リソース管理や稼ぎプレイが嫌いなゲーマーいる? 作:はめるん用
「領主サマ、果樹園からリンゴが盗まれたってさ」
「そうか。何色の木が被害にあったのかね?」
「緑のリンゴがひとつ」
「ならば領主として事実確認に向かう必要があるな。リットン、今日は助かった。次の機会には工房の皆に差し入れのひとつでも用意するとしよう」
「はい、いいえロジャー様。これもわたくしの役目ですので。ところで、コレオ様も?」
「連れて行く。子どもだろうと領主貴族なのだ、当然だろう」
俺の知ってるパターンと違うね? こういうのって、転生者が自分も手伝うって申し出たところを「お前に戦場はまだ早い!」とか「子どもの出る幕じゃない!」とか言われて置いていかれるのが定番なんじゃないの? 我まだ5歳児ぞ? 声の喉の通りが良くなったからって流暢に会話してたのがマズかったかな……。
「コレオ。私はこれから別件で用事があるから、お前はトルメンタと一緒に移動しなさい」
「わかりました。トルメンタさんの言うことをしっかり聞いて大人しくしています」
「領主サマが連れて行くんじゃないのかい?」
「私が一緒だと、我慢できずに先に答えを口にしてしまうかもしれない。この子は賢い、自分で考える力を持っている。ならば私は私の仕事を優先しなければならん」
「ハハッ、お父さんは考えることが多くて大変だ! ってなワケだからボウヤ、ちょっくらアタシとデートしようじゃないか」
「お手やわらかにお願いします」
あくまでも。
あくまでも急用が出来たという建前で工房から出る。リットンさんはしっかり察しているようだが、ほかの錬金術士の皆さんは慌てる様子もなく普通にお疲れ様でしたと頭を下げていた。そのための暗号めいたやり取りなんだから騒がれたら困るのだろうけど。
外にはすでに車両が2台用意されており、父ロジャーはちょっと高級感のある黒塗りの車の後部座席に、俺はトルメンタさんの運転するジープっぽい車の助手席へ。それが必要な立場の人たちには情報共有が終わっているのだろう、なんの説明も会話もなく外にいたふたりの傭兵が緊張感のある表情で敬礼していた。
「街、落ち着いてますね」
「そのための暗号だ、簡単にパニックになられちゃ困る。ちなみにボウヤは領主サマとのやり取り、どんなふうに読み解いたんだい?」
「そう、ですね」
興奮状態、先走るなら殺してでも止めろ、青リンゴ……じゃなくて、緑のリンゴがひとつ。そして明らかに危険が迫っているだろう状況で警報すら流れていない、けれど工房に置いてくる形になったふたりのパイロットは緊張感MAXって感じだった。
「……積極的に人間に敵対することはないけれど、単体で、パイロットの皆さんを含めて大勢の……死傷者、が、出るレベルの強力なインセクト……でしょうか?」
「悪くない。70点をあげちゃおう」
「これで部下が10人いたら3人死にましたね。私の、いえ、
「そう悲観することはない。領主サマのお墨付きだけあって
「ありがとうございます。ちなみに、残り30点については答え合わせはしてもらえるんですか?」
「さぁ〜て? アンタが“ボウヤ”のままだったら教えてあげてもよかったんだけどねぇ〜?」
おっと、ここでも間違えちゃったか。
緊張でボロを出すぐらいなら、いまのうちに素の部分を見せておいたほうがいいかと思ったが……トルメンタさんに気に入られたことで逆に対応が手厳しいものに変化してしまった。
いまは体験学習の時間なんだから、答えは自分で考えろってコト。つまりそれだけの余裕はある状況なのかな? たぶん、こっちから手出しをしなければ大丈夫って部分は合ってるんだろう。
▲▼▲▼
車に揺られて流れる街並みを眺めることしばらく、門を抜けた先にはいわゆる“防衛陣地”が広がっていた。
逆茂木、だったっけ? あのトゲを並べて敵の侵入を防ぐヤツ。アレが並んでいるが、その素材は木材ではなく石材。しかもジープの助手席から見上げるほどデカくて高い。つまりはそういうサイズが必要になると言う意味で────あ、外側に向かってどんどん逆茂木のサイズ小さくなってる。なにもかもが巨大生物ってワケでもないのね。
そんで、よく見たらFAを展開している女の人だけじゃなくて、軍装コートを着た男の人もチラホラいるな。アレが現場で応急処置を担当する錬金術士たちの姿か。逆茂木をコンコン叩いているのは不備がないか確認作業中っぽい? このメンテナンスひとつで命が助かるか消えるかの分岐になるかもしれない……と。現場を支えるのは地味な仕事ってのは、世界が変わっても同じらしい。
ってか、俺どこまで連れて行かれるんだろう? 2つ目の門と城壁、いや街壁? 見えてきちゃったんだが? 壁の外にはなんか、サイズというか規模がバラバラな砦がメッチャあるな……しかもチラホラと対空砲みたいな設備も見えるし……今朝がた父ロジャーが言っていた“インセクトの巣まで歩いて行ける距離”って心構えとかの比喩表現じゃなくてガチだったのか……。
お、停車したぞ。
ここが俺の見学先になる砦か。すっげー前のほう! 家族に別れの言葉は済ませてないんですが、いまから遺書とか用意したほうがいいですかね?
「よう銀髪! なんだ、テメェもついに一緒に死んでくれる恋人ができたのか? なかなかイケメンに育ちそうな小僧じゃないの、イイ男捕まえたな?」
「羨ましいか? 安心しな、独り占めなんてしないでアンタらともシェアしてやるよ。大事な大事な未来の上司だからね。状況は」
「久しぶりのお客さんだよ。ホレ」
「ん」
ポイッと投げ渡された双眼鏡を受け取って空を見上げるトルメンタさん。パワードスーツ系の文明があるわりに意外とアナログな確認方法なんだな。やっぱり緊急時には複雑な操作のいらない道具が便利だって、ハッキリわかんだね。
「コレオ、アンタも自分の目で確認しな。アタシら人類の天敵ってヤツの姿を。ここで倍率を調整して……あの空を飛んでる黒い粒みたいなヤツがインセクトだから、アレを真ん中にくるようにして、拡大を……そうそう、そこをポチッと押すだけ。さぁ、やってごらん」
座学より先に現場で本物を見ることになるとは、どこまでも俺の想定外のこと起きるな?
よし、いったん深呼吸しよう。吸って、吐いて、咄嗟に情けない悲鳴をあげないよう下っ腹に力をグッ! と入れて。そんな俺の様子を見て周りのパイロットの人たちが誰も笑ったりしないの逆にプレッシャーなんだが? ────えぇいッ! 男は度胸、安全な場所で遠くから様子見するだけでビビるヤツがあるかッ! どれどれ〜?