大人が真剣に大人を頑張ってくれている世界では、チート転生者の子どもに任せられる仕事など大袈裟なモノではないようだ。
な〜んて素敵な配慮なんでしょ!
でもインセクト側にそんな都合は関係ないっていうね!
『山岳観測所でインセクトの発生が確認されました。外で作業中のスタッフは直ちに基地内部へ避難してください。繰り返します。山岳観測所でインセクトの発生が確認されました。外で作業中のスタッフは直ちに基地内部へ避難してください』
そりゃ、逃げろ逃げろ〜。
クレーターのあちこちに設置された魔力変動を調べるための小屋を整備中、さっそく避難訓練の成果を見せるときがやってきた。ただ警鐘を鳴らすのではなくアナウンスがしっかりしているところに、ここが後方基地なんだなと実感する俺。
そう考えると壁数枚を隔てた先で毎日タワーディフェンスやってたテナクス領の防衛都市って凄いな。それで日常が回っているという戦力の充実具合もそうだし、なによりも市民の皆さんが混乱することなくパイロットたちを信じているのが凄い。
「コレオ君、慌てなくていいぞ。ほら、見てごらん。基地からパイロットたちが出動しているだろう。数分もしないうちにクレーター上部に防衛ラインが完成するから心配はいらないさ」
「でも、安心や安全は最大で99パーセントまでしか確保できないから気をつけろ。ですよね?」
「そういうこと。いやぁ〜、割と珍しいよねキミみたいな子。1年生でしょ? もしかして、どこか防衛都市の出身の子なのかな?」
「あ、はい。ホーエンハイム領です」
「うん? もしかして、偶然同じ名前とかじゃなくて本物?」
「えーと、できればご内密にしていただけると。まだ苦しめずに口封じをする手段に乏しくて、はい」
「あはは、大丈夫大丈夫。オレ、これでも前線と後方を何度も往復してるベテランのつもりだよ? 名前や肩書きを気にする段階なんてとっくの昔に通り過ぎたよ。キミが誰でもいい、問題は使えるかどうかだよ」
「何度も面倒事に巻き込まれてきた身としては、そう言ってもらえるのは助かります」
「キミも苦労しているねぇ。ちなみに紛い物のギフテッドっていう噂話のほうは?」
「父ロジャーと相談の上、せっかくなのでありがたく利用することにしています。いまのところ、俺が英雄にならなくても頼りになる大人の人がたくさんいますから」
「おぉ、次世代の子にそう言ってもらえるのは嬉しいな。やっぱりさ、こういう現場に長くいると、世代交代というか……気になるんだよ、次にここを任されることになる錬金術士がどんなヤツ来るんだろうって」
「急に重い話しますね」
「もうプロとしてそれなりに現場にいるからね。学生とは考え方が違うのはどうしようもないでしょ。キミもそのうち、そうなるよ」
世代交代、世代交代かぁ。
物語は主人公の始まりから終わりまで、もっと言えばクライマックスを過ぎてエピローグまでしか語られない。
だが世界はひとりの人間の視点だけで完結するものじゃない。この世界は俺のために用意された舞台じゃないのだから、いつかは“次”を考える日が来るのだろう。
だとしてもピカピカの1年生にする話と違くない?
「いま、こんな話をされても困るって思ったでしょ」
「はい。思いました」
「オジサンになると若い人と話すだけでも楽しいんだ、そういうものだと諦めてくれ。偉そうなフリしたくなるんだよ。偉人の言葉を借りて、自分はこんなことを知ってるんだぞ、って得意になってみたりとか」
「なるほど。……キミはコレオ・ホーエンハイムという少年を知っているか? 領主貴族であるロジャー・ホーエンハイムの子として産まれながら、ギフテッドの可能性に溺れてしまった愚かな少年だ。みたいな説教するワケですね」
「あ、そこで真っ先に自虐ネタ持ってきちゃう?」
「俺が許可すれば使えますからね。もしかしてご存知ありませんでしたか? 貴族っていうのは基本的に厚顔無恥なんですよ。特に俺の面の皮は通常のFメタルの3倍の分厚さです。どやッ!」
「うーん、これは頼もしい」
▲▼▲▼
1週間で、2回。
襲撃を知らせるアナウンスが2回。
命の危険と思えば多いな、充分。
それに地下と地上の行き来は頻繁に行われている。物資はもちろんのこと、人間も。パイロットだけじゃない、錬金術士の入れ替えも含めてだ。
休憩の時間は確保されているが、前線基地では昼も夜も無い24時間体制の警戒が求められる。さすがにシフトを組んで完全な休日を作らないと保たないらしい。身体でなく、精神が。
「そして俺はグランマガザンに強制帰還、と。1週間の住み込みアルバイト、なかなか勉強になりました。次にお世話になるのは来月ですね」
「別に月に1回だけの制限だからって、毎月参加しなくてもいいんだよ? もちろんオレは歓迎するし、ほかのスタッフもそうだろうけど。真面目な働き者を追い返す理由も余裕も無いからな」
「迂闊ですよ。いま歓迎するって言っちゃいましたからね? それ俺バッチリ聞いちゃいましたからね? しかもほかのスタッフたちの代弁をする形で。いや〜、勉強の機会を好きなだけ与えてくれるなんて、補給拠点の大人の人たちは優しいなぁ〜ッ!」
「あ、やっべ。この子の前で余計なこと言ったらダメなやつだ」
バカめ、もう遅いわッ!
やり取りを見ていた周囲の人たちも笑っている。もしかしたら苦笑いかもしれないが、イヤな気配は感じない。俺がまたアルバイトでやってきたら歓迎してくれるって言葉に嘘はないのだろう。それはそれとしてこちらの先輩スタッフは何度かイジられるかな?
しかし問題は次の機会、同じ1年生が増えたとき。
そこにパイロット候補生まで加わったとき。
学園都市全体の雰囲気として学生たちを育てることに意欲的なのは伝わってくるが、同時に必要なら容赦なく見切るシビアな部分も少なくないように感じる。これはきっと、俺だけの気の所為じゃない。
で、あるなら。
同じ空間に、有能と無能が混在している状況で、周囲の人たちはどんなふうに動くのだろう?
平和な日本じゃ考えられないことだけど、この世界では皆を平等に扱えば足手まといに巻き込まれて死人が出るかもしれない……という前提がある。
連帯責任? 助け合いの精神? やるなと言われたことをやったバカを助けるために言いつけを守っていた生徒が犠牲になるのは戦力と資源の無駄遣いでしかないが?
……なんて。
俺たちは人間だ。ロボットじゃない。
感情をコントロールできない人間はゴミとか言うヤツもいるけど、普通はコントロールできんよ。どうにか自分を騙したり説得したりして飲み込んでるだけで。
いやぁ〜、怖いなぁ〜。
大人たちは慣れてるだろうし、上級生はすでに通過した道だろうけど……生徒同士で衝突したとき、どんなふうになっちゃうんだろ?
本作の通信事情について気になる的なコメントを頂いたので少し補足を。
ざっくり説明すると、個人で通信端末を所有することは許可されていないけれど、各種施設にはテレビもラジオも電話もある感じです。但し電話は駅や病院などの公共施設のほか、緊急連絡がどうしても必要な防衛都市の領主たちだけ許されている……という雰囲気でやってます。もしかしたらいつかもう少し詳しく設定を固めるかもしれませんが。
ちなみにFA機体同士はコアによる短距離通信が可能であるとしています。そうでないと探索や索敵なんてやってられませんからね。
なのでルカニ君の護衛であるナヴィさんは世界観的に貴重な人材であると同時にかなりの危険人物ということになります。