「コレオ様、ルカニ様。我々よりも前に出ないようお気をつけください」
パイロットスーツに軍装コートの領兵ふたりに挟まれて見守る戦闘力評価試験。教官役のトルメンタさんはいつも通りラフな格好で腕を組んで待っているだけ。対するメイド令嬢コンビは……リリー嬢がショートソードの接近戦を担当し、マリーネ嬢が二丁拳銃の後方支援。
まずはリリー嬢が斬りかかり、2度3度と剣を振るっては一歩下がってマリーネ嬢が射撃で牽制。どうやら挑発を真に受けることなく冷静に立ち回れているようだ。繰り返される防御重視の丁寧な戦い方に華やかさはないけれど、俺が求めているのは“勝利”ではなく“生存”なので、むしろ余は大満足である! なんつって。
「さすがは貴族令嬢、露骨な挑発に引っ掛かるほど未熟ではないということですね」
「はい、いいえコレオ様。屋敷にやってきたばかりのふたりにはここまでの謙虚さはありませんでした。アレは今日までの生活で培われたモノです」
「そうなんですか。なら、行儀見習いの目的は達成されているということになりますね。シーマには感謝しないと」
「どちらかといえばコレオ様の影響かと思われます。これまでの常識を疑うという意味で、現状のホーエンハイム家は最適ですので」
「褒め言葉として受け取っておきましょう」
「褒め言葉ですよ。本心から」
他所様のご両親から文句さえこなけりゃええねん。
さて、試験のほうは……リリー嬢の横薙ぎをトルメンタさんが大げさに避けた。
それをチャンスと誤解したリリー嬢がさらに踏み込むが、残念。背後に回した手には大型ハンドガンがしっかりと握られている。
「────ッ!?」
咄嗟の横跳び。
反応は悪くない。
だが、判断は良くなかったかな。
「あだッ?!」
弾丸はそのままマリーネ嬢の顔面に。
もちろん額でタバコを吸うコツを教えられたりはしていない。パイロットスーツとFAはそれそのものが優秀な防具だけど、着用者の魔力を消費することで【フォースシールド】というバリアのようなものを展開できる優れモノなのだ。
最初それを知ったときは錬金術の力ってすげー! となったが……便利ではあるけど、さすがに万能ではなかった。FAの品質で防御力はもちろん魔力消費量も変わってくる。しかも魔力が枯渇すればパイロットは1分も保たずに意識を失うオマケつき。
シールドに頼り切って戦闘中に意識を手放したらどうなるか? そんなもの、戦いの素人である俺にだって簡単に予測できる。
「マリーネ、大丈夫ですか?」
「ご、ごめんリリー……油断したつもりはなかったんだけど」
正面にトルメンタさんを捉えたまま下がったか。
やはり徹底している。
いうてトルメンタさんに銃を抜かせただけでも上等だと思うけど。試験の前に期待できそうになければ関節技で早々に意識を刈り取るって言ってたし。
シールドは密着状態からの攻撃には弱いらしく、顔面に大口径の銃弾を撃ち込まれても弾けるけれど、ゆっくりナイフを押し当てられればそのままズブリと刺さってしまうのだとか。
「……マリーネ、いきますよ」
「おうッ! 今度は簡単には当たらないからね!」
攻める。
攻める。
とにかく攻める。
さすがは双子と言いたくなる見事なコンビネーションだ。リリー嬢が一瞬下がって息を整えるタイミングで、必ずマリーネ嬢の弾丸が隙を打ち消すために撃ち込まれている。
だが魔力の流れは前のめりになっていない。攻めの気配を強めてはいるが、トルメンタさんに勝てる前提で動いてないからだろう。この様子なら“最後の仕掛け”でも正解できるかな?
「よっ」
トルメンタさんが再び大げさに回避。
「ッ! その手には……ッ!!」
同じ失敗は繰り返さないと踏み込むリリー嬢。
だけど。
「────は?」
トルメンタさんがリリー嬢の目の前で、高く掲げてからハンドガンを手放す。
一瞬の疑問。
一瞬の硬直。
だけど、歴戦の傭兵にとっては充分な時間。
反対側の手で銃を掬い上げ、リリー嬢の顎に優しく撫でるように押し当てて。
「ほれ」
「あがッ?!」
「リリーッ!? くそぉッ!!」
リリー嬢が倒れるよりも速く、マリーネ嬢がその身体を抱きかかえ────指定した戦闘エリアから離脱する。
「降参だ。あたしたちの……負け、だ」
実力差を理解していることと、悔しさは別の話。苦虫を噛みつぶしたような顔の見本になれそうだ。
「そうかい。なら評価試験はこれで終わりなワケだが……ここは、今回の依頼主でありアンタたちの雇い主、いやご主人サマに専属メイドの戦いぶりについてご意見をいただこうじゃないか」
「ん? んん〜、それは……俺に、ですか?」
「そりゃそうだよコレオ。公務じゃなくてアンタの都合でアリの巣に行くんだろう?」
「そうですか。それでは合格で」
「は?」
「え?」
「一応聞くけど、決め手はなんだい?」
「最後、迷わず離脱したことですね。人は武器を持つと戦うことを選べてしまいます。だからこそ、必要なときに、迷わず逃げを選べることは、同行を認める理由としては充分だと判断しました」
「採点が甘いって自覚は……聞くだけムダか。そういうところで妥協するヤツじゃないって知ってるし」
「トルメンタさんを信頼して教官を任せたのに、評価と判断を俺に押し付けるのが悪いんですよ。ふたりを護れとは命令しませんが、少しは面倒を見てあげてくださいね?」
「はいはい、依頼をハンパにした責任は取りますよ〜っと。っつぅワケだからよ? 出発までの特訓も含めてアタシが鍛えてやっから。よろしくな!」
「え? あ、ハイ……よろしく、お願いします?」
「本当か!? じゃなかった、本当ですかッ! ありがとうございますッ!」
「ふたりが合格点を得られて安心しました。これでコレオ様がムチャクチャをやらかす確率が大きく減りましたので」
「領兵の皆さんの間でも私はそういう認識なんですね。なんかスミマセン」