次のヒロインは常識人枠になる……かも?
入学式を終えて学園生活2日目。
「これが本物の採石場か……露天掘りで上から見下ろす景色、まるでテーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるな〜」
アルバイトのため石を掘りにやってきました!
ちなみに友人たちはそれぞれお勉強タイムなので不参加です。まぁ木材とか簡単な素材での基本的な錬成をすっ飛ばしてるからな。いくら課題の粗鉄インゴットが作れたからといって、基礎をしっかり学ばないと必ず後で困るだろう。
そしてディアさんはお友達ができたそうなので、今日は苦手なライフルによる中距離射撃の練習をするそうだ。ニコニコ笑顔でたくさん撃って練習してきますと宣言したディアさんは実に楽しそうでしたとさ。この世界の女子会とか物騒な気配プンプンすんぞ?
「お、学園指定の作業着が新品だな。オマエ新入生か? 昨日の今日でこんなところに金稼ぎに来ることもないだろうに」
「やっぱり入学式のことって、傭兵の皆さんも気にしたりするんですか?」
「そりゃもちろん。ガキどもの訓練のために巣穴の掃除をしてやってんだ、どんな連中が今年はパイロット候補生やってんのかぐらい気になるさ。それで? アルケミストの少年。お約束は覚えてきたか?」
「怪しい物には触らない、怪しい穴には近寄らない、危険を感じたら恥ずかしがらずに元気よく助けてくださいと叫ぶ」
「パーフェクトだ。監督の事務所は向こうの……ほれ、国旗がブッ刺さってる小屋な。向こうもバイトの受け入れは手慣れたもんだ、ちゃんと頭下げてお願いしますって言っときゃなんとかなる」
勝手知ったるなんとやら、だな。
でも事務員さんに聞いた話では、採石場でのアルバイトってあんまり人が集まらないみたいなこと言ってたんだよな。砂埃や汗で汚れるから、そこそこ錬金術を使えるようになった男子生徒はもっと楽に稼げる仕事を選ぶって。
いうて俺も金稼ぎより体験学習が本命みたいなところあるしなぁ。戦場のアルケミストを目指す立場として、通路の安全保持とかそういう知識は絶対に必要だもの。素人の思いつきじゃなく、プロの仕事に触れてみたいっていうね。
石材の確保?
それはまた別問題。
ここで採掘された石はブロックに錬成され学園に納品されている。
つまり採石場の石材は立派な商品である。
それをパクるのは言い訳無用の窃盗行為である。
持ち帰るにしても監督に相談してから、それも今日1日しっかり働くほうが先。
こういうのは1度でもなぁなぁで手出しすると歯止めが効かなくなって大変なことに……ってのが定番だ。
なぁに、ただの素人学生アルバイトにいきなり本格的な仕事なんて振り分けないでしょ。仕事終わりに石をチョコッと掘る時間ぐらいあるっしょ!
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「おーいッ! ケーブルつないでくれぇッ!」
「はぁいッ! 赤から順番に繋ぎまぁすッ! 赤ヨシッ! 青ヨシッ! 黄色ヨシッ! 繋ぎましたぁッ!」
「はぁ〜いッ! オッケェッ!」
「うぇいッスッ!」
「おいバイト、次はこっちだ。置いてあるレールの敷板を順番に固定していけ。細かい高さはオレらがレール接続しながら後追いで調整すっから、レベルでだいたいの水平だけ見ながらな」
「はいッ!」
「作業中は足元だけじゃなく頭の上や背中にも気をつけろよ。なんでもできるヤツより、怪我しねぇことを気をつけれるヤツのほうが偉ぇ。それが現場だ」
「ウッス! 気をつけますッ!」
いや普通に使われているんだが?
石材確保のため監督に気に入られようとしたのが裏目に出たか。俺の頑張り過ぎだ! 計算しなくても夕方までに体力は落ちる!
でもお昼ごはんの肉団子、俺だけオマケでみっつぐらい多かったもんな。シチューにはいってるヤツ。多く食わせてもらったぶんぐらいは稼がんと男が廃るばい!
……なんて、意気込んだものの。
なんだかんだ特別扱いされ続けてきたからな、俺。
真面目に頑張ってはいるが、ちゃんと肉体労働の現場に馴染めるか不安は消えんなぁ。
…………。
…………。
「へぇ〜。魔導管の施工管理の等級ってそうなふうに決まってるんですね」
「やっぱり病院とかの公共施設とか、王城に関わる部分とかは重要だけど、極端な話、少しぐらい失敗しても死にはしねぇからよ」
「もちろんだからっつって手ェ抜いてやっていいとは言わねぇよ? でも特A級資格の現場はちょいとしたミスで大惨事になるんだわ」
「さっき言ってた、天然の属性魔力石のことですか」
「天然の属性石は純度が違う。色合いが違う。透明感が違う。強度が違う。研磨して絶縁処理した石は装飾品として高く取り引きされる。宝物扱いだから“宝石”とも呼ばれる」
「あぁ〜、宝石ってそういう感じで……」
「だが天然物は魔力反応に恐ろしく敏感だ! しかも鉱脈そのものは珍しいが規模はデケェ! いっぺん事故が起きればまず助からねぇ!」
「チッ。ジジイ、バイトのガキを無駄に脅かしてんじゃねぇよ」
「なぁ〜に言っちょるか! 事故の記録は正しく次の世代に渡さんと、なんべんでも同じような犠牲者が出るじゃろが!」
「テーブルクラフトによる属性付与が安定してからは需要も限定的になったらしくてな、大昔ほどの大規模採掘なんて仕事、そうそうねぇよ。だから坊主が心配するようなことじゃねぇ」
「ワシのジイさんのジイさんの……ま、とにかく昔の話だ。水の魔力石を発掘中に連鎖反応が起きてな、露天掘りの現場がクソデケェ湖になっちまった! 空の見える範囲で作業してた錬金屋はともかく、細道ん中にいた連中はな……とっさに壁を圧縮してどうにか生き延びたヤツもいたそうだが、大半はパニックになってそのままポックリってよ? いまも水底には逃げ遅れた当時の人だったモノがいっでぇッ?!」
「ボケジジイッ! バイトの学生さんになんて話きかせてんだいッ!!」
「おぉ〜、ナイスショット。お姉さん、この缶コーヒーもらってもいいですか?」
「あいよッ! 好きなだけ飲みなぁッ!」
「ごちそうさまで〜す」
「うんうん、それでいい。坊主、人生の先輩からのアドバイスだ。働く女の前でアホなことはするなよ、絶対に勝ち目はねぇ」
「肝に銘じます。でもそれはそれとして、事故の話は参考になりますよ。いつ、どこで、どんな危険に巻き込まれるかわかりませんし」
「まぁ……そうだな。風穴なんかは、実際いきなり繋がるときがあるから油断ならねぇからな」
「風穴、ですか?」
「風の魔力石が暴走してとんでもねぇ嵐が巻き起こってんのよ、この国のどこかの地下ではなぁ」
「チッ、もう復活したか。タフなジジイめ」
「生涯現役宣言は伊達じゃねぇぞ若造ォ! ぎっしっし! で、だ。その風穴ってのも最初は地下空洞に停滞しているだけだった。ま、それでもFAどころかパイロットスーツも使えねぇ男が踏み込めばバラバラに斬り刻まれんだが……いつからか、風の動きが変わったんだ」
「地下空洞の奥の奥の奥底のほうに向けて暴風が吹いてんだと。FAを展開してても持っていかれるほどとんでもない勢いの暴風がな」
「FAのパワーでも耐えられないんですか。そんな空間に繋がることが?」
「さすがに離れてるところをいきなり引きずり込まれるようなことはないけどな。不自然な風の流れを感じたら、絶対にそっちには行くなよ。いまでも行方不明が出る事故は起きてる。注意喚起はしてるはずなんだが、なかなか……好奇心ってヤツは厄介だよ」
怪しい穴には近寄らない。
前世でケイビングの事故動画でもあった、見えない落とし穴のことかと思っていたけれど、その風穴とやらに関する警告でもあったのかな?
もしかしたら今日ずっと誰かと一緒で単独で動くなって何度も繰り返し注意されていたのも、その風穴とやらに入り込まないよう見守られてたのかも。
大自然の脅威、それは採掘場でも同じか。忘れずに気をつけるようにしよう。
「そういや風穴の流れが速いところはアリも逃げられないんだっけ?」
「あぁ、何百ってアリの襲撃が丸ごと飲み込まれたって話な。突然地面が崩落して全部吸い込まれてったとか。数日ぐらいで魔力石が灰化したのか風はすぐ止まったらしいけど」
「安全なんちゃらの講習でやったな〜それ。なんだっけ、アリが大量に集まって巣作りすると、風穴に繋がりやすいからフォルティスじゃ大規模な襲撃は起きないんだっけ? ハハッ、誰が言い出したか知らねぇけど【アリジゴク現象】なんて上手いこと名前付けたもんだわ」
おっと?
そのネーミング、なんだか想像とは別の種類の大自然の脅威を感じちゃったゾ☆