「父様の軍装、初めて見ましたね。スタイリッシュで似合ってますよ」
「父上! カッコいいです!」
「そ、そうか? そう素直に褒められると、息子たちが相手でも少し照れるな……。まぁ、なんだ。立場上、どうしても人前に立つ機会が多いからな。だらしなく弛んだ腹など見せられんさ」
「パパ、今も昔も変わらずステキよ〜♪」
陰謀のニオイしかしない命令でも王族の署名があれば従わなければならないのが貴族の辛いところ。白手袋に帽子まで、ピシッ! と油断も隙もない装いの父ロジャーのなんとイケメンなこと。
俺もいつかは軍装の似合う男になるのかな〜? こういうのって精神的な芯の強さみたいなヤツが現れるらしいからムリかな〜? 人間は見た目じゃなく中身で勝負とは言うけれど、その中身の一番外側が身だしなみだもんな〜。
ホーエンハイムのイケメンなほうの息子役はルカニが担ってくれることを期待して、俺は俺にできることを頑張ろう。具体的には領地を離れる父親をしっかり見送るところから。
「父様。今回はいつにも増して甘えさせていただきます」
「存分に甘えろ。なに、伊達や酔狂で背負えるほど領主の肩書きは軽くない。たまには首都の妖怪どもと戯れるのも一興だ」
この世界、妖怪って概念あるんだ……。
しかしこの父親、ノリノリである。なんとなく武官よりは文官って雰囲気だし、交渉事は得意だったりするのだろうか?
俺が今回の任務を失敗する前提で動こうとしているのも関係あるのかもしれない。調査で必要なデータは確保しつつ戦果としては敗走しなければならないと決まったときの笑顔、かなり邪悪で楽しそうだったし。
▲▼▲▼
それで。
父ロジャーが領地を離れた翌日のこと。
「やっほ〜。キミが噂のコレオちゃん、ね。オレ様は……まぁ、アレよアレ。首都の、王族が住む屋敷のほうから来たヴィッシュ……ヴィッシュ……あー、うん。と〜りあえず親しみを込めてヴィッシュおじさ〜んとでも呼んでちょ〜うだい」
「わかりました。では改めて、コレオ・ホーエンハイムです。よろしくお願いします、ヴィッシュおじさん」
「おじ……ッ?! 貴様、領主の息子だからと」
護衛の人がキレて〜ら。
なんでだよ、お前の主人がそう呼べって言ったから従っただけだろうが。
だけど立場の差を考えれば護衛の人の反応も間違ってはいない。ソファーで寛ぐひょうきんなオッサンのフルネームはヴィッシュ・マクレガー・フォルティス。名前に国名が含まれている人物とはつまりそういうことだ。そんな人物をおじさん呼ばわりなんだから完全に俺が無礼者である。
「お〜いおい、落ち着けって。オレ様がそう呼んでいいよ〜って許可してんのよ? そ〜れでお前さんたちに怒鳴るようなコトさ〜れたらさ、オレ様のメンツが台無しだ〜と思わん?」
「ですが……ッ!」
「まぁまぁまぁ! ね? 子ども相手に堅苦しいデスマスアリマスの報告会なんてつ〜まらないでしょ〜? オレ様の任務、把握してるよね? コレオちゃんがど〜んな子か見極めるにしても、ま〜ずは仲良しにならないとダメじゃん? だったら大人のほうから歩み寄らないとダ〜メじゃん」
「……ヴィッシュ様が、そう仰るのであれば」
「そうそう、た〜まには気楽にお話したいのよ〜オレ様も〜。ハハッ、悪いね〜コレオちゃん。お姉さんたちも真面目さんだ〜からさ、これもお仕事ってこ〜とで許してね?」
「わかりました、ヴィッシュおじさん」
「──チッ」
投げキッス助かる。
これにはヴィッシュおじさんも苦笑い……してねぇ。目が全然笑ってないんだが? この護衛のパイロットたち、ホーエンハイム領から出ていったあと大丈夫かな……大丈夫じゃないかも……今後の益々のご活躍をお祈りだけしておこう。
「ま、い〜まチラッと言ったけどさ。おじさん、コレオちゃんがギフテッドかどうか見極めるた〜めに派遣されちゃった〜ってヤツなの。だからまぁ、楽しくお〜しゃべりでもしたいな〜ってね」
「それなら一緒に温泉にでも行きませんか?」
「へ?」
「男同士で友情を深めるなら夕陽の下でケンカするか連れションって相場が決まってますからね。風呂屋でお互いにチ◯コ見せ合えば一発ですよ」
「ぶふぉッ!?」
「んなッ?!」
「人類みな兄弟、広げよう友だチ◯コの輪! ということでお風呂屋さんに行きましょう。お背中、お流ししましょうか?」
「と、友だち……友だチン……んふ、んふふ……ッ! そ、それは、それはそう……確かに、男同士じゃなきゃンフフそれはゲホッゲホッそうフフン……ッ! あ〜ダメだ。オレ様、もうコレオちゃんのこ〜と気にいっちゃったわ」
「それはなによりですが、お仕事は別口でしっかり監視してくださいね。せっかく知り合えた年上の友人が、サボりを理由に会えなくなってしまうのは寂しいので」
「あいあい、そ〜れはもちろん。オレ様もこ〜んな面白い少年との出会い、ムダにしたくな〜いからね〜。よ〜し! 行こう、温泉! な?」
「ヴィッシュ様! そのようなところに貴方様のような御身分の御方が!」
「はいは〜い、護衛、よろしくね〜。そ〜れじゃ男同士の友情、深めに行こうじゃな〜いの」
「ヴィッシュおじさんは、ビンの牛乳は飲んだことありますか?」
「い〜や? 実は情報でしか知〜らないんだよね〜」
「ではせっかくなのでそれも体験しましょう」
いや〜、コレこの人どれぐらいの立場の人なんだろうな〜。メタ読みするなら王族の中でも相当な立場の人、でも国王からはなんらかの理由で遠ざけられていそうな雰囲気がする。
できれば味方にしたいところだが、ここは下手な小細工をするより自然体で接することにしよう。どうせその場しのぎの演技なんて長続きしないんだし、ダメならダメでそのときだ。まずは裸の付き合いで様子見だな!