「慢心を無くすために筋トレしたいんですけど、学園にそういう設備ってありますか?」
「もちろんありますよ。ただ、基本的にトレーニングルームを利用するのはパイロット……つまりは女子生徒ばかりなので、たぶんコレオ君のほうが気まずいことになると思いますが」
「あぁ〜、そっか。それもそうか……普通はパイロットか、うん。んー、じゃあ今日のところは運動場をひたすら走ることにします。女子側もいきなり男子が混ざってきたらなんで? ってなりそうですし。邪魔はしたくないですから」
「一応、学園側としては男子生徒にも体力を鍛えるよう推奨していますので、トレーニングルームは全然利用してもらって構わないんですけどねぇ。ただの走り込みでも、念のため準備運動はしっかりとやってください。甘く見てケガをする人、けっこういるんですよ」
「はい、気をつけます。どうもありがとうございます」
っぱトレーニングの基本はランニングよ。
なんか筋トレってちゃんとやらないと逆に筋肉を痛めるって話も聞いたことあるし、運動習慣をしっかり身につけてからでも遅くないだろう。たぶん魔力があるこの世界でも同じじゃないかな? 乳酸とか、そのへんの概念がどうなってるのかは知らんけど。
そして、なにが素晴らしいって運動に必要な物はだいたいあるんだよな。やっぱり文明は最高だぜ! ジャージに、運動用の靴に、手頃なサイズのタオルに、スポーツ飲料。完璧か? しかもレモン味や青リンゴ味なんかもある。ちょっと酸味のあるフレーバーが好まれるのは一緒らしい。
そういや普通は授業中か。
見られたらだいぶ目立つなコレ。
逆にね。精神を鍛えるって意味では逆に適度な負荷になるんじゃない? リットン親方の言葉を借りるなら、どんな環境でもイメージを構築して錬成陣を展開できないと戦場のアルケミストとして活動できないだろうし。
恐怖を克服し、呼吸を乱さない。
そのための練習と思えば。
「おぉ……近くで見るとちゃんとグラウンドだわ。トラックって言うんだけ、このライン引いてコースちゃんと整備されてる部分。いやスゲーわ、プラスチック……じゃなくてゴム? とにかく樹脂っぽい物で覆われて……これ雨降ったあとでも全然使えるんじゃね?」
すげぇ。
文明すげぇ。
やべぇ、普通にテンション上がってきた。この手の陸上競技場みたいなヤツさぁ、テレビでは見るけど実際に立つ機会があるかっていうとさぁ。
他人の視線なんか気にしてる場合じゃねぇ! とことん走り込んでやるぜ! おっといけない、事務員の人にも注意されたし、準備運動はしっかりやってからな!
俺ァよ……。
やる、と言ったらやるぜ……?
「両手を大きく上げてぇぇッ! 手足の運動ぉぉッ! ハイッ! イチッ! ニッ! サンッ! シッ!」
…………。
…………。
走り出す前につま先で地面をトントン。
意味など無い。やってみたかっただけ。
そのへんに落ちてた適度な枝を組み合わせて簡単なテーブルをクラフトし、用意したスポーツ飲料を置いておく。ちょうどいまは俺しか運動場にいないし、誰の邪魔にもならんだろ。
さて、早速だが……ウォーミングアップから始めよう。
呼吸のリズムを意識して一定に保ち、無意識だった体内の魔力の循環を頭の中で可視化する。その状態をキープして早歩き。そこから速度を上げては様子見の繰り返し。これだな。
心臓の鼓動。
呼吸音。
魔力の流れ。
それらに意識を集中し、雑念を取っ払う。
さてさて。適度な運動はしてきたけど、何周ぐらいできるかな?
▲▼▲▼
雑念を取っ払うと言ったな?
スマン、ありゃ嘘だ。
だって、いつの間にかテーブルの上に飲み物増えてんだもん。
そら気がついちゃったら集中力も途切れるよ。
ハイ、やめやめ!
仕切り直しましょ。
水分補給でクールダウンしてしまえ。
「よう錬金術士。お疲れちゃん。あのテーブルいいな、しばらくそのままにしてくんね?」
「学園側が許可しないでしょう。つい先日、私物の放置について先輩たちから可愛がられたばかりなんですよ、俺」
「ハハッ。なんだお前、もう前期課題終わらせたのか。そりゃ早めに伝統行事やっとかないとダメだな」
「なんとなくだろうな、と思ってましたけど。やっぱりパイロット側でも似たようなことあるんですね」
「ん〜、3年生ぐらいまではそうでもないんだけどさ。4年から本格的に実戦での訓練が始まるだろ? そうすっと、結構な……差が出てくるんだよ。実力どうこうじゃなくて、性格のほう。だからまぁ、見込みのあるヤツを見かけたら早めにな」
「愛ですね。素晴らしい伝統だと思います。された側がそれを理解できるか別問題なところだけアレですが」
「それな〜。別に言葉で説明すりゃいいじゃんって思うよな〜。でもよ、困ったことに口で100回教えるより、たった1回遊んでやるほうが覚えてられるんだよな〜。……なぁ錬金術士、お前わざわざひとりでも身体鍛えてるってことはもう知ってんだろ? インセクトと対面するって意味を。ココに入るより先に」
「……! わかるんですか? そういうの」
「わかるよ。わかるようになった。オレも今年で6年だからよ、それぐらいはな」
おぉう。
学生だと侮るなかれ、空気感というか雰囲気がもう傭兵のそれ。よく見たらFAの展開キーである腕輪してるし。
「たぶん男子もおんなじこと感じ取ったんじゃねぇかな。わかんねぇけど、たぶんな。わかんねぇけど」
「う〜ん。なんか、それでもこう、ちょっとモヤっとします」
「じゃあお前はやらなきゃいい。自分がされてイヤだったことは、人にもしない。わかりやすいだろう? 別に誰に頼まれるワケでもねぇんだし」
そう言われると……えぇ……? なんか急に難しく感じてきたぞ? ただの体育会系のノリってこんなんだよな〜、ぐらいに受け止めてたのに。え? 俺の考え方がまだ甘いのか? でも言葉で説明するのも大事だよね? 我ら言葉のコミュニケーションが可能な人間ぞ?
「あっはっは! そんな顔すんなよ、別にお前が間違ってるって説教したいワケじゃないって! ま、なんだ。きっとみんな手探りなんだよ、ずっと昔から。だって誰も正解なんて知らねぇし教えてくれねぇんだから。オレだってこうしてお前と話してるのが正しいかなんてわかんねぇで喋ってるし」
「簡単に正しいマニュアルが作れるなら苦労しないし、そんなものが作れるなら誰だって読みたいですよね、それは」
「そういうこと。お前が考えるのはアレだよ、学園って環境を利用することを考えてりゃいいんだよ。オレら生徒は学園を利用して生き残るために必要なこと覚えて、大人たちは学園を利用して生徒を生き残らせるための手段を探してる。そんだけのことだよ、そんだけのこと」
なるほどなー。
そういう考え方もあるか、確かに。
賛成するかどうかは別として覚えておこう。いいな、いろんな考え方や価値観に触れるって。少なくとも慢心しているヒマはなさそうじゃない?
ちなみに作者は見て覚えろって理屈はわからなくもないけれど、それはそれとしてまず言葉で説明しろよと思っちゃう派です。
でも結局、やるだけやってみないと覚えられないというジレンマ。誰か正解を教えてくれー。