「はい、ということでね。業者に発注すれば朝に頼んで昼には届く素材を2年かけて原材料まで辿り着きそこからさらに1年使って掻き集めてようやく完成したフライパンひとつぶんギリギリクラフトできない粗鉄のインゴットがこちらです」
「ここまで長かったですね兄上……。でも錬金術の練習としてはとても有意義でした! 僕、木材や石材なら両手でそれぞれ別々の図形を作れるようになりましたよ! 10秒あればいつでもどこでもチェスが遊べます!」
「本来なら職人が錬成台で、いえ、素材が違えば勝手が違いますし……そもそもルカニ様の、日々の、鍛錬……鍛錬? による成果であって……」
「昔の人たちはこうやって鉄を集めていたんだな……。あたし、ブラヴァツキー領に帰ったら、屋敷に鉄を届けてくれている人たちにちゃんとありがとうって伝えることにする!」
結論。
買ったほうが早い。
知ってて自力に拘ったんだけどね!
こりゃ危険を承知でアリの巣に鉄を採掘しに行くのも納得だ。魔力石のときと同じように錬成を駆使しながら集めればどうにかなるだろうと甘く見ていた。
鉄、魔力の通り方が全然違う。錬成台を使うテーブルクラフトと比べて求められる魔力の量と操作の精度が一気に跳ね上がった。もしかしたら金属全般がそうなのだろうか?
だけどアリの巣で鉄鉱石が生成される理由が理由だけに納得するしかない。巣作りの最中に、ギ酸というアリの毒で溶けて乾いて固まってを繰り返すことで鉄鉱石になるという。
土や石は残らないのに鉄だけ残るのも変な話だが、前世の酸性物質が化学反応で物を溶かすなら、この世界の酸性物質は魔力反応で物を溶かすと考えれば辻褄は合う。魔力の干渉に対する耐性の違い、それが加工の難易度であり強度の違いになるワケだ。
ギ酸、前世でも聞いたことあるけれど……さすがに日本には鉄を溶かすような化け物アリはいなかったよな? いたらニュースになるもんな? やっぱり身体が巨大だと毒も強力になるのかな……そう考えると虫って、動物より厄介な化学兵器を搭載してるヤツがゴロゴロいるんだけど……。
うん、そこはあとで考えよう。錬金術と魔法の力のおかげでパソコンが使える世界だから調べ物はいくらでもできる。錬金術の実験と違って命に直接関わることだ、こればかりは体験よりさきに学習しないとマジで後悔するわ。そろそろ使う許可も出るだろうしな。
「それで兄上、この鉄はどうするんですか?」
「そうだな……せっかくの、記念すべき鉄文明の幕開けだし────」
▲▼▲▼
「はい、ということでしてね。せっかくなので父様と母様にクラフトしてプレゼントすることにしました」
「一応、こちらのキリッとした表情で鬣が揺れているほうが牡馬のイメージで、こっちの穏やかな表情で尻尾が長いほうが牝馬のイメージです!」
「あらあら〜♪ コレオちゃん、それにルカニちゃんも。お母さんのために嬉しいわ〜♪ ねぇ、パパもそう思うよね〜?」
「そうだな。我が子からのプレゼントだ、それも素材から自分たちで集めてクラフトしてくれたのだから父親として嬉しくないはずがない。だがそれ以上に父親としてはコレオの鼻がハンカチで塞がっていることが心配で仕方ないのだが? お前、また無茶をして……それも、こんなことのために……」
「実は鼻血だけじゃなくて指先も痺れが酷くて満足に動きません」
「僕も手伝えたらよかったのですが……」
「やはりな。ルカニが手渡してきた時点で察したよ。私にも身に覚えがあるからね。行儀見習いで専属のメイドがいて良かった────違うな。コレオ、お前」
「鼻血が出て目眩がしたときはリリー嬢に介抱してもらったので、食事の世話はマリーネ嬢に頼むことにしました」
「コレオ様がなにか閃いたときは、その、鼻血に……注意するように、と教えられてはいましたが……緊張を解すための、冗談だとばかり……」
「安心してくれ! じゃなかった、ご安心くださいロジャー様! メルティナ様! 熱いスープも火傷しないよう、ちゃんとフーフーしますから!」
「あぁ、やっぱりか。お目付け役が増えたことで逆にやんちゃ具合に拍車がかかるとは。いや、もうここはケアが手厚くなったことをプラスと考えよう」
「ちゃんと、みんな、仲良くできてて偉いわね〜♪」
途中から“あ、これいまの俺じゃムリだわ”ってわかってはいたんだけど、鉄のクラフトに挑戦中にステータス強化ポイントの獲得ゲージみたいなのモリモリ増えてる感覚あったんだよね。
あれから木材だけじゃなく石材の自動生成を獲得できたし、魔力容量と魔力回復力を強化して生成の効率を上げるためにも必要なことだった。クラフト難度のことを考えると金属系の消費もメッチャ重そうだし。
「どのみち、しばらくは大人しくしなければなりません。鉄を庭の地下から集めるのは現実的ではありませんでした。素直に税金の力を借りるのも無くはないのですが、許可も得られていますし傭兵たちとの約束もあります」
「そうか。なら」
「はい。コレオ・ホーエンハイムの従者2名。リリーとマリーネの戦闘力評価をお願いします。彼女たちが、せめて自衛ができる程度でなければ巣の探索には連れて行かないことを約束します」
「よかろう。領主として正式に受理する。言っておくがメルティナ、お前には絶対に絶対に断固として任せないからな?」
「えぇ〜? そんな〜。パパ、ひどいわ〜!」
「一応言っておくけどルカニ、お前は連れて行かないで確定だから父様はもちろん母様に泣きついてもムダだからな?」
「えぇッ?! そんなぁ……。兄上、ひどいです!」