どうする?
どうするッ!!
いや。
「リリーッ!! マリーネッ!! 逃がしてくれッ!!」
「え、は、はいッ!」
「よっしゃあッ!」
「頼んグホォッ?!?!」
子どもとはいえ、金属を身につけて加速した物体……ッ! ほ、骨が、折れる、かと、思った……ッ!
「ゲホッ……ッ! 離れ、地面の下ァッ! クモの糸ォッ!!」
足りるか?
いや、足りる。
傭兵たちなら、これで足りる。
「上がれ上がれェッ! 巣穴から離れなァッ!」
「これがアタリなら、いよいよ小僧は本物だが」
よし。
よしよしよしよしッ!!
まず第一関門突破ァッ!!
俺の指示に従えない隊員たちも、隊長ふたりから下がるように命令されれば従うしかない。
俺に対するヘイト? そんなもん命と引き換えにするほどの価値なんて無いから。なんなら俺の早とちりの勘違いで終わって欲しいぐらいだから。
「────底が崩れるぞぉぉぉぉッ!!!!」
ダメみたいですね……。
地面が崩れ、穴が開く。
明らかな異常事態に傭兵たちが反応する。
「止まれ止まれぇッ! まだ撃つなよッ! やったな小僧、お手柄だぞ。状況は最悪だがな。クロアリを相手にするつもりで【ジグモ】が出てきたんじゃあ、相当出世してくれないと割に合わん」
蜘蛛だ。
穴の奥から8つの無機質で不気味な光がこちらを見ている。
地面に穴を掘って巣作りをする地蜘蛛は日本にもいた。手の平どころか指先サイズの可愛らしい蜘蛛だったけど、こっちのジグモは小型のダンプカーぐらいありそうだ。しかもアシナガバチと同じようにクリアパーツの装甲みたいなの纏ってるし。
「俺が学んだ知識では、ジグモは、積極的に巣から離れてまで狩りはしない……と」
「だから部下に待てと言っている。おい、レーダー感知はどうした? 施設が使えないぶん、丁寧にやれと言っておいただろうが」
「やってましたよ、姐さんに念押しされるまでもなく。ウチらだって死にたくないですから。でも、ダメだったんです。正常に作動してるのにインセクトの反応、拾えなかったんですよ。コレ、ウソじゃないですからね?」
「あの、それは、こうして目視している状態でもレーダーは?」
「異常ナシの反応ナシ。むしろレーダーでさえ拾えなかったジグモをキミが拾ったこと驚きだよ。さすがはギフテッド、マジでスゲーわ」
いえ、チートによる反則です。
「なるほど、なるほど? 複数のジグモが住み着いてるアリの巣をレーダー無しで調査しろ、と。どれだけ死人が出るか、想像するのも億劫だ。それで、どうするコレオ」
「レーダーの無効化……鱗粉? だけど、ほかにインセクトは……それならノイズが」
「プロから子ども向けの教科書には載ってないアドバイスをひとつ。インセクトじゃなくても索敵の邪魔はできる」
…………。
これ本当に“俺”を狙った嫌がらせなのか?
手が込んでいるわりに雑な気がする。
観測基地の扱い方からして“ココ、仕込みあります”って教えてくれているようなものだ。
ここまで露骨にやってくれてるのに、それで意気揚々と巣穴に突撃するバカいないだろ常識的に考えて。
ジグモを見る。
警戒はしているが、興奮はまだセーフ。
アシナガバチが温厚な性格なら、ジグモはむしろ臆病と言ってもいいぐらい戦闘には消極的だ。正面から戦えば確実に死者が出るレベルで強力なインセクトだが、巣穴を刺激してもこうして観察できるぐらいには大人しい。
教科書通り、大変結構。だからこそ仕込みとしては弱すぎる。それとも危険を理由に下がるだけでも嫌がらせとしては成功なのだろうか? 安全なはずの防衛都市の内側で敗走したギフテッド(笑)みたいな。王命なのに怖くて逃げました、は大恥だろうし。
んー。
なんかしっくりこない。
だけど理由は作れた。
「よし。このまま様子見に徹しましょう」
「いいのかい? いまはコッチが出口を包囲している側だ、様子見しているジグモを仕留めるぐらいなら朝飯前だけど?」
「それが小僧の命令なら従う。だが、弾丸の一発も使わずに逃げ帰ったとなれば、後始末は余計面倒になるぞ」
「逃げはしません。本隊の到着まで現状維持を続けます。ジグモが巣から出てきて大穴を登ってきたら戦闘を許可します。それまでは、見張りや警戒の人員を最低限にして可能な限り休むよう指示をお願いします」
ジグモの特性を理解しているからだろう、トルメンタさんとシェーネスさんの指示が出てから傭兵たちが動き出すまでスムーズで迷いがない。よかった、これなら映画みたいにバカの発砲でドンパチ開始みたいなことにはならなそうだ。
ンッン〜、これは素晴らしい。誰ひとり犠牲にすることなく、なにひとつ物資を消耗することなく、理由は不明だが放棄されていた観測基地も万全の状態で確保できた。これだけの戦果を俺の名誉と引き換えに得られたと考えれば、むしろお釣りが多過ぎて困惑するレベルだろ。
「坊っちゃん、本隊への報告はどうなさるんで? いくらジグモが大人しいと言っても、大勢が集まって騒ぎ始めちまったんではねぇ。向こうさんも知らぬ存ぜぬとはイカンでしょうや」
「通信機能が搭載された輸送車が手配されていて助かりましたね。向こうもインセクト戦のプロですから、ジグモが出たので様子見しているとだけ伝えれば充分でしょう」
先発隊の任務としては成功。
だがギフテッドの証明としては失敗。
最高か?
あとはヴィッシュおじさん、というよりは随伴してくる本隊の人間を相手にどう言い訳をするかだな。向こうからケンカを売ってくれれば頭を下げ続けるだけで終わるから楽でいいんだけど……こういう場合、まともな善人が混ざってたほうが厄介そうだな〜。