前話の感想で気になっている方がいらっしゃるようなので簡単に説明しておくと、王族おじさんが無事なのは本人の精神力が強靭なのはもちろんですが、単に“正しく理解できなかったから”です。
父ロジャーが帰還するまでの1週間、何故かヴィッシュおじさんは俺が庭に建設した砂鉄採掘場に興味津々だった。というか護衛のパイロットたちを遠ざけて普通に中を歩いていた。ただの穴ぐらやぞ? そんな興味深いモノでもなかろうに。
せめてひとりだけでも同行させないと、彼女たちのメンツ的にもあまり良くないと思うんだけどなぁ。だって、護衛だよ? それも王族の。それだけ人間性と戦闘力が信用できると評価されて任されたのに、護衛対象から露骨に邪険にされたら面白くないに決まっている。
つまり彼女たちは“王族の護衛”ではあるが“ヴィッシュ個人の味方”ではないのだろう。ヴィッシュおじさんの人柄と立場からして俺程度が思いつく懸念点を見逃すなんてあり得ない。
だとすれば意図的に彼女たちを切り離して俺と接触する時間を作っている、ということになる。これもギフテッド効果か? フフフ、便利な言い訳に使ってたツケの支払いがいまからもう怖い。
「それで父様。久しぶりの首都はいかがでしたか?」
「ん? あぁ、たまには陛下の御尊顔を拝ませていただくのも気分転換にはなるものだ。貴族としての礼儀作法が正しく身についているのか再確認もできるからな」
「実践の場があるのは良いことですね。マナー講師の先生方は褒めるばかりで叱っていただけないので参考になりません」
「ハハッ、大丈夫だコレオ。彼らは別にお前の立場に頭を下げているワケではないよ。純粋にお前の努力に感心しているだけだ」
「んん〜、父様がそう仰るなら信じます。それで」
「ヴィッシュとは仲良くやれているようだな。もとより心配はしていなかったが……今回の調査に関する話は」
「ヴィッシュおじさんが調査隊の隊長になる、とは」
「おじさ……いや、年齢的には間違っていないが……あー、まぁ、そうだな。法務貴族の知人からは耳にタコができそうなほど謝罪を繰り返されたよ。法と秩序と数字の信徒である彼らにしてみれば、お前はギフテッドである前にフォルティス王国に生きるひとりの国民だからな」
「子どもを戦場に送り出さないために努力してくれた大人たちがいた。それだけで充分です」
「戦わせるしかないのであれば、最初から逃げ道を用意しておけばいい。単純な手であるし、奇しくも彼我の思惑が重なっていた。正直、計画の微調整よりも彼らにコレオなら大丈夫だと説明する時間のほうが長かったかもしれん」
こういう話をしているとき、ちゃんと楽しそうなのがヴィッシュおじさんと友だちなんだな〜って感じするわ。年齢的にアグラヴェイン様は別枠だけど、なんとなく学生時代に知り合ってトラブルに巻き込まれていそうな気がする。
しかしそうか、子どもでも才能があるなら戦わせてええやろ的な展開ではなかったのか。ならリリー嬢とマリーネ嬢も、パイロットとしての訓練を早い時期から始めているというだけで、いきなりインセクトと戦わせて生き残れるか試そうみたいな話ではなさそうだ。
うん? そう考えるとランスロット様とやらが娘ふたりを巣穴探索に同行させる許可を出しているのって結構スパルタ?
お人柄を知らないからなんとも言えないが、貴族の娘でも、いや貴族の娘だからこそ平民より厳しく的な。単に父ロジャーを信頼しているだけかもしれないけど。
「さて、本当なら首都の土産話でもしてやりたいところだが、あまりゆっくりもしていられん。いらん介入者が現れる前に段取りを終わらせたい。お前にはすぐにでも現地に向かってもらう」
▲▼▲▼
「駅弁! 買わずにはいられない!」
「コレオ様! カツサンド、揚げたてだって!」
「天は言っている……ここで食べる定めだと……」
「コレオ様、マリーネ、静かに」
「はい」
「はい」
何気に初めての異世界鉄道、日本よりレトロ色で味わい深い。でも魔力で動いているから煙突はないようだ。
家電製品の代わりに魔導製品なんて言葉があるくらいだもんな。インフラの基本はやっぱり魔力だと、こういうときに実感する。だから俺は何度でも繰り返し言うよ、ファンタジーすげー! って。
「そういえば、坊っちゃんは街中を出歩いてはいますが、街から本格的に離れるのは初めてかもしれませんねぇ。厄介ごとの前の鉄道旅、少しでも楽しめれば幸いでさぁ」
「ありがとう。でも、護衛として不都合があるようであれば遠慮なく注意してくれると助かる。遊び気分を楽しむ余裕はあるけれど、遊びでないことぐらいは理解しているから」
「そこは心配なんぞしちゃいませんがね。まぁ、時間にして鉄道だけで2時間、そこから車で3時間ぐらいですか? 半日ほど移動ばかりで潰れっちまうんです、安全なところでまで気を張り詰める必要はありませんでしょう」
その安全のためにヴィッシュおじさんと現地入りの時間をずらすという徹底ぶりよ。想定する危険がインセクトだけなら必要のない配慮だと思うのは俺だけですか?
名目はあくまで放置された巣穴の再調査、ならば本隊であり指揮官でもある王族より先に管理地の貴族が先発隊を引き受けるのは自然な流れではある。その先発隊に素人のお坊ちゃまと行儀見習い中のお嬢ちゃんが含まれていなければね。
イヤだなぁ、俺はただ鉄が欲しかっただけなのに……。ちょっとした個人的なおつかいが大事になるなんて、これじゃあまるで主人公みたいじゃないか。
俺はただチートスキルを駆使して、回転装填式大型杭打ち機みたいな武器とか、パイロットの脳内イメージに呼応して敵の周囲を飛び回りながら射撃で援護してくれる放熱板が作れればよかったのに。