リソース管理や稼ぎプレイが嫌いなゲーマーいる? 作:はめるん用
ロジャーは後悔と共に天を仰いだ。
例えギフテッドだろうと、我が子コレオは約束を守ることの大切さを知っている。だから、多少変わった行動をしていたとしても放置して問題ないと……まして、途中から弟のルカニも参加したのであれば、危険も無茶もしないだろうと安易に考えていたことを後悔した。
メルティナは仲睦まじい兄弟の姿に微笑んだ。
澄み渡る青空に白い雲が浮かぶ心地よい日和の中で、午後からの作業に備えて水筒を抱えたままふたり仲良くお昼寝をしている姿にホーエンハイム家の未来を予感して微笑んだ。
アグラヴェインは腹を抱えて笑っていた。
彼はこの幼い兄弟がなにをしていたのかを正しく知っていたので、あえて余計な情報を与えることなく頃合いを見計らって連れ出すことで面白いリアクションを引き出せたことに満足して笑っていた。
そして、アグラヴェインからホーエンハイム夫妻の子どもに面白いヤツがいると誘われてやってきた領主貴族ゼノビア・ローゼンクロイツは言葉を失っていた。
私はいったい、なにを見せられているんだ……? と。
4人の大人と監視を任されていた使用人たちの前には5メートル四方にくり抜かれた穴があった。落下防止のために石を錬成して設置したであろう柵があり、下に続くブロックを積み上げた階段にも同じように落下防止の手すりがある。
壁沿いの階段を下りれば大人もスッポリ姿が見えなくなる程度には深く、これを子どもがふたりだけで掘り抜いたのであれば相当な作業量だったことだろう。しかも土や石をいちいち錬成してブロックをクラフトして階段として積み上げていたのだから尚更だ。
そして、これを成し遂げたふたりの子どもは現在お昼寝の真っ最中である。これまた土と石のブロックを積み上げて建築した小さな小屋のようなモノの中で、貴族らしさの欠片もない作業着姿のまま、水筒を枕の代わりにしてスヤスヤと休息をとっていた。
「……報告は」
「途中から、ロジャー様が、今後はトラブルが起きない限り必要はないと。ただ記録だけは残しておくようにとのご指示でしたので、そちらは抜かりなく」
「言ったかな……言ったかも……うん、私なら言ってそうだ……」
「我々としては納得はあっても驚きはありません」
「そうなのか……?」
「最初は穴掘りをご希望とのことで、以前の魔力石の粉末のときのように適度に掘り起こして石などを拾うものだと考えていました。それが初手から一人親方による採掘現場の設営が始まったワケですから、我々としてもギフテッドすげーと思いながらずっと作業を見守ってました」
「いや、まぁ……それはな? 私だってコレは確認していたし、土を錬成してブロックにするといった工夫は教えてもいないのに良く気付いたものだと感心していたが……しかし、こっちのほうは、さすがに報告があっても」
「水とバケツで石を削り、魔力石の粉末をひと掴み集めるまで2年。そして今回も手作業で庭を掘り進め、地の底から砂鉄をひと掴み集めるまで
「……そうか」
5メートル四方の穴はロジャーも把握していた。
しかし、その隣に空いている“10メートル四方の穴”については今日アグラヴェインに誘われて確認するまで知らずにいた。大人がスッポリ、どころの深さではない。土の層は全て掘り尽くされて頑強な岩の層が見えてしまっている。
「はっはっはッ!! これを7歳と6歳の兄弟が掘り抜いたなどと、ギフテッドの話を聞いていなければ信じられんな! 見ろロジャー! 途中に何ヶ所か横穴をくり抜いて作業場が設営されているぞ! いちいち上まで土塊を運ぶ手間とリスクをアレで省いたワケだ。底に向かうほど狭くなるのを承知で梯子を使わなかったのは、疲れた身体では転落の危険性があったからだろうな!」
「本当に、あの幼子たちが、これを……?」
「その質問になんの意味がある。信じるも疑うもゼノビア、貴様が決めることだ。もっとも、コレオとルカニのことが気に入らんのであれば、ふたりまとめてワシが学びの場を用意してやるだけだがな!」
「しかしだな、ここは確か……メルティナ、ここはその、例の事故があった場所なのだろう?」
「そうよ〜。コアの錬成事故で魔力元素の性質がメチャクチャになっちゃって〜、200年も手付かずだったのよね〜」
「……ロジャー殿。錬金術士として貴殿の意見を聞かせてもらえるだろうか?」
「不可能ではない、とだけ言っておこう。実際にコレオとルカニもこの汚染された土と石をクラフト素材として利用しているのだからな」
「推測でしかありませんが、我々はコレオ様は錬成時に完成のイメージを構築する能力が桁違いに優れているのだろうと、そう皆が感じました」
「魔力元素の乱れを無視して直方体に錬成できるほどに、か?」
「それが可能なのがギフテッドと呼ばれる存在なのでしょう。もっとも、おふたりで試行錯誤と努力を繰り返した結果ですので、それを才能などという陳腐な言葉でまとめてしまうのは……えぇ、コレオ様とルカニ様に対する侮辱も同然だと考えています」
「そうか、ルカニも良い意味で手遅れか。そうかそうか。アグラヴェイン、それにゼノビア夫人。どうかふたりに普通と常識を知る機会を与えてやってはくれないか? いやマジで切実に」
「ロジャー殿、領主としての仮面が剥がれているぞ」
「おぅ、もちろんだ! しかし、そうなるとワシとゼノビアでは向き不向きがあるが……?」
「より危険なのはルカニ様かと。コレオ様はギフテッドを便利な言い訳のようにお使いになりますが、ご自身の行動が一般的ではないことを自覚なさっています。ですが」
「あら、ルカニちゃんはいつだって謙虚よ〜? お夕食のときも、兄上は凄いんです〜って、嬉しそうに話しているもの。パパも知ってることよね〜?」
「もちろんだ。だからこそルカニのことも心配していなかったのだが」
「魔力元素が異常を起こしている素材をクラフトできるようになってしまった時点でルカニ様もギフテッド側に片足を突っ込んでおられますよ。頭ひとつどころか、同世代の子どもたちが大真面目に匍匐前進してる横を自転車で颯爽と走り抜けるぐらい飛び抜けています」
「それなら、コレオちゃんは〜?」
「遥か前方を高速鉄道で一人旅を楽しんでおられますね」
「あら、ステキ♪」
「だ、そうだぞ? どうだ、面白そうだろう!」
「どっちを引き受けるにしても恐ろしく厄介そうなんだが……ロジャー殿の胃にまで穴が空いたのでは困るからな……」