高さにして、ほんの数センチ。
それだけで足りる。
『『『『うぉぉぉぉッ?!?!』』』』
地面が急に消失して冷静でいられるヤツなんて、選ばれし主人公じゃなけりゃよほど冷静か天然か楽天家か皮肉屋かサイコパスでもなければ……結構いるな、該当者。
おっと、余計なこと考えてるヒマはないぞ〜。
疾きこと風の如くッ!
逃げることゴキの如くッ!
でも、その前に。
「うひゃぁぁぁぁッ?! なんだコレはッ?! なんなんだコレはぁぁぁぁッ?!」
1番逃げられちゃ困るヤツはしっかり確保しましょうね〜。悠長に穴のサイズとか考えていられないので、土も含めて手当たり次第なんか適当な素材でグルグル巻き巻きしてあげようね〜。
もう何年も前に回収したジグモの糸もインベントリの内部では劣化しないみたいだからな。パイロットをひとりも連れてきていないし、インセクト素材の拘束から抜け出すのは難しいんじゃない?
よっしゃ、このまま一旦中に……戻るとディアさんが危ないな。
とりま親方んとこ避難しましょ。
地面が土ならいつでもどこでも塹壕や壁をクラフトして盾にできるッ! 土木の錬金術士を舐めるなよッ!
「おぉ〜、ちょっと転ばせただけなのにキレてんのか? どいつもこいつも飼い主のヨシが無いのにバカスカ撃ってきやがるじゃないの。親方、すっごい人気者ですね。尊敬しちゃうな〜」
「若いときにやらかしたツケは一生残る。勝手に精算なんてされねぇで、こうしてジジイになっても付きまとうってな。テメェも覚えとけ。しっかしよぉ……事情も知らねぇクセに、ご丁寧に挑発までくれやがって。師匠を差し置いて羨ましい真似してんじゃねぇよバカ弟子」
「えっへっへ、実は俺、こう見えて貴族なもんでしてね。欲張りなモンだから師匠の獲物も横取りしちゃったりするんですよ〜。権力って素敵でしょ?」
「貴族ってのは、もう少し慎重に喧嘩を始めるもんじゃねぇのか?」
「向こうは俺がホーエンハイム家だって知らないでしょ。今日は制服すら着てない、作業着なんだし」
銃撃戦、と呼ぶにはだいぶ静かなパシュンピシュンとエアガンのような音が響く。ご近所迷惑にならないのは嬉しい配慮だが、殺傷能力はガチなのでピンチであることに変わりはない。
土壁の盾は全然余裕だけど……どうやって切り抜けようかな? たぶん、どこかで見ている監視役や護衛役の人がもう動いてくれていると思うんだよな。さっきはホラ、銃口が俺に向けられてたから下手なことはできなかったってだけで。
だからこうして時間稼ぎをしていれば、家の扉が開いて中からディアさんが出てきてぇぇぇぇッ?! なんでッ?!
「皆様。どうか、1度、武器を置いて……わたくしたちは、きっと話し合うことができるはずです。いまなら、まだ、間に合うのではないでしょうか? 手遅れになってしまう前に、どうか銃口を下げて、対話による解決を」
「お前たちッ! アレもだッ! その女も確保しろッ! ふざけやがって、このベイカム・ゴルド様をコケにした報いを思い知らせてやるッ! 男のガキは殺せッ! 女は私のコレクションにしてやるッ! ジジイは生きてさえいればそれでいいッ!!」
あぁ、もうッ!
こうなると思ったから隠れてるよう言っておいたのにッ! 完全にそういうキャラしてそうなオッサンだもん、可愛い女の子を見つけたらそうなるだろうって思ってたよッ!
クソッ、こうなりゃ前世と今世合わせて最初のタブーをクリアするっきゃねぇ……ッ! 手遅れになってから後悔するぐらいならァ、男は度胸だクソボケがぁッ! キープしておいた石片手榴弾でチンピラどもを挽き肉に────。
「そう、ですか……。皆様、誰も、対話による解決には賛成していただけないのですね。────フフッ、
「親方。俺、目がおかしくなったかもしれません。ディアさんの構えてるハンドガンから腕まで魔法文字のサークルに包まれてるのが見えます」
「ありゃお前がクラフトしたヤツだろ? なんかヘンテコな機能とか組み込んだんじゃないのかギフテッド」
「いやマジのガチで知りませんよッ?! っていうか、親方だってギリ普通のハンドガンだって調べてくれたでしょッ?!」
「そういやそうだったな。だが、あの魔法文字は……」
襲い掛かろうとしたチンピラたちが固まる。
そりゃそうだ、だって魔法陣がバチバチと紫色の雷を弾けさせてんだもの。銃口を向けられているワケでもないのに感じる轟然たるあの魔力の胎動……え? ちょっとそれ人間に向かって撃ってもいいヤツ?
「主よ、大いなる翼の人よ。我ら大地に生きる子らを遥か天空より見守る尊き御方よ。主の福音を受けし信徒ディアマンテ・ルフェイ・パンタシアが、主に誓いし戦士としての義務をここに遂行いたします」
属性。
雷の魔法文字。
でも俺の知ってるヤツとは違う。
何倍も複雑で、それに、魔法陣の数も増えて。
加速する回転に魔力が……って。
アホみたいに眺めてる場合じゃねぇッ!
とにかく土の壁を特盛りに────親方もうすでに1段深く掘って蹲ってんじゃねぇか! じゃあひと声くらいかけてほしかったかな!?
うぉぉぉぉッ!! 今日の俺はミミズにも負けない穴掘り名人、雷だけれど耐爆防御ォッ!!
「────光あれかし。穿て、雷光」
一瞬だけ。
一瞬だけ、閉じた瞼の隙間から光が入り込んだ気がする。
気配は……誰も死んだりはしていない、ような?
チンピラたちはどうなって……うぉ。
「か、か、身体が……動か、ねぇ……ッ?!」
「いでぇよぉ……いでぇよぉぉ……ッ!!」
「目がぁ、目がぁ……オレの目がぁ……見えねぇよぉ……」
「じ、じぬぅ……だすげでぐれぇ……」
死屍累々、いや皆生きてるけどそう言いたくなるレベルの惨状でした本当にありがとうございます。あの魔力の波動で結果がこれなら一応手加減はしてくれたっぽいな。一応だけど。
「お母様は、わたくしに、こう教えてくださいました。許すこともまた、力を持つ者の義務である……と」
「ですが、それと同時に王族としての心構えも教えてくださいました。人の善性は無尽蔵ではなく、許しを与えるだけでは悔い改めることができない者もいると────それらを、許してはならぬのだと」
前世でさんざん見慣れたヒロイン特有の、傷つく人々の前で悲痛な表情を見せるディアさん。
でも顔と行動が噛み合ってねぇのよ。左手を胸に添えているのはそれらしく見えるけど、右手のハンドガンまた持ち上げてバチバチいっとるのよ。そもそもキミがやったんだぞこの惨状。
「なので、どうか皆様……もう立ち上がるのはおやめください。どうか対話による解決に応じてください。どうかお願いします。わたくしは────引き金を引く正当な理由を得てしまったわたくしは、皆様を撃ちたくて仕方がないのです」
これから俺、この子に専用装備作んのか。
なんかお姫様のギフテッドっぽいからなー。頑張って強いハンドガンを作ってあげないとなー。あははー。ウッソだろお前、そんなことあるぅ……?
はい。彼女も本作のヒロインです。