リソース管理や稼ぎプレイが嫌いなゲーマーいる? 作:はめるん用
もしも錬金術を含めたスキルを持ったまま日本に戻ることができたらやりたいことがひとつ。
打ち合わせが終わってプロジェクトがある程度進んでから「ちょっと付け足すだけなんだから簡単でしょ?」とか鼻の下のケツの穴から戯言を放り出すクライアントにたっぷり礼をしてやりたい。
その点、錬金術ってスゲーよな。途中からでも余裕タップリだもん。ダクトの再利用を見越して間に適当なパーツを挟んではいるが、魔力を通して変形と接着が簡単にできる。足場を組んで命綱を用意すれば楽勝ってなもんよ! 伊達に現場は見てねぇぜ!
「……いよいよ錬金術士とも領主貴族とも思えん姿になったな。父親としては頼もしいが、領主としても貴族としても複雑なところだ」
「おや、父様。危ないので作業場に近づくときはヘルメットを着用してください」
「監督か? 監督だったなもう。わかった、コレを借りるぞ。……この、命綱を預けている杭もずいぶん深く打ち込んだな。魔力の波長からして3メートルほどか。分解、錬成、再結合……錬金術士としてハンドクラフトの精度は順調すぎるほど成長しているようでなによりだ」
「普通の錬金術士が戦場で応急処置を担当するのであれば、完璧な修理を戦場で行える錬金術士は異常であるほうが期待できるでしょう?」
「自覚があるなら安心だと思っていたが、自覚があるせいで自重させる手段が無くなる、などと想像もしなかった。コレオ、少し真面目な話をしたい。1度上まで戻ってこい」
「わかりました。1度、下の足場に降りますので少しだけ待っていてください」
「……また、なんとも命綱を器用に使いこなしている。滑車をクラフトできなかったぶん、肩や腰に沿わせることで微調整をしているのか。生活能力なら、もう、国内の錬金術士でもトップクラスかもしれん……」
「お待たせしました。作業着のままで失礼します」
「構わん。さて、さっそくだが……近々、我がホーエンハイム家に行儀見習いとしてパイロット候補の令嬢をふたりほど迎え入れることになった」
「では、母様が指導を?」
「少し違う。まずはメイドとして雑用を教えることになる。我がホーエンハイム家は代々そのやり方を続けているし、もちろん依頼する側の貴族たちもそれは承知の上で、だ」
建前だけの行儀見習いじゃなく、本気で労働者としての経験を積ませたいってことか。アグラヴェイン様もそうだし、少し挨拶しただけだけどゼノビア様からも似たような雰囲気は感じていたし、想像と違ってフォルティス王国の貴族は現場主義なんだろうか?
「いいや、残念ながら本気で行儀見習いとして我が子を送り出す貴族は全体の半数ほどだ」
「息子が相手だからって簡単に思考を読まないでください」
「父親が相手だからと全く隠そうとしないのもどうかと思うが?」
「ダメなものはしっかりダメだと教えて欲しいので。私が領主として相応しいかどうかはともかく、領民の皆さんを護れる錬金術士でありたい、という願いだけは信じて欲しいですからね」
「お前……いや、その話はまたあとで────なんだか最近、同じフレーズを繰り返してばかりだな」
「それに関しては本気で申し訳ありません。ですが父様の邪魔をするつもりはないことだけは信じてください。あとルカニのことも」
「そこは初めから疑っていない。あぁ、それでだ。今度、行儀見習いで迎えるのはランスロット・ブラヴァツキーという貴族の娘たちだ」
「娘たち」
「双子だよ。指導役はシーマに任せることにした。それで、向こうの希望でな……コレオ、お前の世話役として配置することになる」
「……なんで、また」
「領主のランスロットは自分のことを【麗しき月の魔術士】と名乗る愉快な人物でな? かなり領民思いで、平民が安心して汗を流せるよう貴族は血を流さなければならない、だからこそ我らの血は尊いのだと常日頃から主張しているぐらいには領民たちを大切に想っている。それはそれとして会話をしていると頭痛がするので私もほかの貴族たちも用事がなければ近寄りたくないのだが」
「あ、ハイ。興味を持たれてしまったんですね、私」
「まぁ、そうなるな」
「アグラヴェイン様ってけっこう味付けの濃い方だと思っていましたが、フォルティス王国全体の傾向としてコッテリ系なんですか?」
「ホーエンハイム領を代表するシュークリームの皮に包まれたワサビの塊が怖気づくほどではあるまい」
「余興でご入用の際はいつでも────って、そのランスロット様に見つかったことがまさにソレみたいなモノですか」
「誰が悪いかと言えば、私の責任なのだが。……つい、お前が、自分で素材集めをしていることを話題にしたときに、な。鉄を求めて管理下にある巣の探索を許可するかもしれないと、うっかり」
「それは別に隠すほどのことではないので構いませんが、それで傭兵たちにご令嬢たちが殴られても知りませんよ? 行儀見習いの最中は家の名前を出さないルールなんですよね?」
「先ほど説明しただろう。ランスロットは流血を貴族の義務と確信する男だ」
つまりご令嬢たちが拳でイイコイイコされるのも想定済み、というよりはそういう教育を求めてるんだろうな。
将来パイロットとして傭兵なり領兵なりを率いて戦う娘たちに戦場の現実を少しでも叩き込んでおきたい、だけど自分が動けば家の名前が邪魔をする。だったら家の名前が使えない環境に放り込めば解決だ。
父ロジャーはついうっかりとは言うけれど、実際のところはわざと俺をランスロット様とやらに差し出したんじゃないかな? 差し出した、はちょっと言い方に悪意があるけれど、冗談混じりで紹介してくれる程度には仲がいいみたいだし。
でもなぁ……?
「そもそも父様。自分もまだ戦場を知らないガキでしかありませんが」
「そうだな。それで? それのなにが問題なのだ? もとよりお前は傭兵たちに殴られる前提で心構えをしているだろう?」
「命に関わることですので」
「だから任せるのだ」
「左様で……」
今日明日の話ではなく、いきなり同行させるつもりもないとは言うものの。いよいよ知らない同世代、それもご令嬢との邂逅か。センシティブじゃないほうのトラブルの気配しかしないんだけど、大丈夫かな……?