鉄の感触は掴んだ。
令嬢メイドたちの訓練も始まった。
あとは出発の日に向けて必要なものがなにか、考えたり相談したりしながら準備を進めるだけ……だと思っていたのだが。
「よぅコレオぉッ! なんだか久しぶりだな!」
「おはようございますアグラヴェイン様。そうですね、こうして父様の執務室で改めてご挨拶したのは……記憶に無いですね」
「ハハハッ! そうかもしれん! いつも貴様のところに直接会いに行っていたからな!」
「勝手知ったるなんとやら、だな。別にいまさら気にしないがね。それで? わざわざコレオを呼び出してから話したいこととはなんだ?」
「うむ! コレオ、悪い話とすこぶる悪い話、どっちから聞きたい?」
「どちらも聞きたくないですね」
「聞かなくても無かったことにはならんぞぉ! ……王家の人間がホーエンハイムのギフテッドに興味を示した」
「そうか。遅かれ早かれ知れ渡るだろうとは思っていたよ。不自然であることを除けばおかしくはない」
「まったくだ。外向けに大声で喧伝したワケでもなければ領地全体を騒がすような大発明をしたワケでもないのに、いきなり王家の耳に入るなどあり得んからな」
「領主の立場にある人間がふたり揃って顔を顰めるほどの出来事なんですか?」
「我が子こそがギフテッドだと王家に売り込もうとする貴族は少なくないからな。それでも本物を見逃すのは惜しいので、あまり無碍に扱うようなこともしないが……」
「コレオ、貴様、錬金術の腕前はずいぶん上達したがな? やってることは庭に穴を空けて洞窟を作っただけだ。それを直接見ているワシらはともかく、与えられた屋敷に籠りっぱなしの御目付役が貴様の価値を正しく評価できるはずがなかろう?」
屋敷に籠もってたら御目付役の意味なくね?
父ロジャーが信用されているのか、それともテンプレよろしく首都から派遣された怠け者の集団なのか、判断に困るところだ。いまのところ、まともな大人しか知らないし。
「面倒なニオイしかしない案件なのは理解しました。それで、これ以上に悪い報せとはなんでしょう?」
「……貴様がギフテッドであるか証明するために、最後に駆除してから長く手付かずになっていた巣を調査させてみることに決定した」
「そんな話は聞いていない。アグラヴェイン、それは……いや、使者でもなく通信でもなく、お前が直接乗り込んできたということは……バカな、そんな話が……王家が、それを、認めたというのか……?」
「心当たりはある。だが証拠はない。ワシの耳に入ったのは決定したあとだ。ワシ以外にも今回の決定に眉を顰めている連中は貴様ら親子に味方してくれるだろうが、逆に言えば今回の一件でフォルティス王国の貴族同士の対立は……まぁ、そういうことだ」
このパターン、メタ読みするなら父ロジャーのことを敵視している貴族たちが仕掛けた罠ってところか? 俺に失敗させる前提で無理難題を押し付ける、ということは妨害工作も普通にしてきそうだ。
「なんだかすごいことになってますね。アグラヴェイン様、ひとつお頼みしたいことがあるのですが」
「おう、言ってみろ」
「いますぐ父様の口を塞いで喋れないようにしてください」
「……! おぅ、任せろ!」
「な、お前たちなにを────ンンッ?!」
「ありがとうございます。アグラヴェイン様、今回の決定、私が断ればホーエンハイム家の名誉に関わりますか?」
「ンンッ!!」
「関わる。王命だからな」
「わかりました。ならばホーエンハイム家の長子として王家からのご期待に必ずや応えてみせる……みたいな感じのことを上手く伝えていただけますか?」
「フンッ、貴様ならそう言うと思っていた。おっと、ロジャー。急に悪かったな!」
「ぷはッ!? コレオ、お前……アグラヴェイン! 貴様もよりによって!」
「落ち着けロジャー。いまコレオにも言ったが王命だぞ? 正確には違うだろうが、書類上はもうそういう形式で作られているだろう」
「……すまない、コレオ。どうやら私の因果をお前に背負わせる形になってしまったようだ」
「それだけ父様が領主として、あるいは錬金術士として優秀ということでしょう。息子としてはむしろ気分が良いですね」
「はっはっは! 若造が、言いおるわ! ロジャー、貴様も諦めて腹を括れ。できるだけの支援はするし、少なくとも防壁の外に出なくていいだけマシだと前向きに考えろ!」
「はぁ……。嫌だ嫌だ、冗談じゃない。なぜ私へのやっかみを息子に尻拭いさせねばならんのだ。父親としては最悪の気分だよ私は。そもそもコレオ、お前はどうしてそんなに落ち着いていられるんだ?」
「危険になる前に逃げるつもりなので」
「んん?」
「おお!」
「死にたくないですから。なんともなりそうになければ、適当に理由を見つけて早めに尻尾を巻いて逃げますよ」
「……また、なにか企んでいるのか?」
「この一件は私がギフテッドであることを証明するための試験なのでしょう? つまり、これで不合格とみなされれば王家と、そして王家に意見できる立場の方々が、コレオ・ホーエンハイムは普通の子どもであると保証してくださるワケです。実に頼もしい資格証明じゃありませんか」
「なる……ほど……? いや……悪くない。うむ、悪くない。インセクトが新たに巣食っていないか調査が必要なのは事実であるし、汚名と引き換えにはなるが、コレオさえ無事ならどうにでもなる。お前が真っ先に逃げるなら傭兵やほかの人員も気兼ねなく撤退できる」
父ロジャーの顔色が戻ってきた。
危なくなったら逃げる。家の名誉よりも命が大事。貴族としてはかなりの問題発言だが、それを咎める様子は無し。アグラヴェイン様がニヤニヤと楽しそうに笑ってくれているのも、日頃の行いのによる信頼の積み重ねるだ。
それにしても……とうとうきたか〜コレ系のイベント! 嫌だ嫌だ、冗談じゃない。他人の足を引っ張ったところで自分のスキルアップにはならないんだから結局いざというときはどうにもならないのに。まったく、これだから貴族スタートは。