インクリメンタル☆アルケミスト   作:はめるん用

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指先に火を灯す。

 シーマさんからメイド令嬢たちとのコミュニケーションについては特別なことをしなくてもいいって太鼓判を押してもらえたし、ここは彼女たちにとって俺の専属という肩書きが恥にならないよう気をつけるとしよう。

 

 だから、俺は座学からも逃げない! 

 

 意外かもしれないけど実は俺、土方が本業じゃないんスよ。なんと貴族の、それも領主様の長男だったんだな〜コレが! 

 

 

「お前の努力は認めているが、努力だけでは解決できない部分は私が面倒を見てやらねばなるまい。さぁ、ここだ」

 

「立ち入り禁止と言われていたので詳細を聞こうとも思っていませんでしたが……倉庫ではなくて工房だったんですね」

 

「そうだ。武器専門の錬金工房でなければ属性付与などの技術は教えてやれんからな。ハンドクラフトではどれだけ精度を高めても術者の癖を消すことはできん。最初の基礎ぐらいは教科書通りに学んでもらう」

 

「基礎として優れているから教科書に掲載されているのでは?」

 

「お前ならそう言ってくれると思っていたよ。基礎など入学前に全て済ませてきたと豪語して大変なことになったバカどもに聞かせてやりたかったな」

 

 

 ▲▼▲▼

 

 

 ……街の工房とは雰囲気が違う、な。

 

 誰もが静かに作業をしているところは同じだが、沈黙の重みが違う。武器という破壊行為を目的とした道具をクラフトする責任の重さだろうか? 少なくとも前世知識でロボゲーの武器を再現してやるぜヒャッハー! なんてテンションになれる気はしない。

 

 

「よし。この錬成台を使う。違いがわかるか?」

 

「刻まれている魔法文字の密度が。それ以外だと……魔法文字を保護するクリアプレートの厚みが、いや、重ねてある層が多い? プレートそのものの厚みじゃなくて……圧縮してある、のですか?」

 

「そうだ。生活を支える道具とインセクトと戦うための武器では不注意で起きる事故の中身も変わってくるからな。さて、理屈を並べる前に今回も“習うより慣れろ”だ。まず私が無色の魔力石に火の属性を刻む。錬成陣の反応を良く見ておくように」

 

 

 錬成台の上に置かれた魔力石のキューブを挟むように父ロジャーが両手に魔力を通す。魔法文字が反応し、キューブを中心にリング状に並んで回転を……反応しているのは全体じゃなくて一部だけか。中央の円と、そこから枝分かれした複数の円からひとつだけ。

 たぶん中央の魔法文字が属性付与の錬成陣で、周囲の小さな錬成陣でひとつだけ反応しているのが火属性の錬成陣かな? リングが徐々に小さくなり、キューブをすり抜けて、半透明な魔力石の中にスッポリ収まって回転を早め────おぉ! リングが消えたら魔力石が赤くなった! わかりやすい変化助かる。

 

 

「今回はわかりやすく魔力石を使用した。だが属性付与は様々な素材に刻み込むことができる。仮に、そうだな……鉄インゴットに火属性を付与したとして、そのインゴットで斧を作れば、そのまま火属性の斧をクラフトできるということだ」

 

「火属性の斧ですか。伐採にはあまり適していなさそうですね」

 

「その通り。属性付与はどんな素材にも可能だが、その素材の用途をしっかりと決めてからでなければ意味が無い。紅茶に混ぜた砂糖やミルクを取り出すことが難しいように、付与した属性を消す作業はなかなかに面倒だ」

 

「その説明だとミルクティーからミルクを取り出すことも可能だと聞こえてしまうのですが」

 

「できる。ただ、難しいだけだ」

 

 

 つまり属性付与の練習に紅茶を利用することが!? 食べ物を粗末にする前提のトレーニングは好みに合わないな。もしも毒性の物質だけとか錬成の応用で取り出せるのであれば、テクニックとして磨くのもアリかもしれないが。

 

 

「さぁ、やってみろ。付与する素材はどうする? 武器工房にはお前にとっては珍しい素材も多いだろう。ただ与えるのではなく貸し出すだけならお前の流儀にも反しないと思うが」

 

「こんなこともあろうかと魔力石の結晶を用意しておきました。大豆ふた粒ほどの大きさですが、これでも努力の結果です」

 

「甘やかし甲斐の無いヤツめ。そうだ、大事なことを忘れるところだった。属性付与は用途を決めろと先に説明したが、属性を刻むときにイメージと一緒に刻むことを意識しろ」

 

「イメージと、ですか」

 

「暖を取るための火の温もり、料理をするための熱源、より直接的に物を燃やすことを目的とした破壊のエネルギー、暗闇を照らすための光源。ガラス細工を作るなら繊細さと熱量を両立させなければ透明感のある仕上がりにはならないし、錬鉄をより強靭な鍛鋼に再錬成するなら相応の密度が無ければ変質させることはできん」

 

「それは、確かに……先に用途をしっかりと決めておかないと、せっかく用意しても使い物になりませんね」

 

「イメージの練習は後回しでもいい。まずは必要な錬成陣だけを起動させることができるよう、丁寧に魔法文字に魔力を流せ。反復練習で感覚を掴んでしまえば、簡単な属性付与ならハンドクラフトでも刻めるようになる」

 

 

 戦場の錬金術士を目指すなら、ハンドクラフトで属性を動かせるほうが絶対に有利だろう。

 最悪、そのへんの石ころに付与するだけでも護身用に使えるかもしれない。折れた直剣ならもっと上等、斬った相手を燃やす痺れさせる凍り付かせるなどデバフ目的で振り回しても効果はあるはずだ。

 

 取り敢えず、記念すべき最初のイメージは……武器錬成を学んで天狗にならないよう、まずは温もりの火を灯すところから始めてみるか!




 そろそろチート主人公も役に立てない泥塗れの負けイベ戦闘書きてぇなぁ〜。

 すみません間違えました。そろそろ準備期間も長いのでFAとインセクトの戦闘の様子を読者の皆さんにお届けしたいところです。
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