
「好きにしろ。ついでだ、テーブルクラフトで自我を潰す練習もしとけ」
「自我を潰す?」
「客が求めてねぇサービスの押し売りは迷惑行為だ。それに統一された規格も覚えておかねぇとトラブルの原因になるぞ。同じ武器だから同じように使おうとしたら違う癖がついていた、じゃパイロットの負担が増える」
「あー、予備のマガジンユニットを安いので賄おうとしたら使えなかった、みたいな話ですか。状況によっては取り返しがつかなくなるヤツ」
「そのへんは怪しいブツに手ぇ出すほうも悪いが……お前は常識を学びに儂の弟子になったんだ。お嬢ちゃんのリクエストを聞き入れる前に、まずは規格品に慣れろ」
む、確かに。
基礎を学ばずしてオリジナル無し。まして俺はいきなりオリジナル武器のクラフトから始めたから確実に変な癖がついてるはず。
ふぅ〜、危ない危ない。やはり持つべきは導きの師となる人物だ。そして父ロジャーよ、たぶんリットン親方が言ってた通り常識の基準がもうズレてるかもしれないぞ。ホントごめん。