リソース管理や稼ぎプレイが嫌いなゲーマーいる? 作:はめるん用
「行儀見習い、ですか?」
「そうだ。以前、アグラヴェインがお前のことを誘ったことがあるだろう? アレは単なるヤツのお節介というワケではなく、フォルティス王国の制度として存在するものだ。12歳の入学式までに、最低でも2年間。安易に家の力に頼ることができない環境に身を置くことで、という建前でな」
「建前、ですか」
「どの領地も鉄道駅には貴族用の通信施設があるんだぞ? いつでも連絡が取れる環境を整えてあるのだ、それが建前でなければなんだという話だと思わんか?」
心底呆れたように溜め息を吐く父ロジャー。プールに浮かべた板の上で座禅を組んで精神統一に励んでいたところをわざわざ呼び出したぐらいだから、その行儀見習いという習慣は貴族的に無視できないイベントなのだろう。
「父様が行儀見習いの制度に複雑な感情を抱いていることはわかりました。ですが、私が10歳になったら送り出すことを伝えるだけであれば、わざわざ執務室に呼び出したりしないのではありませんか?」
「残り3年。全部、吐き出してからホーエンハイム領の外に出ろ」
「はい?」
「お前はローゼンクロイツ領に見習いに出す。領主のゲオルグ・ローゼンクロイツが巣の調査中に足を持っていかれてからはゼノビア夫人が領主代行として活動しているが、ゲオルグは自分の身体で義足の実験をするような頭の引き金が羽毛よりも軽い男だ。きっとお前も仲良くなれると信じている」
「私の引き金はそこまで軽くないですよ」
「知っている。だが、それは私がお前の父親だからだ。お前の行動力を正しく知らずに頼み事を許可するような真似をしたのでは大変なことになるだろう」
「本気の人間を相手に迂闊に言質を与えるほうが悪いと思います」
「同感だな。似たような話であれば貴族が家の名を出すことについて軽く考えているバカが少なくないのはフォルティス王国だけの問題ではない。まぁ、そこの話は行儀見習いに出す前にまた改めて時間を作ろう」
「それで、吐き出せというのは……」
「お前の中にいる知的好奇心という名の化け物をしっかり手懐けて満足させてから外に出ろ、という話だ」
軽々しく言質を与えてはならない、という会話のあとに好きにしろ発言とは。なるほど、これが本物か。父性、頼もしい……。さすがは領主、そしてさすがは父親。子どものワガママ程度簡単に飲み込んでやるという気概と、領主同士の繋がりを意識した気遣いの両立というワケだ。
ナチュラルに俺のことを問題のタネ扱いしていることに関して文句は言うまい。行儀見習いとやらのために外に出すことを思えば、これまでの行動は懸念材料にしかならない自覚はある。一応、危ないからダメだと言われたことだけは絶対に約束を破らないよう気を付けていたんだけど。
いや。
だからこそ自由を与えるのか。
だったら、俺が求める“物”は決まっている。
「父様。まず大前提として」
「うむ」
「防壁の外側は論外として、インセクトと接敵する可能性のある場所には近寄らないと約束を……そもそも命は惜しいので、いまはまだ近寄りたくないというのが本音ですが」
「そこは心配していない。ルカニを気遣っていることは報告で知っている」
「当然です。兄ですから」
「お前が望むなら、いや、先に話を聞こう」
「木材を確保するために外へ行く許可を求めます」
「木材? ……そういえば、お前、サムソンの枝拾いで集めていたな」
「アレはアレで楽しいですよ。屋敷で働いている皆さんと話す良い機会になりますし。布係のビセットさんの弟さんの奥さんが無事に双子を出産されたということで、お祝いの品として魔力石の粉末を集めて小さな馬の置物をクラフトしてプレゼントしました」
「お前私より屋敷と部下の事情に詳しくない?」
「父様は私より広い視野で物事を判断しなければなりませんから」
「う、うむ……。とにかく、わかった。木材だな。護衛はもちろん手配するが、ルカニのほうはお前から話せ」
「連れて行くな、とは言わないんですね」
「言わないとも。兄のお前が護ってくれるんだろう?」
おぉう。
してやったり、とでも言わんばかりの表情を見せてくれるじゃない。調子に乗って迂闊なこと言うとこうなるぞ、とさっそく実践して教えてくれるとは、実に教育熱心な父親で感謝しかないね!
たがこれで家族を心配させることなく堂々と木材を調達に行けるようになった。インベントリへの収納とスキル解放のための不自然な消費に気を付けなければならないが、まずはいまの俺でも伐採できる方法を考えるのが先だな。
「あ、そういえば」
「なんだ?」
「我が国の、狩猟に関する決まり事はどのようになっているのか聞いても構いませんか?」
「ほう? お前もそういう事に興味があるんだな」
「警備隊の人に銃を触らせてもらったことがあります。想像していたよりも、鉄の感触がずっと冷たくて骨まで伝わってきた感覚は忘れられないでしょう。ワクワクもしましたけどね」
「そうか……。少し早い気もするが、そういうことなら時間を作って私がまとめて教えよう。ほかに話しておくことはあるか?」
「今度、南地区にある商店街で虹色製粉所という大店が主催する第88回激辛マカロニデスマッチ少年部門に今回も謎の覆面食闘士ハバネロ錬金術士として参加するので調整のためしばらく食事をご一緒できませんが、別に病気などではないので心配は無用です」
「お前私より街の事情に詳しくない?」
「ご安心ください父様。私もホーエンハイム家の錬金術士、家の名に恥じぬよう前年の絶対王者として今年も格の違いを見せつけてきます」
「あぁ、すまんゼノビア夫人。できる限り負担を和らげてやりたかったが、やっぱりダメかもしれん……」