インクリメンタル☆アルケミスト   作:はめるん用

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令嬢メイドは静かに笑う。

 フォルティス王国にて、防衛都市として屈指の規模を誇るホーエンハイム領に行儀見習いに出す。

 その決定を両親から告げられたリリー・ブラヴァツキーは、幼いながら貴族の令嬢として必ず両家にとって良き縁になるよう結果を出さなければならないと決意した。

 

 妹のマリーネは双子でありながら容姿以外はまったく似ておらず、明るく社交的で行動的な性格は姉として好ましく思う……が、貴族同士の繋がりを求めるには少々不向きであると考えた。

 もっとも、誰とでも仲良くできるように見えて人の好き嫌いはハッキリとしているのだが。どうやら相手の裏側に対する嗅覚が優れているようで、マリーネから「アイツは好きになれない」と相談された人物は大抵の場合品性を疑うような部分がある。

 

 

 それはそれで社交界的には優秀ではあるが、とにかくブラヴァツキー家の人間であればマリーネお嬢様だからと笑って許せることがホーエンハイム家での行儀見習いで通用するとは限らない。可愛い妹だからこそときには厳しくともフォローできるようにと意気込んでいたのだが……。

 

 

「想像していた行儀見習いとは、少し、いえ……かなり、違いがありますね……」

 

「うん? そうだな! ゼンゼン窮屈じゃなくてあたしは毎日楽しいぞ!」

 

 

 ホーエンハイム家での生活が始まってもうすぐ1年。

 

 メイド服より着慣れてしまった作業着に身を包み、地面の下で改造してダクトと合体した自転車を元気いっぱいキコキコこいでいる妹を眺めながらリリーが呟く。

 任された仕事そのものは重要な意味を持つ。ギフテッドの可能性アリと噂のコレオ・ホーエンハイムの命に関わる安全確保を任されているのだから。そう、酸欠で倒れないように風を送るという大事な役目だ。

 

 

 最初コレオから説明されたときは意味がわからなかった。窒息対策としてダクトによる送風を頼まれたことではない。領主貴族の長男が自ら庭に大穴を掘って鉄を探すという行動そのものが疑問でしかなかったのだ。

 

 貴族にとって部下に、あるいは商人に物を用意させる行為には“需要を生み出して賃金を払う”という大事な役割があるとリリーは教えられて育った。

 貴族だけが私腹を肥やしたところで領地が発展するはずがなく、貴族にとって資産や財産というものは、結局のところ平民たちの生活の質にあるという父ランスロットの言葉を信じて育ってきたのだ。

 

 錬金術士としての技術を磨くために、必要となる物を可能な限り自力で手に入れる。その考え方も嫌いではないが、リリーが求める貴族らしさには少し遠い。

 

 悪い人物ではない、どころか適度に礼儀正しく適度に砕けた態度ができる善人であるし、錬金術士を専門外とするリリーから見てもハンドクラフトの技術に優れている。少なくともブラヴァツキー領の同世代どころか学園生が得意気に披露したモノよりは精度も速度もかなり上回っていたように思えた。

 

 貴族としては微妙な部分もあるが、錬金術士としては優秀。人物としてはマリーネの言葉遣いが崩れても気にするようなことはなく、しかし行儀見習いであることから許すワケでもないという絶妙な匙加減は是非とも学びたいぐらい。

 

 それが最初の1週間でリリーがコレオに対して感じた素直な印象であった、のだが……。

 

 

「だけどスゴいなコレオは!」

 

「マリーネ」

 

「あ、ゴメン。……スゴいなコレオ様は! ドリルもなにも使わないで、全部ハンドクラフトの応用で穴を掘ってるんだろ? 毎日あれだけ錬金術の練習をしているのも偉いけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて、まるでおとぎ話の魔法使いだ!」

 

「そうですね……錬金術に詳しくない私でも、アレは普通でないことは理解できます」

 

 

 本当に、あの光景は錬金術として受け入れて良いのだろうか? そんな疑問が浮かぶほどにコレオの採掘方法は異質であった。

 

 屋敷にやってきたころはまだ理解できた。いや、素手で岩の塊を手頃なサイズに切り分けている姿も錬金術士のソレではなかったが、ハンドクラフトによる素材の分解の応用と説明されれば受け入れることができたのだ。

 だがひと月、ふた月と過ごす間にコレオの錬金術はどんどん進化を続け────いまでは歩いているだけで周囲の土が硬質なプレートにクラフトされ、ものの数秒ほどで地中に綺麗な通路が完成するようになっている。

 

 あぁ、これが本物のギフテッドか。

 

 自称ギフテッドとは技量も発想も違う。

 

 

「とはいえ、さすがに土以外の素材は同じように自由自在というワケにはいかないようですが……ホーエンハイム家に行儀見習いの約束を取り付けてくださったお父様には感謝しなければなりませんね」

 

 

 優秀な錬金術士との繋がりはどれだけあってもいい。貴族としてはもちろんのこと、パイロットとしても期待できる。

 もうじきコレオはアリの巣の探索に向かう。条件次第では自分たちの同行も許すという約束も済ませてある。

 

 他者より恵まれた環境、これでなにも得られないようでは無能の誹りも免れない。想定より遥かに面白い現状に、リリーの口元には自然と笑みが浮かんでいた。

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