上級生の運命がどうなるのか、彼らのマナーとモラルを試すのもいいがそんなことより優先しなければならないことがある。
学生の本分はな……お勉強なんだよッ!!
「本日の男子合同学習会の会場を提供してくださいましたリットン親方がこちらです。ご本人は昔の知識だとご謙遜なさいますが全然そんなことないです。現役の錬金術士の方です。なので皆さん、許可を出してしまった親方が迂闊だったということでガンガン質問して教えを請いましょう!」
『『『『いや言い方』』』』
「なんだ、お前のダチっていうからどんな連中かと思ったが、案外まともそうなガキどもじゃねぇか」
「俺みたいに変な先入観もないので学園の授業だけで全然間に合うとは思うんですけどね。真面目な話、知識と経験のバランスって難しいじゃないですか。どっちが先行し過ぎても厄介というか」
「職人仕事はマニュアルさえ暗記すりゃいいってもんじゃねぇからな。なんで“それ”が必要なのか、そいつを知ろうとするのは良いことだ。なに、バカ弟子のことはともかく、改めて基礎に触れるのは儂にとっても勉強になる。遠慮なんかいらねぇ、っつーより、この程度で遠慮なんぞしてたらパイロット連中の相手はできねぇぞ?」
『『『『はいッ!!』』』』
うーん、本物のカリスマって感じ。
熟練で現役の老人が嫌いな男の子なんていないからね、しょうがないよね。特にテナクスからの留学組は錬金術士周りの事情とか面倒そうだしね。彼らも帰国後は中央政府に引っ張られるのだろうか? こういうときだけは暴力や権力に絡むチートが欲しくなるな。
「それで? 主催者のお前はなにすんだ?」
「本を借りてきたので、それでも読もうかと」
「儂の目には小さなガキのための絵本に見えんだが」
「物心ついたときから錬金術の練習ばっかり夢中になってたので。案外、こういう絵本とかを通して社会のルールを学んだりするじゃないですか」
「お前がブッ飛んだ行動すんのは半分以上が確信犯のクセになに言ってやがる。まぁいい、真面目に勉強してる連中の邪魔はすんなよ」
主催者の扱いが雑な件。
でも実際問題いまは俺が口出しをするべきタイミングじゃない。正しく基礎を学ぼうとしているときに我流の人間の意見なんて邪魔以外の何物でもないのだから。
さ、俺も絵本で人間性を学ぶとしよう。
▲▼▲▼
「親方、ケーキの城は無理でもケーキの家ぐらいなら錬金術で再現できませんかね?」
「影響され過ぎだろお前……」
「実際やろうとしたら、金属より金かかりそうだよな」
「あと時間制限な。クリームが溶けちまう」
「作ってる最中にネズミも寄ってきてしまうのでは?」
「後始末だって大変だろ。食べ物を粗末にするなんて、翼の信徒じゃなくても天罰くらうぜ、きっと」
「ほなケーキの家はダメか。いや、クッキーやビスケットの家ならワンチャン……小麦粉と、火の魔力石と……」
「夢を追い掛けるのを悪いとは言わねぇが、現実のことも構ってやりな。お前ら全員入学早々に前期課題を終わらせたんだろ? なら、来月にはもうアリの巣行きのバイトが紹介されるぞ。紹介っつーか、半ば強制的にな」
親方曰く、アリの巣内部にある補給拠点でのメンテナンス等の作業は学生アルバイトで賄っている部分があるらしい。
まさかのいきなり前線勤務か! と思ったが補給拠点である。防衛拠点ではない。よかった、それなら人類はそこまで切羽詰まってなかったと思い込める。
主な仕事は雑用と環境整備で、通信や索敵といった重要設備やFAの装甲や武装には基本的にノータッチ。余裕があれば勉強用として触らせて貰えることもあるかも? ぐらいの緩いアルバイトだそうな。
「リットンさん、それ、もしかしてパイロットたちも似たようなアルバイトを紹介されるのでしょうか?」
「あぁ、もちろん。戦闘には出されねぇが、パイロットスーツと人間用の装備を持たされて、補給拠点の警戒任務にな。特に夜間警備なんかはバイト代に色が付くから応募するヤツが多い。勤務態度が学園に報告されるとも知らずに、なぁ?」
「親方さん、悪ィ笑い方してんぞオイ」
「コレオのお師匠様だぞ? 毒ぐらい持ってるだろ」
「なに言ってやがる、評価されるのなんぞ当たり前だろうが。学園側が紹介するバイトだぞ? 男なら錬金術士として、女ならパイロットとして、将来使い物になりそうか、いまの段階で見所があるか、当然よぉ〜く観察してくれるよう頼まれてるに決まってんだろ」
つまり俺も採石場での行動が全部評価に含まれていた可能性が微粒子どころか惑星レベルで存在する……?
良かった、初手から石材くださいとか舐めたこと相談しなくて。大丈夫、俺なりに真面目に働いた。どんだけ評価が悪くてもバイトの縁までは切れないはず。
「意外とな、環境が変われば魔力の扱い方にも影響が出る。陽の光が届かねぇ、ってのは想像以上にストレスになんのさ。人工の光がどれだけ明るくてもな。喉にへばりつくような湿った空気、人間のモノとも自然の草木とも違う魔力の流れ、それらが引き込もうとしてくる底の見えない暗闇。なによりも、それに恐怖を感じることができねぇようなヤツが1番危ねぇ」
うーん、本物の生き残りって感じ。
みんな黙って完全に空気が冷え冷えになっとるわ。ヨロイムカデの抜け穴に潜ってきたことで冗談めかしたマウント取ろうって気にもなれんレベルで。だって俺も声出したくても変に喉に突っ掛かって出てこねぇし。死の恐怖とは違うタイプの緊張感と凄味を感じる。
「なんだ、こんな虚仮威しでもうビビってんのか? 生意気だと思ってたが可愛いところもあるじゃねぇか。ま、こんな老いぼれの話でも聞いてみようってホイホイやってきたお前らが迂闊だった、ってことだ。せいぜいテメェで首ィ突っ込んだ世界がどんなもんか想像するこった。遠慮はいらねぇぞ? もう遅ぇんだからな」