「わざわざ声をかけてくれたところ悪いけど、俺はたぶんキミが想像しているような人間じゃないよ。切実な意味で金欠ってワケじゃないし。普通に生活はできてるよ」
「でも事務局の人に聞いたけど、昨日もアルバイトしてたんでしょ? 普通に生活できる生徒は、普通は初日から連続でアルバイトしてないでしょ」
「いや、違うんだって。それは実家のお金になるべく頼りたくないって話で……そもそも俺、領主貴族の息子だし」
「……ッ! アンタ、それ」
あんまり肩書きを振りかざすような真似はしたくなかったが、誤解を解くためには仕方な────。
「平民が勝手に貴族を名乗ったりしたら学生だって処罰を受けるわよ?」
あるぇー?
「いや、俺、マジで貴族の」
「セカンダリのネクタイしてて入学してから授業を受けないでアルバイトのためとはいえウキウキでゴミ捨て場に向かってるヤツを誰が貴族だなんて信じるのよ」
「弟なら俺の言うことなら信じてくれる!」
「それ、アンタの弟が世間知らずなだけじゃない?」
「失礼な。弟より俺のほうが16倍は世間知らずだッ!」
「いやどこに張り合ってんのよ……。ま、いいわ。少なくともアホだけど、やっぱり悪いヤツじゃなさそうだし。それで? 一緒にバイトしようって話は受けてくれるのかしら?」
「別にいいけど、あとから俺が本物の貴族だって知ってからバイト代多めに寄こせとか言うなよ?」
「ハイハイ。わかった、わかったから」
「よし、契約成立だな。俺の名前はガトリング・ゴードンだ。よろしくな、ショットガン・トレイシー!」
「さっきのいまで露骨な偽名使ってんじゃないの! しかもあたしまで巻き込まない! 誰よトレイシー。ナージェンダ、あたしの名前はナージェンダよ。あと、あたしショットガンあんまり好きじゃないし」
「コレオだ。今度は嘘じゃない。それで、ナージェンダさんはショットガンが嫌いってことは火炎放射器信者かな?」
「さん、はいらないわ。あと火炎放射器もパス。弾丸やバッテリーをバカみたいに食う武器って好きになれないのよね。回収できるインセクト素材も劣化しそうじゃない? ダブルでコスパ悪いもの。やっぱり女はライフル担いで一発必中狙いでしょ!」
「コスパ意識の稼ぎ優先なのに格闘武器じゃないんだね」
「当たり前じゃない。いくらあたしがケチだからって、命と引き換えにするほどじゃないわ。接近戦は得意な人に任せたほうが効率的でしょ? 役割分担よ、役割分担。ちょうどハンドガンとソード系の武器が得意だって子とも友だちになったしね」
おぉ、なんて冷静で的確な判断なんだ。そういえばディアさんもライフルが得意な友だちができたって言ってたし、お互いに弱点を補えるような人と自然に交流が生まれるのかな? 己の足りぬを知り助けを求める素直さ、俺も忘れないようにしないとな!
▲▼▲▼
と、いうことでリサイクルも役割分担で作業することに。
俺は現場でひたすら粗鉄インゴットをクラフトし、ナージェンダがスクラップの運搬とインゴットの納品に走り回る。
錬金術士がハンドクラフトで魔力を使えるように、パイロットも魔力による身体強化が多少はできるので振り分けとしては間違いではない。
但し。
相方が俺でなければ、だが。
「……ナージェンダ、少し休憩しようか?」
「はッ?! なにッ?! ぜんぜん……これ、ぐらい……平気だ、け……ど……ッ!!」
「いや全然だよ、息切れメッチャしてるよ。ムリだって、俺これでも何年もハンドクラフトで素材の再錬成してたんだもん」
「べ、別に、ぜんぜん……へっちゃら、です、けど……ッ!?」
「これ以上強がるなら2度とお前には関わらないが、いいな?」
「よしコレちゃん! 小銭は貰えたしちょっと休憩しよっか! 売店でなにか飲み物と、甘い物でも買って食べよう?」
「いいねぇ〜。ナジュちゃんが張り切るもんだから俺も手がダルくて休みたかったところなんよ〜」
「でしょう!? やっぱり、パイロットと、錬金術士は……お互いのことを尊重して、考えて、行動しないと……ダメ、だからね!」
さすがにね?
入学前に数週間だけ傭兵に魔力の使い方を教えてもらったから、で得意気になる程度のパイロットの運動量には負けないって。ライフルに自信ネキであることと、機動力と持久力への魔力の振り分けは別だもの。
「なるほど、傭兵の人たちから武器の扱いだけ上手くてもパイロットになれないって……てっきり調子に乗って失敗するな、って意味だと勝手に思ってたけど……まさか、荷物の運搬だけで息切れするなんて……ごめんなさい」
「そこは別に謝らなくてもいいよ。でも強がって作業を続けようとしたことはしばらく忘れないから後悔していいよ」
「いや……悪いのはあたしなんだけどさ、なんでそっちを根に持つワケ?」
「ひとりが無理をすると、それをフォローするために別の誰かが犠牲になるから。この場合、お前さんが魔力欠乏症で倒れたらさ、何往復も走らせてた俺は周囲からどんな人間に思われるか想像できる?」
「……そうね。悪いウワサって簡単に広がるもんね。悪かったわ、午後からはムリのないペースで手伝うから」
「今度は俺も事務局に一緒に運ぶよ。そもそもバイトの受け付けやったの俺だしね」
…………。
…………。
んで。
一服を終えて廃棄場に戻ってきたところ。
「インゴット、ないなったな」
「ちょ、なんで……アレひとつでもそこそこの値段になるのに、まるっと全部無くなってるじゃないッ! コレ、立派な泥棒よ! 泥棒ッ!」
「いうて名前とか刻印してたワケじゃないけど」
「なに言ってんのよ! こんなところにインゴットを置きっばなしに、っていうかわざわざインゴットにクラフトした鉄を捨てないでしょ! スクラップと一緒になんか! 間違いなく確信犯よ……もうッ!」
「よし、盗まれた物はどうせ返ってこないだろうし。新しくクラフトすっか!」
「アンタ全然気にしないのね……?」
「まーね。この程度のイベント、理不尽でもなんでもないし」
なるほど、なんかこっち伺ってる気配がみっつぐらいあったのはそれか。普通の新入生は基本どれかの授業を受けているとすると、上級生にハイエナされたかな?
まだ入学から1週間も経過してないってのに、いきなり窃盗とはやってくれる。でも危険探知がこのレベルの嫌がらせまでは知らせてくれないって知識を得られたのは悪くない。
「とはいえ、やられっぱなしってのは趣味じゃないな。しばらく様子見をして、何度も持っていかれるようなら罠を仕掛けるか」
「先生に相談したほうが早くない?」
「盗まれたインゴットが俺の物だって証明する方法が……無いからね」
「その露骨に不自然な間!」
「いやゴメン、これ前期課題に関わることだから。先生たちからもなるべく秘密にしてねって言われてんの」
不正防止のためにクラフトした錬金術士の魔力パターンも記録するって言ってたからな。
たぶん言えば鑑定してくれるのかもしれないけれど、そもそも鑑定してもらうまでのハードルが高いんだよね。
逆に言えば……盗まれた粗鉄インゴットでトラブルが起きたとしても、それが俺のクラフトした物だとは簡単に証明できないワケだ。
ダメだよ、上級生の皆さん。
新入生がクラフトした素材なんか危ないよ。
もしもインゴットの中にさ、人間では到底クラフトできないような高純度の属性魔力石が紛れ込んでいたら大変だろう?