「じゃあ、彼は本物の通商貴族なんですね」
「少なくともゴルド家の先代当主は我が国へそれなりの貢献を果たしています。しかし、第一子である“ソレ”が誕生してからは全く良い評判を聞かなくなったことで有名ですが」
だいぶ……紆余曲折にしてもヘアピンカーブの連続が過ぎるような気もするが、とにかくトラブルも一段落ということで、姿を見せた護衛の方々と引き渡し諸々の話し合いである。
そのとき助けが遅れたことも謝罪された。なんでも銃口を向けている相手を下手に狙撃すると、撃たれたショックで反動だったり筋肉の硬直だったりで発砲してしまうことがあるらしい。
ドラマやアニメなんかだと犯人の持ってる武器をピンポイントで弾き飛ばしたりとかしてるが、アレってやっぱり高等技術なんだろうな。
もしくは銃火器の仕組みが違うから、マガジンユニットが誘爆する危険性とかもあるのかもしれない。多少の損傷ならともかく完全に壊れた場合、収納された素材の金属片がデタラメに飛び散るし。
いやぁ、反省が必要だな今回も。ディアさんを守らないといけない、なんて一丁前なこと考えていたけれど。
さすがにね……俺がオッサン貴族に確保されたときの護衛の皆さんの心情、というか心労を思うと迂闊な行動が過ぎたよね。
うーん。
本格的に自衛手段も考えないとなぁ。
ちなみにオッサン貴族のほうは、いつの間にか倒れていたおかげで雷から逃れたのかしばらく元気に騒いでいた。
だがそれも護衛の人に耳元でなにか囁かれた途端に顔が真っ青になって黙ってしまう。どうやら格付けは一瞬で終わったようだな?
しかし再起動した途端に自身を売り込んでくるという、逆転狙いにしても望みがあまりにも薄い勝負に出た根性は素直に凄いかもしれん。
「そうですね、条件次第では……父ロジャー・ホーエンハイムに貴方のことを相談しても構いませんよ」
「おぉ……おぉッ! さすがはコレオ様、私めの商才を正しく評価してくださるのですな! して、その条件とはどういったものでございましょうか?」
「簡単なことです。貴方がこれまで行ってきた商談や交渉の全てが、国家に貢献するものであり、人々の幸福に繋がるものであり、法と秩序に従う誠実なものであるならば、私、コレオ・ホーエンハイムも喜んで貴方の手を取りましょう」
「ならばご安心ください! このベイカム・ゴルド、父より受け継いだゴルド商会を正しく運用し多くの利益を産み出してきたと自負しております故に!」
「そうですか。では後ほど父ロジャーに相談しましょう。相手を殴り飛ばし地面に転がして、脇腹を蹴りつけ銃口を押し当てて要求を突きつける行為は、我がフォルティス王国では交渉の手段として正当に認められている方法なのか……と、ね」
いや、本当に。
よくまぁ交渉の余地があると思えたな?
▲▼▲▼
「しかし親方、流れ弾が宿のほうに飛ばなくて良かったですね。居候の身でこんなこと言うのもなんですけど、この味わい深い壁では銃撃戦に耐えられなかったでしょう」
「デカい損傷は順次メンテナンスしてたんだがよ、どうしても細かいところは後回しになぁ。それでも儂だって錬金術士だ、足場を組んで天井やら屋根の上まで手入れしてただけマシなほうだろ」
「やってて良かった錬成式。ディアさん」
「はい、なんでしょう?」
「期待させるようなこと言っといて悪いんだけど、武器のクラフトより先に家の修理を優先してもいい? やっぱり環境を整えるのって大事だからさ」
「もちろんです。ですが、その、わたくしにも手伝えることはあるでしょうか? あまり、そういった作業は得意ではなくて……刺繍と編み物、あとは紅茶と早撃ちと蹴り技ぐらいでしかお役に立てることが……その、申し訳ありません……」
照れながらモジモジする女の子、王道ですなぁ。並べられた特技のラインナップは王道っつーより覇道に片足突っ込んでそうな気もするが。いや逆に紅茶と銃弾の組み合わせは一周回ってポピュラーと言えなくも……?
「ちなみに料理は?」
「煮込み料理でよければ、少しは自信があります。わたくしの故郷では、男子は父親からパンの作り方を、女子は母親からシチューの作り方を学ぶ伝統があるのです。わたくしもお母様から煮込み料理は作っても良いと許可を得ていますので、コレオ様とリットン様さえ良ければ是非お任せください」
煮込み料理“は”作っても良いと“許可”が出ている。
リットン親方を見れば眉間にシワが寄っていらっしゃいますわ。さすがはチートスキルの一部を見抜いた年長者、言葉の中に含まれた違和感を見逃さなかったか。
だが仕事や役目があるってことは共同生活で良好な関係を続けるために必要なことだ。多少の雑用ってのは皆でやるぶんには娯楽のようにコミュニケーションの場にもなるし。
「そういうことなら親方、ディアさんにはご飯の準備とかお願いしましょう」
「……そうだな。まぁ、少しぐらい味に……なんだ、不慣れな部分があったとしても助かるのは事実だろう。お嬢ちゃん、うちには羊肉の塩漬けを常備しとく習慣は無ぇ。金は渡すから肉屋まで、悪いが自分で買い出しにいってくれや」
「まぁ、そうでしたか。わかりました、初めてのお使いですが……必ず食材を獲得して無事に帰還してみせましょう。コレオ様、予備のハンドガンをお借りしても?」
「お好きなようにどうぞ。急がなくてもいいから、美味しそうな食材をゆっくり選んできてよ」
「はい。それではさっそく、行ってまいります」
予備のハンドガンは護身用だもんな? さっきあんなことあったんだもんな、買い物には関係ないけど仕方ないよな? いうてディアさんのほうにも監視は付いてると思うぞ。
推定、他国の王族。そうでなくともギフテッド。それに自国の貴族が喧嘩売ったばっかりだ、恐ろしくて放置なんてできないだろ。父ロジャーか、ヴィッシュおじさんか、事後報告でも許可は出るはず。
それにしても……パンタシア、って名乗ってたよな。これまでの法則からして王族だと、っていうか本人もなんか王族としての教えがどうとか言ってたし推定どころか確定なんだろうけど……。
つまりはギフト持ちの王族がお忍びで他国に来ちゃうようなところにルカニは行儀見習いに行ったってコトなんだよなぁ。
俺のときとは違って最初から真っ当な手続きで出発したし、兄より優れた弟だから大丈夫だと信じたいが……心配する気持ちって、理屈じゃないっていうね。