チートスキルがあれば、前世の記憶と知識があれば、大抵のトラブルは自力で解決できる。
そんなふうに考えてた時期が、俺にもありました。
「……こないな」
「……こないわね」
学園生活を楽しみつつ、本日は廃棄場に粗鉄インゴットを放置して盗っ人の正体を暴いてやろうとスニーキング中。いや、単純に身を隠すのってステルスなのかな? まぁ、どっちも似たようなモンやろ。ガハハ!
なお、インゴットにはまだ罠を仕掛けていない。親切心で拾ってくれる人が現れたとき大変だからね。
罠を仕掛けるのは犯人が常習犯であることを確認し、そして何度も繰り返し盗ませて“チョロい新入生から楽に素材を横取りできる”と安心させてからでいい。
「たまたま、というか。ほんの出来心で1回だけの可能性もあるからな。そのときは素直に諦めよう。人間、誰だってそういう部分はあるもんだ」
「だけど、そこをグッと我慢するのが普通の人でしょ。1回だけだから、がなんでも許されたりしたら、盗まれたほうはたまったもんじゃないわ」
「それはそう。全部なぁなぁで済ませるのは俺だって────おっと、誰か来たが……事務員さんだな、アレ」
「なんか周囲をキョロキョロして……なにかポケットから取り出したけど」
「そこに隠れている二人組。ひとりはコレオ君ですね? 隠れていないで出てきなさい」
「どうも、こんちわッス。けっこう上手く隠れたつもりなんですけど」
「見廻り用の簡易探知機です。FAの補助装備に使われているレーダーには遠く及ばない性能ですが。それで? いったいなにをしていたのですか?」
「えーと、カクカクシカジカで。本当に盗まれたのか、それとも勘違いなのか確かめてみようかと」
「はぁ……。なるほど。だから事務局にいつまでも引き取りに来なかったんですね」
「えっと……?」
「コレオ君、それとナージェンダさんでしたか。キミたちが横取りされたと思い込んでいる粗鉄インゴットなら、その日のうちに事務局に届けられていますよ。ほかでもない、持ち去った上級生たち自身の手で」
「はい?」
「え?」
「不特定多数が出入りする公共の場に私物を放置するとこうなるぞ、という先輩からのメッセージです。ところでふたりとも、入学式の式典は教室で見ていましたね?」
「え、あ、はい」
「見てました」
「そのとき、教室にいた教員の方々から、どんな些細なことでも、なにかあれば気軽に相談するようにと言われましたね?」
「言われた、と思います……」
「言われました……」
「キミたちが身を隠すためのカモフラージュに費やした労力と、誰かが通りかかるまで待っていた時間。その日のうちに私たち学園のスタッフに相談していれば3分で終わっていた話です」
「それは……すいませんでした……」
「ゴメンなさい……」
「あぁ、いえ。別に怒っているワケではありませんよ? 自力で問題解決に動く判断力と行動力そのものまでは否定しません。ですが、自分には能力があるからといって“誰かに相談する”という選択肢を初手から省くのはよろしくない。慢心の行き着く先についてはコレオ君、キミは特別な訓練カリキュラムのことは知っているでしょう?」
「特別な訓練?」
「まえにちょっとね。ちょっと」
「アナタたちが自分で自分の時間を無駄にしただけのことなので、特にペナルティなどはありません。ありません、が……知識や技術を身につける、それだけのために学園に通うのではない、ということは忘れないでください。粗鉄インゴットは買い取り扱いになりますので、忘れずにアルバイト代を受け取りに来てくださいね? それでは」
…………。
…………。
「うむッ! これは恥ずかしいなッ! 偉そうに、やられっぱなしってのは趣味じゃないとか言ってナージェンダを巻き込んでるから割増しで恥ずかしいッ! 錬金術士として不甲斐ないッ! よもやよもやだッ!」
「みんなが使うゴミ捨て場に、物を置きっぱなしにしていたから注意されただけだった……なんて……ぐ、うぅ……ッ! 恥ずかしいにもほどがあるわよコレ本当にもう……ッ!」
自分が投げたかどうかさえ覚えていないブーメランが次々と戻ってきて突き刺さってる気分だ……完全にやってますわ、チートスキルがあるからって先生に相談するっていう当たり前に最初に選ぶべき行動が完全にスッポ抜けとりますやん。
「はー、アホらし。そうだよね〜、ゴミ捨て場は皆が使う場所なんだから、せめて運べる量だけクラフトしてさっさと運び出してから、それから次の作業に取りかかるべきだったよね〜普通に考えて」
「良かったわねコレオ、ペナルティは無いってさ。失ったのはあたしたちの調子に乗ってた得意気だけよ」
「バイトでさ。許可が出たら巣穴に行けるって話は聞いた?」
「えぇ、もちろん。一日でも早く前期課題を終わらせて、アリから外骨格剥ぎ取って荒稼ぎしてやろうって思ってたもの」
「戦場に出るまえに、大事なこと気づけて良かったって……かなり、本気でそう思ってる。俺」
「ホントにね。あたしもアンタのこと言えないくらいアホだったわ」
くそぉ、やっていいこと悪いことの区別は昔からちゃんとしてきたはずなのに。マジで慢心しまくってたじゃないか。
3歳児だった俺なら、まず最初に父ロジャーに相談していた。8歳と9歳と10歳のときだってずっと相談してた! それで12歳になったら忘れてんだから世話ねーわ。
「悪かったな、巻き込んで」
「悪かったわね、便乗して」
ステータスの強化やスキルツリーの育成よりも先に、少し根性を叩き直す必要があるな。身体もそれなりに出来上がってきたし、無心で筋トレでもしようかな〜。
筋肉は全てを解決するっていうし、俺も火口で生物兵器から逃げるパートナーを助けるために大岩を殴って転がせるぐらいの筋肉目指そうかな〜。
昆虫バトルを楽しく書くためにも、カルマルートに繋がりそうなフラグは丁寧に折らないとね。皆さんの期待を裏切る形になってしまいご満悦です。(カス作者)
抜剣覚醒なんてさせないし、無空波はかわせないよ。