「トルメンタさん、シェーネスさん、本日はよろしくお願いします。そして、ご協力ありがとうございます。なんだか1年前の約束より大事になってしまって」
「構わないさ。アタシらは傭兵、納得できる報酬が支払われるなら文句は言わないとも。それで? 本物のインセクトの巣穴を、地獄の入り口を実際に見てみた感想は?」
「俺をここに誘導したヤツら絶対許さねぇ」
「はっはっは! それでこそ小僧だ! うんうん、アホみたいに勇敢さを振りかざすようなことはしねぇで、自分が無力なガキだって自覚してんのは褒めてやる」
クレーターかな?
いや本物のクレーターなんて見たことないけど、サッカー場ぐらいの広さで地面が抉れてんの凄いな? 底の方に見える洞窟がインセクトの巣穴の入り口だろうか。
「観測基地はどうなっていましたか?」
「施設は丸ごと残ってる。備蓄された魔力石も無事。つい最近まで使われていた痕跡はあるが、人員はひとりも残っていない。お国はこの巣穴をどう扱いたいのかサッパリだねぇ」
「資源として利用する、なら観測基地がもぬけの殻になってるのはおかしい。安全だと判断して撤収した、なら観測基地から魔力石を回収しなかった理由がわからない。万が一に備えての監視業務を続けるため? 人がいないのに? 映像記録だけを転送することも可能でしょうが」
「止めとけ、小僧」
「はい?」
「いまの、オマエに、求められているのは。今日の、オマエの、仕事はな? ホワイトウルフ隊と、ブラッドハウンド隊が、インセクトどもをブッ殺すところを安全な後ろから眺めることだ。それ以外のことは、必要ねぇ。わかるな?」
「……そうですね。初めての実戦で、余計なことを考える必要はありませんでした」
コレオちゃん、うっかり☆
テヘペロッ♪
「リリー、マリーネ」
「はい」
「はい!」
「お前たちの役目はなにか、わかるな?」
「いざというときに、コレオ様を連れて離脱することです」
「危なくなったらコレオを担いで逃げる!」
「よし、上出来だ。お前たちの同行を許可したのは戦わせるためじゃない、あくまでコレオを護らせるために連れてきた。先発隊としてここにいる以上、本隊の到着前に巣穴の中を確認しなきゃ契約違反になる。だから、いざとなったら、アタシたちの代わりにアンタたちがコレオを連れて逃げるんだ。いいね?」
「承知しました」
「了解だぞ!」
逃げるときの手順だけは最優先で共有している。傭兵が時間稼ぎを担当し、警備隊が俺と情報を確保して真っ先に離脱。
打ち合わせをするほどの内容じゃないだろ! と考えてしまうのはリスクマネジメントの素人だ。慌てているときはこんな簡単なことでも咄嗟に動けない。人間だもの。
「一応、確認しますけど。基地に資料などは」
「紙媒体のは残っちゃいねぇ。データベースは漁るのに許可が必要だが……」
「残念ながら、なにも」
「だろうな。小僧ならこっちに確認するより先に自分で動くだろうし」
「つまり俺たちは、攻略済みの巣穴ってアドバンテージを全部投げ捨てた状態で調査をしなければならない……と。ギフテッドを証明したいなら、他人の力を借りるなってことなんですかね?」
「ハハッ、親の力に頼らず素材集めをしていた小僧には効果抜群の皮肉だぜこりゃ」
「それなら仕方ありません。ここはギフテッドらしく、ご期待通りに巣穴まで堂々と下りていくことにしましょうか」
巣穴の前には何人かすでに待機している。
安全は確保されているが、さて。
▲▼▲▼
「嫌な空気を感じます。改めてプロフェッショナルの意見を聞かせもらえますか? この大穴は、戦闘由来のモノでしょうか?」
「いや、これは天然モノだろうな。ギ酸で融けた痕跡もある。ニオイがしないから、制圧してから時間が経ってるのはマジだ」
「ほなら気のせいか……少し時間をください。昂りを抑える意味も込めて、少し魔力の流れを調べたいのですが」
「こういう部分、コレオくんは子どもでもさすがはアルケミストって感じだよね」
「隊長たちも面白い縁を拾ってくれたもんだ。わたしたちパイロットはどうしても戦闘特化だもんな、魔力の使い方がさ」
はて? FAの装備にはレーダー的な武装もあったはずだけど。
まてまて、思考を乱すな。
お前、いま、危険地帯におるんやぞ?
集中集中……まずは地面に魔力を浸透させて……フフフ、土の扱いは得意なんだ。二つ名として【土木の錬金術士】を名乗ろうとしたら母メルティナとルカニ以外の屋敷の人たち全員に反対されるぐらいには大得意なのだ!
このまま洞窟の奥、行けるとこまで感知を伸ばせば────んん? なんか知らない感触が埋まってるな。鉄のような反発は感じない、単純に未知の素材だからフィーリングだけでは掴めないって感触だ。うん、これなら丁寧に波長を合わせればインベントリに収納して鑑定できる。
【新鮮な粘性糸】
インセクト由来の繊維素材。かなり鮮度が良いのでクラフト素材としても上質。通常より良品質の【パイロットスーツ】や【飛行用フェザーユニット】などを錬成できる。銅よりも高い魔力伝達力を持つが、人間の魔力波長では生物探知の罠には使えない。
……ほう。
新鮮で、生物探知の罠と。
「────総員ッ!! 戦闘用意ッ!!!!」
もしも判断を間違えてたら?
そんときゃゴメンねと謝るだけだッ!