「コレオさ」
「静かに。声を出すな。物陰へ、ゆっくりと」
「…………ッ!」
コクコクと頷いて静かに隠れるディアさん。
さすがはパイロット候補生、判断が早く的確だ。イヤな言い方になってしまうが、状況を観察して把握しようとすることすら邪魔して無意味に騒ぐヒロインとは全然違う。
それで?
外には誰が……ふむ。
貴族っぽい服装のデブと、それを取り巻くチンピラ多数。わかりやすい構図なのは大変結構なのだが、相手が貴族で現場が下町ってのは警備隊の助けもあまり期待できない最悪の組み合わせだろ。
たぶんリットン親方は俺たちがこっそり逃げ出しても文句は言わないだろう。それどころか、むしろこの場にとどまるほうが怒られるかもしれない。短い付き合いだけど、そういう人だってことぐらい知っている。
でもゴメン、親方。
そいつぁムリな相談だわ。
チート転生者ってのは、基本的に自己中心的でワガママで好き勝手に生きることばかり考えてる人間のクズなんだわ。
チラリ……チラッ、チラッ。
誰か俺の存在に気づかんかな〜。
誰でもいいんだけど────あ。
デブ貴族、キミに決めたッ!
からの、1秒停止。
そしていかにも「やっちまった!」と言わんばかりにササッとね。わざとらしく顔を引っ込めれば……。
▲▼▲▼
「ほっほっほ。あの頑固者で有名なリットンさんがお弟子さんを育てておられるとは! いやいや、別にそれを悪いことだとは申しませんよ? 後進の育成、職人の技を絶えさせないのは大事なことですから。えぇ、えぇ! 大変素晴らしいことですとも」
「テメェ……ッ!!」
デブ貴族との関係は知らない。
なにを喋っていたのかもわからない。
でも想像はできる。
リットン親方、金だけを積まれて仕事を依頼されても普通に断りそうだもんなぁ。
それに大人と子どもの区別をかなり意識している人だし、こうして学生に銃を突きつけてヘラヘラしてるような輩とは仲良くできないだろうさ。
「あぁ、親方はもう黙っていてくださって結構ですよ。私とは会話どころか顔を合わせるのも嫌だとのことですし。……さて、キミ。突然のことで悪いのだけれど、少しだけ私の頼みを聞いてもらえないかな?」
「両手の指いっぱいに高級そうな指輪を揃えられるお貴族サマに、自分のようなガキにできることなんて無いと思いますけど」
「ほっほっほ。そんなことはありませんよ。なぁに、簡単なことです。そちらのリットン親方に、武装のクラフト依頼を受けるよう説得して欲しいのですよ」
「はぁ、依頼を。……武器を頼むにしては、パイロットの方は見当たりませんが?」
「今回、リットン親方に依頼するのはあくまで“観賞用”ですから。ただ、私が用意した図面通りにクラフトしてくれば良いのです。そう、ただそれが……リットン親方がクラフトした、という事実があれば……ね」
観賞用ぉ〜?
ただでさえ胡散臭いのが余計に信用ならん臭いプンプンしてんだけど? 武器職人に使わない前提で武器を作らせるとか、料理人の用意した皿を写真だけ撮って食べずに帰るぐらい失礼ちゃうか? そりゃリットン親方みたいな人はコイツ嫌いだわな。
「しかしですね、弟子といっても昨日の今日なんで……そこまで親方と上手くコミュニケーションできるか自信ないッスね」
「では私が交渉しやすくしてあげますよ。ほら」
「へい」
「なにを────うごぉッ?!」
いきなり、ボディに、くるとは……やってくれたなチクショウ。
だが危険察知のおかげか、腹にピリピリする感覚があったから備えられた。そうでなきゃ普通に吐いてたかも。
「坊主ッ!!」
「おっと、勝手に動かれては困りますよ親方。そんなことをされては驚いて……驚きのあまり、うっかりお弟子さんの手を撃ち抜いてしまうかもしれません。もしかしたら、頭のほうにも……ねぇ?」
「まてッ! 依頼は受けるッ! 仕事はキッチリやってやるッ! 坊主を離せッ!」
「まぁまぁ落ち着いてください親方。私が、いま、話しているのはお弟子さんのほうです。残念ですが、親方と会話する気にはなれません。ほっほっほ……ッ!」
「ぐ……ッ!」
露骨な意趣返し。
もう目的がすり替わっとりますやん。
「さぁ、少年。リットン親方に依頼を受けるよう頼んでもらえますか?」
「いやぁ、自分には少し荷が重いと申しますか────うげぉッ?!」
「おっと、つい足が滑ってしまいました。すみませんねぇ、そんなところに転がっているものですから、うっかり脇腹に当たってしまって」
「ゲホッ、ゴホッ……本当、に」
「はい?」
「俺が、リットン親方に依頼したら……離して、くれるんですか?」
「えぇ、もちろん。これでも通商貴族ですから、約束は守りますよ。信頼がなによりも大切なお仕事ですからねぇ」
なるほどなるほど?
なら、決まりだな。
「だが断る」
「……なんですって?」
「1度、やってみたかったんだよね。暴力や財力を振りかざして得意気になってるヤツに逆らうってのを。ハハッ、本当にこんな都合よくテンプレ満載のバカに直接絡まれる日がくるなんて思わなかったよ」
「キミ……自分がなにを、誰に向かって、言っているのか」
「テメェだよクソ貴族。そんなこともわからないのか? あぁ、それも仕方ないか。俺の言ってることなんて理解できないよな。だって────ブタに人間の言葉がわかってたまるかよ」
「このガキィッ!!!!」
う〜ん、瞬間湯沸かし器かな?
カルシウム足りてないんじゃない? イナゴでも食えよ。
さて……無事挑発も成功したし、この状況をなんとかしないとな! いやぁ、本当に都合がいい。ここが