錬金術士とパイロットには誰でもなれる。
フォルティス王国の首都【グランマガザン】にある国営の学校に通えば誰でも基礎から学び始めることができるのだ。
ちなみに学費は卒業まで基本無料なので、孤児院育ちの子どもはほぼ全員が通学することになる。例外は里親の仕事を、例えば料理屋や服屋などにそのまま就職するときぐらいなんだそうな。
身分も立場も関係ないが、貴族と平民ではスタートダッシュが異なる。俺自身がそうであったように、貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんは産まれたときから学習の環境が整ってるのでイロイロと有利である。
それは入学後の扱いも同じで、貴族は例外なく全員がプライマリコースという高度な教育を学べるクラスに、平民は全員がセカンダリコースという基礎の基礎から学ぶクラスへ編入される。一応、試験の結果でクラスの入れ替えはあるらしいが……ゲームやラノベですっかり偏見が育ってる俺が疑っちゃうのは仕方ないよねぇ?
でも、そんな俺でも目の前でFAを展開しているリリーとマリーネを見れば彼女たちは違うと信じるしかない。
別に最初から疑ってはいないが、パイロットスーツとFAを巡る魔力が安定しているのを感じるとこれまでの努力なんだろうな〜と素直に感心してしまう。
ふたりが展開しているFAは訓練用の【エチュード】という見た目も機能もシンプルな機体だ。等身大でプロテクターみたいに装備してるのに機体って呼ぶのも変な感じだが……接近戦に強いファイターフレームや射撃戦が得意なガンナーフレームといった換装機も無いが、どんなスタイルにも対応できる汎用性が訓練向きの機体である。
対する教官役は屋敷のパイロットではなく、俺の同行者の戦闘力評価ということでトルメンタさんが引き受けてくれた。
の、だが……。
「よぉ〜しガキども、準備はいいな? ハハッ、いいじゃん。魔力の流れが安定してる。環境に甘えずちゃんと努力して腕ェ磨いてた証拠だな。コイツは楽しみだ」
「はい、いつでも」
「よっしゃ、なら先手は譲ってやる。遠慮なくかかってこい」
「……? 教官はまだFAを展開してないぞ?」
「しねぇよ? だって必要ねェもん」
「……はい?」
「どーゆーことだ?」
「そのまんまの意味だよ。テメェら尻に殻のついたひよっ子の相手なんざパイロットスーツのパワーアシストだけで充分だって言ってんの」
初手挑発は戦術の基本。
たぶん古事記にも書いてある。実際アレは神話的な物語でもあるらしいし、わりと真面目にそういうエピソードあったりして。
そして効果は抜群といったところだろうか? 本当に努力をしていても、いや、本当に努力をしているからこそ頭にくる。
丁寧な言葉遣いや礼節を学んだ態度ができても、中身はやっぱり社会経験の少ない子どもだから仕方ない。そのための行儀見習いなんだろうな、本来は。
「兄上……大丈夫、なんですか……?」
「それはどっちについて?」
「どちらもなにも、だって、訓練用とはいえFAですよ? いくらトルメンタさんが現役の傭兵だからって、パイロットスーツのままじゃ」
「感じる魔力の波長も、リリーとマリーネより弱いから?」
「はい……。訓練でも、本気で戦えば怪我だって」
「ならないよ」
「え?」
「理由は俺にも説明できないけれど、ふたりじゃトルメンタさんとは勝負にすらならない。たぶん、FAを展開したふたりの強さを10とすると、パイロットスーツだけのトルメンタさんは60から70ぐらいの戦闘力だと思う」
これは本当にわからない。
でも何故かそう感じたし、実際にそうなのだろうという確信がある。毎日の魔力操作の訓練で、魔力に関するなにか謎の感覚でも掴んだのだろうか?
「コレオちゃんはコマンダーとしても優秀そうで嬉しいわ〜」
「面白い冗談ですね。判断の理由を説明できない指揮官なんて信用されませんよ」
「でも、コレオちゃんは“わからない”ということがわかってるから〜。それはね? 感覚に知識と経験が追いついていないだけなの。だから〜、大丈夫。それは時間が解決してくれるから〜」
「そういうものですか?」
「なんでもかんでもね? 説明できれば優秀って、そんなことはないの。言葉にできないことを、感じられるのって、とぉ〜っても大切なことだよ〜?」
いわゆる第六感とか、そういう話だろうか? 前世では半ばオカルト扱いされつつも、人間にはそういう能力があるみたいな……危険な気配を察知するとか、そんな話はテレビでもネットでも見たことはあるけれど。
やはり魔法がある世界だから感覚的な部分への信用は日本とは違うのかもしれない。言われてみれば錬金術で大切なのはイメージだって何度も教えられてるもんな。図面はありませんが頭の中にイメージがあるので大丈夫です、なんて前世で言ってるヤツいたら余程の物好きしか仕事頼まないだろうな〜。
「そら、いつまでも固まってないで武装呼び出せよ。遊んでやっから、殺す気でかかってきな」
それにしてもこの傭兵、実に楽しそうである。
でも俺も楽しみなんだよね〜! 危ないからって屋敷のパイロットの皆さんの訓練は見学もしてなかったから、ようやく異世界らしいバトルが見られると思うと……どうしよう、俺、真面目にふたりのこと見守ってられるかな……?