補給拠点のアルバイトは、出発前から始まるらしい。
物資を輸送車に積み込むところから……いや、積み込む予定の物資の山を、リストと照らし合わせて全て揃っているのか確認するところから。
作業そのものは簡単だ。タブレット端末ではない、紙のチェックリストを片手に鉛筆でひとつひとつ物資を確認して書き込むだけ。だが、そのチェックマークひとつに込められる責任は軽くない。
それでも1年生だから加減はしてもらえるということなのか、俺からチェックリストを受け取った上級生が再度ひとつひとつ丁寧に確認してくれていた。
それを二度手間と思うか、二往復のロスに比べれば微々たるものと思うか……俺が指揮官なら迷わずダブルチェックを命じるかな? 手間は取り戻せるがロスは取り戻せんだろ。
「1年。いまは気にしなくていいけど、商品名やメーカーも覚えるようにしろよ」
「理由を聞いてもいいですか?」
「不良品を平気で混ぜてくるところがたまにある。食べ物であれば、スープ缶が僅かに歪んでいて中身が漏れていたりとかな。長期保存が前提だ、それ単体が腐って食えなくなるのもそうだし、ほかの食品にまで影響が出ることもある」
「命懸けの現場に不良品ですか。面白い冗談ですね」
「あぁ、本当にな。ちなみに私が個人的に作成しているクソ名簿の中には実父の名前もあってな? 卒業したあとのことを考えるといまから胸が踊るような気分になれる」
「監獄島まで面会に行くのは大変そうなので、そうはならない手段で是非とも」
「当然だな。さて、ここはもう大丈夫だろう。主任に報告してくるから先に積み込みを始めててくれ」
「了解です」
しっかり釘で封がされていた箱までひっくり返し、怪しいパーツを取り除いて安全確認……いや品質確認を終えた箱を輸送車の後ろにポイポイっと載せる。
育てて良かった上腕二頭筋! というよりは魔力による身体強化のコツを教えてもらった経験が活きてるな。もちろん質が違うから女子みたいにしっかりパワーアップするほどではないが。
ほかにも卒業間近の男子生徒がフォークリフトで積み込み作業をしている様子も見えた。事故防止のため元気よく声がけし合っているので活気ある楽しい現場のようにも感じるが、あの先生の指導方針からして誰も油断なんてしてなさそうだ。
知識としては頭の中に入っている後方支援活動。
いざ自分がそれをやると、予想外に気が引き締まる。
テナクスで候補生やカティさんスティーリアさんに武器をクラフトしたときとも違うし、一緒にヨロイムカデの抜け穴に挑んだときとも違う。
あのときの俺は半分以上がお客様扱いだったが、ここではそうじゃない。開き直る理由がないので自分自身の責任と常に向き合わなければいけない。
くぅ〜、燃えてきたぜぇッ!!
……とでも言っておかないとプレッシャーに負けそうだ。サラリーマンの得意技が“からげんき”って言葉をネタにできるうちが華だな。
▲▼▲▼
案の定、今日も輸送車に揺られて現地入り。
比較的安全だと言われていた補給拠点は……巨大なクレーターの底にありました。まずこの大穴の由来によっては安全性など皆無だとコレオは思います。
しかし天井が無いのは環境的に優しいか?
いや施設の天井はあるけれど、まるっと洞窟内部の基地ではないという意味でね?
本当に気持ちが切り替わると感じ方って大きく変わるもんだ。あのときは試作クレイモアのことで頭が一杯だったこともあるし、本格的なインセクトの戦闘が初体験ってことでアドレナリンがドバドバだったのかもなぁ。
「ブーツの紐、解けてないか、車から降りる前に確認な」
「はい。……大丈夫です、先輩」
「お前は素直だから面倒見がいがあるよ。それだけに私が1年生だったころの態度が恥ずかしく感じてしまうのだけが困る」
「俺だっていろいろ体験してのいまですよ先輩。そうでなければ100倍生意気な後輩だったと思います」
「あぁ、それはもっと困るな。降りたあとは搬入開始になるが、決して焦る必要はない。転んでケガをするほうが迷惑になる。向こうも私たちのことは学生アルバイトとして認識してくれていることを忘れるな。と、いっても紹介されている時点で心配はいらないのだろう」
「作業が遅いのを承知の上で、安く使える労働力として。それでも体験学習ごちそうさまです、とでも思っておけば感謝できてお得ですね」
…………。
…………。
車から降りて。
1列に並んで。
ひと言だけの簡単な挨拶を聞いて。
さっそく運搬開始。
小学生のころの運動会の校長挨拶すら億劫だった俺にはありがたいスピード感だな。速さが足りてる。
ここからは女子生徒も手伝ってくれるらしい。パイロットスーツと拡張空間ユニットを使って、主に高いところへ積み上げる作業を担当してくれるようだ。
それが使えるなら輸送そのものを拡張空間ユニットでやればコスパも……いや、最悪を想定するなら無しだな。事故が起きて魔法文字を刻んたプレートが破損したときが怖すぎる。
武装関連と医薬品は倉庫の入り口から近いところに。
設備のメンテナンス用品は倉庫だけでなく専用の作業小屋にも、使用頻度に合わせて運んで。
主食となる麦や米は個別で保管する部屋があるのでそっちに。
嗜好品は倉庫、個人が注文した私物は別枠で管理室へ。
ふぅ。
いまは指示を出されてる側で、ちゃんと聞いて動くだけだから楽でいいけど、いつかは俺が後輩たちをこうやって動かさなけりゃイカンのか。こりゃ頭だけじゃなくて身体で覚えないとムリムリムリのカタツムリですわ。
しかも、まだ、これ。
本番じゃないのよね。
今日と明日は首都と基地を往復して物資を運ぶだけ。
3日目からいよいよ住み込みでまとまった時間を過ごす。
いやぁ……緊張しますな!
お客様扱いではない戦場で、学園とはどこまで空気感に差があるのか。こればかりはチートスキルに頼れない部分だ、俺自身がしっかり学んでレベルアップできるように頑張ろう。